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難攻不落の胡桃沢さん  作者: 佐藤周
4/5

04 昼休み2

「購買でパンを買った俺たちは教室に戻って机をつなげてお昼を食べることにした。


「周君のパン美味しそうですね」


やきそばパンを大口で食っていた俺をみて、胡桃沢さんがそんなことを言ってくる。


「あがあががが」


「なに言ってるんですかww」


口に入れたタイミングで話しかけられたのでうまくしゃべれなかった。


恥ずかしい。


「まったく、おまえは。てんぱりすぎだっつーの」


「ごほっ、ごほっ。うるせー」


一旦パンを口から離してから、胡桃沢さんの方を見る。


胡桃沢さんのお弁当は野菜多めだが、しっかりと味付けされてるのが見ればわかる。

男の俺が見てもおいしそうだ。

とても焼きそばパンをうらやむメニューではない。


「胡桃沢さんのお弁当の方がよっぽどおいしそうだけど」


「そうですかね。今日は野菜の気分だったので、緑ばかりになってしまったんですが」


「自分で作ってるの?」


「はい。実は私一人暮らししてるんですよ」


「えっ、なんで?」


「ちょっと憧れてまして。高校入学を期に始めてみました。

 なかなか楽しいんですが、ちょっと寂しいものですね」


「今度遊びにいくよ」


「ぜひ来てください。いつでも歓迎しますよ」


胡桃沢さんの家か。

しかも二人きりになれるな。

今日にでも行きたいぐらいだ。


「ところで一口もらえますか?」


「焼きそばパンを?」


「はい」


「どうぞ!」


彼女に焼きそばパンを手渡した。


「いただきます」


彼女は躊躇なく俺が食っていた方をから食べた。


間接キスというやつだな。


「この学校のパンおいしいですね」


「うん、なかなか」


「お返しにどうぞ」


胡桃沢さんがブロッコリーを箸でつまんで俺に突き出してきた。


少したじろいでしまったが、待たせないように急いで食いつく。


うまい!

塩味に辛味!

オリーブにチーズの風味までする。


「うまい!」


「喜んでくれてうれしいです。

 よかったら明日から作ってきましょうか?」


「マジかよ、お願い」


付き合って初日なのにいいことだらけだな。

幸せすぎて、逆に怖い。


「お熱いね、お二人さん。本当に周のどこが良かったの?」


「かわいいじゃないですか」


そんな理由なのか。


「でも頭もあんまりよくないよ。この高校に入るときも俺が教えてあげてギリだったし」


確かにこいつと勉強したことはあったが、俺は馬鹿じゃない。

怠けてしまうだけだ。

威張れることではないけどな。


「それはいいことを聞きました。一緒に勉強ができそうで嬉しいです」


優しすぎるな、胡桃沢さん。

無理に言っている様子はなく、自然な感じだ。


「おい、まこ。いい加減にしとけよ」


「わかったよ。悪かったって。

 でも、あと一つだけ。家で2人っきりになるなら、気をつけた方が良いよ」


「お前には絶対に言われたくない」


この野郎。

本当に邪魔したいんじゃなにだろうな。

面白がってるだけならまだいいが。


「そういうのは結婚してからです。

 結婚するまではそういったことは一切しません」


さらっと、当たり前のように彼女はそういった。


「え、でも、お付き合いしてれば結婚前でもそういうことはあるんじゃないの?」


ヘラヘラしていた真もちょっと困惑気味だ。


確かにそういうことに抵抗のある女子もいるだろうが、結婚までなしとはっきり言う人は初めて見た。

俺なら耐えられそうにない。


「確かにそういった方もいるでしょうが、私の理想は結婚まではプラトニックに恋を育むことです。

 肉体的な接触をしない時間が、より愛を深めるんです。

 それに結婚式をバージンで歩くのは当たり前です」


驚いた。

まさかここまで徹底した考え方とは。

今時なかなか聞かないな。

昔の人か外国か、宗教でしか聞かないような話だ。


「胡桃沢さんってキリスト教とか?」


真も同じことを思ったようだ。

口ごもった俺の代わりに聞いてくれた。


「確かにそういった話の影響は受けていますが、私はどこかの宗派に属しているわけではありません。

 そんなに特別なことではないですよ。

 誰でも何かに影響されながら、自分のこだわりを持つと思いますし」


胡桃沢さんは気負った様子もなく、はっきりとそういった。

それだけなのに僕らは圧倒された。

何も言い返せないほどの雰囲気を感じた。


この時にやっとわかった。


彼女が、難攻不落の胡桃沢さんだということを。

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