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【改訂版】夢のつづきを見にいこう  作者: 羽藏ナキ
第二章:家族

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やり直し

 雑居ビルを出てからは、まっすぐ帰らず酒屋に寄ることにした。

 酒を切らしたわけじゃないが、缶ビールばかりで少し飽きてきたから他の酒が飲みたくなった。少し奮発して、高めのワインか日本酒でも買うか。


 酒屋に入ると、俺は普段は足を向けない日本酒とワインのコーナーに寄り、それぞれ一本ずつ取ってレジに向かった。

 レジ台に乗った二本を店主のばあさんは大きく目を見開いて見つめ、そのまま視線を俺へと移した。


「珍しいこともあるもんだ。どういう風の吹き回しだい?」

「別に、ただの気分転換だよ」


 そう言うと、ばあさんは「ふーん」と呟きながらジロジロと見つめてきた。

 品定めでもするかのような執拗な視線に俺は身じろぎする。


「なんだよ」

「あんた変わったね」


 ばあさんは微笑みながら言った。

 思いがけない優しい口調に、俺はつい黙ってしまった。


「顔色が良くなった。それに、雰囲気も柔らかくなったね」

「どうだろうな」


 俺はそっぽを向き、緩みそうになる頬をきゅっと引き締める。


「これなら、奥さんと娘さんも戻ってきてくれるかもね」


 気分が上がったのも束の間、ばあさんの一言に俺はハッと息をついた。


「まさか、もう戻ってくることなんてない……もういいんだ」


 最後のひとことだけ湿っぽくなった。

 ばあさんは数回まばたきしてから、鼻で笑う。


「素直じゃないねぇ」

「あ?」

「諦めるにはまだ早いんじゃないのかい? 人生っていうのは思ったよりもやり直しがきくもんなんだよ」


 やり直しか……。

 陳腐な言い回しに今度は俺が鼻で笑う。


「俺には無理な話だな」

「諦めるには早いって、いまさっき言ったばかりだろ」


 ばあさんは心底呆れた様子でため息をつく。

 その仕草がさらに俺をイラつかせた。


「余計なお世話だ」


 俺は財布を取り出し、早く会計を済ませるように目配せする。

 少し睨みをきかせたつもりだったが、ばあさんは余裕の表情で日本酒とワインにバーコードを打ち、レジ袋に詰める。


「余計なお世話も年寄りの立派な仕事だよ」

「口の減らねぇばあさんだな」


 俺がため息をつきながら一万円を放ると、ばあさんはレジからお釣りを取り出した。


「あたし相手には思ったことを口にできるのにねぇ」

「……どういう意味だ?」

「自分の気持ちに正直になってもいいじゃないかってことさ」


 ばあさんはニヤリと笑いながらビニール袋を差し出した。

 わけが分からねぇ。これ以上話しても時間の無駄だ。

 俺はお釣りとビニール袋を受け取り、さっさとドアに出入り口に足を向ける。


「あんたも少しは素直な気持ちをぶつけてみたらいいのに」


 背中越しにばあさんが言った。

 どこか含みのある物言いに聞こえたが、俺は何も言わずに店を出た。




 商店街を抜ける途中、遠目に制服姿の女の子がいて心臓が逸った。

 ……もしかして、美央か?

 女の子は右手側にある文房具屋に入っていった。俺は歩調を速める。文房具屋の前まで行き、ガラス張りの正面からチラッと中を覗いた。商品棚を見つめる女の子を見て、俺はため息を漏らした。

 違った。美央じゃない。


 顔はよく見えなかったが、制服がこの近くの中学校のものだった。美央はいま高校生のはずだから年齢が合わない。それに、美央が地元の中学校に通っていたはずがない。

 なにごともなければ、あの家から通うはずだった。そして俺は、制服に身を包んだ美央の姿を見られたはずだった。だが、現実ではそうならなかった。


 俺は再び歩き出す。

 曇り空のせいで少し日が傾いただけでも商店街に落ちた陰が濃くなって見える。


 美央がこんなところにいるわけがない。少し考えれば分かることだった。美央と里美は、もうこの町にはいないのだから。

 どうやら少し生活習慣を見直したくらいで自惚れていたみたいだ。だから、他人の制服姿を見て動揺するんだ。


 勘違いするな。

 俺の理想は、もう現実では望めないのだから。


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