幼馴染
わたしと森田君は、実は幼稚園からの幼馴染だ。家が近所で母親同士の仲が良かったこともあって、小さい頃はよく二人で遊んでいた。この時はまだお互いを「良介君」「千沙ちゃん」と名前で呼び合う関係で、一緒にいるのが当たり前だった。
そんな仲良しの幼馴染だった私達の距離が離れていったのは小学五年生になってからだ。きっかけは森田君がモテ始めたことで、モテの要因はいまと同じ。彼が優しくて運動神経抜群だったから。この時から、森田君は地元のサッカーのクラブチームに所属してエースとして活躍していて、体育の授業や運動会でも目立つ存在だった。
小学生の頃なんていまと比較しても勉強より運動ができる男子がもてはやされるものだし、女子は女子で高学年にもなれば色恋沙汰に興味が出てくるから、彼の人気が沸騰するのは当然のことだったんだろうなと思う。
誤算があったとすればそれは、彼に好意を抱いた女子達の行動力だ。当時、多くの女子が森田君との接点を増やそうと躍起になっていた。例えば、クラブチームの練習や試合を見に行ったり、学校のグループ活動でなにかと理由をつけて同じ班になろうとしたり。
彼女達の森田君への興味関心はどんどん膨れ上がっていき、そして目をつけられたのが幼馴染であるわたしだ。何人もの女子達がわたしに森田君のことを訊ねてきた。好きな色やお菓子から始まったと思えば、好みの女子のタイプや髪型、服装などあからさまに意識した質問に変わり、ついには、
「千沙ちゃんって、森田君と付き合ってるわけじゃないんだよね?」
と、探りを入れられた。
この質問が私への牽制であることは小学生ながら理解できた。だからわたしは答えた。
「そうだよ。わたしと森田君はただ家が近所なだけで付き合ってなんてないよ」
その場を取り繕うように手を振り笑いながら。
他にも、彼との仲を取り持ってほしいと頼んでくる子も居た。わたしをアテにする子達は決まって「私達、友達でしょ?」と言ってくる。その一言を添えれば、自分の要求が通ると思っているのだ。
わたしはそんなやり取りが嫌になって、森田君から離れた。彼女達にとっての利用価値が無くなれば解放されると思ったから。わたしの状況を把握していたのか、同じタイミングで森田君もわたしを避けるようになり、わたし達は必要最低限の会話しかしなくなった。
こうしてわたし達は「森田君」と「天野」になり、特別な仲を感じさせないわたし達を見て安心したのか、変な探りを入れてくる人、わたしをアテにする人はいなくなった。
そして同時に、私にとって友達と呼べる人もいなくなった。
ぼーっと歩いていたらいつのまにか商店街の前まで来ていた。相変わらず人通りは少なく、シャッターが下りている店が目立って見える。夕日の淡い光に包まれた商店街は、いまにも消えてしまいそうな儚さがある。
久しぶりに森田君と話したからか、思い出さなくていい記憶が霧のように頭の中に立ち込めていた。わたしはそれを振り払うようにぶんぶんと首を振る。自分を幸せにしない記憶なんていらない。
いま、わたしが欲しいものは……。
わたしは早足になりながらまっすぐあのお店へと向かった。




