第八節「むかしがたり:ひとつ」
これは、夢だ。
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神が腰を下ろしてまだ浅く。
人々は森の中で、一つの火を大事に焚きながら、慎ましく暮らしていました。
時にはお腹がすくことも体が冷えることもありました。
食べ物を分け合い、身を寄せ合って、力を合わせて暮らしていたのです。
つらくても、神の眼差しがあれば、それで心は充分でした。
あるとき黒き人々がやってきました。
黒き人々は神のお客様です。
神は喜んで彼らを迎え、旅の話を聞くことを望みました。
人々は神と客人の為に宴を開きたいと思いました。
しかし人々には宴を開くほどの蓄えがありません。
黒き人々は神を信じ守る人々は大義であるから、宴の支度は要らないと言いました。
黒き人々はこう言います。
「宴は自分たちが用意する。その代わり誰も欠けることなく宴に出てほしい」
人々は断るわけもありません。
赤子から老人、病人に関わらず、全員が集まりました。
その日の夕方に宴は行われ、見たこともないようなごちそうや酒が並びました。
人々は今までに感じたことのないほどの満腹と心地よい酩酊を得ました。
会場は神に近いからか、心が浮き立つような良い香りに満ちていました。
神と黒き人々は奥で話し込んでいましたが、
やがて黒き人々は、人々の元にやってきて、人々の願いを聞きました。
「冬を越せる布が欲しい」
「飢えないほどの畑が欲しい」
「病を治してほしい」
黒き人々は願いを聞き届けると、暖かい布地を、よく育つ種もみを、人々に与えました。
黒き人々は、神から得た力で、歩けぬ人も歩かせることが出来ました。
それから黒き人々は時々この国に訪れ、宴を開いては人々の願いを叶えました。
しかし、何度もそれが続くと、人々は、求めます。
もっと長く上等な布を。
もっと多く美味しい食物を。
娯楽を。
香を。
黒き人々は求められるままそれを与えました。
しかしある時、宴が明けて、香りが風と共に吹き去った頃。
酩酊から目を覚ました人々は気付きます。
若者がみんな、跡形もなく消えてしまいました。
母は、父は、子は、祖父母は、驚き、みな悲しみました。
そして、思いました。欲に駆られ、よどんだ心で、
神への祈りをおろそかにしてしまった罰ではないか。
黒き人々は何も語りません。
しかし人々は彼らに必要以上に求めることをやめました。
風が吹く時、人はまたいなくなります。
欲深い大きな祈りの澱みは、まだ人々を許していません。
――――――
夢現で、コッパーは物語を見た。
これを聞いたのは…そう、日の差す家で、イメナータが話していて聞いたのだ。
木の高い林や森の中で火を焚く素朴な暮らしをする人々が酒杯を交わす景色。
はて、…森?
この国で、高い木など、一本も見なかったが…。
まだ街の話は続きますが、ここで章区切りとします




