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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第六章
279/346

神域最強に喧嘩を売る者達





 十の御社の庭園の真ん中でまさしく仁王の如く立つ蘇芳に、空と鞠が真剣な顔で向かい合う。


 大好きで大切な三人の一触即発の雰囲気に紅玉は戸惑っていた。


(どうしましょう……こんなことになるなんて……)


 止めるべきだとは分かっている。

 三人の対立の理由は全て己が原因だ。

 だが、だからこそ止めることができない。


(空さんと鞠ちゃんを巻き込みたくない……)


 思わず蘇芳を見れば、蘇芳は柔らかく微笑み頷いてくれる。

 ホッと安心感を覚えながらも思ってしまう。


(……蘇芳様に頼るしかできない自分が歯痒いです……)


 思わず膝の上で拳を握る。


「……お姉ちゃん」


 凛とした声にハッと顔を上げれば、水晶がじっと見つめていた。

 その水色の瞳は戸惑う程にあまりにも真っ直ぐだ。


「お姉ちゃん……私は、私達はもう守られるだけの弱い存在ではいたくないの」


 ずっと守るべき存在だと思っていた子達がいつの間にかこんなにも成長をしてくれたことが嬉しくて堪らない。

 だからこそ、大切に守りたいのに……。


「私と空と鞠の思い、その目でしっかり見て。そして決断して」


 真っ直ぐな言葉に決心が揺らぎそうになる。


(晶ちゃん達を巻き込むわけにはいかない)


 紅玉は心の中で「ごめんなさい」と何度も呟いた。




 神々が庭園に結界を張り終えたところで、紫が庭園の真ん中へと進み出た。


「ええっと、僭越ながら審判は僕が務めさせてもらうよ。ルールは『どちらかが降参するまで』……その一点のみ。神術、武器など使用可。双方、いいかな?」

「はっ」

「おっす!」

「yeah!」


 紫は右手を上げた。


「それでは――試合開始!」


 紫が右手を振り下ろした瞬間、空は駆け出す。


「【竜神変化(りゅうじんへんげ)】!!」


 空色の神力に包まれた瞬間、空の身体に変化が起きていた。

 鋭い牙と爪、鱗に覆われた身体の一部、縦に走る瞳孔に、背中から生える竜の翼――竜神の眷族の姿となった空が蘇芳に突撃する――!


 しかし、空の突撃を蘇芳は腕一本で止めていた。


「遅い」

「っ!?」


 気付けば空は遠くへ弾き飛ばされてしまった。


 すると、蘇芳は左手を振り払い、何かを叩き折る。

 足元に散らばって落ちていたのは何本もの矢だった。

 蘇芳は掴んだ矢を握り潰し、矢を放った鞠を睨み付ける。


「無駄だ」

「……っ」


 蘇芳の覇気に怯みそうになるが、鞠は再び弓矢を構えた。


「蘇芳さん、どうして!? どうして教えてくれないの!? どうして一人で背負おうとするの!?」

「これは俺の使命だ。それに危険が伴う……紅が大切にしている貴殿らを巻き込むわけにはいかない」

「俺達はそんなに頼りないっすか?!」


 弾き飛ばされていた空が蘇芳の前まで戻ってきて叫ぶ。


「俺達は確かにまだまだ若いっす! でも! 力になりたいって思いは負けないっす!」

「……思いだけではどうにもならない……思いだけでは……!」


 そう呟いた蘇芳の脳裏に過るのは藤紫色の長い髪を持つ儚げな神子の姿――。


「……大人しく黙ってもらおうか」


 蘇芳色の神力がぶわりと圧となって空と鞠に襲いかかる。

 二人は一瞬呼吸を忘れてしまっていた。


「【岩砕地龍(がんさいちりゅう)】!!」

(しまっ――!)


 蘇芳色の龍が大地を引き裂きながら空と鞠に直撃した――!




 ……と、思われたが、腕が痺れる奇妙な感覚に蘇芳はハッとする。


「いやあ……あはは……流石は神域最強……一回相殺するので精一杯だよ」


 その声とともに土煙の中から姿を現したのは、鉛色の髪とその色を知る者がいない瞳を持つ何を考えているのか分からない飄々としている男――幽吾(ゆうご)だった。


「「幽吾さん!!」」

「ごめんね、遅くなって……」


 幽吾はへらりと笑うとその場に座り込んでしまう。


「……何故貴方がここに?」


 蘇芳の睨みにも怯むことなく、幽吾は笑みを湛える。


「空くんと鞠ちゃんから連絡をもらってね……君が無茶をするかもしれないって」

「…………」

「それに、僕も君には洗い浚い吐いてもらいたいんだよね。隠していること全部」

「…………」

「というわけで僕は空君と鞠ちゃんに手を貸します」


 試合規則違反かと、蘇芳は考えたが、審判の紫は何も言わない。


(ルールは「降参するまで」だったな……)


 つまり乱入も認められるという事だ。

 蘇芳は溜め息を吐くが、その程度痛くも痒くもなかった。


「しかし、今ので幽吾殿は消費しきった」

「消費ついでに君の神力も封じさせてもらったよ。これで君は神術を使えないよ」


 なるほど、腕の痺れはそれが原因かと察する。


「問題ない。実質、一対二のままだ」

「あ~、ごめんごめん。言葉不足だったね」


 幽吾がそう言ったと同時に、蘇芳の前に八人が颯爽と現れ、立ちはだかっていた。


 脱色した薄茶の髪の前髪の二房だけがまるで雷が落ちたかのような鮮烈な山吹色。同じ色の瞳はつり上がっており、短い眉に剥き出しの犬歯。そして、頭に三本の角を持つ鬼の先祖返りである(とどろき)

 花魁の如く色香を纏った美人。毛の先を淡く黒く染めた長く艶やかな一斤染の髪と色気溢れる紫色の瞳を持つ正真正銘の男性の世流(よる)

 銀朱の髪と赤と橙の入り混じる炎のような色合いの瞳を持ち、耳元に鮮やかな橙の石を着けた女性の(ほむら)

 少し癖のある黒が入り混じる杏色の髪と新緑と黒を混ぜた瞳を持つ男性の(あや)

 紫がかった黒い髪と鮮やかな菖蒲色の瞳を持つ三角の獣耳と二股に割れた尻尾が特徴的な猫又の先祖返りの美月(みつき)

 銀色の長い髪と木賊色の切れ長の瞳を持つ黒い羽を生やした天狗の先祖返りの天海(あまみ)

 瓜二つの美しい相貌と青みがかった髪を持つ双子の兄弟――瑠璃紺の瞳を持つ右京(うきょう)、江戸紫の瞳を持つ左京(さきょう)


「我ら朔月隊(さくげつたい)、神域最強戦士に喧嘩を売ります」


 現れた仲間達の姿に紅玉は息を呑むしかなかった。





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