204 ザ・マントル
マントル → 星の中心部 → 自己中
…的な?
2組目の来客も、ベアトリスと同じく単独であった。
ベアトリスと違う点は、村の門から「今まさに出る」という間際にやって来た男だということ。
「…ぃっ!…スト待て!止まれっ!」
ドタバタと近付いて来る気配は感じていたが、家族との縁を全て自ら切った男が一体何の用があるというのか?
「ハァハァ……おいっ、ラスト!
お前に俺の畑を使わせてやる!」
(………、はぁ?)
息も荒いままに、兄だったクソ野郎が言ったことは、今の俺には「だから何?」と言う以外に無い内容の言葉だった。
…そりゃそうだろう。
色々と偶然が重なったが結果として、今の俺は家持ちの Cランク冒険者。
今更畑を耕さなくとも…否、畑を耕す以上に稼ぐことが出来ている。
「だが、ただで使わせて貰えるとは思うなよ?
まず、借料として月に銀貨5…いや、銀貨10枚渡して貰う。
…ああ、畑を使うのはお前なんだから、税はお前が納めるのが当然だよな?」
呆れて言葉が出ない俺たちを見てどう取ったのか、物語の悪徳金貸しも真っ青の暴利を当然として要求してくるクソ野郎。
要求通り支払うとしたら年間にして銀貨120枚になるわけだが、親父とお袋が十数年かけて100枚の銀貨を貯めたことを考えれば、どれ程ぶっ飛んだ要求か分かるだろう。
以前来た時に見かけた際にはもう荒れかけていた畑だが、どんなに良い畑であってもクソ野郎の所有する広さの畑では月に銀貨3枚でも高い。
まさかとは思うが…もしかしてあれから一切の手入れをしていないのであれば、その土地は畑でなく荒地であり、借地としては月に銀貨1枚を支払う程の価値も無い。
(しかもそれがまずときた…。)
ただでさえ馬鹿な要求だというのに、これ以上どんな要件を出そうと言うのか!?
と、怖いもの見たさに若干の興味が湧くが、まぁ…相手にするわけが無い。
「はっ!生憎と間に合ってるよ。
…それに、俺には勿体無いくらいのパーティーメンバー達もいることだしな!」
俺はクソ野郎の言葉を鼻で嗤い飛ばし、〈白の大樹〉メンバーを誇らし気に見渡す。
しかし俺のその行為でマリ姉達に注意を向けたクソ野郎は諦めるでもなく、マリ姉の美しさに目を着けて更にアホなことを捲し立てた。
「…ふ、ふんっ!
女が冒険者なんか無理に決まってるだろ!
………そうだ!どうせコイツらもベアみたいな傷モノなんだろ?」
プチンッ
クソ野郎のマリ姉達に対する聞くに堪えない罵詈雑言を聞かされ、俺の中で何かがキレた音がした。
そしてその音が聞こえた際の衝動に突き動かされるまま動く身体を、俺は抑えようともせず一切を任せた。
結果─
「よしっ、それなら仕方ないから俺が纏めて面倒を見てやる。
お前の相手をするような尻が─」
ドゴォオッ!!
「るブベラッ…!?」
ズザァアァ…
俺の怒りの鉄拳を頬に受けたクソ野郎は、勢いで身体を半回転させて、顔面から地面にダイブした。
「…そのゴブリンの糞以下の口を綴じろよ、このクズカス野郎!!
彼女たちをテメェの嫁みてぇなアバズレと一緒にするんじゃねえ!
俺をどう言おうが気にも留めねぇが、俺の女達をもう一度でも貶してみろ?
そん時はテメェが深淵に落ちようが、必ず引き摺り戻して魂まで殺し尽くしてやる…っ!
良いか?これは最後の警告だ!」
地面にダイブした尻を突き上げた間抜けなポーズのままのクズカス野郎に、聞こえていようが構わず俺は最後通牒を叩き告げる。
「“二度と、俺たちの前に、姿を見せるな!”」
…家を追い出された時といい、ウリボア討伐で村を訪れた時といい、俺はコイツに絶縁を言い渡された側だった。
だからこそコイツはここまで調子に乗り、俺のみならず俺の婚約者達まで傷付けた。
だが今度はクズカス野郎が勘違いする余地も無く、俺から絶縁を叩き付けた。
警告までしたのだから、次クズカス野郎のムカつく顔を〈白の大樹〉メンバーが見た時、それがクズカス野郎の最期になるだろう。
…そんなクズカス野郎と血が繋がっていると思うと吐き気を催してくるが、そんな俺を好いてくれる極上の女達がいるので、まぁ我慢しよう。
ムク…
「ボソッ、ボソボソ…。」
ここでようやく身を起こしたクズカス野郎だったが、奴はアンデッドのような濁った目で何かしらを呟いていたが知ったことではない。
ギュ…
「はァッ…、ラス君。
…私たちの為に怒ってくれてありがとう。」
思いの丈をぶち蒔けて息の荒い俺を落ち着かせるように、目を潤ませ頬を紅潮させた…いわゆる“牝の顔”をしたマリ姉が、その豊かな胸に俺の右腕を挟み込む。
ギュ…
「んぅっ…。
ご主人、かっこ良かった…。」
スリスリ
マリ姉と同じような顔をしたニーニャは、空いていた左腕側に絡みつき身体を擦り付ける。
…丁度左手が挟み込まれたニーニャの両足の付け根辺りが湿ってきているような気がするのは、きっと気のせいなんかじゃない。
「少々言い過ぎな気もしますが…、とても嬉しく感じるのは罪でしょうか…?」
非難と歓喜という相反する感情に、混乱したアデリナは神々への祈りを始めてしまう。
始まりが始まりだけに、ここまで好かれたことがアデリナの答えではないかと思う。
「わぁっ…!
優しいラストさんが好きですけど、…これがギャップってやつですかね!?」
「え?…えぇ、そうね…。ボソッ…。」
人懐っこいリタは俺の話で絡み、同行することになったベアトリスを困惑させていた。
興奮気味のリタにとりあえず頷いたベアトリスだったが、彼女も何かを呟いていた。
「二人とも、今は離れてくれないか?
さっさと出発すれば、それだけ早く家に着ける。」
「………、っ!?」
シュババッ…!
「そうね、もう既に予定より遅れてしまっているわ。」
「みんな、早く行こ…!」
離れるように告げるとショックを受けた顔をしたマリ姉とニーニャだったが、暗に帰還したら相手出来ると言えば目にも留まらぬ変わり身。
「……で…、…が…………に…?
…………ッ、………け……って……」
未だに何かをブツブツと呟くクズカス野郎を放置して、改めて出発─
「うぉああアァッ!」
ダダダッ、バッ!
突然叫び声を上げて立ち上がったクズカス野郎は俺に駆け寄り、その手に掴んだ石を振り上げた。
「ラス君が「最後の警告」って言ったでしょ?」
ボッ!
「うぎゃあアアアァッ!?」
だがその腕が振り下ろされる前に、マリ姉が冷たい声と伴に放った『火球』が、クズカス野郎の股間を燃やす。
(うっ…!)
昨日よりはかなりマシだが、続けて目撃したタマヒュンな光景に、俺は思わず内股となってムスコを絶対防護。
「…さっ、汚物もスッキリ燃やしたし。
今度こそ出発ね!」
爽やかな笑みを浮かべるマリ姉はやったことから目を背ければ、朝の陽の光に照らされて実に神秘的であった。
…そして意気揚々とパーティーをリードするマリ姉についてスマト村の門を出る際、ふと視線を感じた俺がさりげなく周囲を見渡す。
すると、物陰で内股になって震えるファムさんがいたのだが、せめてもの情けと皆には黙っていることにした俺であった。
マン(男)トル(取る)
…ハッ!まさかのダブルミーニング!?
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