二話め
話の流れはほぼ実話。
登場人物の名前は変えてあるし、会話もそのままではありませんが、こういうことが本当にあったんですよ〜。
翌日、めぐみは太田にノートを渡した。太田はすぐにぱらっとめくって不満そうな顔になる。
「あれ、絵は描いてくれないの?」
「苦手だって言ったじゃない」
「でも、西野さん、美術部だよね?」
「美術部だからアニメキャラが上手いとかないよ。わたしが好きなのは風景画だもん」
「そうなの?」
首を傾げる太田は可愛らしい顔をしているが、めぐみには全く響かない。
めぐみの一つ下の弟は美人と言われた母似で幼児の頃は女の子に間違われるほど可愛かった。今ではめぐみを追い越しそうな背丈に成長して、姉をババアと罵ってきたりとすっかり可愛げがないが。
かわいいかわいいとチヤホヤされた弟はワガママに育った。
ヤツは親の目の前でコップをひっくり返して卓上を水浸しにしたくせに、堂々と「姉ちゃんがやった!」とかほざきやがったのだ。わずか五歳児にして、この傍若無人ぶりである。
めぐみは『こいつ、バカか⁉︎』と弟の頭が本気で心配になったし、親もさすがに『これはない』と猫可愛がりを修正するようになった。
それまでは、何かあるたびに「お姉ちゃんでしょ」を発動されていた。弟がやらかしたのに、何故か叱られるのはめぐみで何かと理不尽な目に遭ってきた。今ならわかるが、「お姉ちゃんでしょ」は親の怠慢だった。
勝手に依怙贔屓して弟を増長させたくせに、弟のやらかしはめぐみに責任転嫁だ。そのせいで弟は立派な問題児に育った。
ようやく、このままではマズいと危機感を覚えた親がワガママを矯正するようになって、ワガママが通じなくなったヤツはおねだり技術に磨きをかけた。
弟のあざとさ加減を見慣れているから、太田の上目遣いに感じるものは何もない。『へーそれで?』と受け流すくらいだ。
ちなみに父似のめぐみは『凛々しい眉で、九州男児だったらモテそうだよね』とフォローになっているのか微妙な評価をされたことがある。
思わず、『九州男児限定って何⁉︎』と思いきりツッコんでしまったが。
話はそれたが、めぐみは毎年写生会では何かの賞を取っている。
金・銀・銅に入賞とあるが、なぜか金賞だけは取ったことがない。友人たちにはそれで揶揄われることもあるが、去年は銀賞だ。同じクラスだったのに、太田は覚えていないらしい。今年は銅賞でまだ教室の壁に展示されているが、彼女の目には映っていないのか。こいつの目はふし穴か? とめぐみは不審に思った。
それくらいの仲で交換日記とか。
めぐみは違和感を覚えていた。交換日記は友人と交わすアイテムのはずだ。
流行ってるからやってみたいくらいの感覚なのだろうが、全くノリ気でないめぐみには迷惑でしかない。
友達いないのか、こいつ? いや、そんなことはなかったと思うのだが・・・。
「絵を描いて欲しいなら、別な人とやりなよ」
「え、そういうわけじゃないの。西野さんと交換日記したくて」
上目遣いでおねだりされてもねえ、とめぐみはすっかり白けた気分だ。やりたいのは太田でめぐみではない。
瀬戸は無理だから、佐藤にでも話を振るかと、後で友人に話してみることにした。
「えー、やだよ」
「やるわけないじゃん」
すげなく佐藤に断られた。その上、瀬戸にもダメ出しされる。
瀬戸よ、貴様には聞いておらん。
「それに、あのアニメ見てないし」
太田と盛り上がったアニメはあまり人気のないマイナー作品だ。だからこそ、太田はめぐみと交換日記で語り合いたいのかもしれないが、めぐみはアニメ以外には興味がないわけではない。
交換日記の最初のページに太田から『引き受けてくれてありがとう♡ これから、よろしくね♡』と丸っこい文字で書かれたが、めぐみは簡単な自己紹介で返した。無駄なハートマークどころか、一切の記号は無しだ。
趣味は読書で、シャーロックホームズ全集が愛読書、面白いよとお勧めしておいた。
もちろん、太田の趣味ではないとは予測済みだ。
めぐみはミスマープルなどミステリーが好みだが、他のジャンルもよく読む。流行りのライトノベルや若草物語や赤毛のアンなど文芸作品だって読む。少女漫画や弟が買っている少年ジャンプもだ。気が向けば、手に取る感じでまあ雑食系か。
太田の好みで言えば、恋愛系か少女小説系なのだろうが、強制された交換日記で彼女を喜ばせるつもりはない。むしろ、早く解放してくれ、とわざわざ相手の興味のない会話を心がけている。
それでも、太田はめげないというか、彼女のほうから好きなキャラの絵を描いてきた。
「へえー、上手いじゃん」
「ほんとだ、意外だねえ」
ノートを見た瀬戸と佐藤が感心している。興味がなくてアニメそのものを見たことはないが、主人公のキャラくらいは見かけたことがあるらしい。
太田はまるまる一ページ使ってドアップの主人公の顔を描いてきた。交換日記は一人一ページと決めてあった。どんなに余白が余っても次のページを使うから、太田は絵だけで自分の分を終了させた。
何を書けばいいのか憂鬱なめぐみにはウザいなとしか思えない。
「ねえ、代わりに描いてくれない? 一ページ全部使っていいからさ。絵は描かないって言ってるのに、一度だけでもってしつこいんだよ」
「にししが引き受けたんじゃん。自分で描きなよ」
「そのアニメ、見たことないからよくわかんないよ」
瀬戸にも佐藤にも拒否された。実に友達甲斐のないヤツらである。
「それにしてもさあ、なんか温度差がすごいよねえ」
佐藤が面白そうにノートをめくっている。
めぐみは数行の感想文のようなものを書いていて、絵文字も記号も使っていない。本当に文字のみの記入だ。(笑)やwwwwさえも使っていない。
太田はアニメへの熱い思いや好きなキャラの絵に一ページいっぱい使っている。余白はほとんどなしだ。
「キャラ描いて、それで終わりにしようかな。書くことないし、つまんないし」
「もともと向こうが無理矢理押し付けてきたんだし、やめたかったらやめれば?」
「ノートの受け取りしなきゃいいんだよ」
佐藤も瀬戸も気軽に言ってくれるが、断っても押し付けてきた太田が諦めてくれるかどうか。
「やめたいって言ってみるけどねえ」
めぐみは憂鬱そうに息を吐いた。
本編六話におまけというか、まとめ編で全七話になります。最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。




