水遊びの日
ご無沙汰しております。
暑い日が続き過ぎて、ああもう暑いの嫌だ!
だっぱーんっ!と水に飛び込みたい!
……という気持ちをお話にしてみました(笑)
(しかしてよくよく考えたら、8月の紅玉さんは某事件で眠りについているじゃん、まあいっか)
そんなわけで朔月隊+αのわちゃわちゃをお楽しみください!
それは残暑を過ぎても、まだまだ暑い日が続いている葉月の末の事だ。
原因不明の眠りについている紅玉が十の御社に帰ってきて、不安が拭いきれないながらも、ようやっと平凡な日常が戻ってきた頃、十の御社の神子の水晶が言った。
「……うみゅ、暑過ぎる。水浴びしたい」
この一言に神々は即座に動いた。
まず結界神術を得意とする石組の神々が庭園に結界の大きな器を創った。
次に水系統を司る神である蒼石と潤がその器に水をたっぷりと溜めた。
そうして出来上がったのが巨大な水場である。
これに大興奮したのは空と鞠の無邪気弟妹二人組だ。
今すぐにでも水に飛び込みたいのをグッと我慢し、朔月隊の仲間達も是非呼びたいと言った二人の希望に沿って、伝令役の小鳥を使って朔月隊を招待した。
そうして十の御社は真夏の水遊び大会が開催される事となった。
*****
太陽輝く晴天の下、深海のような蒼い水着を着た空と翡翠に近い水色の水着を着た鞠が水場へ向かって駆けていく。
「みっず~~~~っ!!」
「Water!!」
「「ひゃっほーーーーいっ!!」」
空と鞠が水場へと飛び込んだ瞬間、激しい水飛沫が舞い上がった。
「空殿、鞠殿、飛び込みは駄目だぞーー」
「「はーーい!!」」
そんな二人に注意をするのは蘇芳だ。
蘇芳もいつ水に濡れてもいいように軽装ではあるが、水場の端の大きな日傘の下にいた。
何故なら彼の隣には、未だ眠りから覚めない紅玉がいたからだ。
紅玉も真っ白な涼しげな服を着ているが、水着ではない。日傘の下に設置された寝椅子に横たわり、すやすやと眠っている。
時折、風で乱れた髪を蘇芳が直してやっていた。
「……貴女も水浴びができたら良かったんだがな」
少し切なげに呟きながら、蘇芳は紅玉の頬を撫でる。
「うみゅ、だったら水着着せてやって、すーさんがお姉ちゃん抱えて一緒にちゃぷちゃぷすればいいのに」
「……それは断固拒否させて頂きます」
紅玉の隣の寝椅子に転がった水晶の言葉に、蘇芳がやや強めに言った。
ちなみに水晶は白に近い水色の水着を着て、水浴び準備万端である。未だ水場へ飛び込んでいないが……。
「すーさんの身体能力なら人一人抱えながら泳げるでしょ?」
「……神子、水場を舐めない方がよろしいかと。たとえ上級者でも人を抱えて泳ぐのは至難の業と聞きます」
「別に全身浸からなくても、足だけ浸すだけでも楽しいと思うよ」
「拒否します」
「うみゅ、その心は?」
「紅の水着姿を誰にも見せたくありません」
「うみゅ、ケチ」
「ケチで結構」
断固拒否のその理由よ……相変わらず、紅玉に関しては恐ろしく狭量な男である。
「いいもーん。お姉ちゃんのおっぱい拝めなくても、晶ちゃんには楽しみがある」
そう言って、水晶が取り出したのは双眼鏡。
そして、その先にいるのは――。
「天海! うっちゃん! さっちゃん! いっくでぇっ!」
「ほいっ」
「そいっ」
「せいっ」
天海と右京と左京と一緒に水に浮かびながら玉遊びをしているのは美月。上下分かれた薄紫色の水着を着ている。
そして、動くたびにたわわな果実が見事に揺れに揺れまくっていた……。
「……うみゅ、がんっぷくっ!」
「……神子……少々自重してください」
紅玉が起きていたなら、間違いなく叱責が飛んでいただろう。
「あらん? 晶ちゃん、水浴びしないの? 今日の水遊び会の発起人なのに」
「うみゅ、世流ちゃん」
「ッ!?」
世流の声に振り返った蘇芳は思わずギョッとしてしまった。
世流が着ていたのは、淡い黄色と橙色の花模様が描かれた水着だ――上下分かれている女性物の。極め付けにヒラヒラと靡く腰布と麦藁帽子も被って、完全なる大人女性の出で立ちである。
普段より女性物の服装を好みとする世流であったが、まさか水着までとは蘇芳も思っていなかった。
(似合っているのは流石としか言い様がないが……なんか、こう……言葉にできない感情が……!)
どうやら蘇芳は、似合っていると思ってしまう自分を認めたくないようだった。
あまりもの違和感の無さに、頭を抱えたくなる程だ。
「流石、焔。〈火〉に愛されし女。似合っているよ、ソレ」
「文……いっそ全力で笑い飛ばしてくれ……」
淡々とした会話を繰り広げているのは、文と焔だ。
文は黒地の水着に羽織り物を着た平凡な格好。
そして、焔は、上は赤で下は丈の長い黒い水着。そして、身につけているのは大きな浮き輪……。
「……うみゅ、ほむちゃん、金槌だったの?」
「お恥ずかしながら……どう足掻いても、これだけはどうしても出来なくて……」
「意外ですな」
蘇芳の中では、焔はそつなくこなす女性の印象が強い。
泳げないという弱点は、少し親近感が湧く可愛らしい弱点だと思ったが……。
「だから、今日は弱点克服の良い機会だと思って、泳ぎの練習に取り組みたいと思う!」
「真面目か」
焔はそう思っていないらしい。
文まで呆れた声を出していた。
「あはははっ! 焔ってばカナヅチなの~? うっける~」
「幽吾殿……」
焔をからかうようにして現れたのは、肌露出の無い真っ黒い水着を着た幽吾だ。
「ねえねえ、焔、僕と泳ぎの競争しようよ~」
「……五月蝿い、黙れ」
「今なら浮き輪だけじゃなく、ビート板も付けちゃうぞ~」
「五月蝿い! 黙れっ!」
「幽吾殿、あまり焔殿をからかうのは……」
蘇芳が幽吾を窘めようとした次の瞬間だった――。
「ブッ!?」
幽吾の顔面に勢いよく水が直撃して、幽吾が真後ろへ引っくり返っていた。
ギョッとした蘇芳が振り返ると、そこには――。
「ぎゃはははっ! 命中! 俺様天才!!」
「と、轟殿……」
水鉄砲を持った轟が勝ち誇った顔をして立っていた。
「おうおうお前ら! 俺様の鉄砲の餌食になりたくなかったらとっとと逃げやがれっ!」
「っ!!」
「うわっ!?」
「ぶっ!!」
そう言い放ちながら、轟は水鉄砲を乱れ撃つ。
紅玉と水晶を抱えて慌てて退避した蘇芳とは別に、焔と文は思いっきり水を被ってしまった。
「あっははのは~~……よぉ~~くもやってくれたねぇ~~」
鉛色の神力を揺らめかせて、ピクピクと口を引き攣らせながら不敵に笑うのは幽吾だ。
そして、いつの間にか彼の手にも水鉄砲とその背後には鬼神による水鉄砲隊が。
「やられたらやり返す! 倍返しだ!!」
「鬼神使うなんてずっりぃぞ! わぶっ!!??」
怒涛の水攻撃に轟が餌食となる。
そして――。
「ぶふっ!?」
「あ」
たまたま轟の後方に立っていた世流も。せっかくの綺麗な出で立ちもずぶ濡れである。
「……おんどりゃあ……おんめぇら……」
世流の喉から発せられたのは、綺麗な出で立ちからは想像できない程、低い声だった。
「全員まとめて穴という穴ぐっちゃぐちゃにずぶ濡れにしたろかぁああああっ!!??」
叫ぶ世流の手にもいつしか水鉄砲が。しかも二丁も。
「ふざけんのも大概にしろやぁああああっ!!」
「世流く~ん! わざとじゃないんだよ~!」
世流の乱れ撃ちに、幽吾も水鉄砲で応戦する。
「俺様がかああつっ!!」
更に轟も混じって、辺り一帯は水が飛び交う戦場となる。
「銃の扱いなら私の方が上手だ!」
「言霊使ってでも復讐してやる」
気付けば、焔と文も水鉄砲を持って参戦していた。
「Wow! Water shooting! マリもやるデース!」
「俺も混ぜてくださいっすーー!」
「空きゅんがやるなら、ウチもーー!」
「ならば、我々も混ざらねば」
「その通りでございます」
鞠や空、美月や右京や左京まで水鉄砲を以って乱入し、辺り一面水飛沫が舞い、虹ができる程だ。
紅玉と水晶を抱えて避難していた蘇芳は戦場となった水場を見て、唖然とする。
「えと……実に……賑やか、ですな……」
「うみゅ、血の気の多いヤツらばかりだのぅ」
しかし、朔月隊で唯一水鉄砲合戦に参戦せず、あわあわとしていた男がいた。
「み、みんな……っ、おち、おちついて……っ」
(……天海殿……?)
美麗な顔を青くさせ、瞳に涙が浮かばせた天海の身体からユラユラ揺らめくのは妖力だ。
それに気付いた瞬間、蘇芳は青褪めた。
「みんな! 喧嘩は駄目だぁ!!」
瞬間、膨大な天狗の妖力が解放され、水場から「だっぱーんっ!」と大量の水が溢れ出した。
「「「「「うわああああああああああっ!!??」」」」」
「「「「「きゃああああああああああっ!!??」」」」」
「「「「「ぎゃああああああああああっ!!??」」」」」
ありとあらゆるものを押し流していく! 日傘も卓も椅子も、朔月隊も、神も、そして蘇芳達も――。
「……え?」
天海は目をぱちくりとさせて、辺りを見渡した。
そこら一体はまるで洪水に遭った後かのようにびしょ濡れで、人も神もあちこちに流されて転がっていた。
「あ……え……お、おれ……もしかして……」
天海は更に青褪めた。
この惨状の原因は自分だと気付いてしまったから……。
「うみゅ……ずぶ濡れになって一気に涼しくなったわ……」
「うわわわっ! 紅! 紅、無事かっ!?」
蘇芳は真っ先に紅玉の無事を確認するが、紅玉はずぶ濡れになっても尚、すやすやと静かに眠っていた。
ほっと息を吐きながら、紅玉の濡れて乱れた髪をかき分けてやる。
「すすすっ、すみませんすみませんっ! ごめんなさいごめんなさいっ!! みみみ、みんな無事ですか!?」
「ああ、無事だ。だから、あまりそのように自分を責めるな、天海殿」
「ごめんなさいっ! すみませんっ! ごめんなさいっ!!」
蘇芳はそう言うも、天海の謝罪は止まらない。
真っ青になって瞳からボロボロ涙を零しながら、何度も頭を下げる姿はあまりにも可哀相に思えてしまう。
「……うみゅ、イケメン天狗」
そんな天海の謝罪に割り込むようにして、水晶ののんびりとした声が響く。
「晶ちゃん、めっちゃ楽しかった。もっかいやって~」
「ふえっ!? うええええええっ!!??」
まさかのおかわりに、天海の涙は即座に引っ込んでいた。
*****
天海の生み出した大波は結構好評で他にもおかわりの声がたくさんあった。
ならばと、天海の妖力と蒼石の神力を合わせて、巨大な水の球体を創り、その中で水の流れを生み出した。
今はその中で水晶や朔月隊の仲間達が楽しげに水の流れに乗って優雅に泳いでいる。
蘇芳は変わらず紅玉とともに外で見るだけだったが、庭園に浮かんだ水の球体と楽しげな仲間達の姿を見ているだけで、涼しくなれた。
「……紅、水晶殿があんなに楽しそうだぞ」
空と鞠に手を引かれ、楽しげに水の中を泳ぐ水晶は年相応の少女であった。普段はぐうたらしている姿しか見ないだけに。
「……なあ、紅」
眠る紅玉の手の甲をそっと撫でながら、蘇芳は問う。
「目覚めたら、一緒に泳ごう。あんな風に、楽しく」
眠る紅玉に蘇芳は蕩けるような微笑みを向ける。
「待っているからな」
そう言って蘇芳は、紅玉の頬を一撫でした。
ずぶ濡れでありながらも紅玉がほんの少し楽しげに見えたのは、きっと気のせいではないと蘇芳は思った。




