【番外編】鈴太郎の失われた恋
最終話前に番外編三話投稿します
影ながら紅玉を支えてくれた人達のその後のお話
一話目は悲恋です
苦手な方は閲覧御注意ください
紅玉が目覚めたという知らせは神域中を駆け巡った。
その直後に行方不明になっていた前二十七の神子である藤紫が見つかり、壮大な葬送式が執り行われた。
紅玉と親交が深い、二十二の御社の者達は紅玉の心労を心配していたが……。
「そう言えば、紅ちゃん、仕事復帰したんだって」
「本当ですか! ああ、良かったです……っ!」
「しばらく大分落ち込んでいたって話だったらしいけどさ……今はいつもの調子を取り戻してるってよ」
「うぅ……っ! 良かったです……っ!」
神子補佐役である慧斗と神子護衛役の実善から情報を聞いていた二十二の神子こと鈴太郎は涙した。
「リンリンに改めて礼をしたいって蘇芳さんが言っていたぞ」
「紅ちゃんの事があって、お礼が遅くなってしまってごめんなさいとも言っていたよ」
「そんな……気にしなくてもいいのに……」
そう、神域裁判から三ヶ月も経った今も尚、蘇芳は鈴太郎の元を訪れていなかった。
そして、鈴太郎もまた十の御社へ足を運ぶ事ができないでいた。
先日行われた紅玉の目覚めを祝う宴にすら参加できていないのだ。
何故なら……。
「いやいや、本当なら真っ先にリンリンのとこ来て、礼を言うべきだぞ、あの人」
「そうだよ、リンリン。『時間旅行』の神術の代償で身体に随分な負荷がかかったんだから」
「正確に言えば! 駄主の身体の『時』が十数年ほど進んでしまった、ですな!」
大声ではっきり告げたのは、鈴太郎に仕える男神の時告だ。
「あなたの『時』は人より先に進んだ! それすなわち寿命を縮めたも同然の行為!」
「……当然ですよ。過去の世界へ空間ごと切り離して、転移させる禁忌の術でしたから……それくらいの代償は覚悟の上です」
神術の代償で身体に負担がかかった鈴太郎は一週間ほど意識を失い、目覚めた当初、身体を全く動かせなかった。
三ヶ月経ってようやっと歩行ができる程にまで回復したが、まだ外出などの遠出は無理なのだ。
「それに、蘇芳さんにとって紅玉さんは本当に大切な人なんです。紅玉さんを優先するのは当然です」
「……そりゃ、わかるんだけどよ……」
「……なんか、こう、納得いかないというか……」
同期で側近である二人の難しそうな顔を見て、鈴太郎は思わず顔を綻ばせる。
「二人ともありがとうございます。でも、『時間旅行』の件は勿論紅玉さんの為でもありましたけれど……葉月さんとの最期の約束でもありましたから。何が何でも完成させたかったんです」
目を閉じると瞼の裏に蘇る、鈴太郎が密かに想いを寄せていた彼女の姿。
神域の闇について予め教えてくれ、異能を継承させ、未完成の術式を託し、他でもない鈴太郎を真っ先に頼ってくれた、大好きな、大好きな、彼女――。
「だから、これは僕の意地なんです……もう、二度と、永遠に、叶わない恋の……」
その鈴太郎の笑顔は、あまりに切ないもので……実善も、慧斗も、時告でさえも、何も言い返せなかった……。
「…………ごめんなさい、ちょっと失礼しますね」
鈴太郎がそう言った瞬間、鈴太郎は空気に溶けるようにして、消えた。
「……あっ! しまった!」
「リンリンの異能!!」
そう、こちらが本当の鈴太郎の異能――その名も「薄影」である。
気配を断ち、人に認識されにくくなるというこの異能は、まるで空気に溶け込むかのように消えてしまうのだ。存在自体は目の前にあるというのに。
「リンリン! 鈴太郎!! おいっ! 一人で泣くな!!」
「リンリン! 出てきて!」
必死に鈴太郎の存在を探す側近二人の肩を時告が叩く。
「……そっとしておきなさい」
「でも……っ!」
「……想わせてあげなさい。今はもう、想いの中でしか彼女に会えないのだから」
「……っ……」
そう言われてしまえば、実善も慧斗も何も言えなくなってしまう。
時告に誘導され、部屋を出ようとした。
しかし、実善と慧斗は振り返って言った。
「……リンリン、いつか話してくれよ。お前が好きだった人の事をさ」
「……私も知りたいな……だからさ、今度は一緒に泣かせてよね」
襖が閉まる音が静かに響き、部屋には誰もいなくなる――否、部屋の片隅に身体を震わせて縮こまる男の姿があった。
瞳からは大粒の涙、しゃっくりをあげて、号泣していた。
(……葉月さんっ……はづきさんっ……きむらさんっ……みどりちゃん……っ!)
何度恋しい人の名を心の中で叫んでも、彼女は決して戻ってこない。
(ぼく……ぼく、がんばりましたよ……っ! やくそく、まもりましたよ……っ!)
何度恋しい人に呼び掛けても、返事などありはしない。
(ねえっ……いっしょうのおねがいですから、ほめてくださいよぉ……っ!)
何度希ったところで、その願いが叶う事は永久にない。
鈴太郎は一人ひっそりと、大声をあげて泣くしかなかった……。




