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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第五章
257/346

巨大鬼神撃破作戦




 舞台上はまさに地獄という状況であった。

 逃げ惑う神域警備部の職員数名があっという間に場外へ弾き飛ばされ、神子管理部の職員も身体を掴まれ投げ捨てられ、生活管理部に至っては自ら場外へ落ちていった。


 中には勿論果敢に闘う者もいたが、あの巨大な鬼神に矢や銃撃、攻撃系神術といった遠距離からの攻撃がほとんど効いていないようだ。

 それに戸惑ったが最後、鬼神にあっという間に薙ぎ払われていった。


「うみゅ、進撃のなんちゃら」

「幽吾さん……相変わらず容赦ないっす……」


 もうすでに出場選手の半分くらいが失格となっていた。

 その間にもどんどん鬼神は出場選手達をポイポイ投げ捨てていく。


「ショウちゃん、ソラ! ミてくだサーイ!」


 鞠が指差した先にいたのは、蘇芳と轟だった。

 なんと二人は巨大な鬼神の攻撃を身一つで防いでいた。

 周囲の出場者はどんどん弾き飛ばされているというのにあの二人は鬼神の攻撃を受けて尚、己の足で立っているのだ。


「よう! 蘇芳! 流石は神域最強だな!」

「轟殿こそ、流石は鬼の先祖返り」


 挙げ句、会話をする程の余裕だ。


 鬼神は一旦蘇芳達への攻撃を止めて移動を始める。

 どうやら狙いを変えたらしい。

 その証拠に出場者達が再び投げ捨てられていくのが見えた。


 その隙に轟は蘇芳に近づいて言った。


「あの噂、デタラメだろうな」

「噂?」

「おめぇが七の神子の婚約者っていう話」

「……もう他区にもそんな噂が……」

「どうなんだよ?」


 じっと見つめてくる山吹色の瞳を蘇芳はしっかり見据える。


「俺が愛するのは紅だけだ」


 はっきりと告げられたその言葉に轟はニッと笑う。


「まあわかっていたことだけどよ、ちゃんと聞けて安心したぜっ!」


 轟は金棒を振って鬼神の攻撃を相殺した。

 どうやら鬼神が再び狙いを轟達に定めたらしい。

 見ればほとんど場外へ放り出されてしまったらしく、舞台上からすっかり人が消えていた。


 戦闘態勢を取りながら轟は言う。


「万が一の事があったら、七の御社に殴り込んでやろうと思っていた」

「止めてくれ……! せっかく手にした自由を棒に振る気か?」

「ダチが困っているのに手を差しのべられねぇくらいなら、自由なんていらねぇ!」


 轟の強い言葉に蘇芳は目を見開いた。


 しかし、今はそれどころではない。

 鬼神が大きな足音を立ててゆっくりと迫ってくる。


 蘇芳もまた戦闘態勢を取った――その時だ。


「そこのお二方!」


 颯爽と現れたのは紅玉だった。


「共闘しましょう。あんな大きな鬼神を一人で倒せるわけがありません。すでに準備は整えています」


 早口で伝えられた言葉に蘇芳も轟も思わず驚いてしまうが、即座に納得してしまう。

 確かに「共闘してはならない」という規則はなかったはずである。

 そもそもあんな巨大な鬼神を一人で倒せという方が無理な話だ。


「共闘か……なるほど。流石だな」

「おっしゃ! いいぜ! 俺様は何をすればいい?」

「一旦こちらに。態勢を整えながら作戦をお伝えします」


 紅玉達が移動を始めると、鬼神ものっそりのっそりと後を追ってくる。

 紅玉達があっという間に他の仲間達の元へたどり着く一方で、鬼神は遠くの方をまだ追っていた。


「やはり、あの鬼神様は動きが大変遅いようですね……」


 紅玉はその事を確信し、考えていた作戦を実行する事にした。


「当初の作戦通りで参りましょう。わたくしと実善さんと陽煇君で鬼神の足止めをします」

「よしっ! 任せろ!」

「俺もシロウもいつでもいいですよ!」


 見れば実善は準備体操をしており、陽煇は相棒犬のシロウに跨っていた。


「すもも先輩と大瑠璃主任にはこちらから遠距離で鬼神に攻撃をしていただきます」

「わかったわ」

「任せてくれ!」


 すももと大瑠璃も準備万端といった感じだ。


「篠さんはとにかく異能で陣地を守ってください」

「ムリィ! 絶対ムリMAX!」


 篠は未だ震えている……が。


「大丈夫です、篠さん。貴女の異能の根源は所謂恐怖といった負の感情によってより強固になるもの。むしろもっともっと怖がってくださいまし」

「ひぃぃっ!!」


 清々しいほど紅玉の容赦がない。

 むしろそれを利用するとは畏れ入った。


「亜季乃ちゃんは絶対に篠さんの異能でできた結界から絶対出ないでくださいまし。その代わり――」

「はいっ! 私は私のお役目を果たしますぅ!」


 亜季乃は可愛らしくにこっと笑う。


「攻撃の要は蘇芳様と轟様と砕条様です。わたくし達が鬼神様の動きを封じますので、お三方は確実に鬼神様を仕留めてくださいまし」

「おっしゃ! 俺様の力見せてやんよ!」

「作戦の内容は承知した」


 納得する轟と砕条の一方で、蘇芳だけが納得できていないようだ。


「囮役が一番危険だろう!? それこそ俺に任せて欲しい」

「いいえ。あちらの鬼神様の最大の難関は身体の大きさでも攻撃力の高さでもありません。神術も矢も跳ね返すその防御力の高さです」


 蘇芳はハッとする。

 あの鬼神が矢や銃撃を跳ね返し、攻撃系神術がほとんど効かなかった事を思い出す。


「あの鬼神様を倒すには強大な攻撃力が必要です。重要なのは誰でもできる囮役ではなく、止めを刺すことができる方なのです」

「……っ……」


 蘇芳は反論ができなかった。

 まさにその通りなのだから。


「二人とも! 話し合いは終わりにしてもらおうか?」


 大瑠璃の声に振り返れば、鬼神が目の前まで迫ってきていた。


「参りましょう」

「よっし!」

「行こう!」


 紅玉と実善とシロウに跨がった陽煇が前へ出た。


「紅お姉様達、【頑張ってくださいですぅ】!」


 亜季乃が叫んだ瞬間、異能が発動する。

 紅玉達の足元が淡い黄色の光に包まれた。


「参ります!」

「行くぜ!」

「シロウ! Go!」


 三人は物凄い速さで駆けていく。

 あっという間に鬼神の元へたどり着くと、紅玉と実善は鬼神の足元を素早く動き回り、陽煇とシロウは鬼神の視界を遮るように飛び回って鬼神を翻弄する。


「遅いです!」

「どこ狙ってんだよ!?」

「ほらほら! こっちだ!」


 ただでさえ動きの鈍い鬼神は紅玉達の速さに全く目が追い付いておらず、その場で踏鞴を踏むばかりだ。


「あれは……!」

「私の異能『声援』は身体強化のおまじないをするものなのですぅ」


 なるほど、と蘇芳は思った。

 人の身体強化を図れる亜季乃がいたからこそ紅玉は自ら囮を買って出たのだろう。

 それでも蘇芳は納得できていないが。


 その時、鬼神が瓦礫に手を伸ばし、蘇芳達の方へ放り投げる――!


「篠さん!!」


 紅玉が叫ぶと同時に、涙を浮かべた篠が迫り来る瓦礫と向かい合う。


「【鉄壁】!!」


 ガンッ!!――激しい轟音とともに瓦礫が篠の結界にぶつかり、粉々に砕け散った。


「ムリィ……! あんなのぶつかったらぺっちゃんこだよぉっ……! 絶対ムリMAX!」

「ならばペッちゃんこになる前に!」

「鬼神を倒すしかないわ!」


 大瑠璃とすももは即座に構えた。


「【打ちつけろ 豪雨】!!」

「【舞い踊れ 花吹雪】!!」


 攻撃系神術が鬼神に直撃するも、やはりあの鬼神には神術の耐性があるらしい。

 怯む程度で決定的な一打になっていないようだ。


「怯ませることができるならそれで十分!」

「とにかく鬼神の注意を引き付けるわ!」


 大瑠璃とすももは己の役目を理解し神術をとにかく打ち続ける。


 足元や目の周りには素早く動き回る人間、遠方からは絶え間なく打ち続けられる神術の攻撃、挙げ句破壊できない強力な結界――いつしか鬼神に疲労と隙が見え始める。


(これならいける!)


 蘇芳は確信していた。


「さあ! お兄様達、出番なのですぅ!」


 亜季乃は手を組んで蘇芳達に祈りを捧げる。


「【お兄様達に力を】!」


 淡い黄色の神力が身体を包み、いつも以上に力が漲っていくのが分かる。


「蘇芳! 俺が鬼神の動きを止める! その隙に仕留めてくれ!」

「了解した!」

「私が活路を援護するわ! 鬼神まで突っ切りなさい!」

「助かる!」

「おっしゃ! 行くぜ!」

「貴様には負けないからな!」


 蘇芳と轟と砕条の準備は整った。

 大瑠璃がより強力な神力を集め始めたのを見て、すももが叫ぶ。


「走って!!」


 蘇芳と轟と砕条は駆け出した。

 迫り来る鬼神の瓦礫の攻撃をすももが確実に撃ち落としていく。

 蘇芳達は何にも邪魔されることなく鬼神へ一気に突き進む。


「お姉様達! 退避ですぅ!!」


 亜季乃の叫びと同時に紅玉達が鬼神から離れた瞬間だった。


「【打ち上げろ 滝登り】!!」


 大瑠璃の水の上級の神術が鬼神に直撃し、鬼神を飲み込んだ。

 鬼神が動けなくなった瞬間、蘇芳達はすでに鬼神の目の前にいた。


「覚悟ぉっ!!」

「おらあぁっ!!」

「うおおおおっ!!」


 砕条の大剣が、轟の金棒が、蘇芳の拳が鬼神に大打撃を与えた!

 鬼神の巨大な身体が傾き、倒れていく――!


 その先に紅玉がいた。


 紅玉が急いで退避しようと思ったその時、目の前に大きな背中が現れた。


「うおおおおおおおおっ!!」


 蘇芳は倒れ来る鬼神の身体を投げ飛ばし、舞台の上に叩きつける!


 激しい轟音が鳴り響き、観客が騒然とする中、舞台の上に鬼神が目を回して伸びていた。


「は~い! 勝負あり~! おめでとうございま~す!」


 幽吾の終わりを告げる声が響き渡った瞬間、観客席から歓声が沸き上がった。


 鬼神の召喚が解かれ、煙のように消えた瞬間、本当に戦いが終わったのだと分かり、紅玉はようやっとほっと息を吐いた。


「紅!」

「!」


 顔を上げれば蘇芳が不安げな顔で自分を見つめていた。


「紅! 怪我は!?」

「ありません。蘇芳様が守ってくださいましたから」


 蘇芳はほっと息を吐きつつも、ギロリと紅玉を睨んだ。


「まったく! また無茶をして! 何故囮役を買って出た!?」

「あの中ではわたくしが適任でしたから。わたくしには補助も遠距離からの攻撃も重要な攻撃の要もできません。それにこの作戦を考えたのはわたくしです。わたくしが一番危険な役目を担わないわけには参りませんわ」


 蘇芳はまたもや言い返せなかった。

 まさしくその通りなのだから。

 それでも、言い返すことができない自分が悔しくて仕方がない。


「……はあ……まったく……いくら見世物の武闘大会とはいえ、肝が冷えたぞ」

「ありがとうございます。心配してくださって」


 ふわりと微笑む紅玉の髪が少し乱れていたので、蘇芳はそっと手を伸ばし整えた。


「無事で良かった」


 その顔が蕩けるほどにあまりに優しいものだったから――会場の一部がどよめく。


「あれ、神域最強だよな?」

「なんだあの優しい顔……!」

「え、でも、あの人、七の神子様の婚約者候補って話じゃ……」

「でも、あの二人の雰囲気って……」

「もしかして〈能無し〉と付き合ってるのか?」


 ヒソヒソと聞こえてくる話し声に、桜姫は震えるほど拳を握って耐え続ける。

 それでも苺色の瞳に宿る怒りの炎を消すことは叶わず、紅玉と蘇芳を鋭く睨み付けていた。


 真珠も酷く冷たい視線でまた紅玉と蘇芳を見つめる――微笑みを浮かべながら。





<おまけ:戦闘中の観客席その一部>


二十二の御社

慧斗「いっけーー! よっしー! いいぞそこだ! やっちゃえーーっ!!」

鈴太郎「けーとくん、もうちょっと興奮を抑えて……!」



二十五の御社

みぞれ「ああああ、篠頑張れぇっ! ああっ! 負けるなっ! 頑張れぇ!」

若葉「……ちょっとは大瑠璃主任の応援もしてあげたら? 幼馴染でしょ?」

みぞれ「……………………」

若葉(やれやれ……この二人もちょっと面倒くさい)



四十六の御社

小麦「よ、陽輝……が、がんばって……」

燕「神子様、声が小さすぎます。もっと大きな声で」

小麦「が、頑張れ……! 陽輝……!」

燕(ああああああああ尊いっ!!)



二十七の御社

藍華「…………」

護衛役「神子様、すももを応援しないんですか?」

藍華「だっ、誰も応援しないだなんて言っていないわ! 私はただ――ちょっとぉっ! うちの神子補佐役に怪我させたら承知しないんだから! ちょっと止まりなさいよ! そこのブタゴリラ!!」

護衛役(超心配で仕方ないってことですね)



十の御社

水晶「うみゅ、ポテト切れた」

つる「これ、美味しいですわ。あっという間に食べ切ってしまいましたわ」

狛秋「新しいのを買ってきます」

空「お願いしますっす」

鞠「ついでにDrinkもオネガイデース」

狛秋「ああ丁度良かった。すみません。ポテトとドリンクを」

移動販売中の文「アンタらもうちょっと真面目に応援してあげたら?」


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