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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第五章
236/346

萌黄色の瞳

こちら本日二回目の投稿になっております。

先の話を読んでいない方はご注意ください。




 十の御社の屋敷は西洋の文化を取り入れた大変立派な洋館である。

 神子の神力で生み出された神子と神の為の住処だ。

 そして、紅玉と蘇芳にとっては職場でもある。


 そんな洋館へ紅玉と蘇芳は入っていく。


「只今戻りました」

「おかえりなさ~~い」


 愛らしい声を響かせて出迎えたのは、ふわりと波打ち輝く清廉な神力を纏った白縹(しろはなだ)の髪と大きな穢れ無き水色の瞳と透き通るような白い肌を持つ美少女だ。

 この少女こそこの御社の主にして、十の神子である水晶(すいしょう)である。


「お姉ちゃん、おかえりなさ~~い」

「只今。晶ちゃん」


 そして、水晶は紅玉の妹であり、姉が大好きな娘でもある。帰って来た姉にぎゅうっと抱き付いた。

 そんな水晶の頭を紅玉は優しく撫でてやる。


「先輩、蘇芳さん、おかえりなさいっす!」

「オカエリヨー!」


 水晶のすぐ後に出迎えたのは、紅玉と蘇芳に代わり水晶の護衛をしていた少年少女だ。


 天に広がる空と同じ色の髪と青と蒼が混じる美しい色合いの瞳を持つ明朗快活さが印象的な少年の(そら)

 星屑のように煌めく編み込みまとめられた金色の髪と花緑青の瞳を持つ妖精の如く美しい少女の(まり)


 紅玉と蘇芳の可愛い後輩二人である。


「丁度良かったっす! お客さんがいらしていますっす!」

「オーセツシツでマってマース!」


 二人の言葉に紅玉と蘇芳は心当たりがあった。


「ありがとうございます、空さん、鞠ちゃん。わたくし達はお客様の応対がまだありますので、晶ちゃんの事よろしくお願いしますね」

「おっす!」

「yeah!」


 しかし、その水晶は未だ紅玉に抱き付いたまま瞳を潤ませていた。


「おねえちゃんっ……晶ちゃんもお姉ちゃんと一緒に行くぅ~~」


 上目使いでうるうると懇願されては……。


「駄目に決まっているでしょう? 貴女はお仕事がございますからね~?」

「うみゅーーーーっ!!お姉ちゃんの鬼ぃぃいいっ!!」


 可愛い見た目に見せかけて、すぐに仕事をサボろうとする悪癖を持つ面倒くさがりなのだ。この神子は。


「さあさあ晶ちゃん。楽しい楽しいお仕事の時間っすよー!」

「Let's workingデース!」

「うみゅ~っ! 空と鞠の鬼ぃ~~っ!」


 そして、水晶は両脇を空と鞠にがっちりと捕獲されたまま、連行されていった。

 すっかり頼もしくなった後輩達の姿に思わず笑みがこぼれる。


 そうして、紅玉と蘇芳は応接室へと向かった。




*****




 応接室に入るとそこにいたのは――。


「あ、お邪魔しています~」


 へにゃりとした笑顔を浮かべる男性だ。

 焦げ茶色の縦横無尽にあちこち跳ねまくった髪と鮮やかな花萌葱の瞳、そして顔よりも印象的な丸眼鏡。

 この男性も強い神力を持ち神域で崇められている神子の一人、二十二の神子の鈴太郎(りんたろう)である。

 銅色の艶やかな髪を持つ男神の時告(ときつぐ)も一緒にいた。


「ご機嫌よう、鈴太郎さん、時告様。御足労頂きありがとうございます」

「いえいえ~。僕の方が動きやすいですから~」


 紅玉と蘇芳は鈴太郎の向かい側の長椅子に腰掛ける。

 そして、蘇芳が最初に話題を切り出す。


「……さて、鈴太郎殿……先日の件を紅にも話したく予定を合わせて頂きました」

「そうだったんですね~」


 鈴太郎は納得したように頷きながら紅玉を見る。


 紅玉は緊張した面持ちで蘇芳と鈴太郎を見つめた。

 ――というのも、今日は約束の日だったからだ。

 紅玉に隠していた秘密を打ち明けるという……。


 蘇芳だけでも驚きだというのに、まさか鈴太郎も関係してくるなんて予想していなくて、聞かされた時には驚いてしまったくらいだ。


 だけれど、今はそんなことよりも……。


「二人とも、わたくしに何を隠していらっしゃったの?」


 気になるのはその点だ。


 鈴太郎は大きく頷きながら、瞳を閉じた。


「紅玉さん……僕は継承したんです……あの人の力を」


 鈴太郎が瞳を開くと、花萌葱の瞳が()()()()()()()()()――紅玉は驚いてしまう。


「鈴太郎さん……っ! その目の色は……っ!」

「神力は人により固有の色があって、そしてその色が同じになる事は決してない」


 鈴太郎の神力の色は花萌葱(はなもえぎ)

 そして、萌黄色(もえぎいろ)の神力を持っていたのは……。


「ご想像の通り、萌黄(この)色は葉月(はづき)さんの色です。僕は葉月さんの力を授かった代わりに、葉月さんの遺志を受け継いだんです」

「葉月ちゃんの力……遺志……」


 鈴太郎は再び瞳を閉じて、開ける。瞳の色が花萌葱に戻っていた。


「力とはすなわち異能……つまりは『術式解読』と『術式理論』です。公にしている僕の異能は『術式解読』ですけど……この異能も元は葉月さんのものなんです」


 明かされていく真実に紅玉は驚くばかりだ。


「そして、葉月さんが僕に託した遺志は……とある神術の完成です」

「神術……?」


 鈴太郎は静かに頷く。


「葉月さんは生前からその神術の創ろうといろいろ研究していたみたいですけど、完成には間に合わなくて……それで僕にそれを託したんです」

「それは……一体どういう神術なんですか?」


 その瞬間、鈴太郎の眼鏡がキランと光ったので、紅玉は「あ、しまった」と思った。


「いや流石は葉月さんですね。僕ならまずこんな研究思い付きもしませんけど、この神域ならば研究を続けていけば可能性は無きにしもあらずです。メインとなる紋章は恐らく日と月なんでしょうけれど、同時に水と木も土の要素も必要としますし、決して火と金も必要ではないというわけでもない。つまり全ての属性を調和良く保つために紋章を書き重ねなければならないんですけど、やはり相反する属性である日と月をどう組み合わせるかが一番ネックですね。それでも組み合わせる方法はいくつか理論で完成はしているんですが、そこに水も木も土も組み合わせるとなると、さらに難しい問題になってきまして。これをどうやって組み合わせて神術にまとめていこうかと思っているんですけれど、ここで重要になってくるのが――」


 鈴太郎は止まらない。止められない。話は延々と続く――。


 蘇芳はすでに冒頭で鈴太郎の言っていることが理解できず、ポカンとするばかりだ。

 一方で紅玉は、大学時代から鈴太郎と同期である為か、見慣れた様子で困った笑みを浮かべていた。


「鈴太郎さん、学生時代から考えて研究するということが大好きで、どんな分野においても興味を持ったものはこうして時折一人で考察してしまうところがあって……」

「そ、そうなのか……」


 普段のんびりとしている鈴太郎の早口の解説に蘇芳は驚くばかりだ。


「――でも、このやり方では上手くいかなかったので次に試そうと思っているのがイダイッ!?」


 話が突如止まったと思ったら、鈴太郎の脳天に時告が手刀を振り下ろしていた。


「この駄主っ!! 話が長いですっ!! お二人が戸惑っている上に話が進まないっ!!」

「ひぃっ! すみましぇん!」

「と、時告様、暴力はいけませんわ……!」


 しかし、おかげでようやっと鈴太郎の長話が止まった事には違いない。


「とにかく鈴太郎さんは葉月ちゃんに頼まれて神術の開発をしているのですね?」

「はい、そうです……今まで黙っていてごめんなさい」

「いえ……!」


 勿論、葉月の異能を鈴太郎が受け継いでいた事は驚いたが、葉月が力を託した相手が鈴太郎なら納得できる。


(葉月ちゃん、やっぱり鈴太郎さんのこと……)


 彼女の幼馴染だからこそ分かる。

 人一倍大人びていてしっかり者の葉月は、変なところ素直になれないところがあったと。

 大好きであればある程。




 眼鏡の奥に覗く萌黄色の瞳で鈴太郎をぶすっと睨みつけながら、その耳がほんのりと赤く染まっていた事を紅玉はよく覚えている……。




 間違いなく想い合っていた二人の悲しい結末に涙が溢れそうになってしまう……。


「……鈴太郎殿が黙っていた理由は葉月殿にそう言われたからか?」

「はい、そうです」


 蘇芳と鈴太郎がそんな会話をしている中、紅玉はハッとなる。

 隣に座る蘇芳が鈴太郎と話しながら、ずっと紅玉を慰めるように背中を撫でてくれているから。


 余計に涙が溢れそうになってしまい、紅玉は俯いてしまう。


「理由はよくわからないですけど、絶対誰にも話すなって言われました……まあ、紅玉さんと蘇芳さんなら大丈夫だとは思いますけど……」


 「えへへ」と笑う鈴太郎の一方で、蘇芳は眉を顰めて鈴太郎を見つめる。


「鈴太郎殿……今回は訳あって互いに秘密を打ち明ける事になったが、その事は今後も誰にも話さないで頂きたい。例え親しい間柄であったとしてもだ。貴方の身の危険にかかわる話なんだ」


 蘇芳の重みのある声と言葉に鈴太郎だけでなく、紅玉も時告も驚いてしまう。


「蘇芳さん……それは一体……」


 鈴太郎の言葉に蘇芳は少し思案すると、紅玉を見つめた。


「紅……どうか覚悟して聞いて欲しい」


 真剣な金色の瞳に紅玉はハッとする。

 そして、二日前に言われた事を思い出す。


「これから……貴女に隠していた事を話す。これは貴女と貴女の幼馴染達に関わる重大な話だ」


 蘇芳の言葉に緊張で心臓が速く鼓動を打つ。


「とても驚くと思う……取り乱すかもしれないし、隠していた俺に怒りも感じるだろう……だから、どうか、心して聞いて欲しい」


 仁王のような容姿を持つにもかかわらず、心配性で優しい心を持つ蘇芳の金色の瞳が不安で揺れていた。

 そんな蘇芳を見ていると、想われているのがひしひしと感じて……。


(どうしましょう……蘇芳様が愛おしくて堪らない……)


 想いが溢れていく。笑みが零れそうになってしまう。

 真っ直ぐに向き合ってくれる蘇芳にほんのちょっと申し訳なく思いつつ、紅玉は蘇芳の手を握る。


「蘇芳様、望んだのはわたくしです。例えどんな事があっても、わたくしは貴方を愛していますわ」

「っ!?!?」


 不意討ちのように出た言葉に蘇芳は真っ赤になってしまう。


「あ……ぅ……お……俺も、だ……」

「はいっ」


 手を握り合って愛を確かめ合う友人二人の姿に、鈴太郎は居たたまれない気持ちでいた。


「僕……かつてない程、自分が存在感無くて良かったって思います……」

「仲睦まじくて良き事をですな!」


 大音量の時告の声に蘇芳はようやっとハッとする。


「すっ、すみませんっ!!」

「いえ! 我々にはお構い無く! 退室して欲しいと言うなら喜んで!」

「何の為に御足労頂いたと思っているのですか!?」


 まさに意味がない。


 蘇芳は咳払いをすると、真剣な表情になる。


「では、話す」


 紅玉も鈴太郎も時告も真剣な眼差しで真っ直ぐ蘇芳を見つめる。


 そして、蘇芳は口を開く――。





<おまけ:鈴太郎君による神術の授業>


鈴「こんにちは。鈴太郎です」

時「時告です!」

鈴「今日は神術の七つの属性のついて詳しく説明していきます」


時「駄主! 神術の属性には相性があるというのは本当ですか!?」

鈴「はい、本当です。水は火に強く、火は金に強く、金は木に強く、木は土に強く、土は水に強いという対立相性の他に、水は木の力を強め、木は火の力を強め、火は土の力を強め、土は金の力を強め、金は水の力を強めるという協調相性があります」

時「日と月の相性関係は!?」

鈴「日と月はそれぞれが存在しなければ成り立たない属性関係なので、相互相性と呼ばれる五つの属性とは違う部類の関係性なんです」

時「成程!」

鈴「神術を生みだす上で、この属性の相性関係をきちんと理解して紋章を組み合わせないと、神術が発動しないどころか紋章同士が喧嘩し合ってとんでもない事が起こったりするので気を付けてくださいね~」

時「勉強になりましたな!」


鈴「ところで時告君は神様なんですから、その事を知っていて当然なんじゃ……?」

時「我々神は人間のように理論的に考える事が苦手です! 故に属性とやらの相性関係もよく分かりません! よく分かりませんが、神は皆なんとなく勘で分かるので問題ないのです!!」

鈴「まさかの勘!?」


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