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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第五章
265/346

七の御社制圧作戦




 時を遡ること数分前――。

 七の御社の上空に怪しい影が飛んでいた事が騒ぎの始まりだった。




「逃すな! 撃て! 撃て撃て撃て!!」


 その影を撃ち落とさんと、神子護衛役達が必死に狙撃するも、影はなんと硝子を突き破り部屋に飛び込んでしまった。

 しかもよりにもよって桜姫の寝室に。


「おい! 早く桜姫の寝室に迎え! 桜姫をお守りするんだ!!」

「しっ、しかし、今宵は姫神子様の寝室には近づくなと真珠様のご命令が……!」

「これは桜姫の御身の問題だ!! 早く迎え!!」


 躊躇う神子護衛役達の前に現れたのは――。


「何事ですか!?」

「真珠様!」


 銃声を聞きつけた真珠だった。


「怪しい影が上空を飛んでおりましたところを撃ち落とそうとしたのですが、桜姫の寝室に逃げ込まれてしまい……!」

「怪しい影……?」


 怪訝に上空を見上げた瞬間、真珠の目に飛び込んだのは闇夜から現れた一匹の烏――。


「っ!?」

「なっ!? 烏だと!?」


 戸惑う七の御社の職員達の前で烏は羽を撒き散らす――。

 やがて視界が晴れるとそこにいたのは、十二人の人影だった。


 鉛色を持つ男、幽吾がニヤリと笑う。


「今晩は。七の御社の皆々様」

「お前達! 何者だ!?」

「我らは朔月隊――……」


 幽吾は地獄の門を召喚する。


「只今より七の御社を制圧させてもらう!」


 その瞬間、地獄の門が開き、中から巨大な鬼神が現れた。


「うわああああっ!!??」

「きっ、鬼神!!」

「ひっ、怯むなぁっ! 立ち向かえっ!!」

「桜姫をお守りしろぉっ!!」


 しかし――。


「「「妖力解放!!」」」


 神力とは異なる力が渦巻いた。

 見れば、山吹色の雷を纏った鬼、紫色の毛並みを持つ妖艶な猫又、純白の羽を持つ天狗が職員達の前を立ち塞がった。


「相手になってもらうぜぇ! 七の御社のエリートさん達よぉ!」

「お姫様のとこには行かせへんで!」

「我ら妖怪の一族、友を救う為に力を使う!」


 轟と美月と天海が七の御社の職員達に突っ込んでいった。

 巨大な鬼神もまた職員達の中で大暴れをする。

 精鋭であるはず七の御社の職員達は翻弄される一方だ。


「紅ちゃん、早く蘇芳さんを拐っておいで」

「はい!」


 幽吾に見送られ、紅玉は他の仲間達と先へと進む。

 先導するのは南高だ。


 屋敷に入った瞬間――。


「紅玉先輩っ!!」

「っ!?」


 突如、焔に腕を引っ張られたと思えば、さっきまでいた場所から蔓が生えて紅玉を捕らえようとした。


「おや、あと少しだったのに……残念」


 その声に振り返れば、人離れした美しさを持つ集団が立っていた。

 紅玉はこの者達に見覚えがあった。

 何せ一度顔を合わせたことがあるのだから……。


「七の御社の神々……!」

「七の御社に侵入する不届き者達に裁きを与えよう」

「我が姫神子の邪魔はさせぬ」


 相手が神であると分かると、右京と左京、空と鞠、そして焔が前へ出た。


「先輩! 先へ行ってくださいっす!」

「「彼らの相手は僕達が!」」

「ありがとうございます!」


 紅玉、世流、文の三人は先へと進む。


「逃すか!!」


 神の一人が樹の幹を伸ばし、紅玉を捕らえようとする――が、樹の幹に銃弾が撃ち込まれ、樹の幹が灰となって朽ちてしまう。

 驚き振り返れば、焔が銃を構えていた。


「あなた方の相手は私達だ!」

「カクゴしやがれデース!」

「へえ……神の子に神の眷属、異国人と元神子が相手か」


 神はニヤリと笑う。


「……面白い」


 そして、戦いの火蓋は切って落とされた。




 紅玉は階段を駆け上がり、長い廊下を進んでいく。


「いたぞ! 捕らえろ!」

「姫神子様をお守りしろぉ!」


 前方から職員達が突撃してくる。

 反撃に備えて紅玉は武器を構えるが、先に前へ進み出たのは世流だった。


「はあい。オネエチャンとあっそびましょっ!」


 ふわりと漂う甘ったるい香りに紅玉は気付く。


(世流ちゃんの幻惑香!)


 すると、職員達が恍惚とした表情を浮かべて次々と倒れていった。

 しかし、それでも崩れ落ちない職員達が紅玉達の行く手を阻む。


「ここを絶対通すな!!」

「死んででもここを死守しろ!!」


 すると、文が前へ進み出た。


「【邪魔だよ】」


 文が宙に文字を書き放てば、行く手を阻んでいた職員達が一斉に壁に磔にされてしまった。


「か、身体が勝手に……!」

「おのれ……! 言霊使い!」


 文のおかげで道が開いた。


「早く行きなよ」

「ここはワタシ達に任せて!」

「ありがとうございます!」


 壁に貼り付いたまま動けなくなっている職員達を難なく抜けて、紅玉は先へと進む。


「蘇芳様ぁっ! 蘇芳様ぁっ!!」


 長い廊下を走りながら紅玉は名前を呼ぶ。


「お願いです! 返事をしてぇっ!!」


 その時だった。


「〈能無し〉!!」

「っ!?」


 ハッと振り返れば、そこにいたのは神力を纏わせた真珠だった。


「邪魔はさせない!!」


 真珠は術式を解放し、神術を放った。

 ゴオオオオッと風が渦巻き、紅玉に襲いかかる――!!


 しかし。


 パンッと弾ける音が響き渡った瞬間――。


「きゃああああああああっ!!!!」


 悲鳴を上げて倒れ込んだのは真珠の方だった。


「えっ……!?」




*****




 その時、十の御社の祈りの舞台でひたすら祈りを捧げていた水晶はハッとする。


 バチッ!――という痛みを感じた瞬間、頭からダラリと血が流れ落ちた。


「神子!!」

「神子様!!」

「私なら大丈夫!」


 水晶は一瞬ぐらついた体勢を立て直す。


「それより倒れた子達の手当てをお願い!」


 周りを見れば、祈りの舞台を囲むようにして同じく祈りを捧げていた神々の内何人かが倒れていた。

 即座に紫と狛秋が駆け寄った。


「雲母君! しっかりして! まずい、神力が枯渇寸前だ……!」

「真昼様とれな様も神力が枯渇寸前だ!」

「砂糖菓子も使って! とりあえず倒れた神様達は一旦待避させよう!」

「分かった!」


 紫と狛秋が手際よく対処してくれるので、水晶はほっと息を吐く。


(この神術の威力…………)


 気づいた事実にギリッと奥歯を噛み締めると、キッと前を見据えて再び集中する。


「皆! 気を引き締めて!!」

「「「「「承知!!」」」」」


 祈りの舞台に神力の輝きが増していった。




*****




 一瞬の出来事に紅玉は戸惑ってしまう。

 真珠の真っ白な神官のような服は無惨にズタズタに切り裂かれてしまっている。


「うっ……」


 幸い怪我はないようだが、肌が露になってしまい、同性として放っておけない状況だ。


 思わず駆け寄ろうとした時、紅玉は目にしてしまった。

 真珠の胸元にある呪いの紋章を――。


(……え?)


 感じたのは、嫌悪感や恐怖というより――……。


「〈能無し〉!!」

「っ!」

「あなた! 自分が何をしているのかわかっているのですかっ!?」

「…………」


 紅玉は冷静になって思い出す。


(ああ、いけません……こんな事をしている場合ではありませんわ)


 今、自分がすべき事を。


「……わたくしのしている事は、決して赦されることではありません。十分理解しております」

「ならば覚悟なさい!! あなたも! あなたのお友達もただでは済ませません!!」

「……たとえ、天罰が下ろうとも……わたくしはここで行かなければ一生後悔します」


 あの時、ああしておけば良かった……こうすれば良かった……。

 何度も、何度も繰り返した後悔。

 そんな事はもうしたくない……!


「わたくしはもう二度と大切な人を失いたくありません」


 紅玉は右手の小指に刻まれた紋章を握って、力一杯叫んだ。


「蘇芳様ぁっ!! わたくしの名前を呼んでぇっ!!」




 そして――。




「俺はここだ! 紅子ぉっ!!」




 紋章から術式が展開される。

 そして、一瞬の内に転移し、誰よりも会いたかった存在の前に降り立った。


 蘇芳色の短い髪に金色の瞳を持つ屈強な身体を持つ、愛する人――。


「蘇芳様っ!」

「紅っ……!」


 紅玉は迷わずその胸に飛び込んでいた。





<おまけ:地獄門管理者と妖怪一族の戦い>


「うおらああああっ!!」


 山吹色の雷を纏わせた轟の金棒が地面に叩き付けられた瞬間、辺り一帯に稲妻が走った。


「ぎゃああああっ!!!!」

「痺れるぅぅううううっ!!!!」


 全身痺れて職員達が次々と倒れていく。


 その一方で闇夜を紫色の影が物凄い速さで掛けていった。


「はっ、速いっ!」

「気を付けろ!」


 しかし――。


「もう遅いで」


 美月はそう呟くと、鋭い爪を見せる。


「すでに切り裂いた後や」


 その瞬間、職員達の服が無残に散らばった。


「「「「「ぎゃああああああっ!!!!」」」」」


 庭園中に仲間達の悲鳴が響き渡り、職員は完全に戦意を喪失していた。

 故に気付く事ができなかった。


「――捕まえた」

「ひいっ!?」


 急激に上空へ引っ張られ、気付けば宙へ吊るされる。

 周りを見渡せば他にも吊るされた仲間達が何人か。


 バサリと純白の羽をはばたかせ現れたのは、背筋が凍るほど美しい天海だった。


「ここで大人しくしてもらおうか」

「は、はひ……」


 恐怖が……というより、美しい天海の顔に見惚れてしまい、言う事を聞いてしまう。

 どうやら周囲の吊られた仲間達も天海の美貌に陥落してしまったらしく、同じく蕩けた表情をしていた。




「いやぁ、妖怪の先祖返り組の本気は末恐ろしいね~」


 仲間の見事な手腕を幽吾は鬼神の肩の上に乗りながら眺めていた。

 ちなみにその鬼神は足元に群がる職員達を蹴散らし続ける。


「いいぞ~、やっちゃえ~~」


 幽吾は逃げ惑う職員達の様子を見下ろしながら楽しそうに笑った。




「幽吾が一番恐ろしいっつぅの」

「ウチも同感」

「うんうん」


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