196 ジレンマ
今月の時間外労働の目標時間40hを言い渡されてしまったので、更新が不定期になります。
なるべく隔日更新になるように頑張ります!
…というわけで、Tips は暫くカット
鳴子などの罠を警戒しつつ、入り口の光がギリギリ届かない先に行くと突き当たりであった。
(壁?って、あぁ…こっちか。)
一瞬行き止まりかと思ったが、暗さに目が慣れるとほぼ左の真横に穴が続いていた。
その先は薄暗い視界の中でも更に黒く、いくら目を慣らしたところで見えない暗さであることが伺えた。
(…灯りが必要だな。)
まさかこの穴蔵がこうも入り組んでいるとは思わず、また隠密作戦が思いの外上手くいっていることで別の問題が出て来るとは思っていなかった。
ランクが早々に上がるのは望むところだが、やはりこういったところで経験の浅さに足を引っ張られてしまう。
(…撤退、か…?)
盗賊達がこの中でどうやって生活しているのかという疑問があるが、まさか全員が…いや誰か1人でも『夜目』のスキルを習得していたら戦いにならない。
既に3人殺しているので警戒されるのは避けられないだろうが、一旦撤退して作戦を練り直した方が良いのでは?
…ただ、俺が盗賊団のリーダーだったら、いつの間にか仲間が3人も殺された場所に居座るにはならない。
そうなると「拐われた女達の救出」を断っておきながら、「領主様からの依頼」を失敗することになってしまう。
上手く面倒を躱せたと思ったが、ここでも俺の見通しの悪さが影響してくる。
クイッ
「ん?」
自分の未熟さに嫌気がさしている俺の袖が誰か…というより、こういうことをするのは俺たちの中には1人しかいない。
「(…どうした?)」
袖が引かれた方を見れば…案の定、ニーニャのキラリと光る二つの瞳が俺を見ていた。
「(偵察、…行く?)」
俺がどうするべきか悩んでいたのを勘違いしたのか、ニーニャが首を傾げながら聞いてきた。
…確かにニーニャは獣人種の優れた感覚でパーティーの斥候的な役割をこなしているが、だからといって「視界の無い暗闇に行け」は無いだろう。
キランッ…!
(…あ、見えるのか!)
暗闇の中でその存在を主張する、ニーニャの期待で爛々と輝く瞳。
それを見た俺は獣人種…特に肉食系の獣人は「人間種よりも“遥かに”夜目が利く」、という特徴を思い出した。
がしかし…見通しの立たない暗闇に、ニーニャを1人だけで向かわせるのは抵抗が強い。
「(う~ん…)」
「(ちょっと!悩んでる暇なんて無いでしょ?)」
中々決断を出さない俺を、痺れを切らしたマリ姉がせっ突いてきた。
使えるものは使うというマリ姉の性格的に、ニーニャを偵察に向かわせるのは悩むような事ではないのだろう。
「(だが“もしもの事”があったら…)」
「(ラストさんっ、ニーニャちゃんも立派な冒険者なんですよ!)」
俺がマリ姉にニーニャを危険な目に遭わせたくないと言うと、意外なことにリタも、ニーニャを偵察に行かせることに賛成していると思われる意見を言ってきた。
…確かにニーニャは〈白の大樹〉で活動することに限るという条件付きとはいえ、リタより一つ上の Cランクの冒険者だ。
しかしニーニャのランクが制限付きである理由を、元ギルド職員であるリタは良く知っている筈なのだが…。
(やはり人質を助け出したい、ということか…。)
ファムさん宅ではマリ姉の説明を聞いて納得して見せたが、実際に現場を目前にして退き下がれる程に割り切れる性格ではない…か。
これは俺の個人的な感情によるものなのだが、身内の危険と人質達の救出を天秤に架けた時、俺は何人が犠牲になろうがただ1人のニーニャを取る。
しかも今はニーニャが危険な目に遭うだけではなく、マリ姉・アデリナ・リタの3人も危険に巻き込まれてしまう可能性も高いわけだ。
そんなことは、俺が嫌なのだ。
ニーニャにこの先の偵察に行かせるという事に対する賛否は、今のところ賛成が2。
だがリタと異なりマリ姉は「やるなら早くやれ」という消極的な意見であり、俺が否と言えば反対することはない…つまり実際は中立と言える。
提案者のニーニャ自身も実はマリ姉同様に中立で、今のところ賛否は賛成1・中立2・反対1と拮抗している。
つまり残るアデリナの意見により、作戦続行か一時撤退かが決するということだ。
「(…ラストさんが私たちを大切に想い、大切にして下さることは大変嬉しく思います。)」
しかし、自然と視線が集中したアデリナは、今求められている事とは異なることを話し出す。
…無理やり賛成か反対かの意見で解釈するとなると、俺が皆を大切にしているのが嬉しいのだから、俺の意見に賛成つまり反対…ということになるのだろうか?
「(しかし同時に、忸怩たる思いも私は抱いてしまうのです。)」
(…はて?)
俺が頼りなくて不甲斐ないというなら理解できるのだが、俺に守られて悔しいとは一体どういうことだろうか?
…もしかして、成り行きで婚約したが実はアデリナは俺のことを憎んでいたりするのだろうか?
これまでの付き合いから有り得ないことだとは思いつつもショックを受ける俺に対し、マリ姉・ニーニャ・リタの3人はアデリナの言葉にしきりに頷いている。
「(一番守られている私が言うのも説得力に欠けるとは思いますが、守られるばかりでいる程私たちは弱くは無いです!)」
そう言い切ったアデリナの力強さを湛える瞳が、薄暗いなかでもはっきりと見えた気がした。
そして俺は、俺がまだソロで活動をしていて、後に冒険者パーティー〈白の大樹〉が芽吹く切欠となった出来事を思い出した。
(ああ…、俺はまた…)
「(ラストさん…今回はニーニャさんですが、もっと私たちを信じて頼っていただけませんか?)」
「(っ…、分かった。
ニーニャ、頼めるか?)」
「(ん!)」
やる気に満ち溢れた表情をするニーニャを見て、俺はニーニャ…だけでなくパーティーメンバーの皆を無意識に侮っていたことを反省する。
『おうラスト、それが“信頼”ってやつだぜ?』
…何故か、親指を立ててそう言う酒場のマスターの姿が、俺の脳裏に浮かぶのであった。
ジェスチャー[静かなる意志]w
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