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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第五章
241/346

お泊まりでぇと その弐

※紅子視点で話が進みます




 急遽お休みを貰ってしまいました。

 しかも梅五郎様とお泊りで、でぇともして、実家に挨拶してきなさいという命令付きで……。


 まったく……仕事をサボりたい魂胆が見え見えです。

 空さんと鞠ちゃんにその辺の見張りはしっかり強化するようにお願いしてきましたので大丈夫だとは思うのですが……ああ、やはり心配になってしまうのが姉の性というもので……。


「紅?」

「!」

「大丈夫か? やはり気になるか?」


 電車に揺られながら隣に座る梅五郎様が見つめてくる。

 いつもとは違う漆黒の瞳ですけれど、その奥に覗く優しさは変わらないのだなぁと安心してしまって……。


「いえ、大丈夫です」


 そう言って笑う。

 そして、ちょっと甘えたくなってその肩に頭を乗せてみる。




 こうなったらせっかく貰ったお休みなのですから、思う存分でぇとを楽しんでやるぞと思うのです。




*****




 到着した先は平日にもかかわらずそれなりの人混みでした。

 流石は国内に限らず海外の方々からも人気のある観光地でございます。


 流石に旅行鞄を持っていけないので保管所に預けます。人も多いので差すと邪魔になってしまいますから(とどろき)さんから頂いた日傘もです。


「……その日傘は、轟殿から貰ったのだったな」

「ええ。お礼にって。鞠ちゃんが一緒に選んでくれたので、可愛くてお気に入りなのですよ」

「…………」


 あらまあ……梅五郎様ったら、せっかくの整ったお顔がむくれてしまっています。


「貴女が気に入っているのならば仕方ないが……他の男からの贈り物なんて持って欲しくない」

「あらまあ、ふふふっ」


 なんて可愛らしいのでしょう。

 轟さんには諷花(ふうか)さんという婚約者さんもいらっしゃるというのに。

 でも、気持ちは分かります……わたくしもやきもち焼きなので。


「梅五郎様、見て」


 そう言って、わたくしが取り出したのは麦藁のカンカン帽子。青色のリボンが可愛らしいのです。

 被って梅五郎様に見せつけてみる。


「どうです? 似合います?」

「ああ、可愛い。良く似合う」

「貴方に買って頂いたものですもの」


 本当につい先日、梅五郎様がこれを買って来た時には驚いてしまいましたが、わたくしに贈ってくださった事が本当に嬉しくて嬉しくて。


「お気に入りですわ」

「……っ、そうか」


 頬を赤く染めて微笑む梅五郎様が可愛らしくて可愛らしくて、梅五郎様の手をそっと握ります。


「さあ、参りましょう」

「ああ」


 すると、梅五郎様は握っていた手をするりと動かして、指と指を絡ませるように繋いできて……!


「っ!」

「行こうか」


 柔らかいその笑みに、さらっと絡ませてきた指に、優しく引いてくれるその腕に――。


(ああ、もう、本当に狡い人っ)


 今日も結局敵わないと思ってしまうのです。




*****




 「陸永熊屋敷(りくながくまやしき)」は、わたくしが小さい頃からある遊園地です。

 大和皇国伝統文化を大切にしつつ、西洋文化も取り入れた、異国情緒溢れるお洒落な遊園地として、我が国でも有名な観光地となっており、海外のお客様にも定評がございます。


 その魅力はお洒落な街並みだけでなく、子どもも大人も楽しめる乗り物、たくさんの可愛らしい看板動物さん達、現実を忘れさせてくれる世界観などなど。

 来園者達は一日中笑顔いっぱいで楽しい一時を過ごします。


 そして、わたくしもこの笑顔に満ち溢れる遊園地に魅了されている一人なのです。




「ひゃああ……っ! 可愛いですっ……!」


 園内入口に程近いこのお土産屋さんには、「熊屋敷」の看板動物さん達のぬいぐるみや雑貨といった商品がたくさん売られているのですが、この夢のような空間は大人になった今でも見る度にときめいてしまいます……っ!


 看板動物さん中心的存在であるクマゴロー君も勿論可愛いのですが、いつも一緒のクマコちゃんもなんとまあ愛らしく、双子の兄妹熊さんのコゴロー君とココローちゃんも小さくてもふもふしていて非常に可愛らしいです! もふもふといったら羊のヒツジロー君とラムちゃんのもふもふも堪らないのですが、犬のケンシロー君とイプちゃんの艶々の毛並みも触り心地が抜群で!

 しかしながら、わたくしが一番好きなのはヒヨコのピヨピヨ鼓笛隊! 五匹のヒヨコちゃん達が連なって歩く様は本当に可愛い……! 癒されます……!


「ふふっ、本当にヒヨコが好きなんだな」

「すっ、すみませんっ! 一人ではしゃいでしまって……っ!」

「いや。好きなのだろう? 思う存分見ていいから」


 ああ、もう……梅五郎様ったらお優し過ぎます。


「そういえば、梅五郎様ってなんとなくクマゴロー君に似ているような」

「クマゴロー?」

「この子です」


 指差したのは茶色のクマさんのクマゴロー君の大きなぬいぐるみ。

 見れば見る程、梅五郎様に似ています……太めの眉とか大らかな雰囲気とか。


(……なんかそう思ったら、クマゴロー君のぬいぐるみが欲しくなってしまいました……)


 少し大きめの子をお迎えしてぎゅっと抱き締めたら、梅五郎様をぎゅっと抱き締めた時のような幸せな気持ちになれるかしら……。


「紅、あの人達は何を被っているんだ?」

「え?」


 梅五郎様に言われてそちらを見れば、女の子友達同士の集団でしょうか。その子達が頭に頭飾りを付けていたのです。勿論、ただの頭飾りではなくて、熊耳や犬耳の付いたものです。


「あれはキャラクターになりきっているのですわ」

「キャラクターになりきる?」

「ええ。ここは現実世界とはちょっと違います。各々自由に楽しめる場所です。ですから、あのようにキャラクターのカチューシャを被って普段とはちょっと違う格好で過ごして楽しんでいるのですわ」

「ふむ、なるほど」


 興味深そうに周囲を観察する梅五郎様を見て思います……。

 この方は小さい頃から普通の子どもとは違う育てられ方をしたので、きっと遊園地とかも来た事が無いのでしょう。園内に入ってからあちこち興味深そうに見渡していますもの。


「梅五郎様もカチューシャ被ってみます?」

「い、いや、俺は……っ」

「男性も被ってらっしゃる方はいますわ」

「に、似合わないだろう……」

「可愛いと思うのですが……」


 でも、無理強いは良くありませんわね。


「そう言えば、美登里ちゃんもカチューシャ被るのを嫌がる子でしたわ」

「葉月殿か?」

「ええ。ここへは六人でよく遊びに来ましたの。それこそ小学校の頃からずっと」


 今でも思い出せます。何度も六人でここへ来たから……。


「ありさちゃんが全員でカチューシャ被るぞって言い出して、美登里ちゃんが絶対に嫌って断固拒否して。千花ちゃんと果穂ちゃんは被りたかったから、ありさちゃん側について。それで美登里ちゃんったらわたくしを盾にして絶対嫌って言うから、ちょっと可哀相になってしまって『じゃあ、わたくしも被りません』って言って、灯ちゃんも『被らない』って言ってくれて」

「三対三か。分かれたな。それでどうなったんだ?」

「被りたい人は被る。被らない人は被らないで良いじゃないかってなりましたの」

「平和的な解決だな」

「でも、ちゃんとオチがございまして」

「何だ?」

「しばらく園内を遊び歩いていたら、美登里ちゃんったらどうやら被りたくなってしまったようで」

「ふむ」

「結局、美登里ちゃんもわたくしも灯ちゃんもカチューシャを買って被る事になってしまいましたわ」

「楽しさのあまり六人で思いを共有したくなったんだろうな」


 あっ。また悪い癖が……。


「すみません……! つい長話を……!」

「いや。貴女にとって大事な思い出だろう。是非聞きたいし、聞かせてくれ」


 梅五郎はそう言って、ふわりと優しく微笑んで頬を撫でてくれました。




 ああもう……ここに人がいなかったら、思い切り抱き締めたかったのに……。


 やっぱりクマゴロー君のぬいぐるみ、買って帰ろうかしら。





<おまけ:自分の荷物くらい自分でお持ちなさい(紅子の主観)>


梅「ところで土産は今買っていくのか?」

紅「いえ、荷物になるので帰り近くになったらと」

梅「荷物くらい俺が持つのに」

紅「いけません! 恋人に荷物を持たせるような軟弱な女性になるつもりはありません!」

梅「軟弱……」

紅「持つのでしたら、わたくしの手を持ってくださいましっ」

梅「ふふっ、そうだな」


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