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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第五章
270/346

何処にも行かないで

※後半、お砂糖大量投入です※




 その後の宴会は、紅玉が蘇芳に付きっきりとなり、さぞ神々は羽目を外すかと思われたが……。


 神々をはじめ一部の人間は大人しく酒を飲みながらニヤニヤとし、また別の一部の人間は真っ赤に染め、はたまた別の一部はげんなりとしていた。


 その原因は視線の先にいる紅玉と蘇芳だ――。




「はい、あーん」

「あー」


 紅玉が桃を差し出せば、蘇芳は迷わずそれを頬張った。

 もぐもぐと咀嚼する蘇芳を見つめながら、紅玉は首を傾げる。


「美味しいです?」

「ん」

「良かったです」


 頷く蘇芳に紅玉は嬉しそうにふわりと笑った。


「ヨソでやれ!」

「轟君、僕らの方がよそ者だよ」


 堪らず叫んだ轟に透かさず幽吾が言った。

 文も溜め息を吐きつつ、狛秋に言う。


「あんたも文句くらい言えば?」

「あ、いや……」


 狛秋は思わず朝陽と月影の夫婦神を見てしまう――十の御社の砂糖の塊のような甘い夫妻を。


「…………慣れて、しまった」

「あんた結構十の御社に馴染んでいるな」


 文は思わず愕然としてしまった。


 そんな会話を余所に、蘇芳は紅玉に桃を差し出す。


「紅、あーん」

「あーん」


 桃を食む紅玉を見つめながら、蘇芳は思わず目を細める。


「うまいか?」

「んっ」

「そうか」


 コクコクと頷く紅玉の頭を蘇芳はふわりと撫でる。

 その表情はすっかり蕩けきっていた。


「Love & Peaceデース」

「平和っすねー」


 ニコニコと微笑みながら見守っていた空と鞠が嬉しそうに呟く。


「あのでろ甘のいちゃつき見て、平和って思える空きゅんと鞠ちゃんもなかなかやわ」


 美月もそう言いながらも、幸せそうな二人の様子に嬉しそうだった。


 ちなみに焔は恥ずかしさの限界を迎えて悶えており、天海に至ってはとっくに恥ずかしさの限界を超えて寝込んでいた。

 右京と左京はそんな天海の看病をしている。


 そんな様々な周囲の評価を聞いていた(勿論全部聞こえている)蘇芳は紅玉の肩を引き寄せた。


「そもそも見なければいい話だろう。というか見るな」

「わあ~蘇芳さん、一切の遠慮がなくなったね~」


 「あはは~」と笑う幽吾の一方で、世流は呆れ顔だ。


「想像以上に独占欲の塊よ、あれ」

「うみゅ……厄介な相手を好きになってしまったね、お姉ちゃん」

「え、ええっと……」


 水晶の言葉に紅玉は蘇芳の服を握り締めた。


「わ、わたくしも……蘇芳様を独り占めしたいから……いいの」


 紅玉が頬を赤く染めながらそう言った瞬間、蘇芳は固まってしまった。


「殺す気か!?」

「えっ? わ、わたくし、変な事言いました?」


 なんとまあ、相変わらずの性質の悪さであろうか……。


「ワタシ、ちょっと蘇芳さんに同情するわ~」

「ぷぷっ、神域最強を掌の上で転がせる紅ちゃんってホントすご~い」

「……何やら物凄く悪口を言われているということはよくわかりました」

「いやいや誉めているんだよ~~半分くらい」

「紅ちゃんかっわいい~っ!」


 幽吾と世流の反応に紅玉は思わず頬を膨らませてしまった。


 水晶は未だ顔を真っ赤にさせて悶え苦しんでいる蘇芳にそっと言う。


「うみゅ、すーさん、我慢の限界なら連れてってもいーんだよ」


 その言葉に蘇芳は即座に反応する。


「ではお言葉に甘えまして、自分達はこれにて失礼します」

「えっ?」


 蘇芳は問答無用で紅玉の手を引いて立ち上がると、すたすたと流れるように歩いて大広間から出ていってしまった。


「「「「「きゃああああああっ!!」」」」」

「「「「「祝杯だああああああっ!!」」」」」


 瞬間、女神達から悲鳴のような歓喜の声が上がり、男神達は飲めや食えやの大騒ぎだ。


「お赤飯炊いとこっと」


 そして、紫は目の端に光る涙をそっと拭いながら席立ち、赤飯の下準備に向かった。




**********




 たった数日ぶりではあるが、久しぶりの十の御社の中を歩く。

 手にはしっかり紅玉の手を握り締めて。決して離さないようにと……。


 やがて辿り着いたのは自分の部屋だ。

 扉を開けて中に入れば、蘇芳ははっと気付く。


「……掃除をしてくれたのか?」


 蘇芳の記憶が正しければ、この部屋を出ていく時、荷物を適当に詰め込んで七の御社に持っていった為、散らかった状態だったはずだ。

 しかし、箪笥も寝台も綺麗に整えられ、綺麗になっている。


 すると、紅玉が少しはにかみながら言った。


「……蘇芳様がいつ帰ってきても大丈夫なようにって……毎日……」

「…………」

「……っ……というより、現実を受け入れられなくて、蘇芳様のお部屋をお掃除しないと……寂しさで潰されてしまいそうだったから……」


 思わず本音をこぼした紅玉を、蘇芳は堪らず抱き締めていた。


「紅……! 紅……! 紅……っ!」

「会いたかった……っ、ずっと会いたかったです……っ! 蘇芳様……!」

「俺もだ……紅……」


 蘇芳は紅玉を腕から解放すると、じっとその姿を見つめる。


「綺麗だ……紅……」


 赤く染まる紅玉の頬を蘇芳はそっと撫でる。

 その指は頬だけに止まらず、柔らかな紅玉の唇にもそっと触れた。


「すおう、さま……っ……」

「紅……俺の……俺の紅……」


 紅玉を腕の中に閉じ込めながら、蘇芳はその唇に己のそれを重ねる。

 紅玉の頬を掌で包み込みながら、逃さないと言わんばかりの力で強く引き寄せ、触れるだけの口付けを一度、二度、三度……四度目のは長めに……。


「っ、んぅ……っ……」

「ん……っ、は……紅……」


 何度も、何度も、名前を呼んで、口付けて、小鳥が囀ずるような音を唇にわざと響かせる。

 その間、紅玉が必死にしがみついてくるのが、可愛くて堪らなかった。


 たっぷり口付けた後、唇を解放してやれば、紅玉が「はぁっ」と艶かしい吐息を吐いた。

 頬はすでに真っ赤に染まり、瞳は熱で潤んでいる。

 背筋にゾクリとした快感に近い感覚が走り、蘇芳は堪らずもう一度唇に噛み付こうとした――が、それを紅玉がやんわりと止めた。


「あ……あの……す、おう、さま……」

「ん?」


 少し視線を彷徨わせ、じっと己を見つめてくる紅玉を蘇芳は甘い蜜の含んだ笑みを浮かべながら見守る。


「わっ、わたくしに蘇芳様の存在を刻んでください……!」

「っ!?」


 しかし、紅玉の予想外の言葉に蘇芳は目を剥くことになってしまう。


「もう嫌なの……! あんな思い……もう貴方を誰にも奪われたくない……! 愛しているの……! もう、何処にも行かないで……っ」


 涙を浮かべながら懇願する紅玉に、蘇芳は我慢の限界を越えた。

 紅玉に覆い被さるように抱き締め、再び口付ける。


「んんっ……っ、んぅ……ふぁ……っ」


 蘇芳がそっと唇を開き、舌先で紅玉の唇をなぞれば、紅玉は身体を震わせ、僅かに唇を開いた。

 その隙間から透かさず舌を入れ、紅玉のそれと絡ませる。


「んんっ……! ふぁっ、んっ……ぅ……!」


 初めて与えられる感触に紅玉は身体を震わせた。

 身を捩っても与えられる感覚に紅玉は立つのがやっとだった。


 蘇芳は抱き締める腕を強くし、紅玉を支えるも、その間も舌の動きは止まらない。

 舌を深く絡ませ、口腔内をそっと撫でるように、時に激しく暴れまわるように紅玉の全てを味わう。


 唾液の絡み合う水の音に聴覚まで蘇芳に支配されてしまった紅玉は、ついに自分の足で体を支えきれなくなってしまい、蘇芳に縋るようにしがみついた。


「ふぁ……っ、す、お……さまぁ……っ」


 真っ赤な顔で己を呼ぶ紅玉の唇からは、濃厚な銀色の糸が己の唇に繋がっていた。

 蘇芳は難なく紅玉を抱え上げると、寝台へと紅玉を運び、座らせると、自身もその隣に腰掛けた。


「紅……っ」


 艶やかな黒髪と色鮮やかな着物がなんと美しいことか。

 頬も唇も真っ赤に染まり、潤んだ瞳が可愛くて堪らない。

 蘇芳は紅玉の全てに魅了され、頬に、額に、髪に、瞼に口付けの雨を降らせていく。

 その度、紅玉はふるりと身体を震わせる。

 蘇芳は紅玉の手を取ると、その指先に口付け、その手を己の胸の上へと導いた。


「紅、俺の全ては貴女ものだ。もう決して貴女を裏切らない。この命に誓って」

「す、おう、さま……っ……」


 トクトクと掌に伝わる心臓の音はとても速くて、その鼓動も温もりも全てが愛おしくて堪らない。

 ぽろぽろと涙が零れ落ちていく。

 紅玉の涙を蘇芳はそっと口付けて拭い、額と額を合わせて、漆黒の瞳を見つめた。


「俺の……俺だけの愛おしい人」


 引き寄せ合うように、二人の唇は再び重なり合った。

 そして、強く強く抱き締める。


 身に纏う布すら邪魔で、しゅるりと帯が解かれ、ぱさりと寝台の外へ色鮮やかな着物が落とされていく。

 互いに襦袢だけ身に纏った姿になると、蘇芳は紅玉をそっと寝台の上に横たわらせ、自身もその上に覆い被さる。


「紅……」

「蘇芳様……っ」


 もっと互いの存在を確かめ合うように、もう決して離れないと誓い合うように、抱き締め合って、互いの体温を求め合う。


「紅……紅……愛している、紅」

「わたくしも、愛しています……っ」


 そうして、口付けて、寝台の上で重なり合った二つの影は――…………。




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