22.遠足
トムはそう言うと満面の笑みで(やっぱり博士と先生方はスゴイ方達だったんだ〜)と心の中で叫びながら、両親と妹の顔を見つめた…しかし父親のブラウンは、2人のお喋りに対して申し訳なさそうな顔で「スミマセン皆さんお疲れのところ…トム、ニーナ、こっちに来なさい…」と言って手をこまねいた…するとメリーが「ブラウンさん、2人を叱らないで下さいね、主人が何でも聞いていいよ、と言ったんですから、それに私達ぜんぜ疲れて居ませんから」と言って微笑むと、レイチェルが「スミマセン、子供達はトップシークレットの意味が分かっていないようで、後でちゃんと教えて置きますので…」と言って頭を下げた。ブラウン夫妻の気の使い方にベイは思わず「ブラウンさん、レイチェルさん…あの、なんて言えば良いのか…トップシークレットと言えば、国を守るような、大事な事を連想されると思うんですけど、私達がしているトップシークレットは…転んだ人に、大丈夫ですか、と言って、手を差し伸べるとか、重たい荷物を持っている人に、半分持ちましょうか、と言っているくらいの、秘密事項なんですよ、ですから…気を使わないでください」と言って微笑んだ。ブラウンもレイチェルも声を揃えて「ありがとうございます」と言ってはみたが、内心では(…大きな御謙遜を…積乱雲を消したり、海底火山の噴火が途中から消えてしまったり、沈没した船の乗客だけが港に着いたり、津波から、町や、島や、船を守ったりって…普通に考えても、スッごい…トップシークレットですから、映画でもそんなの観たこと無いですから…)と思ったが、そこは、あえて何も言わずに、ニッコリと微笑みながら、小さく頭を下げた。 第10 〈…遠足…〉 食事を終えたベイは、おもむろに柱時計に目を向け…「6時35分か…」と呟いた。メリーが「どうしたの?」と尋ねるとベイは「…明日の朝…7時くらいがいいかな…皆んなでさ…遠足に行こうか?」と言った、メリーはキョトンとした顔で「遠足…」と聞き返した「うん、遠足…ずっ〜と色々な事で頑張っているんだもん、たまには自分達に…ご褒美をあげないとね」と言って皆んなの顔を見回した。ブラウンはレイチェルの耳元で「明日は5時から朝食の準備を始めよう」と言った。トムとニーナは心の中で(いいなぁ〜遠足か〜、そんなの…行ったことがないや〜)と思った。するとベイが「皆んなで行くんだよ。ブラウン夫妻とトムとニーナも、一緒に行くんだよ、朝も昼も夜も全部外食だよ。さぁ、どこに行きたい?好きな所を言ってみて、どこにだって行けるから」トムはニーナと顔を見合わせ…歓声を上げた。ブラウンとレイチェルは、なぜか涙ぐんでしまっている。ベイの心づかいが嬉しかったようである、自分達もそうだが、子供達を動物園や遊園地などと言う所に、連れて行ってあげた事が無いのだ、時間的にも経済的にも、一切余裕が無かったからである。「でわ、皆さん…行きたい場所を教えて下さい」と言うベイの問いかけに、7人の手が一斉に上がった「私はどうしてもヨーロッパの、お城を見てみたい」と言ったのはルーシーである。「日本の古墳を見てみたい」と言ったのはグレイである。「ピラミッドの中に入って見たい」と言ったのはアンジーである。「スイスの街や、山の、景色を観たい」と言ったのはリンダである、そしてボブは「ギリシャ神殿を観てみたい」と言い、ジョニーは「ハリウッドに行きたい」と言った。ベイは笑いながら「はいはい、大丈夫、ちゃんと行きますよ…トムはどこがいい?」「あの僕は海を見て観たいです」「了解しました、ニーナはどこがいいのかな?」「私は雲の上を見て観たいです」「はい、了解しました…レイチェルさんはどこがいいですか?」「あの…私はニューヨークの夜景が見て観たいです」「はい、分かりました、ブラウンさんはどこがいいですか?」「あの私は…あの昔から月が大好きで…」「月ですか?」「はい、あの…大昔から、世界中の…偉人達が見上げて居たんだろうなぁ、と思うと何だか胸がワクワクして…」と言ってニコニコしている、するとレイチェルが横から「あなた…私達はロケットに乗せてもらうんじゃないのよ…」と言って睨んだ。「あっ…そうだね、ベイ博士すみませんバカなことを言ってしまって」と言って頭を下げると、ベイは笑いながら「レイチェルさん御主人を睨まないで下さい、ブラウンさん行けますよ、月ぐらい」と言ったので、レイチェルと2人の子供達は、目をむいて、自分の口を押さえ、ブラウンは子供の様に歓声を上げた。ベイはメリーに向かい「メリーはどこに行きたいのかな?」と聞くと「…私はハワイの…ホテルが、いっぱい建ち並んでいる前の、白い砂浜を歩いてみたい」「お安い御用だよ。じゃあ最後に僕から…ナイアガラの滝と、マチュピチュの空中都市と、日本の枚方市に行きたい」と言って微笑んだ。するとボブが笑いながら「1人、1つ、じゃないのかよ〜」と言って腰に手をあてた、するとベイも笑いながら「俺1つなんて言ってねぇし」と言い返した。ジョニーは笑いながら2人の間に入り「まあまあ、第一回目の遠足なんだし、ねっ二人ともムキにならないの。それよりもベイ博士、日本の枚方市って…なんですか?」と尋ねた…ベイ博士は少し間をおいてから「僕が…今現在しているところの、トップシークレットのベースを考えてくれた、作家の方が住んでいる所が大阪府枚方市なんだよ…」「えっ?ベースが有ったんですか?」「うん、メチャクチャな事ばかり書いてある小説でさ、100冊を自費出版してね、なんとかギリギリ売れた、と言うか、無料で配ったような本なんだけどね、何故だか僕の心の中には残ってね…」「どんな内容なんですか?」「…う〜っとね、ざっくり言うとね、優秀な科学者の方はいませんか?出来れば優しい人が良いです。魔法使いの様に空を飛び、壁を通り抜け、物を浮かばせ、どんなに壊れた物も治せる人…欲を言えば現在の医学では助けられない病気を治し…さらに欲を言えば、死んだ人を、生き返らせる事が出来る人。そんな優秀な科学者がいたら、世界中の大半の人から、自然の摂理に逆らった悪魔だ、と呼ばれるかもしれないけれど…でも悪魔だと言う人と、同じくらいの人達が、感謝してくれるんじゃないですか…みたいな感じの小説なんだ。ともすれば子供向けの本かな〜とも思ったんだけど…違うんだ、変な言い方かもしれないけど、この田澤と言う作家は…僕の為だけに、トップシークレットと言う本を書いてくれたんだと思う…だって僕にしか、当てはまらないんだもん、地球上で僕だけなんだ…」と言うベイの言葉には、不思議な説得力があった。ジョニーは何度も頷きながら「…なんだか僕もその人に会ってみたくなりました」と言うと、部屋の中に居る誰もが微笑みながら頷いた。ベイは満面の笑みを浮かべながら「明日が楽しみに成って来た…出発時刻は…朝の7時、起きれない人は、パジャマのままスカイシップに乗せるからね…以上、解散」と言うと…男性陣は笑いながら、自分の奥様を抱き上げて、自分達の部屋に入って行った。。そして次の日、朝7時、ホテルのロビーには、笑顔を抑えきれない10名の人影が…1つの扉のドアノブを、声も出さずに、ただジッと見つめていた…7時…10秒…「カチャッ」と言うカギの開けられる音…ドアがスッと開き…中から手を繋いで出て来たのはベイとメリーである…「あら、ゴメンなさい、私達が最後だったのね」と言って、横にいるベイの顔を見つめた、メリーの首筋にキスマークが3つ…「モッ〜しょうがねぇな〜」とは誰も言わない、自分達の奥さんの首筋にもキスマークがついているのだ、むしろ(良かった、皆んな愛し合っている夫婦で…)と思ったぐらいである。「待たせてゴメンね」と言うベイに「いえ私達も2.30秒前に出て来たところです」とボブが言うとニーナが嬉しそうな顔で「私とお兄ちゃんは6時からロビーに居ました」と言って肩をすくませた。メリーが優しい声で「ニーナ、2番目は誰かしら?」「6時10分にパパとママです」メリーは笑顔で頷きながら「ニーナ、私と博士の前に出て来た人は?覚えている?」「はい、えっ〜とジョニーさんとアンジーさん、えっ〜と6時25分くらい」「ありがとうニーナ…そして皆んな、ごめんなさい、30分以上待たせちゃって」と言ってベイと一緒に頭を下げた。ブラウン夫妻は(メリーさんはすごいな…子供が正直に喋ってしまう事を…よく知っておられる)と思った。「さぁ、スカイシップに乗って遠足の始まりだよ、フリー・ベー頼むね」「かしこまりましたベイ博士、エレベーターを下ろします」ホワイトホテルの上空に居るスカイシップから、直径5メートルの光の筒が降りて来た、ブラウン家族は、まばたきを忘れるくらいに、目を見開いていた。光の筒は地面に着く直前に止まり、今度は光の絨毯に変わると、ロビーに居る自分達の足元まで、アッと言う間に入って来た。「さあ行こう…」と言うベイの声に8人は絨毯の上に乗った、しかし、初めてのブラウン家族は緊張してか、足が前に出ない…ルーシーが「怖がらなくて大丈夫ですよ」と言って微笑むと、ブラウンは「…スミマセン…」と言いながら、慌てて妻と、子供達の手を引いて絨毯の上に乗った、…絨毯は12名を乗せたまま、ゆっくりと前に進み出した、トムが「あっ扉が…」と言うのと同時にホテルの玄関のドアが、スッと開いた、トムは思わず「パパ…いつの間に自動ドアにしたの?」「トム、パパも同じ事を考えていたよ、すごいね…」と言い終わった時、今度は自分達の身体は垂直に、上に登っている…ブラウン家族は感動していた、何時も見上げているスカイシップに、まさか自分達が乗れるなんて…四人はホテルを見下ろし…更に遠くの街並みに目を向けた(…綺麗な景色だなぁ…)この段階で四人は既に満足気味である、レイチェルは夫の耳元で「なんだか夢を見ているみたい…」と言うと、ブラウンはソッと妻を抱きしめ「本当に…素敵な夢だね…」と言い終わった時…12名は船内に入っていた。ブラウン家族の四人は周りを見回しながら(…壁も天井も床も、真っ白…)と素直にそう思った、すると「皆さん、おはようございます。そして初めまして、ブラウンさん、レイチェルさん、トム君、ニーナちゃん、私は女将と申します、そして私と常に一緒に居る、夫の匠です」「はじめまして、ブラウン家の皆さん、匠と申します、妻と一緒にこの船を守っています、と言うより、この船そのものが、私達です、皆さんが快適に過ごせるように、私達2人でサポートさせて頂きます、何なりと申し付けてくださいね」と言う声が部屋全体から聞こえた、ブラウン家族が(…えっ〜?床から?壁なの、天井からなのかな、と思っていると…ベイが「びっくりしましたか?」四人は素直に頷いた「匠さんと女将さんは、この船の主人です、優しいお二人です、きっと大好きになりますよ…」とベイが言い終わった時…スカイシップは既に雲の上に移動していた。皆んなはデッキに移動した、すると女将が「お客様…この船の説明を少しだけさせて下さいね…この部屋はデッキと言います、同じ部屋ですが、前方部をブリッジと呼んでいます、ブリッジの窓の大きさは、高さ5メートルで、横幅が18メートル有ります、少しでも外の世界がよく見えるようにと、ベイ博士がこのように作られました、でも今現在は、少し改良しまして、窓の大きさは、自由に変えられます…説明は以上です、ソファーとテーブルをお出しします、ゆっくりとおくつろぎ下さい」と言い終わると同時にソファーとテーブルが…下から現れた。ソファーとソファーの間は2メートル空いている、皆んながゆったりと出来る様に、匠の心遣いである。ブラウンもレイチェルもトムもニーナも…此処だけでも、既にテンションはマックスである。女将は更に「ニーナちゃん御希望の、雲の上に着きましたよ」雲の上に行きたいと言っていたニーナは目の前に広がる雲海を見て「…綺麗…」と呟きながら…涙ぐんだ。匠はニーナの声を聞きながらゆっくりと船を進め…女将はニーナの表情を見ながら船内に優しいピアノの曲を流してくれた。「ニーナ、座ったら…」と言う…兄の優しい声がニーナを振り向かせた、既に両親も先生方も2人がけのゆったりとしたソファーに座っている、トムが「ニーナはここだよ」と言いながら自分の横を、ポンポンと軽く叩いた。ニーナは椅子に座った後も嬉しそうに雲を眺めている、トムがボソッと呟いた「ニーナ…遠足、嬉しいね…毎日雲を見上げてさ…雲に乗ってさ…遠くの方に行く想像ごっこを…2人でいっぱいしたもんね…」「うん、いっぱいしたね……お兄ちゃんが行って見たいって言っていた…海にも行けるんだよ」そう言って、ニーナはトムの腕にソッと抱き着いた。船内に流れているピアノの曲が終わった、女将が優しい声で「ニーナちゃん、今から海に行きますけど、今日は色々な所に行きますから、まだまだ何回も雲の上に来ますからね」と言ってくれた、ニーナは嬉しそうに「女将さん、ありがとうございます」と言って…微笑みながら隣のソファーに座っている両親の顔を見た時である「あっ〜、海だぁ〜」と言うトムの声が船内に響いた。ブラウン夫妻は顔を見合わせながら(えっ?…たった今まで雲の上に居たのに?なんで?急に下がったような感じなんて全然してないんだけど?)と思ったが…何も言わなかった。スカイシップは海面から20メートルほどの高さを飛んでいる、匠は「トム君は海の中にも興味があるのかな?」と聞いた、トムは嬉しそうな顔で「はい、テレビでしか知りませんけど…」「そう、じゃぁ入ってみましょうか?」「えっ?海底探険…?」と言ってトムが目を見開いていると…スカイシップはゆっくりと海面に降り…そして、ゆっくりと海中に入って行った。海を見たいと言ったトムは当然喜んでいるが、ブラウンもレイチェルもニーナも嬉しいのかソファーに座った状態で足ぶみをしている、匠と女将は顔を見合わせて、思わず微笑んでしまった。トムが言うところの、海底探検の間にも船内には音楽が流れている、トムの気持ちを表したような軽快な曲である…15分ほどの曲が終わると女将が優しい声で「トム君、海底の景色はどうでしたか?」「はい、もう最高に綺麗でした、ありがとうございました」「喜んでもらえて私も主人も嬉しいです。…さて皆さん、もう直ぐハワイに着きます、既にブレスレットを車に変えています、朝食の予約を入れているホテルに、フリー達が案内いたします、食事の時間と砂浜の散歩の時間に約2時間ほどとっています、楽しんで来て下さいね」スカイシップは透明シールドを張った状態でいったん空に上がると、街から少し離れた場所に移動し…匠がリムジンを地上に下ろしてくれた。12名が一斉にソファーから立ち上がると女将が「ハワイ風の衣類を用意しました、宜しければお着替えくださいね」と言ってくれた、誰もが(着替え…?)と思った次の瞬間、小さなポンっと言う音がソファーから聞こえた、12名が振り返るとソファーの上に素敵な衣類が…無邪気なニーナは直ぐに洋服を手に取ると「わぁっ〜、素敵なアロハシャツだぁ〜可愛い〜」と言って大はしゃぎである、レイチェルもブラウンも嬉しそうに洋服に頬ずりをしている、トムなどは着替え出している。女将は皆んなの喜ぶ顔を確認すると「では皆さん、着替えて下さいね…」と言ってソファーと2人を囲むように鏡の壁を四方に立ち上げた、それぞれの夫婦が、恥ずかしくないようにと…女将の配慮である。5分後女将から「皆さん着替え終わりましたか?壁を下ろしますよ、よろしいですか」と言う声がかかると、各ブースから「はーい、着替え終わりました〜」と言う返事が返ってきた。鏡の衝立が降りると12名はチョッピリ照れ臭そうに立っている、女将は嬉しそうな声で「皆さん…とてもお似合いですよ…では楽しい2時間を過ごしてきた下さいね、下ろしますよー」と言って、全員を地上に降ろしてくれた。。。




