【番外編】紅玉の悩み
番外編三話投稿後、五章の投稿を始めます。
時期:紅玉と蘇芳両想い後で鈴太郎が世流の記憶を修正した後のお話
その日、美月と諷花は紅玉に呼び出され、「茶屋よもぎ」に来ていた。
「先日はお二人にも多大なご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
紅玉は深々と頭を下げる。
「ホンマ心配したで~。取り返しのつかない事ならんくてホンマに良かったわ」
「私は詳しい事は良く知らないけれど……でも、おかげで紅ちゃんと蘇芳さんがお付き合いする事になったって聞いたわ。うふふ、おめでとう」
にこにこ笑う諷花の言葉に紅玉は頬を赤く染めた。
「もうやっとかーい! って感じやけどな!」
「これでみんなも一安心ね、うふふ」
「そ、そちらの方も多大なご心配を……」
「むしろそっちの方がずーっと心配やったわ!」
頬を膨らませる美月の言葉に紅玉は居た堪れなくなってしまう。
一体どれだけの人達をやきもきさせていたのだろうか、と。
「言っておくけど、あたしなんて出会ったその日から心配しているんですからね」
「雛ちゃん!?」
くりぃむあんみつを置きながら言った雛菊の言葉に紅玉は愕然としてしまう。
まさか出会ったその日から心配されていたなんて思いもよらなかったからだ。
「それは流石に言い過ぎなのでは……?」
「言い過ぎだったら良かったんだけどね~……事実よ」
「否定してください」
「ちなみにうちの常連さん達なんか、紅達がお付き合いしましたって言ったら両拳を突き上げて喜びの雄叫びを上げていたわよ」
「嘘だと言ってください!」
まさかの見知らぬ常連さん達にまで気にされているなんて誰が想像できただろうか。
「神域商業部の艮区おばちゃん会も、紅ちゃんと蘇芳君の事を話したらみんな喜んでいたよ~」
「おばあちゃんっ!?」
よもぎの言葉に紅玉は愕然とした。艮区中に自分達の話が広まっているなんて……。
「し、しばらく艮区の中を歩けない……っ!」
「安心しなさい。艮区ではすでにアンタら二人はカップル扱いだから今更よ」
それもどうなのだろうか、と紅玉は思った。
「ところで紅ちゃん、蘇芳さんとお付き合いされていて悩みとかはない? 良かったらいつでも相談に乗るわ~」
にこにことくりぃむあんみつを食べながら諷花が言う。
「私これでも婚約者がいる身だし、小説でそれなりの知識はある方なのよ!」
「それなりの知識って……変な事やあらへんよな……?」
胸を張る諷花の一方で美月は不安げだ。
「悩み、ですか……」
はたと思い付く事があった。
しかし、それを口にするのは非常に憚られて、頬を赤く染めて思わず視線をうろつかせてしまう。
そんな紅玉の様子をよもぎは鋭く見抜き、にこにこと笑う。
「ほっほっほっ、紅ちゃんも蘇芳君も若いねぇ~。うらやましいねぇ~」
「おっ、おばあちゃんっ!」
「何か悩みでもあるの?」
「あの、いえ、その……!」
これは、言わなければならない流れなのだろうか……。
紅玉は躊躇いつつも言葉を発した。
「え、えっと、その……い、息がですね……続かなくて……」
「息?」
紅玉は更に顔を赤く染め、俯きながら小さな声で言った。
「く、くちづけ……している時、息が……できなくて……その……」
物凄く、ものすごーく小さな声だったが、その場にいた全員はしっかり聞き取った。
「美月ちゃん! 聞いた!? お姉ちゃんキュンキュンしちゃうんですけど!?」
「ふうちゃん、落ち着いてぇな。あんま興奮すんと、身体に障るで」
「ほっほっほっ、可愛らしい悩みだねぇ」
「鼻でもできるでしょ、呼吸」
「だって! 端整なお顔をあんなに近づけられた状態で息なんてできませんわっ!!」
両手で顔を覆い、紅玉は言った事を後悔した。
恥ずかしい。恥ずかしくて堪らない。
穴があったら今すぐそこに入ってしまいたい。
「まあまあ、このばあばが紅ちゃんにあどばいすをしてあげよう」
「え、おばあちゃん、この事にアドバイスなんてできるの?」
「雛ちゃん達よりうんと年を取っているからね」
よもぎはにっこりと笑って紅玉の肩を叩くと言った。
「紅ちゃん、要は経験だよ。うんと経験を積んで、慣れたらいいんだよ」
「解決になっておりませんわっ!!」
紅玉が叫ぶ一方で雛菊達は思いっきり吹き出して大笑いしてしまった。
<両拳を突き上げて喜びの雄叫びを上げていた常連さん達>
燕「白搗君! 聞いたかね!?」
白「はい、聞きましたとも」
燕「我らが見守ってきた番の二人が! ついに! ついに!」
白「やりましたね、燕さん」
燕「私はぁっ! 生きてきて良かったぁぁああああああっ!!!!」
白「いやぁ、おめでたいですね。ここは祝杯といきたいところですが、お茶屋さんですから祝茶といきましょうか。すみませ~ん、抹茶おかわりで~」