表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第五章
240/346

お泊まりでぇと その壱




 日に日に強くなっていく夏の日差しの中、建物を出て、歩道に立つ。

 目の前を走るのは車や電車。

 行き交う人々の髪の色は漆黒。


 神力を全く感じない、生きる人々の世――現世。


 着物と袴姿ではなく、緑色の飾り紐や模様が強調されている白い洋服を身に纏い日傘を差して立つ紅玉……元い、紅子。

 軍服ではなく、白い上衣に薄茶色の西洋胴着に下衣といった服装で立つ蘇芳……元い、梅五郎。

 そして、二人の手には旅行鞄が握られていた。


「来てしまいましたね……」

「そうだな……」


 二人の中に占める気持ちは「本当に大丈夫だろうか」という不安感。

 しかし、同時に思うのは――。


「折角の休みなんだ。仕事の事は忘れてよう」

「そうですね」


 愛する人と一緒に休みを満喫できるという喜び。


「さて、行きたいところがあるんじゃなかったか」

「えっと、そうしましたら駅に向かって……」




 さて、どうしてこのようなことになったのか、経緯を説明しよう。




*****




 事の始まりは、幼少期蘇芳事件からすぐの事だった。


 その日も御社配属職員として忙しく働いていた紅玉と蘇芳。

 特に蘇芳は、幼少期事件があったあの日一日は仕事が出来なかったので、書類とかもまとめて非常に忙しそうにしていた。

 紅玉も紅玉で仕事に加えて、調べ物や調査などの個人的任務やら余計な仕事も相変わらず抱えているようだ。


 仕事熱心で真面目なのは良い事だと思うが、真面目過ぎると息が詰まってしまうのではないか――水晶は思う。


「そもそもせっかく恋人になれたんならもっとイチャイチャしたいとか、でぇとしたいとか思うでしょ? 思うでしょ? むしろ晶ちゃん的にはありだよ? むしろどんと来いだよ? いっそお泊まりとかもいいんだよ。そうすれば晶ちゃんの息抜きにもなるし」

「ふふふっ、息をするように仕事をサボろうとしないでくださいまし」


 紅玉は絶対零度の微笑みを浮かべながら次の御札用の紙を水晶の前に置く。


「うみゅ、そうだよ。行ってきなよ。お泊まりでぇと。挨拶も兼ねてさ」

「……はい?」


 妹の発言にいくつか聞き捨てならない箇所があった。

 お泊りとか挨拶とか……。


「失礼します。あ、紅、丁度良かった。確認したい事が……」


 扉を叩いて執務室に入って来たのは己の恋人で先輩の蘇芳だった。その手には書類が握られている事から書類関係の相談であるという事は分かる。


「はい、何でしょう?」

「一昨日は結局何もなかったでいいのか?」

「はい。平穏無事に何事もなく」

「神力暴走事故についての報告書などは……」

「それは鈴太郎さん側での提出になるので、こちらは特にする事がございませんので大丈夫ですよ」

「そうか」


 恋人同士のはずの二人を見て水晶は呆れてしまう。


「息をするように仕事の話をするんかい」

「「仕事ですから」」


 仲が良過ぎる仕事馬鹿真面目二人組に、水晶の中で何かがぷちっと切れた。


「だああっ! もぉっ! 仕事仕事って二人は仕事と付き合ってんのぉ!? 違うでしょぉ!?」


 水晶は持っていた筆を蘇芳に突き付ける。


「すーさん!」

「はっ!」

「すーさんはお姉ちゃんの事が好きなんでしょぉ!?」

「へっ、あっ」

「ハッキリ言いなさい! お姉ちゃんが好きなの!? 嫌いなの!?」

「好きです! 愛しております!」


 面と言われるのも恥ずかしいものだが、誰かの……しかも妹の目の前でこう堂々と宣言されるのもなかなか恥ずかしいもので、紅玉は羞恥に震えてしまう。


「それはただ付き合うだけの関係の好きなの!? それとも結婚したいって思う程の好きなの!?」

「えっ、あっ、いやっ」

「ハッキリ言いなさいって言ってるでしょぉ!?」

「けっ、結婚前提でお付き合いをさせて頂きたいと思っております!」


 自分に言われるより先に妹に報告されるのは恥ずかしいような、切ないような……いややっぱり羞恥が上回る。紅玉は両手で顔面を覆ってしまう。


「そうしたらやるべき事は何ぃ!?」

「べ、紅に改めて結婚の申し込みですか?」

「まだしておらんかったんかい!?」

「す、すみません」

「仕事ばっかに感けてないでお姉ちゃんに構ってやれってぇの!」

「はっ!」


 水晶は筆を机の上に叩き付け立ち上がると、蘇芳と紅玉二人を指差した。


「神子護衛役、蘇芳、及び神子補佐役、紅玉に命じます。明日から二日間休暇を取り、恋人らしくでぇとして来なさい! ついでに私の実家に挨拶に行く事!」

「で、でぇと!?」

「実家に挨拶って……!?」


 戸惑う蘇芳と紅玉に構う事無く水晶は宣言する。


「これは神子命令です! 逆らう事は絶対絶対許しません!!」

「「ぎょ、ぎょい……」」




 というわけで、二人は急遽現世へお泊りでぇとをする事になったのだった。


 ちなみに十の御社の住人達からは反対意見一つもなく拍手喝采で送り出されたという。


「誰か一人くらい止めなさい」


 冷たい声で言い放った紅玉の言葉に、全員総無視だったそうだ。





<おまけ:どうしてみんな拍手喝采で送り出したの?>※ほんのり品が無い※


空「先輩も蘇芳さんも全然お休みしていないっすもん。たまには息抜きしてきて欲しいっす!」


 良い子である。



鞠「Date! Girl’s dreamデース! マリにStopするケンリありまセーン!」


 素直である。



槐(男神代表)「ご実家への挨拶は大事じゃろう。思う存分、紅ねえの家族に頭を下げてくるべきじゃ!」


 その通りである。



仙花(女神代表)「きゃああああっ! 結婚! 結婚! ワクワクするわねぇっ! 楽しみねぇっ! ついでに衣装の相談もしてきて欲しいわ!」


 気が早過ぎである。



紫「お泊まりでぇとかぁ~……頑張ってね! 蘇芳くん! あ、男のエチケットは持った?」


 口を慎みやがれ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ