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【改訂版】夢のつづきを見にいこう  作者: 羽藏ナキ
第三章:恋する少女

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アニメの世界

 あの廃墟のような雑居ビルは昨日と同じ場所に佇んでいた。不気味に思える雰囲気も中身を知ってしまえば怖くない。むしろ変わらずこの場所に在ることが安心感を与えてくれていた。

 二階に上がり部屋に入ると、ふわっとココアの香りが流れてきた。右手側の台所で夢野さんが片手鍋を火にかけているのがチラッと見える。


「いらっしゃいませ。すみません、いま手が離せなくて、椅子にかけてお待ちください」


 夢野さんもわたしに気づき、少し身体を逸らしながらそう言った。


 わたしは軽く会釈してから目の前に椅子に腰かけた。きょろきょろと視線を移してみたが、内装も特に昨日と変わりはない。手持ち無沙汰になるとついクセで周囲を見渡してしまう。

 このお店はずっとこの場所に在り続けるのだろうか。建物だけ見ればいつ無くなってもおかしくない。商店街だってずいぶんと寂れてしまっているから、もし商店街が無くなったら一緒にこのお店も消えてしまうかもしれない。アニメの世界みたいに、この場所が自分だけが迷い込める特別な空間だったらいいのに。

 そんなことを考えていたら、夢野さんがカップを二つ持って戻ってきた。カップからはほんのりと湯気が立ち、一緒にココアの香りも広がってくる。


「なにか浮かない顔をされていますね。もしや、夢が見られなかったとかですか?」


 カップをテーブルに置き、向かいの椅子に座った夢野さんが心配そうな声を出す。


「いえ、そんなことは。ちゃんと見られましたよ。望んだ夢が見られるなんて、まるでアニメの世界みたいで感動しました」


 わたしはそう言ってすぐ、しまった、と思った。

 沈んだ気持ちを隠すためにいらないことまで喋ってしまった。アニメが好きなことは決して悪いことではないけど、わざわざ打ち明ける必要もない。下手をすれば「オタクじゃん」とバカにしたような口調で言われてしまう。そうやって理不尽に見下されている人を、学校で何人か見たことある。ラノベを読んでいるだけで、少しマイナーな漫画やアニメの話をしているだけで、ただ二次元の世界が好きなだけで、目の敵にされてしまうのだ。

 だけど夢野さんは、そんなわたしの心配とは裏腹に「アニメの世界……いい表現ですね」と優しく笑った。


「確かになかなか体験できることではありませんから。そう言ってもらえるとうれしいです」


 わたしは自分を取り巻く空気が温かくなったように感じた。


「アニメ好きなんですか?」


 うれしくなってそう聞くと、夢野さんは「ええ」と即答した。


「ハラハラドキドキのバトルも好きですし、ほのぼのとした日常や恋愛ものも好きですね。いろんなジャンルのものを見ていますよ。どの物語も私に癒しや感動を与えてくれますから」


 同じだ。わたしも同じ。

 わたしがアニメにハマったのも、多様な物語に胸を打たれたからだった。

 自分の周りから友達がいなくなってから、わたしに残っていたのは一人で過ごす時間だった。宿題だけでは埋まらない時間をどうするか考えて、選んだのがアニメの視聴だ。同じ映像作品という観点ならドラマとかバラエティー番組とかもあったけど、この時は特に、生身の人間を見たくなかった。それにもともとドラマとかよりもアニメの方が好きだった。


 ちょうどこの時にお父さんからポータブルテレビを貰って、わたしの世界が大きく変わった。自分の住んでる地域では見ることのできないアニメや、それまでなんとなく敬遠していた深夜帯のアニメを簡単に見ることができるようになったのだ。自分の知らない物語がたくさんあって、そのどれもが感動を与えてくれて、心を満たしてくれた。深夜帯のアニメは、いまとなっては視聴リストのメインとなっている。


 スガッチを知ったのもこの時なんだよな、とわたしは思い出しながらクスッと笑う。わたしもだけど、アニメにハマった人はたいてい声優にも興味が向いていく。キャラクターに命を吹き込んでいる声優がどういう人なのか知りたくなるのだ。ラジオを聞いたり、特集の番組を見たりして、たくさんの声優の中から自分の推しが生まれる。


 わたしにとってはそれがスガッチだった。

 演技力だけじゃなくて歌唱力もあって運動神経は抜群で、でも頭を使うことは苦手でちょっぴりドジなところもあって。いろんな面を知って、そのたびに好きになった。彼のことを知れてよかった。スガッチに、アニメに、救われているとわたしは本気で思っている。


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