エピローグ 未来は風のように
「――飛びたいなぁ」
なんとなく口をついて出た言葉が、湿り気を帯びた琵琶湖の風に乗って飛んでいく。
ガードレールに身を預けて、アタシはプラットフォームが解体されていくのを眺めていた。
普段は大会が終わったら翌日には学園に戻るので、こうした撤収作業を眺めるのは初めてだ。
「あれだけ飛んでおいて、まだ足りないの」
苦笑交じりの声がして振り向くと、いつの間にか後ろに青葉さんが立っていた。
「飛んだ直後は『もう無理、飛ばない』って思ったりするんですけどね。でも、やっぱり次こそはもっと飛びたいって気持ちが湧いてくるんです」
「トリ娘の性ね」
青葉さんはアタシの隣にやってくると、湖の風に髪をなびかせた。
「あ、そういえば取材の方はどうなりました?」
「ガル先輩にも力を借りて、最小限にしてもらったわ。番組出演も岩沼やアメリカにいることを理由に何とか断ったわよ」
「アメリカ?」
「折角だから、この機会に向こうのトリ娘と会ってみるのもアリだと思ってね」
今回のトリ娘コンテストの中継が放映されると、あちこちから反響があった。各種メディアからのインタビューだけでなく、トリ娘と全く関係ないバラエティ番組への出演依頼なんかも来る始末。
いろいろ理由をつけて逃げ回った結果、学園のみんなとは別行動をとって2人で琵琶湖に残っている。
でも地震が起きてからはずっと毎日が忙しかったから、久しぶりに過ごしているこんなゆったりとした時間は貴重だ。
「初めて会ったときもこんな感じだったわね」
青葉さんが懐かしそうに目を細める。
『やっぱり、この舞台で飛んでみたい。育ててくれたバァちゃんや、お世話になった地元の人たちに、アタシが飛ぶ姿を見せて恩返ししたいんです』
あの時の言葉を思い出す。数年前の話のはずなのに、15年くらい昔のことのようにも思えてくる。
「少しは恩返し、できたんじゃない?」
ニッと青葉さんが笑いかけてきた。
「ちょっとは。――でも、まだまだ足りないですよ。もっともっと、どこまでも長く遠くまで飛んで、それを応援してくれるみんなに見てもらいたいです」
アタシは立ち上がって、翼を広げた。羽根を揺らす風が心地よい。
「そうね。まずは現行ルールの限界、往復40キロの達成からよ」
「はいっ!」
――そして、さらにその先へ。どんな風も乗りこなして、どこまでも飛んでやる。
アタシたちのフライトは、終わらない。




