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26

 曲がり角の先を覗き込み敵影がないのを確認してすぐさま踏み出す。

 二階へ続く階段を目指すフィーは違和感を感じ始めていた。

 フルトの父とわかれてからここまで敵と一度も遭遇していない。

 確かにフルトを守るのであれば一階と地下に警備を回すのが得策ではあるが、それにしたって上層をここまで手薄にする意味はないはずだ。まがりなりにも研究施設であるここにはそれなりになんらかの重要な資料があってもおかしくない筈なのだが。

 次の曲がり角を覗きこんでもやはり人影はなく、不吉なものを感じながらフィーはそれでも進む。

 複雑に入り組む建物内の通路はまるで迷路のようだ。

 賊に対するトラップとしての意味を持たされているのか、真っ直ぐに続く廊下の風景はどこも似たようなつくりになっていて、見取り図を事前に確認していなければフィーも迷っていたかもしれない。

 警戒を怠らず、また幾度か曲がり角を曲がってようやく廊下の先に見えてくるのは階下へと繋がる大きな階段。

 余りにも長い廊下に迷ってはいまいかと心配していたが、目的地が見えた事に安心してフィーは短く息を吐く。

 もう一階層同じような通路が続くのであれば、外から侵入するほうが早いのではないか、そんなことを考えながら階段を降りようと足をかけて、階下に佇むその存在に息を呑んで足を止めた。

 たしかにあの男がいるのならば警備兵など必要ない。

 そこに佇むのは最大の障害。

 脳裏に焼きついた白銀の鎧。

 兜の奥、赤い輝きと目が合う。

 出来ることならサバトの連中にあたって欲しかったジョーカーを運悪く引いてしまった。

 ただ、裏を返すのならばこの男が未だ一階や地下の警備についていないということは、サバトの連中がフルトの元まで辿りつくまでにはまだ時間があるということだ。

 フィーは視線を外すときびすを返して走り始める。

 背後で階段を駆け上がる鎧の音が耳に響く。

 その速度の差は歴然。フィーがいくら懸命に走ろうが逃げ切ることは出来ない。

 当然フィーはそんなことは承知している。

 だからフィーは曲がり角の先にある木窓を突き破るように外へと身を投げ出し窓枠を掴み式を展開。

 吹き上げる風で体を浮かびあがらせそのまま窓枠を蹴って上へ。

 起伏のない壁に両足をつけ、斜め下から風を吹かせ壁面に体を固定する様にして壁を駆け上る。

 対して男は同じように窓から飛び出したと思うと、遠く、建物の端にある上の階の木窓まで軽々と飛びそこを足場にして同じように駆け上がってくる。

 一瞬、男に対して風量調整を展開しその体を地に叩き落とそうかと考えて、やめる。

 この高さから落下したところであの男が怪我を追うとも思えないし、一階まで降りられれば結局、フィーを助けに行くのに障害になるだけだ。

 ならばこの先、唯一勝ちの見込める場所で戦いを挑むのが正解であろう。

 二人が降り立つ先はその建物の屋上、壁同様に起伏のないそこは何一つ遮蔽物のない開けた空間。

 薄暗い夜闇の中に浮かび上がる緑の燐光を放つ白銀の鎧と、対照的に夜の黒に溶ける、全てが黒い小柄な少女。

 互いの視線は真っ直ぐにぶつかりあい、その瞳に宿る意思を言葉なくせめぎあわせる。

 時折響く爆音は遠く、炎を上げる遠い眼下のことを気に止める余裕はない。

 香るのは血と炎と煙。


「貴女はあの少女の気持ちを、師の犠牲を無にするつもりか?」


 男の言葉が空気を振るわせる。その声と瞳にははっきりとした怒りの感情が見て取れる。


「もう貴女に勝ち目はないことはわかっている筈だ。二度の戦いでそれがわからないほど貴女は愚かではないはずだ。それとも、師の仇に情けをかけられるのが堪えられないのか? 退けぬから前に進むのか?」


 その言葉にフィーは黙って首を降る。


「ならばなぜ、貴女は戦う。最初から結果の見えている勝ち目のない、失うだけの戦いに身を投げる。だれも望まない戦いをなぜ続けようとする」


 男の問いにフィーは迷いなく言葉を紡ぐ。

 その瞳に宿るのは決意の色。

 フィーが関わってきた人が皆同じように浮かべたその表情。


「私自身ガ望むカラ。何ヲ失おうト、誰からモ望まレなくトモ、偽善と言われテモ構わナイ。退けないカラ、戦うのでもナイ、フルトを助けたいから」


 フィーはコートの裏からこの時の為に用意したそれに手をかける。

 目の前の男に勝つために用意したそれは冷たく、硬い。

 その感触を確かめながら少女は口の端を歪めて笑う。


「タダ一人の少女の幸せヲ願う。その為に戦うコトを間違いダト否定されるのナラ、私は目の前ニ立ちはだカル全てヲ、この手デ排除してミせる。例え、貴方の様ナ強大な存在デモ」

 

 腰から抜き放ったそれはハルバードと呼ばれる長柄の武器。

 鋼鉄製の折りたたみ式のそれは展開することでフィーの身長を超える巨大な武器となる。

 短めの槍の穂先、斧頭は厚く、緩やかなカーブを描いている。その逆側に突き出た鉤爪は鋭く尖っている。

 鈍く暗い輝きを放つソレには四つの刻印が刻まれ、美しい文様を刃とその柄に刻んでいる。

 加速、強固、切断、加重。一晩でそれらを刻印するのにどれだけの労力が必要だったか。それでも目の前の男の鎧の刻印には適わない。同じ刻印をいくつも重ねたそれにフィーの刻んだ間に合わせのそれでは、傷一つつけられないだろう。

 それでもフィーは勝利のためにこの武器を選んだ。かつて英雄だけが持つ事を許されたというその武器を。


「その心意気には敬服するが……勝てる見込みがあると、本気で思っているのか貴女は?」


 男の声にフィーは力強く頷いて返す。


「当然ダ。たとえ私ガここデ負けたとシテ、命アル限り、私は何度でモ立ち上がり戦うダロウ」

「何故貴女はそこまでする?」


 鼻で笑いを返し、地を踏みしめる。フィーは既に戦うための準備を終えている。


「愚問デハないかソレは? 貴方モ同じようニ見ず知らずノ魔法使いの誰かの為ニ命を賭けて戦って来たのダロウ? 譲れナイ何かガあったから」


 その言葉に男は兜の下で笑って見せる。

 どんな大義を抱えようが、理由があろうが結局誰もが自分の為に戦っているに過ぎない。

 男も同じだ。その過去に何があったのかフィーは知らないし、知る気もない。戦いに相手の理由など最初から必要ない。ここは自分の我がままを通す場所だ。

 男はその腰に吊った大剣を両手でしっかりと握り、正眼に構える。

 眼下の街では新たな火の手が上がり、人々の声が響いている。

 ただ一人の少女を巡った戦いは大きく広がり、そして収束しようとしていた。




 先に地を蹴ったのはフィー。

 低く構えたその獲物は青い燐光を放ちながら時折地を引っ掻き、刻印によって増した切れ味の鋭い刃は起伏のない地面に溝を掘り、火花を上げる。

 男も一歩遅れて少女に向けて走り出すが、相変わらずその速度差は歴然。男は自分の間合いに飛び込むと同時大剣を振り上げようとするが、既にフィーは遠心力をめいいっぱい乗せてハルバードをふりぬく体勢。

 風による先読みとその間合いの長さを利用して置くように放たれた攻撃の軌道に男の体はあった。

 だが男はそのまま大剣を振り上げ、フィーの体を断ち切ろうと動く。

 男の鎧はどんな刃も、攻撃も通さない、完全無敵の鎧。フィーの攻撃を受けてそのまま踏み潰そうという画策。

 しかし、フィーとて二度の戦いで男の鎧に傷を入れる事が出来ないのはとうに学んでいる。

 思い切り振り回したその刃が鎧に触れる瞬間、フィーはエーテルをさらに武器に流し込み、加重の刻印を起動する。

 ブーツに刻み込まれたものと同じその刻印は打撃の瞬間速度を減じることなく重量を一気に増して、強烈な一撃を相手に見舞う。

 互いに変形することのない金属が打ち合わされ、澄んだ金属音が響く。

 加速、加重、切断のエーテルの力をもってしても男の鎧にはやはり傷一つつかない。

 だが、いくら強固な鎧とはいえその圧倒的な衝撃を殺しきれるわけではない。腰を打たれた男は肺の中の空気を吐き出しながらたまらず地面を転がる。

 致命傷にこそなりえないが、はじめて男に確かなダメージが通った。

 それでもフィーは油断することなく、武器を握る手に力を込める。この程度のことで勝てる相手に師匠が負けるはずがないと、誰よりも良く知っているから。

 男は一挙動で立ち上がると再び大剣を構えて対峙する。

 睨みあって時間を浪費することはフィーにとっては避けたい事だ、多少強引でも打って出なければ無為に時間を消費してしまう。

 ハルバードの間合いまで一気に踏み込んで刃で地を擦るように体を回して遠心力を乗せて下から抉り上げるような一撃。

 先ほどの攻防で男も鎧で受けることの危険性を理解している、速度差を利用して後ろに下がりその一撃をかわし、武器の重さに体を流されそうになるフィーに攻撃を仕掛けようと、大剣を構える。

 フィーの方も避けられるのは承知の上。そのまま式を展開し、流れそうになる武器を風と腕の力で押さえつけ、そのまま武器を前に突き出す。

 男はこれも右にかわす。避けに徹されれば魔法の錬度の差から当てられないことは承知の上。

 武器を引き戻しながらフィー自身も後ろに向かってステップを踏み、男の足元に三枚の風の刃を放つ。

 最初から男を狙っていないその風の刃は地面を浅く削るだけで、男は回避する仕草も見せない。

 避けるべき攻撃を避け、それ以外を受けるその堅実な戦い方は健在。

 フィーの着地と共に今度は男が動く。

 風読みで攻撃の軌道を予測、横のなぎ払いをさらに一歩後ろに飛んで回避。

 男はそのままさらに足を踏み出し流れかえていた腕を跳ね上げ上段からの一撃を打ちおろす体勢。

 同じように後ろに下がれば避けられる攻撃を、フィーは合えて前に一歩踏み出して、ハルバードの柄で受ける。

 すさまじい衝撃が両手を襲う。

 びりびりとしびれる両手、すべりそうになる両足を懸命に踏ん張って何とかその大剣を弾く。


「っ――!」


 男の腕が跳ね上がり、フィーはそのまま斧頭を地面に投げ出すようにして、それを引きずるように走り始める。男はその不可解な行動に一瞬たじろぐが、懐に飛び込まれた状態では大剣では攻撃は加えられない。

 その一瞬の間にフィーの体は男の左脇を抜けてその後ろに。フィーの体において行かれるように地面を引きずられたハルバードは地面を削りながら跳ねあがり、その鉤爪を男の左足首にかける。

 男が気づいた瞬間に、フィーは振り向くように体を回して男の足を刈る要領で引き倒そうとする。

 無理に踏ん張ろうとはしない男は引かれるままに体を回してフィーの方に向き直り、かけらた足を浮かせハルバードを踏みつけようとする。

 動きを抑えられるのは不味い、フィーは無理やりハルバードを引き戻すが体勢が軽く崩れてしまう。その瞬間を男は見逃さない。

 武器に振り回される形で背中を見せるフィーに一瞬で肉薄した男の袈裟懸けの斬撃。

 何とか風の力も借りて前に向けて転がるようにして回避を試みるが、背中に走る、熱い痛み。

 コートを裂かれ、そこに吊ってあったナイフが地面に落ちて澄んだ金属音を響かせる。

 それでもそれらのおかげで幾分威力が殺せた。それでも攻撃の全ての威力を殺せた訳ではない。

 切り裂かれた背中、浅黒い肌に走る一線の赤い痛々しい傷跡。

 背中から滴る血の量は多いが、致命傷ではない。

 痛みに頭が沸騰しそうになるのを堪えながら歯を食いしばってなんとか体勢を立て直す。

 まだ男の動きは止まっていない。

 風読みが告げるのは男の下段からの地を擦るような切り上げ。

 それをさせまいとフィーは素早く踏み込んで大剣を握る手に向けて蹴りを放つ。不意をついたその動きに男は踏み込む足を止め飛び退りながらの切り払いへと攻撃を変える。

 浅く足を切り付けられ、足にも血が滲む。

 やはり力の差は歴然。

 こちらの一撃は相手に対する完全な有効打となりえないのに対し、男の一撃をまともに食らえばこちらの体の一部を軽々ともっていかれる。

 そうして鎧の防御力とその身体能力強化による回避はいかなる攻撃を持ってしても破れない。

 それでもフィーは勝つためにこの場にいた。

 いくら攻撃を放って効かなくとも、どれだけ強力な攻撃で追い込まれようとも、諦めるつもりなどまったくない。

 勝つための手段は用意して来た。

 それは少しずつ少しずつ、男を追い詰めていく。

 今すぐにそれを使うことは出来ない。一手でも謝れば勝機の潰える、細い細い綱渡り。

 どんな攻撃も弾くその鎧を超える唯一の手段。

 男の横凪ぎが鼻先をかすめる。そのまま流れるように男が横に回りこみ、肩口を狙った斜めにに振り下ろされる剣の軌道を風が読む。

 回避は可能だが、あえてフィーはその攻撃をハルバードの柄で受け流す。

 それだけで腕がびりびりと震える。

 間合いを取ろうと飛び退る男を追いかけるように踏み込んでその左足首にハルバードの鉤爪を引っ掛ける。飛び退ろうとした男はバランスを崩し、そこに上体を押すように風の後押し。

 背中を逸らすような形になった男の足首をこちらに引くようにハルバードを引き戻しながらその反動を利用して自らは踏み込み、男の左膝を目掛けて蹴りを放つ、ルーンを起動して重さを増す靴。


 ――これで足を持って行ければ……!


 だが、フィーの蹴りが男の足を砕くより速く、ばね仕掛けのように上体を筋力で無理やりに上げた男の右ストレートがフィーの頬を抉る。

 背筋のバネを利用したその一撃。

 身体能力強化にガントレットの硬度と重量を加えたその一撃はそれだけで常人を殺すのに足る威力を持つ。

 すんでのところでハルバードを手放して後ろに飛んだフィーの体はそれでも屋上の端まで転がっていく。

 ガンガンと脳内が揺れ、足がガクガクと震える。

 背中の痛みと足、頬の痛みが脳内で悲鳴を大声で合唱している。

 それでもフィーは立ち上がる。

 目の前の視界は霞み、男の姿も見えない。

 風が男が横から接近してくるのを告げる。ほとんどこけるのと大差ないような動きで前へと回避。受身を取って立ち上がりながら震える足に力を込めて前に進んでハルバードを拾い上げる。

 瞬間左腕に走る痛み。

 左肘の上を深く切り付けられて、腕に力が入らなくなる。

 体中を苛む激痛に悲鳴を上げたく鳴る。

 だが、そんな余裕はない。

 幸い今の痛みで意識ははっきりとした。

 右手に握るハルバードに青い光をともし、地面を引きずるようにしながら傷つけて男の方へ向き直る。

 既に男はこちらに向かい突きを繰り出そうと走りこんできている。

 フィーの放った風の刃は見当はずれの地面を削り男をけん制する役目すらもてない。

 男がハルバードの間合いぎりぎりまで踏み込んで来たところでフィーは動く。

 一歩飛び退りながら、勢いのままハルバードの石突を地面へと突き刺し、男の突進してくる先へ穂先を向ける。

 鎧の隙間を縫うように狙ったそれを男は身を捻りながら回避。

 それによって軌道をそれた男の突きはフィーの胸を突き通すことなく、そのわき腹を切り裂く。

 男にダメージを与えられないままフィーの傷ばかりが増えていく。

 気が遠くなるような痛み。

 攻防を重ねるたびに傷が増え、武器を握る力は落ち、それでもフィーの瞳は強い輝きを放ち、決して折れることはない。

 男の繰り出す攻撃を斧頭を地面につきたてた、柄で受ける。

 そのまま斧頭を蹴り上げるようにしてハルバードが地を削りとる低い軌道から跳ね上がり男の腕を打つ。

 大剣を離して打ち上がるその懐に飛び込み、上段から遠心力と重力に任せた攻撃を振り下ろそうとして、一瞬だけフィーはためらう。その一瞬で男は一歩後退、ハルバードは空を切って新たな刃の跡を地面に刻む。


「貴女は自分の状況を正しく理解出来ているか?」


 男の言葉に、フィーは肩を揺らし荒い息を吐きながらそちらに視線を向ける。


「確かに貴女は強い。だが、貴女の攻撃でこの鎧を超えることは出来ないともう悟っているのだろう? 対して今の貴女のその体はどうだ? とても戦える様ではない、このまま動き続ければ血を失って死んでもおかしくないんだぞ」


 フィーは自分の腕に、足に、体に、ゆっくりと視線を巡らせていく。

 どこもかしこも傷だらけで、深い傷のあるところも多い。背中からはずっと気持ち悪い生暖かい感触と、冷たい空気、それに熱を孕むような痛みを感じている。

 だが、それでもフィーは笑ってみせる。


「マダ体が動クのに諦めタラ、師匠ニ合わせル顔がナイ」


 その狂ったような笑みに、男は、目の前の少女の師と戦った時のことを思い出す。

 フィーの浮かべる笑みは確かに、クルークのそれに良く似ていた。


「死ぬまで止まる気はないと、そういうことか」


 言葉にフィーは答えず、ただもう一度武器を構える。

 男が構えるよりも速くフィーは武器を振るう。

 地を這うように低い体勢で斧を引きずりながら疾走。

 もう少し、あとほんの少しで届く。

 目の前の男を倒す手段までもう、数手。

 地から飛び立つように斧頭を跳ね上げ男の頭を狙う。

 男がそれを避けて下がるのに合わせて風による後押しを受けて体を加速。左腕の痛みを堪えて武器を引き戻し足元を狙い突きを放つ。既に男は右に避け穂先は地を穿つ。

 もう、あとほんの少し、武器を引き戻そうとした瞬間。

 ハルバードに横からの力が加わる。

 突然のことにフィーの体は武器に振り回されるようにバランスを崩し、その重量を支えきれず、ハルバードは青い光を失い離れた地面に転がる。

 武器を横合いから弾き飛ばされたのだと、脳の冷静な部分が告げている。

 そうして今自分の体は致命的な隙をさらしていることも。

 右手にコートの裏からナイフを握った瞬間、がら空きの胴に男の大剣が迫ってくるのが見える。

 必死に体を捻り、式を展開、衝撃を受ける程の風を自分に向かって放つ。それでも避けきる事が出来ず、腰を深く切り裂かれる。

 圧倒的なその破壊力にフィーの体は弾き飛ばされ、地面を転がり、それでも握ったままのナイフが甲高い音をあげ、やがてフィーの体が止まる。

 ゆっくりと血溜りが広がっていく。

 握ったナイフに力を込めて、地に突き立てる。

 それ以上体が動かない。

 もう少し、もう少しだけでいいから。

 動いて、どうか。

 意識が黒く塗りつぶされていく感覚。

 瞼が重い。

 不思議と痛みは感じなくなっていた。

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