210 猫人族の村
Tips:〈試作型クローシールド〉
灰髪男との戦闘経験により派生スキル『猪突猛進・突手』を得たラストが、怪我をせずスキルを使用するために馴染みの鍛治師であるガンキンに作成を依頼した無二の形状をした盾。
ラストの手持ちであった数打ち品の盾を改造したもので、盾の下側の4分の1ほどがフォークのような形をしている。
これにより改造部の強度は著しく低下したものの、盾による刺突攻撃が可能となった。
しかし試用の段階でスキルが不発となり、改造部の用途は「地面に突き刺し盾を自立させる」という地味なものに収まったのであった。
何度かの休憩を挟み、鐘6つほどは歩いただろうか?という頃。
「…!ねえ、あそこじゃないかしら?」
人が擦れ違える程度には拓かれた山道を、皆を先導して歩いていたマリ姉が何かを発見したようだ。
「ん、あそこ。」
マリ姉が指し示す先を確認したニーニャが相変わらずの淡白さで、マリ姉の推察に頷く。
(おおっ、あそこが猫人族の村か!)
今俺たちがいる場所から見下ろせば、まず目に入るのは山合を流れる細い川。
山合なので当然ながら川の両脇は勾配があるのだが、比較的勾配が緩やかな場所には丸太の家が十数建。
さらにその周りの川側の一角には、草原を掘り返しただけの…畑のようなものも見える。
「わぁっ…、長閑そうな村ですね!」
確かにリタの言うように、踏み均された土や石畳で舗装された人間の村や街に対し、畑らしき場所以外の地面が短い草で覆われた猫人族の村は、近くを流れる清流のせせらぎも相まって非常に落ち着く雰囲気を感じる。
…のだろうが、支援が必要なほどに食糧事情が厳しいと知っていると、冬のため枯れている草の色が住民の窮状を表しているように感じてしまう。
それに、見掛けた場所以外に畑が無いのだとしたら、30人の住民の腹を満たすには到底足りない広さの畑だ。
場所柄広い畑を作ることが難しく、種族的に基本は狩猟や採集で賄っているとして…冬の分の貯蓄のみを考えてもやはり足りないのだ。
今回持って来た食糧が春までの凡そ3ヶ月分らしいのだが、見えてる畑の広さでは「豊作で並ぶくらい」と言えば異常さが伝わるだろうか?
(…これは単に不作とかって話じゃないぞ。)
厄介事だ…と、俺の勘が囁いている。
「…どうかしましたか?」
「ああ…いや、何でも無い。」
しかし俺の感じた違和感は、教会育ちのアデリナには分からないらしい。
街育ちのリタや、村出身ではあるが「魔女」と疎まれていたマリ姉も同様だ。
「ラス君、一旦ここで休憩にしましょ。」
俺の様子がおかしいことを疲れによるものだと思ったのか、そんな提案をしてくるマリ姉。
「え?あ…いや、そうですね!」
猫人族の村に今すぐにでも行きたそうにソワソワしていたリタは、目的地を目前にしての“お預け”にショックを受けた顔をするも、マリ姉が視線で俺を示すと納得したようだった。
… … … … … … …。
… … … …。
…。
ザッザッザッ
直前の休憩と下り道ということもあり、それなりに活力のある足取りで進む俺たち。
サアアァ…
「おっ、…この辺まで水汲みに来るのか?」
川に沿って歩いていると人が何度も行き来している痕跡を見つけ、俺はニーニャに訊ねた。
斜面に集落がある関係上、井戸を掘っても水が涌き出ることはないだろう…との考えからだ。
「ん、そう。
…あと偶に水浴び。」
俺の予想は合っていたようで、この辺が村の用水場ということなのだろう。
風呂は例外として基本的に水に濡れるのが嫌なニーニャは、「水浴び」と口に出すにも僅かに耳を伏せていて可愛いらしかった。
「ではもう、猫人族の村に入った…ということでしょうか?」
「…そうね。そう思って行動した方が良さそう。」
アデリナの疑問に、少し考えてから頷くマリ姉。
大概の街は外壁で囲まれていることは言うに及ばず…人間の村は柵などで村の範囲が分かり易くなっている。
対して猫人族の村は上から眺めた限りでは、壁は勿論…柵すらも見当たらなかった。
まぁ、壁はともかく…柵というのは境界を示すものであるため、魔物を素通りさせることを承知するのなら、他に縄張りを争う集団が付近に無いここでは必要ないのだろう。
だからと言って、生活の場として頻繁に使われている痕跡がある以上、ここから先は猫人族の村の中と考えた方が賢明だ。
余所者かつニーニャを除き人間種である俺たちには分からないマーキングがある可能性も無くはないだろうし、態々他種族の村の近くを荒らす理由も無い。
無用なトラブルを避けるコツは、勝手の分からないなら大人しくすることだ。
「い、意外と遠かったです…。」
そう考える俺とは反対に猫人族の村に興味津々といった様子だったリタは、上から眺めた時と実際に歩いた時の距離感の差異に打ちのめされていた。
登りは道が見えるためそうでも無いのだが、下る場合は「目的地が近くに見えていても、道のりは長い」というのはよくある事。
あと…猫人族の村に近付いてきて分かったことなのだが、猫人族の村の家は人間の村の家よりも一回り大きかった。
「一度川まで下って、また登る」という地形にそれらの要因が重なり、街育ちで高低差のギャップに慣れていないリタの混乱が強くなったのだろう。
「…ま、その内すぐに慣れるさ。」
自分の判断が間違っていたことを実感して萎れるリタを、特に休憩を取るつもりが無かったことを隠してフォローする俺。
俺が猫人族の村の畑に違和感を感じていなければ、フォローというより傷の舐め合いなのだが…。
(ま、結果オーライというやつだな。)
一見長閑な猫人族の村。
しかし何も起きない筈も無く…
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