【番外編】離れている時間
夏の自分企画「夏のSSS」(シークレットショートショート)で書いたものです。
音々に何も言わずに出てきてしまった。
今は自分の世界・魔界にいるオレ。あっちを出てきて1週間は経ってるかな。
学校は幸いテスト休みに入っているから問題はないが、音々はどうしてるだろうか?
『北の領地の端で反乱が起こった。すぐに平定に行け。兄弟たちはもう行ってる』
そう、親父である王から電波が来た。
めんどくさいが王の命令は絶対。親子だからという甘えは許されない。すでに兄弟たちが向かったと言っているから、早くオレも合流しなくてはいけない。
音々にひとこと言ってから行こうと思ったのだが、いかんせん、音々はお怒り中だったのだ。
オレが告られているのを、偶然見ちゃったんだよな。
それだけならいいんだけど、今日の女はしつこかった。『私の方が魅力あると思わない?』とかなんとか言って迫ってきた。
バカ女。音々以上の魅力何てねーんだよ。オレに触ってんじゃねえ、とその手を掴んだところで、たまたま音々が通りがかった。くっそ~、どんなタイミングの悪さだよ?
放課後の物理室の前だったから誰も通らなかったのに、なんでこのタイミングで物理室に来るかな? 音々。そういや日直だったっけ。
一瞬目があったと思ったら、ぷいっと逸らされた。
「あ! 音々!」
追いかけようと、女の手を払った。ついでに、
「あ、君には何の魅力もないからね!」
にっこり笑って言っておいた。にっこりの質が氷点下のモノだって気付いたんだろう、女は引きつってたけど、そんなのどうでもいい。
すぐさま音々を追ったけど、すでに逃げられてた。
家で待ってたけど、どうやら堂川さんちに転がり込んだらしい。
会えないまま、事情を説明する間もないまま、オレは出ざるをえなかった。
反乱軍はあっけなく平定された。俺たち兄弟の力はかなりのものだし、オレも早く音々の元に帰りたかったからな、めっちゃ頑張ったんだぜ? まあ、ちょっと手こずったところもあって、一週間もかかっちまったけど。
向こうの大将が白旗あげて降参してきたところで終了。首謀者とその取り巻きたちをお縄にして、城へ引っ立てて行くところで、オレは解散させてもらった。もう用は終わったからな。早く音々のところに戻りたい。
一週間ぶりの音々の部屋。
今は夜の10時。普段ならまだ起きて宿題なり勉強をしている時間だ。
でも、音々の部屋は暗く、ぴっちりとカーテンが閉まっていた。
『音々』
テレパシーで音々の意識に声をかけるけど、応答がない。部屋には気配があるから、ひょっとして寝てるのか?
ちょっとだけ魔力を使って、音々の部屋に入る。
闇に慣れた目では、容易に音々を確認できる。
音々はベッドにいた。やっぱり寝てるのか?
そっと近づき音々の顔を覗きこむ。
と。
閉じたままの音々の眼から、涙がぽろぽろこぼれていた。
「音々?!」
とっさに指で涙をぬぐうと、ゆっくりとその瞼が開いた。
「朔……」
涙で揺らめく瞳が、オレを映したと思うと、ガバリと起き上がり抱き付いてくる。
腕を首に回し、きゅっとしがみついてくる。いつもの強気の音々じゃなくて、また違ってかわいいなぁとにやけながら、
「音々、ごめんな?」
と、その震える背中を撫でる。
気が強い癖にたまにこうやって甘えてくる音々。
離れている時間、音々は何を思ってた? オレはずーっと音々の事しか考えてなかったんだからな。(魔物退治しながらな!)