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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第四章
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【番外編】十の神子と二十五の神子のお茶会

時期:神子管理部緊急会議後の話(※紅玉と蘇芳は両想い前)




 神子は神子同士の交流の場を持つ為に茶会を開く事がある。

 茶会に誘ったり誘われたり、そうして神子達は交流を深め合う。


 しかし、十の神子である水晶の場合、茶会に誘われても滅多に参加しない。


 神域史上最年少で神子になり、神子就任早々功績を上げた実績を持ち、将来美人間違いなしの麗しい見目。


 誰もが羨む程のものを持ち過ぎてしまった水晶は多くの女神子達から妬まれ虐められる対象となっていた。


 ま、面と向かって嫌味を言われた所で、水晶には全く効かなかったが。

 むしろその嫌みを何倍にも返してしまい、余計に反感を買ってしまったが。


 そんなこんなで、水晶は積極的に神子の茶会に参加しなかった。

 しかし、決して神子の友人がいないわけではない。


 八の神子の金剛、二十二の神子の鈴太郎、二十七の神子の藍華、四十六の神子の小麦――むしろ神子の友人に恵まれている方だと水晶は思っている。

 自称仲良しを謳いながら常に腹の探り合いをし合っている多くの女神子達と付き合うくらいなら友達が少なくてもいいと思う程だ。


 そして、水晶が仲良しだと思っている神子がもう一人いる。

 それは二十五の神子のみぞれだ。

 髪はふわふわで長い飴色、瞳は向日葵のような鮮やかな黄色。

 年齢は蘇芳と同い年らしく大分年上だが、趣味が合い、神子達の中でも親しく交流をしている。


 さて、その趣味というのが――……。







「うみゅ~~晶ちゃんの勝利~~」

「ああああああっ!! 負けたぁぁああああああっ!! あの時、あの攻撃を外さなければぁぁああああっ!!」


 両手を突き上げる水晶とは対照的に、みぞれは卓の上に突っ伏し悔しげに卓を叩く。

 そして、二人の手には色違いの「カラクリ機器」が……。


 そう、この二人の共通の趣味とは、このカラクリ機器を使った遊戯なのである。


「あの時あの攻撃さえ当たっていれば確実に一撃で仕留められたのにぃ! おのれっ! 大事な所で外すなんてぇっ!」

「うみゅうみゅ、運も実力の内じゃ~」

「っていうかその子てっきり魔法攻撃型だと思っていたのに物理攻撃型だったなんて!」

「元々どっちの攻撃力も高いから御試しで物理攻撃型の子も育成してみました~」

「ああもうっ! ウチの主力は防御低い子ばっかだわ……! せめて物理防御高い子一匹でもいればぁっ……!」

「うみゅうみゅ、先入観に囚われてはいけないのじゃ~~」


 神子二人の会話をそれぞれ御社の側近達が聞いて思う。


(((((何の話をしているのか全く分からない)))))


 それ程までに神子二人の会話は専門性が高かった。


「はいはい、晶ちゃん、みぞれ様、御遊びはそこまでにして、御茶に致しましょう。せっかく紫様と(しの)さんがお菓子を作ってくださったのですから」

「「は~~い」」


 紅玉の一声でようやっと茶会が始まる。

 待機していた紫と篠という二十五の御社の生活管理部の女性職員が茶や菓子などを並べていく。


「わあっ! 美味しそう!」

「最近はすっかり暑いですからね。みぞれ様のお髪や瞳の色に合わせてビタミンカラーのスイーツを取り揃えさせて頂きました」


 紫の言う通り、橙色や黄色といった柑橘類の色合いの氷菓や生菓子が並び、涼しげでありながら華やかな一皿だ。


「晶ちゃんのは和菓子だぁ~~」


 水晶の前に並べられたのは、篠御手製の煉切や小さな団子、そして寒天で固めた透明な生菓子もありこちらも見た目で涼を感じる事ができる一皿だった。


 しかし――。


「……ムリ……」

「うみゅ?」

「ダメムリMAX!!」


 篠は突如変な言葉を叫んで崩れ落ちた。

 下半分が水色に染まった結い上げた髪を地面に着く程打ち拉がれるその姿に全員ギョッとしてしまう。


「こんな地味な和菓子が神子様に喜ばれるはずが無いわぁっ!! 神子様だってイケメンオーラビシビシのおっしゃれ~なビタミンカラースイーツの方が良いに決まってますよねぇっ!? ダメムリMAXな和菓子プレートなんかでごめんなさいぃぃいいいいっ!!」

「うみゅ、相変わらず篠ちんは超ネガティブっ子じゃの~」


 二十五の御社の生活管理部の篠は何かと後ろ向きの性格であった。

 一言目には「ダメムリMAX!」と叫び、すぐ良からぬ方へ思考が働き、悲観して泣いてしまうのだ。

 何故そんな彼女が御社配属の職員に選ばれたかというと……。


「この和菓子も美味しいし、そもそも篠ちん自分が思っている以上に神力強いからもっと自信持って大丈夫だっていつも言ってるのに~~」

「『鉄壁』なんて守る事だけに特化した異能なんて何の役にも立たなくてダメムリMAXですってぇぇええええっ!!」


 その「鉄壁」という異能を持っているからこそ御社配属に選ばれたというのに……この女性、後ろ向き過ぎるあまり自分の力を信用していないのが一番の悪いところだろう。


「篠さん、うちの妹は甘いものは何でも食べるのですよ。篠さんも和菓子も大好きです。ほら」

ふぉのふぁふぁひ(この和菓子)ふぉひひぃふぉ(おいしいよ)

「……一口で頬張らない。食べながら喋らない」

「ふぉい」

「うぅ……ダメムリMAXな和菓子を食べてくれてありがとうございます……」

「ですから、素晴らしい和菓子ですってば。ねっ?」


 濃い紫色の瞳から大粒の涙を流す篠を紅玉は必死に宥める。

 ちなみに篠の方が紅玉より二つ年上である。


「うちの生活管理部がいつもごめんなさいね」

若葉(わかば)さん」


 紅玉が若葉と呼んだ女性職員は二十五の御社の神子補佐役だ。紅玉の先輩でもある。

 黒と緑が入り混じる短い髪と綺麗な若葉色の瞳を持つスラリとした体型の美人だ。

 〈能無し〉である紅玉に先入観なしで接してきた数少ない人物の一人で、紅玉は若葉を大変尊敬しているのだが、紅玉に限らず若葉に憧れる女性職員は多い。

 要はとてもかっこ良い女性なのだ。


「まったく、何度このやり取りをすれば気が済むの? 篠」

「だっでぇ、若葉しぇんぱい、私はダメムリMAXなんですよぉぉぉぉ! ダメ! ムリ! MAX!」

「いい加減にしなさい。せめて二十五の御社配属職員として、神子の恥にならない振る舞いをしなさい」

「ふえええ……っ」


 余談だが、二十五の神子のみぞれも、あまり水晶以外の神子と交流をしない。

 その主な原因はこの篠のせいだった。

 その点、十の御社の関係者達は全く気にせず、篠の行動を受け流すことができるので、二十五の御社としてもありがたい話である。

 十の御社は十の御社で、趣味の合うみぞれとの交流は水晶が望んでいるものだ。


 こうして二つの御社の間に妙な利害一致関係が結ばれているのだった。


「いやはや、いつもすみませんねぇ~」

「いやいや、こちらこそ」


 蘇芳と話しているのは、二十五の御社の神子護衛役の樹平(きひら)という男性職員だ。

 体格は蘇芳の方が断然に大きいが、この樹平もなかなか筋肉質でがっしりとした体格の持ち主である。

 しかし、柔らかそうな僅かに茶が入り混じる黒髪とつぶらで透き通った雀茶の瞳がとても優しげな男性だ。

 蘇芳が剛と称するなら、樹平は柔と言ったところだろう。


「でも、おかげ様で篠さんの『ダメムリMAX』も減ってきてはいるんですよぉ~」

「……そうなのか?」


 あれで減った方だなんて……御社配属になった当初何でどんなに大変だったのだろうか、と蘇芳は思ってしまう。


「配属初日が一番大変でしたねぇ~。『ダメ絶対ムリフルMAXなのでおうち帰りますぅ~!』って泣き叫んでぇ~」

「…………」


 恐らく随分と大変だったのだろうが、樹平の言い方が随分とのんびりとしたものなので気が抜けてしまう。


「なんとかみぞれ様が宥めて、若葉さんが喝を入れてくださったんで無事に御社に定着してくれましたけどぉ~。いやはや、男の僕なんかはほんと役立たずでぇ~」


 もしも蘇芳が樹平の立場だったらもっと役立たずであったに違いないと思う。

 挙句、見た目に恐怖した篠が泣き叫んで御社を飛び出すところまで想像できてしまった。


「お説教って難しいですよねぇ~」

「そうだな」

「叱るという事はその人に嫌われる覚悟を持ってでも、その人の為に行動をしてあげる本当は素敵な事だと思うんですよねぇ~……僕にはうまく出来んかったなぁ~」


 樹平の表情が一瞬曇ったのを蘇芳は見逃さなかった。


「……樹平殿、もしや三年前の事をまだ気にしているのか?」

「あはは……お恥ずかしい限りですわぁ~……あん時の……若葉さんの傷付いた顔がまだ離れんでなぁ~……」


 樹平と若葉――三年前、二人の間に何があったのか蘇芳はよく覚えている。

 あの時蘇芳もその場にいたのだから。


「樹平殿は間違いなく正しい事をした。樹平殿が若葉殿を怒鳴りつけて止めなければ、彼女は間違いなく死んでいた。邪神に喰い殺されて」


 三年前の「藤の神子乱心事件」の日――二十五の御社は邪神に囲まれ窮地に立たされていた。

 蘇芳と紅玉が応援に駆けつけなければ間違いなく危うかっただろう。

 特に神子補佐役の若葉は、神子のみぞれを守ろうとして半ば命がけの行動に出ていたのだから。


 そんな若葉を激しく怒鳴りつけて止めたのが、樹平だった。

 普段誰より温厚な彼が怒鳴ったので、若葉は怯んで無謀な攻撃をする事を止めたが、樹平が怒鳴っていなければ、今ここに若葉はいなかっただろう。


「貴方の覚悟、自分は大変尊敬する」

「蘇芳君…………」


 柔らかく微笑む蘇芳の顔を見て樹平は思う。


 樹平と蘇芳は同い年である。

 入職時期は蘇芳の方が早いとは言え、「神域最強」と呼ばれる同い年の職員の事を密かに注目していた。

 「最強」の名に相応しい仁王のような容姿と常に鋭さを放つ表情と男の自分ですら恐怖を感じてしまう程の威圧感。


 まさか数年後には知り合いになって、笑い合える仲になっているなんて思わなかった。


 そんな蘇芳に笑顔を齎してくれた存在が誰か、樹平はよく知っている。


「蘇芳君もはよぅ気張って紅玉さんに告白せんとなぁ~」

「なっ!? き、樹平殿……!」

「若葉さんも嘆いておったですよぉ~。蘇芳君がまだ紅玉さんに告白していないから頭痛いってぇ~」


 頭が痛いのはこちらだと蘇芳は思ってしまう。

 一体自分は何人の人間に紅玉への想いを知られているのだろうか……そして、心配されているのだろうか……。


 挙句その肝心の本人は蘇芳の想いに未だに気付いていないという。


「蘇芳様、樹平様」


 その声に蘇芳は思わず過剰に反応してしまった。


「お二人もこちらで一緒にお菓子を頂きましょう」


 ふわりと笑う紅玉を見て高鳴っていく胸の鼓動を必死に隠しつつ、蘇芳も笑う。


「ああ」


 そんな柔らかい表情の蘇芳を見て、樹平も笑っていた。


(ほんにはよぅ幸せになって欲しいですわぁ~)


 友人の恋の成就が一日でも早く叶いますようにと樹平は密かに願った。





<おまけ:若葉はかっこいい女性なので全部樹平の杞憂です>


若葉「え? 樹平君、まだあの日の事気にしていたの?」

樹平「はい~……あん時、若葉さんを酷く傷つけてしまいましたんでぇ~」

若葉「あのね、私が責任感じる事はあっても、樹平君が気にするような事じゃないから! あれは全部私が悪くて私の責任なんだから! 樹平君は気にしちゃ絶対ダメ!」

樹平「若葉さん……!」


紅玉(若葉さん、惚れ惚れしてしまうくらい男らしい……)

蘇芳(か、かっこいい……)

篠(樹平さんに怒鳴られるなんて生きている価値無いって存在全否定したくなるからダメムリMAX……!)


水晶「……みぞれ姉さんやい」

みぞれ「なあに?」

水晶「あの二人の関係は?」

みぞれ「四十六の神子の神子補佐役の燕さんが密かに注目していると言ったらご理解頂けるかしら?」

水晶「なるほど、御意」


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