237 1Time Awakening
Tips :〈ピースメーカー〉
見た目は拳大の美しい宝玉であるが、これ一つで世界の10分の1を焼き払う禁呪が込められた異世界の最終兵器。
異世界の世界中を巻き込む大戦にて一度だけ試作品が使われたが、あまりの威力に以降は抑止力として各国が保有するに留まっていた。
しかしこれにより実現した世界平和は、「積年の憎悪」を「恐怖による抑圧」では抑え切れなった瞬間に崩壊した。
各国による世界を3度焼き払う〈ピースメーカー〉の応酬の末、「全生物の死滅」を以て〈ピースメーカー〉は確たる世界平和を築いたのであった。
ジャムールが何やら呟いた瞬間、俺の手足から噴き出す血。
グラッ…、ドサッ
大量の血を一気に失ったことで身体から力が抜けた俺は、立っていることも侭ならずその場に膝を屈する。
ズキンッ!ズキンッ!
「ぐっ、あ…っ。」
(俺はいったい、何をされた…?)
俺は必死に考えを巡らせ、失われそうになる意識を繋ぎ止める。
(胴は…無事、やられたのは手足だけか…!?)
行動不能に陥ってはいるものの、幸いなことに今すぐに死に至ることは無さそうだ。
勿論、止血せずにいたらいずれ失血死するため楽観は出来ない。
…だがまぁ、最悪の場合でもアデリナの世話になれば良い。
(今の“最悪”は、奴らを逃がすことだろうがっ…!)
グググッ…、ズシャ
俺はそう自分を奮起させ立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。
「ぐぅっ…!」
(クソッ…動け!動けよ、俺の身体…!)
奴隷として売られた者が、無事に家族や知り合いと再会する…などということはそう多くない。
元家族のクソ兄貴に売り飛ばされた親父とお袋は領主の大農場で世話になっているが、それは領主の伝があったからだ。
逆に言えば奴隷としての価値が低い親父とお袋でさえ、領主並みの伝が無ければならないということ。
(動いてくれ!じゃないと…ッ)
ニーニャやソーナのような美少女は奴隷として売られてしまったら、まず無事に再会出来ることは無い。
行方を知れるだけでも良い方で、大概は行方の知れぬまま悲惨な末路を迎えることになってしまう。
身も心もズタボロにされた果てに息絶え、埋葬されること無く棄てられた死体。
実際には滅多に無いことらしいが、奴隷となった若い女の末路として一番有名な話だ。
(そんなこと…!)
「良くやったジャムール、早くソイツを殺せ!」
見知らぬ誰かがそうなったと想像するだけでも俺は強い忌避感を抱くというのに、ニーニャとソーナのどちらか…あるいは両方がそうなった姿が頭を過る。
(あああアッ!?)
頭に鮮明に残った物言わなくなった二人の無惨な姿に、俺は頭がどうにかなってしまいそうだった。
ジワ…
すると俺の身体の奥から、熱い“何か”が沸々と沸き上がって来る感覚を感じる。
どうやら俺の頭は既にどうにかなってしまっていたようだが、それで再び立ち上がれるというなら構わない。
「うっ、ぅおおォッ…!」
だが沸き上がって来る“何か”は塞き止められているかのようで、俺が再び立ち上がるための力には及びそうに無い。
ザッ…ザッ…
ダマルの指示を受けたジャムールが、短剣を片手に立ち上がろうと踠く俺に近付いて来る。
ザッ…ザッ…
その歩みは非常に遅いが、立ち上がれず腕も上がらない俺にジャムールの接近を阻むことは不可能。
グググッ
(クソッ、ここまで来て…!)
ズシャァ…
ザッ
立ち上がれず崩れ、地面を映す俺の視界にジャムールの爪先が入り込む。
「これも仕事だ、悪いとは思わん。」
スッ
「くっ…!」
そう言って短剣を振り上げたジャムールを、俺はせめてもの抵抗として睨み上げた。
だがジャムールが短剣を振り下ろす、まさにその瞬間─
ダカタッ…!
「メ゛エ゛ェ゛エ゛ッ!!」
ドカッ!!
横から駆け込んで来たスラストが、ジャムールに体当たりを食らわせた!
「ぐぉっ!?」
ゴロゴロッ!
横からスラストの体当たりを食らい、踏ん張りも利かずに転がるジャムール。
「スラスト!?」
まさかの援軍に、俺は驚きと歓喜…そして心配を込めてスラストの名前を呼ぶ。
「メ゛メ゛ッ、メ゛エ゛ェ゛ッ!」
俺の声を聞き振り返ったスラストは、俺に向けて「何やってんだ!」と叱咤するように鳴く。
恐らく俺とジャムールの戦いの全てを見ていたスラストは、ジャムールのショートソードが折れた時に俺がジャムールを倒して終わなかったことが不満なのだろう。
(んなこと分かってる…!)
自分より腕が立つ相手に、俺は何故「こいつだけは許してやろう。」などと思ったのか。
その結果こうして無様を晒し、スラストに助けられているのだから。
「このっ─」
そして恐れていた事態の一つが起こる。
「…っ!?スラスト!」
「家畜風情があぁっ!」
ドスッ!
「メ゛エ゛エ゛ェ゛ーッ!!」
俺の警告は間に合わず、激昂したジャムールに刺されるスラスト。
「メ゛、エ゛ェ゛…」
ドサッ…
「メェエェーッ!」
横っ腹を短剣で深々と刺されたスラストは倒れ、スラストの番は悲鳴を上げる。
だがまだ息のあるスラストに、ジャムールは容赦しなかった。
「オラッ!」
ドカッ!
「メ゛ッ!?」
(止めろっ!)
ズキッ!
「やめッ、ぐぅ!?」
ジワリ…
俺は倒れたスラストに蹴りを入れるジャムールを止めに入ろうとするが、動いた途端に手足に走る激痛に蹲る。
「…ふん、オラッ!」
ドカッ!
「メ゛ッ」
俺を一瞥し俺が動けないと見るや、スラストに再び蹴りを入れるジャムール。
「止めろ…。」
(俺は“また”見ているダケなのカ…?)
ジワジワ…
「オラッ!…オラッ!」
ドカッ!…ドカッ!
「メ゛ッ…、メ゛エ゛ェ…」
ジャムールに嬲られ続け、スラストの上げる声が弱っていく。
命が徐々に失われそうになっているその光景に、ジョンの死がフラッシュバックした。
「止めてくれ…。」
(“止メロ”)
ピシッ…ピシッ…
動けない俺が上げる制止の声は、遂に情けない懇願へと変わってしまう。
…ドカッ…ドカッ、ドカッ!
ジャムールがスラストを蹴る音が、まるで俺を責め立てているかのように耳に付く。
「おいっ、ジャムール!
いつまでも家畜なんぞに構ってないで、早くそのデブを始末しろ!」
再度ダマルがジャムールに俺を殺すよう指示するが、スラストへの仕打ちがそれで止まるなら…最早俺が一度死ぬくらい構いやしない。
ドカッ!
「…チッ、煩せぇ!
─と言いたいトコなんだが…。」
「………。」
愉しみを邪魔されたジャムールは雇い主であるダマルにさえも噛み付こうとしたが足元の玩具を見て、まだ息はあるが反応がもう無いことを確認して考えを改めたようだ。
「だがもう邪魔されたく無いんでな。」
そう言うとジャムールは短剣を振り上げる。
「ッ…!」
(止めろおォ…ッ!)
俺がどう思おうがジャムールが止まる筈も無く、ジャムールがスラストに短剣を振り下ろす─
カシャン…
─その時、俺の身体の奥から涌き出ていた“何か”を塞き止めていた“枷”が外れたことを、俺は何故かハッキリと理解した。
カッ…!
身体に熱が巡り、力が溢れる。
今の俺は“時”よりも速く動ける!
「止メロって─」
ならば先ずは、スラストへの借りを返す!
「言ってんだろうガァアアッ!」
ビュッ!
俺は身体が動くに任せ、溢れる“何か”を穂先に込めて全力で槍を突き出す。
ドシュンッ!
(何か出た!?)
今の俺で辛うじて見えたのは、飛ぶ刺突としか言いようの無いものだった。
そして今の俺に辛うじて見える攻撃を、こうなる前の俺より少し腕が立つ程度のジャムールが避けられる理由が無い。
「ん…、…んぅ?」
だが飛ぶ刺突がジャムールに命中する直前、俺の耳はそんな声を聴き取ったのであった!
暴走からのラッシュにするか迷いました。
…でも近接武器の“飛ぶ攻撃”、お好きでしょう?
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