10.スカイシップ
8人は満面の笑みでオーナー夫妻と握手を交わしホテルの中に入った…。ボブとリンダ以外の6人は(…ボブの知名度、凄いじゃん、おかげで、受け入れて貰えたよ、良かった〜)と思った。ホテルの中は名前の通りに、ロビーの中から白一色で統一されている、入り口からの奥行きが約25メートルくらいで、横幅は36メートルくらいだろうか、天井の高さは約8メートル程の吹き抜けになっている。奥行き25メートルの先はガラス張りになって居て、外には、湖とその先に見える山々が…(とても景色の素晴らしいロビーだなぁ)と言う印象を8人は持った。ロビーの右側に食堂があり、その奥はキッチンの様である。客室は左側になっているのか7枚の扉が見える。「こちらのテーブルにどうぞ」ブラウンの案内で、ロビーの奥にある、大きな白いテーブルに8人は腰を下ろした。レイチェルは奥のキッチンに入って行った。8人が席に着くとオーナーのブラウンが「このたびは御結婚…誠におめでとうございます。また私どものホテルを選んで下さり、ありがとうございます。このホテルは私と妻の2人で切り盛りしている小さなホテルですが、皆さんに御満足頂けるよう、誠心誠意、努めさせて頂きます」と言って深々と頭を下げた。8人は(とっても真面目な方だなぁ)と思いながら自分達も頭を下げた。レイチェルが奥のキッチンからコーヒーとケーキをワゴンに乗せて8人の前に順番に並べている、小さな声で「お待たせしました…どうぞ…」と言う声を添えながら…8人は(なんだか…落ち着く〜)と思った。ジョニーは皆んなから、事前に聞いている希望をブラウンに伝えた…1つ目、結婚式は3日後。2つ目、結婚式は人前結婚で神父はよばない。3つ目、料理は全てオーナー夫妻に任せる。4つ目、皆んなで楽しめるゲームの用意をお願いします。5つ目、翌日の朝食は8時からにしてもらいたい。と言う事を伝えた…。ブラウンは1つ1つ頷きながら「はい、分かりました…はい、大丈夫です…」と言いながらノートに要望を書き込んだ、そして確認の為にブラウンは「3日後の御要望は、全て揃えられます…あの〜人前結婚の段取り何ですが、どのようになさいますか?」と尋ねた…ジョニーとアンジーは(あれ?そう言えば、ベイ博士から人前結婚と言われたけど…はて?どのような結婚式なんだろう?)と思った。その事を察したのかベイが「ブラウンさん…私達8人は親の顔を知りません…当然親戚もいません…こちらの勝手なお願いなんですが…ブラウンさんと奥様で、私達に合うような誓いの言葉を考えてもらえませんか?…出来れば立ち会って頂けると嬉しいんですけど…」ブラウンは絶句しながら妻に視線を向けた、レイチェルは微笑みながら「…あなた、喜んでさせて頂きましょうよ、ねっ…」しかしブラウンは恐縮しながら「私のような者が誓いの言葉を考えていいのですか?」と尋ねた。ベイは満面の笑みで「ぜひお願いします」と言って頭を下げると、ブラウンも「…かしこまりました…」と言って頭を下げ返してくれた。その後に結婚式の予算の話し合いになったのだが…欲が無い夫婦なのか?見積もりがかなり低くなっている「あの〜、そんなに安く見積もると利益があまり出ませんよ」と言ったのはグレイである…ブラウンは微笑みながら「大丈夫ですよ、料理は妻と私とで作りますから、人を雇っていないので経費がかからないんです」と言って小さく笑った。グレイとルーシーは経験上(このオーナー夫婦は…絶対に金持ちにはなれない…でも…とっても真面目で、優しい人だ…)と思った。全ての打ち合わせを終えた8人はオーナー夫妻に見送られてスカイシップに戻った。デッキに入ると女将さんが「皆さん、打ち合わせは上手く行きましたか?」と尋ねて来た、ベイは満面の笑みで「女将さんが選んでくれたホテルに、間違いはありませんでしたよ、さすが女将さんだと思いました」「ありがとうございます。あの〜皆さん、楽しい気持ちのところ誠に恐縮なんですが…実は、山火事がありまして…消防隊の方達の働きで火事はおさまりましたが…17名の方が亡くなられたんですけど…どうしましょう…向かいましょうか?」7人はベイの顔を見た。ベイは皆んなの顔を見回しながら、申し訳なさそうな顔で「行ってあげたいんだけど…いいかなぁ…」と言った、するとボブが間髪入れずに「いいに決まってるじゃないですか、神様の邪魔をしに行くんでしょ」と言って笑った。他のメンバーも頷きながら「フリー・アー、黒衣モードをお願い」「フリー・ルー、私も黒衣モードで」「フリー・リー、私も当然黒衣モードで」「フリー・メー、私も今回は、黒衣モードで」と次々にスーツに着替えだすと、ジョニーが元気な声で「さっ…ベイ博士、私達に指示を出して下さい」と言った。ベイは頷きながら「女将さん、現地に…お願いします」「了解いたしました」と言い終わった時…スカイシップはすでに現地の上空1万メートルの高さに着いていた。…空気が乾燥していたのか、自然発火による山火事で、死者の17名は山頂に居て逃げ場を失った人達である。スカイシップは透明シールドを張ると、高度を下げて行った…山火事の現場周辺には無数のマスコミのヘリコプターが飛んでいる、ベイは「女将さん、スカイシップは高度4000メートルで待機して居てもらえますか」「了解しました博士」そのやり取りを聞いてジョニーが「フリー・ジー、ブレスレットにヘリコプターに成ってもらえるかな?」「かしこまりましたジョニー様、」するとアンジーが「フリー・アー、私達を屋上デッキに上げてもらえるかしら?」「かしこまりましたアンジー様」デッキに上がり、皆んながヘリコプターに乗り込もうとした時である、ベイは急に立ち止まり「匠さん、以前にお願いしていた物…まだ完成していませんか?」「ベイ博士、出来上がっていますよ、と言いましても…1時間前に出来上がり、30分前にテストが終わったばっかりのマシンですけど、完璧な物に仕上がっております、持って行かれますか?」「はい持って行きます」7人は博士と匠のやり取りに首を傾げた…その時である、床の下からタクミのアームが8つ出て来てた…(あれ〜何か持ってる…?)と7人はそう思った。ベイはその物に、手を差し出した…そのモノは白くフンワリと光りを放ちながら、ベイ博士の右の手首に絡みついた「皆んな、このマシンわね、大きな箱型だったヨミガエリマシンを小さくしたモノだよ…匠さんに頼んで小さくして貰ったんだ…皆んなも着けてみて」7人は少しドキドキしながら右手を出した。装着したマシンを見てボブが「カッコイイ…」と呟くと、ジョニーとグレイも嬉しそうに「そうだね」と言って微笑んだ、男の子は、このようなマシンが大好きである。8人を乗せたヘリコプターはマスコミを装い、何食わぬ顔で、遺体安置所と成っているテントの近くに下りた。救急隊、警察官、消防隊の人達が忙しそうに働いている中、ベイ博士達は遺体安置所に向って真っ直ぐに進んだ。テントの前には二人の警察官が立っている…50代前半の壮年と25歳前後の若い警察官である、二人とも顔の表情がとっても怖い。ジョニーが「すみません、山に行くと言って家を出たサークルの仲間達と、連絡が取れないんです…中に入って確認してもよろしいですか?」「皆さんサークルの人達ですか?」「はい…ご家族の方々から見て来て欲しいと頼まれまして…」「そうですか…どうぞお入りください」「すみません…」8人は小さく会釈をしながら中に入った…17体の遺体以外には誰もいない。ドクターやナース達は、隣のテントの中で火傷や、逃げる時に転んで怪我をしてしまった人達の手当てに大忙しであった。ルーシーが小さな声で「フリー・ルー、トンネル事故の時と同じサングラスになって…」「かしこまりましたルーシー様」他の7人もフリー達に同じリクエストをした。遺体に掛けられたシートを順番に履いて行くと、成人男性が6名、成人の女性が6名、子供が5名であった…8人は手分けをして右手のマシンから光りを放ち、遺体の状況をスキャンして行った…その時後ろから「おいっ…あんたら何をしているんだ、あんたらの右手のソレは何だ」と言いながら2人の警察官は腰の銃に手を当てている…ベイはゆっくり振り返りなが「フリー・べー、ストップモード」と言った。2人の警察官の身体は動けなくなった…「くそっ、何で動けないんだ」と年配の警察官が叫んだ…すると若い警察官も「父さん僕も動けないよ…」と言った。7人が作業を続ける中、ボブは若い警察官に対して「すまないね、僕達は直ぐに出て行くから…君、何だか?顔色が悪いけど…大丈夫かい」と尋ねた…若い警察官は額から脂汗を流している。「ベイ博士、ちょと来てもらえますか」と言うボブの声にベイは作業を止めて「どうしたんだい、ボブ」と言って2人の警察官の前にやって来た「彼の顔色…変だと思いませんか?」と言うボブの言葉に、ベイは若い警察官の顔をジッと見つめた…ベイの頭の中には世界中の医学書が記憶されている「貴方は膵臓ガンに成っているね…余命1週間って言う所だね、立っている事自体が辛いでしょ、病院に居なくていいの?」と尋ねた、すると若い警察官は「死ぬ事は…分かっている…だから最後まで、お父さんと一緒に警察官をしていたいんだ…」その言葉を聞いたボブは目をうるませながら「貴方は、お父さんが大好きなんだね、きっと優しいお父さんなんだろうね」と言うと、若い警察官は「父さんは僕の誇りだよ」と言い切った。そのセリフを聞いたボブは上を向いてしまった。ベイはボブの耳元で「もぅ〜ボブは涙もろいんだから…」と言うとボブは「えへへ…」と言いながらリンダの方に歩いて行ってしまった。ベイは右手のマシンを警察官の身体に向けてスイッチを入れた…青い光が全身を包み込んでいく、父親の警察官は目が点に成っている…そして、わずか5秒後、若い警察官の顔色が、見る見るうちに良くなった。…ベイは「治りましたよ、もう大丈夫ですよ」と言いながら壮年の警察官に目を移し「お父さんもずっと前から膝が痛いんでしょ…治しときましょうね」と言って壮年の足に向けてマシンを発動させた…2秒後、足が治った。ベイは2人に対して「私達は、正義の味方では決してないんですけど…そんなに悪い奴らでもないんですよ…此処に居られる17人を助けたいだけなんです…お二人が静かにして下さるなら、身体を動けるようにしますが、どうでしょうか?」「はい、神様の邪魔はしません…先程は本当に失礼しまた…息子を助けて下さり本当にありがとうございました。」と言っている父親は既に泣いていた…。「フリー・べー、ストップモードを解除して」「ベイ博士、解除しました」動けるようになった警察官は「父さん、身体の痛みがないんだ…息苦しくないんだ…」と言って泣き崩れた…。(きっと毎日が…痛みと、死の恐怖との闘いだったんだろうな〜)と8人はそう思った。喜びを噛み締めている2人の警察官を横目に、ベイ達は16人を生き返らせた…狂喜乱舞と言う表現がピッタリなくらいに喜び、なおかつ8人を神様だと連呼した。ただ…1人の女性だけが目を開けない…生き返らないのだ…(なぜ…?)と7人は思いながらベイを見つめた。目を開けない女性の夫と、2人の子供は、ボー然とした表情で母親を見つめている…。ベイの耳元でメリーが「ベイ…なにか理由があるんでしょ?」「うん、あるんだよ…この子達のママは、少し問題があってね…皆んなが以前に居た雲の中の世界じゃなくて…地の底の世界に行ってしまってるんだよ…」「えっ?何で?」「あのね、幼児虐待、幼児殺人未遂…それと…愛人と結託して、御主人に保険をかけて、殺人未遂…愛人は途中で怖くなって、止めようって言ったら、3日前に射ち殺されちゃったんだ…この人に」と言ってベイは女性に指をさした。メリーは絶句した…。ベイは2人の子供に「ママはどんな人だったの」と聞いてみた、すると上の5歳くらいの娘さんが「ママは優しくて、料理が上手で、何時も私達に本を読んでくれたの」と言った…嘘である、子供は自分の願望を口にしたのだ…いつか、そんなママに成って欲しかったのだろう。ボブとリンダは沈痛な面持ちで首を横に振った。ベイは2人の子供に「お父さんと大事な話があるんだ…少しだけ待っていられるかなぁ?」2人の子供は泣きそうな顔になった。「あのね、5メートル程離れるだけだよ…その間、4人のお姉さんが側に居るからね」と言うとメリーとリンダが2人の子供を抱き上げ、アンジーとルーシーが2人に話しかけた。ベイは夫をテントのスミの方に連れて行った、そして単刀直入に「奥様を生き返らせる事が出来ません、理由は、悪い人だからです…」「はい…私も薄々気づいては居たんですけど…」「怖くて何も言えなかったでしょ」「はい、私が何か注意をすると、妻は感情的に成って取り乱し…子供に暴力をふるいます…子供を守ろうと離婚話をしたら、銃を子供に突き付けられました…それでも子供はママが好きなんでしょうね、今もママから目を離しません…」ベイが(まいったなぁ〜、地の底から彼女の生命を持って来れない訳ではないんだけど…1人の男性を殺してるんだよなぁ〜)と思っている時に「ベイ博士、女将さんから話があるそうです…つなぎますね」とフリー・べーが言い終わると、直ぐに女将の声がベイの耳に入って来た…「ベイ博士、今、隣に居る男性の名前は、ハリーさんと言う方です、ハリーさんは子供の頃に、バニーと言う女の子と結婚の約束をしています、当然、子供同士の可愛い約束ですけど………」ベイは男性に、手で少しだけ待って下さい、と言うようなポーズをとった、男性は頷きながらジッと待った。「女将さんバニーさんに今現在のハリーさんの家庭状況を説明してもらえますか?」「ベイ博士、既に終わってますよ」「バニーさんは何と」「ハリーさんの奥さんになり、2人の子供のママになりたいと言ってますよ」「分かりましたハリーさんに聞いてみます」…ベイは男性に「…ハリーさんが子供の時、隣に住んでいた女の子の名前を覚えてますか?」「はい、バニーと言う可愛い女の子でした…たいしてカッコ良くない私に、大人に成ったらハリーのお嫁さんに成ってあげる…なんて言ってくれました…私の初恋の人です…大好きでした…でも、ある日突然に引っ越して行かれました…きっと家庭の事情があったのだと思います…」ベイは頷きながら「御察しの通りです…両親が離婚して…お母さんは直ぐに再婚して、娘のことなど知らんぷり…お父さんは酒とギャンブルにハマって荒れ放題の毎日…バニーさんは、自分が亡くなるその日まで、ズッとダラシない父親に経済的な援助をして居ました。ちなみに亡くなられたのは一週間前です…この世を去る時に言った…最後の言葉が「ハリー、今頃なにをしているのかな…」です…何だかセツない話ですよね…」男性はベイの話を聞きながら涙を流している「バニー、散々…苦労したんだね、僕が側に居れば…」と呟いた後に「神様、お願いします、バニーを…バニーを僕に…お願いします一緒に幸せになりたいんです…」と言った。ベイはワザと少し考えるようなフリをした後に…「分かりました…バニーさんの魂を、そこに寝て居られる奥さんの身体の中に入れましょう…バニーさんを幸せに出来そうですか?」「はい、幸せにします」ベイは微笑みながら「私から御主人と子供たちに一言、言って置きたい事があるんですけど聞いて頂けますか?…」と言うと、ハリーは微笑みながら「はい、神様のおっしゃる事は何でも聞かせて頂きます」と言った。ベイはまず「神様では有りません…」と言いながら、ハリーを子供の前に連れて行き…「オジサンの話を良く聞いてね…もう直ぐ、お母さんは目を覚まします…ただ山火事のショックで、今までの記憶を無くしてしまったんだよ、だから、パパと良く相談して、ママに色々な事を教えてあげて欲しいんだ…」5歳の娘は父親に向かい「パパ、ママは自分の名前も忘れちゃったの」「あぁ、そうなんだよ…キャリー、カール…ハッキリ言ってママは怖かったから…この際、名前を変えて見ないか?」3歳の息子のカールが「お名前を変えたら…優しいママになる…」父親は笑顔で頷いた…すると2人は「今すぐ変えよう」と言った、子供たちの本音が出た、今までどれだけ小さな胸を痛めて来たのか…。キャリーが「パパ、なんて呼べばいいの」「バニーだよ、バニー」……




