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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第五章
246/346

紅子の実家にて その壱

※紅子視点




 場所は変わって、ここはてっちゃんが運転する車の中……。




「宴会の途中でありながら、思いっきり居眠りをしてしまい大変失礼致しました!」

「いやいや。今日はたくさん歩いたからな。きっと疲れが出たんだろう」


 梅五郎様は優しく労わってくださるけど、わたくしはもう恥ずかしくて仕方がない……っ!

 何であんな賑やかな場所で急に眠たくなってしまったのかしら……!?

 挙句あっさり寝てしまうなんて!

 これが仕事中なら目も当てられない失態!!

 己の不甲斐なさに悲しみを通り越して怒りがわいてきます……!

 ああ穴があったら入りたい……!


「姉貴~。どうせ仕事で徹夜とかして無茶してんだろ。寝れる時に寝ろ」


 うっ……言い返す言葉もありません。


「で、でも、最近はきちんと睡眠をとるように心がけておりましたのよ……たぶん……きっと」


 自信がありません……。


「明日も休みだから。今日はゆっくり休もう」


 ふわふわと頭を撫でてくださる梅五郎様の掌がとても心地良いです……。

 うぅ……安心して眠たくなってしまいます……。


「あの~~、イチャつくなら家に帰ってもらってからでいいですか?」

「いっ、イチャついてなど……!」

「うるせー。バカップルは黙ってろ」

「てっちゃんっ!!」


 梅五郎様は笑って宥めてくださるけれど、まったくてっちゃんったら、何て失礼な言い方なのかしら!?

 いっ、イチャついてなどおりません! 断じて!!




 そうこうしている内に車が実家へと到着しました。

 久しぶりの我が家です……!




「只今戻りました」

「おかえり~~!」


 元気な声で出迎えてくれたのは、わたくしの母です。


「母様、ただいま」

「紅ぃ~~! 待ってたわよっ! あなたが彼氏連れてくるって言うから、もう首長くして待っていたんだから! ああこの人が彼氏さん!? いらっしゃ~い! 母の舞子(まいこ)で~す! あらヤンダッ! かっこいい人じゃな~い! それにしても大きいわね~! 背ぇたっかいわね~! いくつ? 身長はいくつ? あっ、あと年齢は――」

「母様っ!」


 ああもう早速母の悪い癖が……。

 梅五郎様が圧倒されているではありませんの!


「母さん。お客さんが困っているだろう。とりあえず一旦上がってもらいなさい」

「父様……!」


 母の後ろから現れたのは、わたくしの父。

 流石は父様。母様の扱いを分かってらっしゃる。


「初めまして。紅子の父の千石博斗(せんごくひろと)です」

「初めまして。紅子さんとお付き合いをさせて頂いております、金城梅五郎と申します。本日はお世話になります」

「まずは荷物を置いてゆっくりしてください」

「ありがとうございます」


 ひとまず紹介ができたのでほっと一安心です。


 とりあえず一旦荷物を置きに行きましょう。

 わたくし達の部屋は二階にあるので階段を上っていきます。

 一番手前がわたくしと晶ちゃんの部屋、奥にある部屋がてっちゃんのお部屋です。


「あ、そうだ。梅五郎さんの布団は姉貴の部屋でいいよな?」

「えっ!?」


 わたくしが返事するより先に驚きの声を上げたのは梅五郎様です。


「ちょっ、ちょっと鉄殿……!」

「な、なに?」


 あらぁ………二人で何の話をしているのでしょう?




「お願いします。鉄殿の部屋で泊まらせてください……!」

「え? いいじゃん。付き合ってんなら別に一緒の部屋でも……」

「ここは紅の実家です……! 絶対間違いがあってはいけないのです……! 自分も今日の事でいろいろ我慢が限界なんです……! これで一晩紅と同じ部屋だなんて耐えられる自信がありません……! 後生ですから鉄殿の部屋で寝かせてください……!」

「わ、わかったわかった。だから、睨まないでくださいよ……」




「……梅五郎さん、俺の部屋で泊まるから」

「あ、はい。わかりました」


 わたくしの部屋でも全然構いませんのに……。

 梅五郎様ったら本当に真面目な方。




*****




 お客様である梅五郎様にお風呂に入って頂いている間に、てっちゃんの部屋に梅五郎様のお布団を敷いて準備しておきます。

 やがて、梅五郎様がお風呂から上がられたので、わたくしも先にお風呂を頂きました。


 お風呂から上がると、母様が梅五郎様に機関銃の如く質問攻めにしていたので、一気に湯冷めしてしまいましたが……。




 母様から梅五郎様を取り返してやって来たのは、わたくしの部屋。

 晶ちゃんも使っていたお部屋なので、わたくしの私物だけでなく、晶ちゃんの私物もいくつか置いてあります。


「梅五郎様、どうぞそこにお座りになって」

「あ、ああ……」


 座布団の上に梅五郎様に座って頂くと、わたくしは後ろから梅五郎様の髪を拭いていきます。


「もう……ちゃんと髪の毛を乾かさないと駄目でしょう」

「……母君に捕まってしまって、その……」

「母様は一度話し出すと止まりませんから、適当にあしらっておけばよいのです」

「そ、そういうわけにはいかないだろう」

「母様に変な事を言われませんでした? 大丈夫です?」

「ああ。大丈夫だ」


 少し拭いただけで梅五郎様の髪はあっという間に乾いてしまいました。

 まったく、母様ったら、どれだけの時間、梅五郎様をお話に巻きこんでいらしたのかしら……。

 仕上げに櫛で軽く整えてあげます。


「はい、終わりましたよ」

「ありがとう」


 すると、梅五郎様は首だけ捻ってわたくしを見ると、少し俯きました。


「……その……」

「はい」

「俺も……やってみても、いいか?」

「はい?」

「……貴女の髪を梳かしたい……」


 あらぁ……耳が真っ赤。

 なんて可愛らしいお願いなのでしょう。


「では、お願いしてもいいですか?」

「っ、ああ……!」


 梅五郎様ったら嬉しそう。

 今度はわたくしが座布団に上に座ります。


「し、失礼する……」


 おずおずとした指先が首筋に触れて、ちょっとくすぐったいですね。

 優しく、優しく、髪の毛が梳かされているという感覚は、とても心地良いです。


「……貴女の髪は、本当にさらさらとしているな」

「ふふっ、日頃から手入れには気を付けているのですよ」


 真っ直ぐなのに、癖がつきやすい髪質ですから。一部分だけ跳ねていてはみっともないですもの。


 やがて梅五郎様の手付きが慣れたものへ。

 櫛も引っかかりが無くなって、通りが良くなったようです。


「梅五郎様、今日はとても楽しかったです」

「ああ。俺もだ」

「久しぶりにたくさんはしゃいでしまって……ご迷惑かけていなかったでしょうか?」

「迷惑だなんて……貴女の楽しそうな姿を見ているだけで、俺も楽しかったんだから」

「それなら、良かったです。わたくしばかり楽しんでいるんじゃないかって心配で」

「……紅」


 気付けば、後ろから梅五郎様が抱き締めていました。

 頬と頬が触れ合って、一気に顔が熱くなっていきます。


「俺は、貴女に感謝をしているんだ」

「……感謝?」

「……俺にいろんな新しい世界を見せてくれた事、楽しい時間をともに過ごせた事、手を繋いで並んで歩いてくれた事……俺を愛してくれた事……貴女というかけがえのない存在に感謝している」


 ぎゅうっと抱き締めてくる梅五郎様の言葉に、わたくしが真っ先に思ったのは……。


「まあ……でしたらそれはわたくしも同じですわ」


 梅五郎様、ハッとしてわたくしを見つめます。

 わたくし、変な事を言ったかしら?

 でも、本当に思ってしまうのです。


「大好きな貴方と楽しい時間を過ごせて、貴方も同じ気持ちでいてくださったなんて、わたくし幸せで堪りません。ありがとうございます、梅五郎様」

「……っ……」


 梅五郎様の頬が赤く染まっていく……本当に可愛らしい方。


「そっ、そろそろ鉄殿の部屋に行く……!」

「はい」

「ああ、おやすみ」

「……あっ、梅五郎様」


 部屋を出て行こうとする梅五郎様を少し引き止めます。

 そして、少し強めに梅五郎様の腕を引いて、その赤くなった頬に唇を寄せました。


「っ!?!?」

「おやすみなさいませ、梅五郎様」

「あ、ああ……っ」


 すると、梅五郎様は少し身を屈めて、わたくしの額に口付けしてくれました。

 少し恥ずかしくも、愛されている証の触れ合いに、胸がときめいてしまいます。


「おやすみ」


 梅五郎様が部屋を出て行くのを見送ると、思わず溜め息が出てしまいました。


(ああ……整っているお顔が恨めしい……)


 そう、梅五郎様はとても顔が整っていてかっこ良いのです。

 そして、最近そのお顔がますます魅力的に感じてしまって、より一層惹かれる自分がいて……。


(ああ……いけませんわ……本当はずっとお傍にいて欲しいだなんて、そんなはしたない事を思っては……)


 あの時みたいに……梅五郎様の温もりと香りに包まれて眠りたいなんて……。


(ああ、だめだめ。さっさと眠りなさい、わたくし。浮かれているからそんな変な事を考えてしまうのです)


 もぞもぞと寝台に潜り込んで目を閉じる。


(明日も一緒に過ごせるのですから……)


 でも、ほんのちょっと梅五郎様が恋しくなって……買ってもらったクマゴロー君のぬいぐるみを抱き締めて眠るのでした。





<おまけ:機関銃の如く喋る母>


紅「水分補給したらはどうぞ上へ上がってくださいね」

梅「ああ」

紅「わたくしはお風呂を頂いてきますね」


梅(……ここで紅を待たせて貰おうかな……)

母「あら~、梅五郎君。もうお風呂は終わったの?」

梅「あ、はい。お先に頂いてしまって」

母「いいのよいいのよ。だってお客様ですもの~」

梅「ありがとうございます」

母「それにしても、紅が彼氏を連れて来る日が来るなんてね~。知っているかもしれないけど、あの子は浮いた話の一つもなくて! 大体話に出てくるのは妹か幼馴染ちゃん達の話ばっかでしょ~? 母親としては心配していたのよ~!」

梅「は、はあ」

母「ご近所の同い年の子達はなんかもう結婚して子どももいるって言うし~。おまけに神域管理庁はすっごく忙しいでしょ~? そんなところで働いていて出会いなんてあるわけないって思っていたんだけど、こ~んなに素敵な人に出会えるなんて!」

梅「い、いえそんな」

母「紅との出会いはどんな感じ? 紅の事どう想っているの? そうそう、あの子の仕事ぶりってどんな感じかしら!? 是非とも聞きたいわ~!」

梅「えっと……神域管理庁は機密事項が多いので詳しい事は話せませんが、紅さんは真面目で仕事も丁寧で非常に優秀な方で、自分もいつも助けられておりまして」

母「あらヤンダ! ホントに!? 良かったわ~! やっぱり母親としては心配なところもあってね! いや、昔から努力家ではあったんだけど評価にはあまり恵まれない子でね~。ちゃんとやれているかしら~って心配していたんだけど、梅五郎君に褒められているのなら安心だわ~! あ、お菓子食べる?」

梅「あ、いえ」

母「あらそう? そうそう、紅は小さい頃はすごく泣き虫な子でね~。でもそれがありさちゃんのとこの剣術道場に通いたいって言い出してからは物凄くしっかり者になって、娘の成長に感動しちゃったって言うかね。それで小学校に上がったら勉強も一生懸命頑張るようになったでしょ。それから――」


梅(……これは……紅が風呂から上がるまで終わらなさそうだな……)


 梅五郎は諦めた。


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