001:落ちて、目覚めて
温かく、原始的で、深い闇……僕の意識は、目を開けさえすれば抜け出せる浅い暗闇へとゆっくり浮上していく。
意識が誕生した時、最初に考えることとは一体何だろうか? 少しマトリョーシカのような入れ子構造に聞こえるかもしれないが、僕が目を覚ました時に最初に考えたのは「意識が誕生した時に最初に考えることとは一体何だろうか」ということだった。
そして二つ目、僕は落下感を覚えた。
「僕、下に落ちてる?」
自身の状態が分からないのなら、より多くの五感を使って周囲を観察する必要がある。だから今僕がすべきことは、朝起きた時にすることと同じ——
「目を開けるんだ!」
急速な移動によってぶれた色鮮やかな景色が目の前で目まぐるしく変化する。落下方向へ目をやると、草の生い茂った緑の地面が見えた。
「うわっ!?」
衝撃と痛みに伴い、先ほど激しい緊張と恐怖を覚えたばかりの僕の心は、再び安らかさの中へと戻っていった。
◆◇◆
意識が誕生した時、最初に考えることとは一体何だろうか? 少しマトリョーシカのような入れ子構造に聞こえるかもしれないが、僕が二度目に目を覚ました時に最初に考えたのは「意識が誕生した時に最初に考えることとは、意識が誕生した時に最初に考えることとは一体何だろうか、ということだったんだな」ということだった。
なんだそれ……
僕の意識は再び浅い暗闇へと戻っていった。今回目を覚ました時は落下感はなく、脳が今の状態は仰向けだと告げていた。僕は手慣れた動作で目を開け、周囲の環境を観察し始めた。「楊浦区中心病院」と印刷された掛け布団、そして周囲の至る所に見られる特徴的な家具……明らかに、僕は病院に救助されてきたらしい。
じゃあ、さっきのは一体何だったんだ……僕はなぜ上空から落ちてきたんだ?
身体のあちこちから痛みが伝わってくる。思考を整理する間もなく、ドアの外から足音が聞こえ、すぐにドアが開け放たれた。
「沈同志、この子ですよ」
白衣を着た一人の男性と、警察服を着たもう一人の男性が病室に入ってきた。そう言ったのは医師の方だった。
医師は警察官から僕へと視線を移し、僕が目を開けているのを見ると一瞬だけ間を置いたが、そのまま続けた。
「高所からの落下ではありましたが、幸いにも低木と、雨上がりで柔らかくなった芝生の上に落ちたおかげで、深刻な怪我には至っていません。ほら、もう目を覚ましていますよ」
「とりあえず簡単にチェックしてみましょうか」
警察官は頷き、病室の来客用の椅子に腰掛けた。医師は僕のベッドの脇へと歩み寄る。
「身体に痛みはありますか?」
「少し」僕は頷いた。
「動かせますか? 手を上げて指を動かしてみて、それから足を少し持ち上げてみてください」
僕は右手を布団から出し、指先がエアコンの冷気に触れて小さく二度縮こまり、脚は布団の中で二回蹴り出すように動かした。
「問題ありません」僕は言った。
「頭痛は? 気持ち悪さや吐き気はありますか?」
「ないです。強いて言えば、ここが少し痒いくらいで」僕は頭の痒みを感じる部分に手を伸ばして触れた。触感からして包帯が巻かれているようだ。
「そこは擦り傷です。七階から落ちて大事に至らなかっただけでも十分に不可思議なんですから、擦り傷すらなければそれこそ奇跡ですよ」
医師はカルテらしき冊子を開き、白衣のポケットからペンを取り出すと、俯いて記録を始めた。
「君の名前は季雨くんで合っているかな?」
「?」
「意識が誕生した時に最初に考えることとは一体何だろうか」なんて複雑な哲学思考について考えはしたものの、僕は自分がまだ「僕は誰なのか」という根本的な問題に注目していなかったことに気がついた。
「分かりません……」
「意識混乱か?」医師は顔を上げ、ペンを止めて尋ねた。「自分の名前に聞き覚えはあるかい?」
「ないです。聞いたことがありません」
「じゃあ、ここがどこだか分かるかい?」
「病院の病室です。楊浦区中心病院」僕はシーツに印刷された文字を指差した。
「ここが何の都市だか分かるかい?」
「楊浦区……上海だと思います」
「認知機能は正常だな?」彼は不思議そうに呟いた。「今日は何日だ? 何曜日だい?」
「分かりません」
「今年は何年だ?」
僕は首を振った。
医師の目が、ついに怪訝な色を帯び始めた。
「自分がなぜ病院にいるのかは分かるかい?」
「えっと、うっかりビルから落ちて怪我をした……とか?」
「それ以前のことは?」
僕は必死に思い出そうとした。だが、思い出すのを妨げる頭痛もなければ、ぼんやりとした記憶すら存在しない。ただ単純に「ない」というだけだった。
「まったく分かりません。覚えているのは、下に落ちていって、打って気を失って、それからここに来たことだけです」僕は言った。
警察官がひょっこりと顔を覗かせ、興味深そうに僕を観察している。一方、医師は再び俯いて記録を再開しながら言った。
「記憶障害があるね。外傷性脳損傷による逆行性健忘かもしれない。今から幾つか単語を言うから、繰り返してごらん。リンゴ、机、電車、10086」
「リンゴ、机、電車、10086ですか?」
「直近の食事は何だい?」
食事? 僕は食事すらしたことがない気がする——そんな思考が浮かんだ時、自分でも荒唐無稽だと思った。
「分かりません」僕は言った。
「ご両親の名前は? 学校の名前は?」
「分かりません。まったく覚えていないんです」
「さっき繰り返してもらった四つの単語は覚えているかい?」
「リンゴ、机、電車、10086ですか?」
「即時記憶と遅延再生に問題はない。しかし近時記憶と遠隔記憶が完全に欠落している。こんな症例は初めて見るな」
医師はカルテを見つめながら頭を掻き始めた。
ずっとウズウズしていた警察官が口を開いた。「張医師、この子の状態はかなり深刻なんですか?」
「一般的に言えば、記憶喪失を引き起こすような脳損傷は当然深刻です。ですが、この子の状況は実に奇妙です。外傷性脳損傷による健忘は、通常、新しい記憶の形成も阻害します。つまり前向性健忘を伴うのですが、この子には逆行性健忘しかなく、前向性健忘が見られない。正直に言って、私も初めて見ます」医師が答えた。
二人は素早く視線を交わした。警察官は医師に、僕が狂言を張っているのではないかと確かめているようだった。
「一年は何ヶ月ある?」
常識のテストが始まったのだろうか? 僕はそう思い、口を開いた。「十二ヶ月です」
「水の電気分解で発生する気体は何だい?」
「酸素と水素です」
「藍星は太陽系で何番目の惑星だい?」
「ええと、もし地球のことなら三番目の惑星ですが、藍星なんて言葉は聞いたことがありません」
正直、「藍星」という言葉を聞いた時、小説や歌に出てくる表現のような気がした。だが同じように、どんな小説を読んだのか、どんな歌を聞いたのかという記憶も存在しなかった。
「地球? それは小説や歌の中で使われる藍星のロマン化された別称だろう? なぜそれを正式名称だと思ったんだい?」医師が言った。
「地球という言葉のどこがロマンチックなんですか? 藍星こそが地球のロマン化された別称じゃないんですか?」僕は問い返した。
「大地の集まった巨大な球体、ロマンがあるじゃないか」医師は手で丸を描く仕草をした。「まあいい、どうやら確かに意識混乱があるようだ」
その後も医師から多くのテストを受けたが、地球の呼び名に関する点以外、僕はすべて難なく答えることができた。理学的検査にも問題はなかった。記憶が芽生えて以来の一連の出来事に現状の判断がつかずにいたが、テストの合間の暇な思考を使って情報を整理する限り、僕はどうやら——
ビルから落ちた後、それ以前の出来事をまったく覚えていないのだ!
まるで生まれたばかりの赤ん坊と同じじゃないか!
布団カバーに印字された赤い文字を見ては、「へえ、これが赤色なのか。新鮮だな」と思い、
枕元に置かれた花瓶を見ては、「へえ、これが花なのか。新鮮だな……いや、これは造花みたいだな」と思う。
だが記憶を整理してみると、僕は2026年以降に起きた幾つかの重大事件を覚えており、さらには「ハジミ」のようなネットの流行語すら覚えていた。僕の心の中で、両親の地位はくだらないネットミーム以下だというのだろうか?
ごめんなさい、お父さん、お母さん……
そんな取り留めのない妄想をした後、僕が再び視線を医師に戻すと、彼はびっしりと書き込まれたカルテを見つめ、額を押さえて苦しそうな表情を浮かべていた。
おいおい……なんであなたの方が病人みたいになってるんだ?
「君が嘘をついていないのなら、この健忘症に君の名前をつけてもいいくらいだよ」医師は僕に突っ込んだ後、携帯をいじりながら退屈そうに待っていた警察官に向き直った。「この記憶喪失のパターンは極めて異常です。落下による怪我が原因とは思えません。私は……コホン、心因性の要因を疑っています。私にはこれ以上突き止められそうにありません。過去のことに関しては何を聞いても『分からない』の一点張りですから」
「俺の番か?」警察官が顔を上げた。
医師は頷き、僕のベッド脇を離れて警察官と立ち位置を交替した。制服を着た警察官が僕のベッド脇に立つと、かなりの威圧感があった。
「吾賊昂海警擦、儂暁得自家為啥体従楼浪落下来伐?(俺は上海の警察だ。お前、自分がなぜビルから落ちたか分かってるのか?)」
「??」
警察官の口から、僕には理解できない言葉が飛び出してきた。
「それ、中国語ですか? 文字をそんな風に組み合わせられるんですか?」僕が問い返す。
「ふむ、上海語は聞き取れないか」警察官は言った。「さっきの神経学のテストとやらはよく分からんが、結論としては『常識の部分は完全に無傷だが、過去の記憶だけが完全に欠落している』ってことだな? なら、なんで生粋の上海人が上海語を聞き取れないんだ? 脳の中で言語を司る部分と記憶を司る部分は同じ場所なのか?」
「上海語が彼の母語であるなら、上海語は手続き記憶、つまり常識にあたります。ですが、上海語が彼にとって第二言語であるなら、脳内での記憶領域は個人体験と重複することになりますね」医師が補足した。
「僕って生粋の上海人なんですか?」僕は尋ねた。
僕って滬爺だったのか? 記憶がある短い人生の中で、これがどうやら最初の良い知らせらしい。
警察官はポケットから一枚のカードを取り出し、僕に手渡した。
氏名、住所、写真、そして長い身元番号が印字されたカード。そこに書かれた名前は季雨。
「これが僕の身分証明書ですか?」僕はそこに写る写真を見つめた。端正な顔立ちの少年で、やや長めの黒髪と相まって漫画のような雰囲気がある。ただ、「何にも関心がない」と言わんばかりの死んだ魚のような目が、少し評価を下げていた。
「まさか、自分の顔すら覚えていないのか?」
「なんと言いますか、宝くじを引くような感覚でした。元々は、自分がブサイクだったらどうしようかと少し心配していたんです」
警察官は軽く笑った。
「記憶を失った割には、あまり恐怖を感じていないようだな」
「これからどうやって生きていけばいいのか、少し不安なだけです。多くの記憶喪失患者の恐怖感は『自分の一部が欠けている』と感じることから来るんじゃないでしょうか? 僕はただ、自分が何かを欠いているという感覚すら皆無なんです」
「自分がなぜビルから落ちたのかは分かるか?」
僕は首を振った。事故、他殺、自殺という三つの可能性があることは分かるが、まったく見当がつかない。
「お前は自分で飛び降りたんだ」警察官は携帯を取り出してアルバムを開き、再生中の動画を僕に見せた。
身分証明書の写真の人物が、あるビルに入っていく防犯カメラの映像だった。
「それから、これだ」彼が指をスライドさせると、次の動画が再生された。
身分証明書の写真の人物がエレベーターに乗っている映像で、最終的に七階でエレベーターを降りていた。
僕は警察官が見せてくれる動画を一つずつ確認した。すべてビル内での「僕」の移動軌跡であり、非常に鮮明に映っていたため、見間違いの可能性はなかった。
「そして最後がここだ。お前がこの廊下の防犯カメラの撮影範囲を外れた後、先の窓から飛び降りた。実際に飛び降りる動作を捉えたカメラはないが、周囲のカメラを分析した結果、その時間帯に窓の周囲にいたのはお前一人だけだった。窓自体は頑丈で、現在も無傷だ。だから事故の可能性も排除される。お前が自らよじ登って飛び降りたとしか考えられない」
警察官は最後の動画を見せ終えると、そう言った。
なんだかサスペンス探偵ドラマの雰囲気が色濃くなってきたぞ!?
僕は少し汗をかいた。もし僕に自殺志向があると思われると、簡単に退院させてもらえないかもしれない……へたしたら精神病院に送られるんじゃ!?
そんな暗い未来を想像し、僕は苦し紛れに尋ねた。「万が一、密室殺人の可能性はありませんか?」
「お前の対人関係を調べたんだが、お前が以前どんな奴だったか知っているか? 無口で引きこもり気味、存在感が薄すぎて3年間一緒にいたクラスメイトですら、思い出すのにしばらく時間がかかるような人間だった。恨みを買うような敵なんて全く見つからなかったし、高校の担任によればいじめの事実もなかったそうだ。どうだ? 『静かに隅っこで死んでいく』自殺予備軍にぴったりだと思わないか?」
自殺予備軍ってなんだよ? それに、自殺しそうな人間に対してそんな言い方をして本当にいいのか?
「通り魔による密室殺人の可能性はありませんか?」
警察官は再び鼻で笑い、答えてはくれなかった。
僕は少し脱力した。「僕の両親は?」
「死んだ。三年前にな」
警察官が口にした言葉に、僕は目を丸くした。
「三年前にお前の両親は交通事故で亡くなり、お前にかなりの額の保険金を残した。お前はこの三年間、両親の古い家に一人で暮らしていた。お前の祖父母、外祖父母は全員、両親が亡くなる前に寿命か病気で他界している。兄弟も叔父も叔母もいない。つまり、お前の戸口簿には一ページしかない。後見人は……定海路街道弁事処だ」警察官は携帯を確認してから、最後の後見人の身元を口にした。
いや、僕の過去の人生、こんなに悲惨なのか?
ずっと傍聴していた医師が気の毒そうな表情を浮かべた。
いや……まったく実感がない。「家族が全員死んでいる」という荒唐無稽な現実に、僕は笑いを堪えきれそうになかった。
ここで笑うのは良くない。だから僕は必死に耐えた。
警察官は無言で僕の肩を叩き、医師を連れて外に出て行った。
僕は一人病室に残され、得られた情報を噛み締めながら、これからの生き方を考えていた。
◆◇◆
沈彰は病院の廊下の窓辺に立ち、下方を見下ろしながら、手慣れた手つきで煙草に火をつけると、深く一吸いした。
「病院内は禁煙ですよ」
壁に寄りかかった医師が注意した。彼はまだカルテの冊子をめくっている。
沈彰は火のついた煙草を窓枠に押し付けて消し、肺の中の煙を心地よさそうに吐き出した。
「どう思う?」
「さっき私が言った『心因性の要因かもしれない』というのは、あの子が嘘をついている可能性を考慮してのことです。ですが、あなたが身元を話してくれた後なら、長く抑うつ状態にあった人が強い刺激を受けて『|解離性健忘《Dissociative Amnesia》』を引き起こした……ギリギリ説明がつきます」
「そうか? 俺には医学的な『解離性健忘』とも、嘘をついているとも思えんがね。俺はこれでもベテランの刑事だ。18歳の若造が俺の前で嘘をつき通すのは並大抵のことじゃない」
「なら、何だと思いますか?」
沈彰は無意識のうちに、潰れた煙草の吸殻をこね回していた。
「俺には——奪舎のように思える」
「……感覚的には同意したくなるところですが、現実にそんなものはありませんよ」医師は手を広げた。「むしろ彼のような症例なら、現実にも確かに先例が存在します。アメリカ・ジョージア州のBenjaman Kyleや、カナダのKent Cochraneなどが似たような例です」
「そんなことまで知っているのか? しかも現実に先例があるだと?」
「医学雑誌をよく読むので、たまたま知っていたんです。確かにそういう先例があります」
「そうか。先例のある病気の方が、突拍子もない『奪舎』よりは納得がいくな。局にはそう報告しておこう。あの子にはもう一度自殺を図るようなリスクはなさそうだ。街道弁事処の連中に手厚くケアするよう伝えておけば問題ないだろう——突然、記憶が戻ったりさえしなければな」
沈彰の言葉を聞き、医師は頷いてその場を去った。
医師が完全に立ち去った後、沈彰は再び煙草に火をつけた。
「家族が全員死んだと聞いて笑いそうになるとは……演技か、それとも本気か?」
「過去の人間関係が完全に欠落した身元、それでいて生活の痕跡は完璧に作り込まれている。まるで本当に『季雨』という人間が存在していたかのように……誰もがよく知らんが、そんな奴がいたことだけは知っている。ふざけた話だ」彼は煙を吐き出した。「最近の上海はどうなっていやがる……『常識から外れた事件に注意して報告せよ』だの、他の区局から人員を駆り集めて作った特捜班だの、市委員会に突然降って湧いた謎の『合同作業チーム』だの。まったく大したもんだ、最初は汚職の摘発でも始まるのかと思ってたぜ」
「一体何が起きてやがるんだ」
沈彰は相変わらず窓の外を見つめていた。
真夏の陽光が、昨日雨で濡れた土をすっかり焼き乾かしていた。高温で揺らめく空気を通して目に映る景色はわずかに歪み、地面から響くエンジンの轟音と、空から時折聞こえる鳥のさえずりは、これまでと何ら変わりがなかった。まるで昨日の繁華街での飛び降りニュースなど存在しなかったかのように。
「今年第十三号の台風『白海豚』は、8月9日夜から10日未明にかけて浙江省中部から南部沿岸に上陸する見込みです。上海市気象台によりますと、『白海豚』は東シナ海に入った後、移動速度が低下し、進路に不確実性が生じています。北寄りに進んだ場合、上海にさらに深刻な影響を与える可能性があります」
隣の病室のラジオから新しいニュースが流れてきた。今日の上海もまた、多忙で平和だった。




