【番外編】男の礼儀作法
時期:紅玉と蘇芳両想い後で鈴太郎が世流の記憶を修正した後のお話
※注意※
男同士の会話の為、品の無い発言がやや多めです
同日の夜、蘇芳に呼び出され、轟と天海と砕条と星矢は「夢幻ノ夜」に来ていた。
「先日は多大な迷惑をかけてしまい申し訳なかった。今日は俺が支払うので思う存分食べて飲んで欲しい」
「迷惑だなんてそんな……!」
「蘇芳先輩が悪いわけじゃないんですから……!」
星矢と天海は恐縮しきりの一方で――。
「ま、蘇芳の気がソレで治まるっつーんなら、俺様は思う存分食って飲むぞ」
「すみませーん、豚トロと焼き鳥と鶏軟骨おかわりー! あと酒も!」
「轟、少しは遠慮しろ」
「砕条、あなたは絶対に酒を飲まないでくださいよ!?」
轟と砕条は果てしなく良く食べていた。
気持ちが良いくらいに空の皿が積み上げられていく。
「すっみませ~ん! ビールおかわり~!」
「紫殿も遠慮せず、思う存分食べてくれ」
「うんうん、遠慮なんてしてないか安心してね~~!」
紫も先日迷惑をかけてしまったという詫びを兼ねて蘇芳に連れられて来ていた。
久しぶりの外食に紫は意気揚々と酒を飲んでいく。
「ところでぇ~、轟くん。婚約者ちゃんとはどうなのさぁ~?」
「あ? どうって……何だ?」
「もうっ! 轟くんったらしらばっくれてぇ~~!」
もうすでに酒の量が五杯目を越えている事もあってか、紫の言動はどんどんおかしな方向へ進んでいく。
「婚約者なんだから思う存分ヤりたい放題なんでしょ!? うっらやまし~~!」
「紫殿、口は慎め」
蘇芳が窘めるが、轟は紫の言葉の意味を理解していなかった。頭の上に疑問符が飛び交っている。
「砕条くんも、星矢くんも、モテモテなんでしょ~!? うっらやましい! 遊戯街通いまくって女の子達と遊びたいホーダイなんでしょ~!? うっらめしい!」
「紫殿、ちょっと落ち着こうか」
しかし、紫の暴走は止まらない。
「蘇芳くんも紅ちゃんとお付き合いしてどうですか~? 毎日幸せ? あはは~、それはようございましたね~~! いいなぁ、毎日紅ちゃんのおっぱい揉みたい放題でいいなぁ~!」
「口を慎めと言っているだろうが!」
蘇芳は思わず怒鳴ってしまう。
「ああああ僕も遊びたい! 可愛い女の子のおっぱいを包んだり包まれたい! 御社配属だとあんまり遊べないんだもん! 今日くらい羽目外したいーーっ!!」
煽るように酒を飲み干す紫を見て蘇芳は思い出す。
そう言えばこの紫、かつては女性関係が少々派手であった事を。
「あらあら、随分欲求不満ね~」
「世流殿」
そこへ現れたのは「夢幻ノ夜」の店主こと世流だった。
「またウチの宿泊部屋で一夜の夢を見ていけば? 今日は特別大サービスしちゃうわよ」
「やったぁっ! 見る見るー! 見たーい!」
世流はにっこりと妖艶に微笑むと紫に鍵を渡す。
「はい、『天王星の間』の鍵ね。どうぞ一時の夢を楽しんでいって」
「ありがとう! 世流くん!」
紫は鍵を受け取ると、意気揚々と慣れた様子で二階へと駆け上がっていった。
「……紫殿はまさかこの店の常連か?」
「知らなかったの? お休みの日は大体来るわよ」
何度も言うが、紫はかつて相手に困らない程女性関係が派手であった男だ。
我慢をする方が無理な話なのだろう。
「でも、大体一人で夢見て帰るだけよ。女の子と一夜を過ごしているところは見た事無いわ」
「あまり相手を作られても修羅場になるだけだから勘弁願いたいがな……」
紫が十の御社配属になったばかりの様々な女性絡みの騒動を思い出し、蘇芳は乾いた笑いしか出てこない。
「安心して! 紫さんが紅ちゃんに迷惑かけないように遊戯街主任のこのワタシが目を光らせているから~!」
「それは安心だな」
紫的には「いや! ちっとも安心じゃない!」と叫びそうな案件だが、これに関しては誰かが目を光らせていないと確実に過去の騒動の二の舞になるに違いないと蘇芳は思う。
「あ、蘇芳さんも紅ちゃんと一緒にいつでもウチのお部屋使っていいからねっ!」
「ぶほっ!?」
世流の不意打ちのような発言に蘇芳は思わず酒を吹き出してしまう。
「よっ、よるどの! それはいったいどういうっ!?」
「だってぇ、御社の中だといろいろ面倒でしょ? その点ウチならいくらでも声出しても暴れても問題ないし。むしろその為のお部屋だしぃ」
「口を慎め!!」
蘇芳はうっかり忘れていたが、この世流もなかなかに開けっ広げな所がある男であった。
「ふざけるなっ!!」
今、声を荒げたのは蘇芳ではない。
「婚前交渉など赦されるはずが無いだろう!? 恥を知れ!!」
「砕条、そんな事を大声で言うものじゃありませんよ」
流石は真面目一辺倒一族の分家出身者。
砕条もまた真面目で潔癖な貞操観念の持ち主なのだろう。
恐らく星矢も……顔を真っ赤にしてしまっているが。
「別にいいじゃない。付き合っている男女がヤることヤって何が悪いの?」
「仮に何か間違いなどあったらどう責任を取るつもりだ!?」
「その時は一生かけて責任を取ってもらえばいいじゃない」
「愚か者!! そういうのは双方の責任だ!! 考え無しに気安くそういう行為をする事自体が赦されるはずが無い!!」
「もうっ! 頭かったいわねっ!」
砕条の言葉に蘇芳は耳が痛くなってしまう。
先日は本当に理性が危うかったのだから……。
「そもそもそんな事にならないように『男のエチケット』っていうモンがあるんでしょ!」
「『男のエチケット』だぁ?」
「ええそうよ! 轟君も蘇芳さんもお相手様がいるんだからちゃんと持っておきなさい!」
世流はそう言って轟と蘇芳に「男の礼儀作法」と書かれた箱を渡した。
「なんだぁ? コレ」
「これは……っ!!」
轟はそれが何かは分からなかったが、蘇芳はすぐに分かってしまい顔を真っ赤にしてしまう。
「いいこと? もし本当に結婚前に一線越えるような事があれば、必ずそれを使うこと。わかっているわね?」
「は、はい」
そんな事にはならない。させない。絶対しないと思いつつも……蘇芳にそれが断言できる自信が無くて、いそいそとその箱を鞄の中に仕舞い込むのだった。
「……おい、世流」
「なに?」
「コレ、何に使うんだ?」
「あら~まずそこからか~……」
キョトンとする轟に世流は思わず苦笑いを浮かべていた。