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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第四章
216/346

蘇芳の大事な役目

2月は30日がないので月末の28日に投稿させて頂いております。

よろしくお願いします。





 蘇芳が突然目の前からいなくなって、しばらく狼狽えていた世流達の前に再び突然蘇芳が現われる。

 しかも一人ではなかった。


 蘇芳の腕に抱えられ、蘇芳の上着を着て、真っ青になって震えている紅玉。

 そして、蘇芳の足元で転がっている鷹臣。


 誰もが驚き狼狽える中、幽吾は冷静だった。


「……先輩、何をしたの?」


 幽吾の質問に、蘇芳は怒りでまた殺気を撒き散らしそうになりながら努めて冷静に言った。


「……紅殿に、暴行を加えようとした」

「っ!! うああああああああっ!!!!」


 世流が怒り狂って鷹臣に掴みかかろうとしたのを、天海が必死になって止めた。


「離せえぇっ!! 離しやがれえぇっ!! 天海いいぃっ!!」

「世流さん! 駄目だ!! ちゃんと話を聞くまでは駄目だ!!」

「……こりゃ一旦こいつを連行しないとダメだねぇ」


 幽吾が指を鳴らせば、瞬時に地獄の門が現われ、中から巨大な鬼の手が伸びて鷹臣の足を掴む。そうして鷹臣は悲鳴とともにあっという間に地獄の門へと引き摺りこまれ、地獄の門は閉じてしまった。


「世流君、冷静になってね」

「……っ……」


 そう言われて、世流はその場に崩れ落ちるしかなかった。


「……幽吾、さん……」

「紅ちゃん! 大丈夫?」


 未だの震える身体を叱責しながら、紅玉は蘇芳に抱えられたまま報告をする。


「たっ、鷹臣は、丑村の共犯者でした……丑村の悪行を、黙認していたようです……っ」


 それだけで鷹臣が今まで何を隠してきたのかを全て察した幽吾は一気に表情を強張らせた。


「よっ、世流ちゃんの抜き取った記憶を持っていて、そっ、それで……わっ、わたくしをおびき寄せて……っ……」


 紅玉の顔が悪くなり身体の震えが止まらなくなったのを見て、幽吾は慌てて言う。


「紅ちゃん、もういいよ。わかったから。とにかくどこかで休もう。確か、この店には宿泊部屋があったよね?」

「あるわ……そこの階段を上った一番奥の部屋……」


 世流が指差した先を確認し、美月が動いた。


「蘇芳さん、紅ちゃんのお世話はウチに任せとき」

「神経毒はすでに解毒している。頼む」


 蘇芳から紅玉を託されしっかり抱えると、美月は足早に二階へと上がっていった。


「ごめんなさいっ!!」


 気付けば、床に座り込んでいた世流が土下座をしていた。


「ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!! ワタシッ、ワタシがぁっ……! ワタシが紅ちゃんを頼ったばかりにぃっ……!」

「世流君、世流君。大体事情は分かったから、顔を上げて」

「ごめんなさい!! 本当にごめんなさい!! ごめんなさいっ!!」

「…………」


 詳細は分からないが、紅玉は世流の為に無茶をしたというのはよく分かった。

 世流に底知れぬ怒りが湧いてくる。


 そんな蘇芳の肩を金剛が掴む。


「おい、蘇芳。んな顔で睨むな」

「…………すまん」

「いいのっ! 蘇芳さんの怒りは尤もだわ! 責めるならワタシにして! 紅ちゃんは何にも悪くないっ!!」


 未だ床に這い蹲ったままの世流に幽吾が膝を着く。


「大丈夫、大丈夫。そんなことわかっているよ。紅ちゃんも世流君も悪くない。悪いのは……あの下衆野郎だからさ……」


 幽吾の身体から闇のような神力が湧き上がったのを見て、轟が慌てる。


「おい、幽吾。落ち着けって」

「ああごめんね……あの事件の下衆野郎を取り逃がしていた挙げ句……まさか隣で一緒に働いていたなんて……節穴過ぎる自分の目を刳り貫きたいよね」

「……あんま自分を責めんな」


 宥めるように肩を叩く轟を見て、幽吾は少し笑う。


「……ごめんね。ありがと」


 幽吾が立ち上がったのを見て、轟は這い蹲ったままの世流を引っ張り立ち上がらせる。


「世流、泣いて謝るなら後回しにしろ。まだやる事があるだろうが」

「……っ……うんっ」


 世流は袖で涙を拭きながら大きく頷いた。


「さてと……冥土」


 幽吾が呼び寄せたのは己の伝令役の小鳥だ。


「僕、ちょっと人事課課長と連絡取ってくるね~」


 そう言って幽吾は一旦店の外に出る。


 残された轟は天海を見た。


「天海、諷花と店の事、頼んでもいいか? 俺様は幽吾と一緒に尋問に行く」

「わかった」


 すると、肇と星矢と砕条が前に進み出る。


「僕も手伝うよ」

「僕も手伝います」

「力を貸すぞ」

「助かります」


 三人の申し出に天海は頭を下げた。


「ワタシも、尋問に参加させて!」

「世流……お前は無理すんな」

「ワタシは……知らなくちゃいけないわ……遊戯街主任として」


 世流の意志が固いと分かった轟は、世流の肩を掴むと言った。


「おめぇは絶対手を出すな。俺様が代わりに半殺しにしてやる」

「…………ありがと」


 轟の優しさに世流はようやっと笑う事ができた。


「世流君、お店の調理器具とかについて教えてもらってもいいかな?」

「あ、はい! えっと……」


 肇達に店の事を申し送る為、世流が店の奥へと入っていくのを見届けた金剛は酒を片手に持つ。


「それじゃあ、おいたんは一人暇そうなお嬢様と飲んでますかねぇ」


 そう言って座ったのは、あざみの向かい側の席だ。

 それを見たあざみは金剛を睨む。


「なによ、おっさん。神子ならちょっとは働きなさいよ」

「神子には神子なりにやれることがあるんだよ」


 ニッと笑った金剛からあざみは視線をそらずと「フン」と不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「おじさんと飲みなんてお酒が不味くなるじゃない」

「まあまあ固い事言いなさんなって」


 金剛の意図が分からず首を捻る轟に、蘇芳が声をかけた。


「俺も尋問に参加させろ」

「おめぇはダメだ」

「……何故だ?」


 瞬間、蘇芳の身体から赤黒い神力が湧き上がる。


「その怒り、抑えきれる自信あんのかよ?」

「……っ……!」


 冷静に轟に反論され、蘇芳は言葉に詰まる。


「そうそう。轟君の言う通りだよ」


 扉の鐘を鳴らして入ってきてそう言ったのは幽吾だった。


「課長に許可を貰った。鷹臣の尋問と処分を僕に一任してくれるってさ」

「よしっ! じゃあ尋問に行くぞ!」


 丁度そこへ世流も戻ってくる。


「尋問に行くのね……大丈夫。覚悟はできているわ」


 幽吾、轟、世流が尋問に行く中、蘇芳は一人困り果ててしまう。


「俺は……何をすればいい?」


 そんな蘇芳を見て幽吾は困ったように笑う。


「そんなの決まっているでしょ。君には大事な役目が残っているよね?」

「大事な、役目……」

「紅ちゃんのこと、よろしくね」

「……っ……!」


 蘇芳は少し戸惑いながらも、拳を握り締め、階段をゆっくりと上っていった。




*****




 「夢幻ノ夜」の二階の一番奥の部屋はとても広々とした宿泊部屋だった。

 人が二人寝転んでもまだ広さがある大きな寝台に、ゆったりと座れるふかふかの長椅子。そして広々とした浴室に、着替えや手拭い類も完備してあり至れり尽くせりである。

 挙句調度品が高級品という豪華な部屋に一瞬目を奪われた美月だったが、すぐに我に返ると紅玉を浴室へ連れて行った。


 紅玉に入浴を済ましてもらっている間、美月は着替えや手拭いを用意したり、茶を用意したりと、テキパキと動いた。

 紅玉が入浴を終えて出てくると、紅玉を長椅子へと誘導し、茶を飲ませたり髪の毛を乾かしたりなど、せっせと世話に当たった。


 しかし、紅玉は未だ呆然としており、入浴を終えたばかりだというのに顔色が悪く見えた。挙句、首には真っ赤になった擦れた痕がある……。


 美月は嫌な予感を振り払う為、紅玉の髪の毛を梳かしながら努めて明るい声を出す。


「いやあ、それにしてもこの部屋めっちゃ豪華やな~!」

「…………」

「あのベッド見てみぃっ! キングサイズやでキングサイズ! ウチ初めて見たわ~!」

「…………」

「こんな部屋で女子会すんのもありかもな~!」

「…………ごめんなさい」

「!」

「ごめんなさい、美月ちゃん……御迷惑をおかけして……」

「…………」


 美月は櫛を置くと、紅玉の前へ跪き、両手を握って言った。


「何で無茶したん? 何で朔月隊に一言相談してくれへんかったん? 世流ちゃんの為? やったとしても一人で深追いは禁物やで。紅ちゃんの身に危険が起きてからでは遅いんやで」

「……十分警戒はしていたつもりでした……ですが、多少の過信はあったのかもしれません……」

「……紅ちゃん、忘れんといて。紅ちゃんはどう足掻いても、男の人より遥かに力のない女なんや。そんな無茶したら絶対あかん。絶対止めて。ウチだけやない。空きゅんも鞠ちゃんも晶ちゃんも泣かせてしまうんやで」

「……はい……っ!」


 可愛がっている弟妹達の心配そうな顔を思い浮かべてしまい涙ぐむ紅玉の手を、美月は優しく撫でる。


「きっと幽吾さんや世流さん、轟からもめっちゃお説教されると思うで」

「……でしょうね……」

「あと、蘇芳さんからはきっと怒り狂ったようなお説教が」

「…………は、い…………」


 あからさまに沈んだ表情を見せる紅玉に美月は焦ってしまう。


「げ、元気出してぇな! そりゃ、怖いよねぇ、うん、わかるで~」

「……はい……そう、ですね……」


 紅玉は蘇芳からのどんな説教も甘んじて受けるつもりだ。


 今までだって何度も説教されたり言い争いになったりした事はある。

 蘇芳に怒鳴られる事は別に怖くなどなかった。


 だがしかし……。


(どうしましょう……蘇芳様からのお説教がこんなにも怖いと思うだなんて……)


 すると、扉を叩く音が響き渡る。


「美月殿、蘇芳だ……紅殿と話がしたいのだが、中に入ってもよいだろうか?」

「っ!」

「はい、ちょっと待ってくださいね」


 紅玉が怯んだ事に気付かず、美月は部屋の扉を開けた。


 そこにいたのは顔を強張らせた蘇芳だった。


(怖い……)


 蘇芳と美月が何かを話し、美月は一人出ていく。


(怖い……っ)


 蘇芳が扉を閉めた事で、部屋には紅玉と蘇芳の二人きりとなってしまった。


(怖い……っ!)


 蘇芳は何も言わず紅玉を真っ直ぐ見据えた。





<おまけ:夢幻ノ夜の宿泊部屋>


轟「ところで何で『夢幻ノ夜』に宿泊用の部屋があるんだよ? 誰が泊まるんだよ?」

幽「えっ?」

世「えっ?」

轟「えっ?」

幽「知らないの?」

世「わからないの?」

轟「……何が?」


 轟は未だ純粋である。


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