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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第四章
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続・朔月隊未成年会議




「――というわけで、矢吹と仲良かったかもしれない人が判明したっす!」

「ダイシューカクデース!」


 空と鞠からの報告に、全員驚きを隠せなかった。


「まさかの芋蔓式急展開とは……」

「すごい偶然ですね」


 そして、右京は己専用の伝令小鳥を呼び出す。


「早速この事を幽吾様に報告しましょう」

「そうしましょう」


 左京が報告書を作成していく。


「それにしても、鈴太郎さんは凄すぎやな。流石は神子様やで」


 美月のその言葉に、天海がそわそわとする。


「……どしたん? 天海」

「えっ」

「何か言いたいことあるんやろ。遠慮せずハッキリ言いや」


 流石は幼馴染の美月。天海の様子を一目で見抜いたようだ。


「い、いや……別に……」

「ええから言い! アンタ、いっつも喋らんとだまーってばっかやと、大事なことも言いそびれてしまうで!」

「……わ、わかった……じゃあ……言う」


 そして、天海は深呼吸をすると言った。


「二十二の神子様も勿論すごいが、実善先輩と慧斗先輩……二十二の御社職員二人の支えがあってこそだってことを忘れないで欲しい……って」

「「「「「うんうん」」」」」

「実善先輩も慧斗先輩も……正直神力の量は少ない方だ……だけど、何であの二人が御社職員になれたか知っているか?」


 天海のその問いに答えられる者はおらず、全員首を横に振る。


「あの二人は、並々ならぬ努力で誰よりも神域での知識を備え、神子を守る為の技を磨いて、その実力で二十二の神子の側近として就任したんだ。他にもたくさん異能持ちとかが神子の側近になりたいと名乗りを上げていたのに……」


 天海はその時の事をよく覚えている。

 入職して間もない頃、二十二の御社の側近を決める為の試練が行なわれた。


「二人は自らの力でその座を勝ち取った……鈴太郎さんが安心して神子として働けるように……二人もまた三年前の悲劇を目の当たりにして来たからこそ、なにがなんでも鈴太郎さんの傍にいてあげたかったんだ」


 天海は目の前で見て感動した。数多くの野心家達を相手に勇ましく戦う実善と慧斗の姿に――。


「だから、今回の事は二十二の御社の力あってこそだって……言いたくて……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 長い沈黙を破ったのは美月だった。


「天海! そないな大事なことはウチ殴ってでも先に言い!」

「なっ、殴るのはダメだ……!」

「良いお話です」

「感動しました」


 右京と左京は思わず手拭いで目尻を拭う程、感動していたようだ。

 また空も同じように思っていた。


「鞠ちゃん」

「ん?」

「俺達、本当に良い先輩達に囲まれているっすね」

「そうねっ!」


 空の言葉に鞠も嬉しそうに笑っていた。




 そんな時だった。

 襖が叩く音が響き渡る。


「はい、どうぞ」


 右京がそう言えば、襖が開き、入ってきたのは――。


「「「いらっしゃいませ~~~!」」」


 揃いの作務衣と前掛けと三角巾を身に付けた高い背と屈強な腕を持つ男三人組だ。


「おやおや、ねこじゃらし三兄弟様。お疲れ様です」


 左京の言う「ねこじゃらし三兄弟」とはこの男三人組の事だ。要は亜季乃の兄達なのである。


「紅玉さんの弟君と妹さんが来店していると聞いてさ、こりゃ全力でおもてなしするしかねぇっ! ってなってさ」


 前髪だけが赤く染まる髪と漆黒混じりの桃色の瞳を持つ長男の是乃日(このじつ)が両手に持つのは山のような甘味だ。


「俺達、ほんっとうに紅玉さんには返しきれない恩があるんだ! いっぱい食べてってくれ!」


 毛先に行くほど青い髪と漆黒混じりの水色の瞳を持つ次男の紀乃日(きのじつ)が卓の上に山のような甘味を次々と乗せていく。


「ドリンクも飲み放題です! じゃんじゃん飲んじゃってください!」


 根元だけが緑色の髪と漆黒混じりの黄緑色の瞳を持つ三男の佐乃日(さのじつ)が急須を掲げながら笑顔で言った。


「エット……」

「これはすごいっすね……」


 目の前に並べられた山のような甘味と大量の茶の数々に流石の空と鞠も困惑気味だ。美月や天海も唖然としている。


「お兄ちゃん達!!」


 可愛い声が響き渡り、そちらを振り返れば亜季乃が真っ赤な顔で三人の兄達を睨みつけていた。


「空君と鞠ちゃんを困らせちゃダメですぅっ! いくらお礼がしたいからってやり過ぎですぅっ!」


 妹に怒鳴られてシュンとするのかと思いきや。


「ああああっ! 亜季乃! 怒った顔も可愛いぞっ!!」

「もっと! もっと兄ちゃん達を叱ってくれぇっ!!」

「亜季乃がお兄ちゃんを怒ったメモリアルを残せないのがツライ!!」


 何故が狂喜乱舞の兄三人に亜季乃はがっくりと肩を落としてしまう。


「相変わらず愛されていますね、亜季乃さん」

「相変わらずの溺愛でございますね、三兄弟様」


 同僚の右京と左京は見慣れているのだが、亜季乃は兄三人に溺愛されている妹なのだ。つまり、この光景は最早日常茶飯事なのである。


「あったり前だろう!! 今溺愛しないでいつ溺愛する!?」

「俺達は亜季乃がいてくれるだけで、それだけで幸せなんだ……!」

「あの時の地獄の日々に比べたら……!」


 三兄弟の言葉に空と鞠はハッとなって思い出す。亜季乃の身に降りかかった不幸を……。

 美月と天海も真剣な表情で三兄弟達を見つめていた。


「俺達に出来る事は本当これしかねぇ」

「これだけでも足りねぇくらいなんだ」

「だから、せめて、お腹一杯召し上がってください」


 兄達の言葉に思うところがあったのだろう。亜季乃は空と鞠に言った。


「お兄ちゃん達の気持ち、よかったら受け取ってくださいですぅ」


 その言葉に空と鞠は頷き合い、そして両手を合わせた。


「では! 遠慮なく!」

「イタダキますデース!」


 空と鞠は山のような甘味を一口食べる。


「んんっ! おいひいっす!」

「Delicious! ミツキちゃんタチもタべてくだサーイ!」

「ほな! 遠慮なく!」

「頂きます」


 美月と天海も甘味を一口食べる。


「美味しい!」

「うん、うまい」

「では僕らも」

「御相伴に与って」


 右京と左京も甘味を食べ始め、場はすっかり笑顔の花で満ち溢れていた。

 幸せそうに兄達の甘味を食べる友人達の姿を見ながら、亜季乃も嬉しそうに笑った。


「お兄ちゃん達……」

「「「ん?」」」

「……ありがとうございますぅ」


 妹の笑顔が三兄弟には幸せでしかない。

 妹の頭を優しく撫でながら、三兄弟も幸せそうに笑うのだった。




******




 場所は変わり、ここは艮区にある「茶屋よもぎ」――。




「ピチチ! ピチチ! ピチチチチ!」


 茶屋専用の伝令小鳥が鳴いて伝令が来ている事を知らせる。


「はいはい、出ますよ、出まーす」

「伝令はコール三回以内で出る!」

(うっさい)


 雛菊の怒鳴り声に心の中でぼやきながら伝令を取る。


「はい、茶屋よもぎです……………………えっ?」


 そして、伝令相手の声を聞いた瞬間、文は珍しく驚いてしまった。





<おまけ:双子の秘密>


 ねこじゃらし三兄弟達のもてなしの山のような甘味を食べ始めて、早数分……。

 空と鞠と美月と天海は目の前の光景をポカンと見つめる事しかできない。


「左京、それは僕の取り分ですよ。勝手に取らないでください」

「右京こそ、アイスクリームの一人占めは止めてください。ずるいですよ」


 双子は静かに口喧嘩をしながら、次から次へと山のような甘味を口へ運んでいく。いつしか山のような甘味は山ではなく、平地になっていた。


「ホント相変わらずよく食べるっすね……うっちゃんとさっちゃん」

「ウチ、見ているだけで胃が膨れてきたわ……」


 あまりもの食べっぷりに流石のねこじゃらし三兄弟達も苦笑いだ。


「右京、左京、これはあくまで紅玉さんの弟君と妹さんへの差し入れだから……」

「要はちったぁ遠慮しろ」

「まさにその通りです」


 しかし、右京と左京は何処吹く風だ。勢い変わらずひたすら甘味を食している。


「ウッチャン、サッチャン、Why very veryタべマスか~?」

「……幽吾先輩に少し聞いた事があるんだが……」


 鞠の質問に天海が答える。


「右京と左京は半分神の子だから元々神力をたくさん持っていたらしいが、そのほとんどを母親に奪われて、足りない神力を食べる事で補っているらしい」

「Oh……I seeデース……」

「そ、そうだったっすか……」

「まさかの重たい理由やわ……」


 まさかの理由に鞠だけでなく、空と美月も愕然とする。

 そして、ねこじゃらし三兄弟達も――。


「右京、左京……さっきは悪かった……」

「遠慮なんていらねぇ」

「もっと食べてください」

「ありがとうございます」

「では遠慮なく」

「いや、ちょっとは遠慮しようっす! 材料が底尽きちゃうっすよ!」


 再び現れた山のような甘味を見て空は流石に口を挟んでいた。


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