前編
【燕頷虎頸】...武勇に秀でた者の容姿を表した言葉。燕のような顎と虎のような首の太さを持つ者の事を言うらしいです。
ぶっちゃけ言葉に燕が入っているから入れただけです。
他意はありません。
乙黒邸の縁側で何かのアルバムを取り出し、目を輝かせながら写真を見る燕の姿があった。
それを偶然、実家に訪れていた合蔵が見つける。
彼は後ろから燕に話しかけた。
「随分とまぁ古いアルバムを取り出して来たね。全部セピア色だ」
「おばあちゃんがね、押入れにあるよって教えてくれたの!見て!ほら、おじいちゃんと斑鳩おじちゃんの若い頃の写真もあるよ!凄いかっこいい!これって何色の制服を着てるの?」
「確か、この時は淡い緑色だったかな。新しい制服になったから記念に撮ってもらったんだよ。お祖父ちゃんはほら、上着が燕尾服になってるだろう?」
「本当だ!うんうん、2人ともタイプの違う王子様って感じがするね!お祖父ちゃんは凛々しくて、勇敢な男前で。斑鳩おじちゃんは穏和で優しそうな感じ」
「確かに初めて奥さんにあった時も虫も殺せなさそうな、優しい、物語に出てきそうな王子様だって言われた事あるね。これでも、狙撃者として好成績を叩き出してたんだけどね。割と血生臭い事やってたんだよ」
「燕、知ってるよ!斑鳩おじちゃんは普段はとても優しいけど戦いになると凄い獰猛なんだって。そのギャップが良いんだよ。平美おばさまが虜になるのも分かるな」
平美とは先程から話しに出ている合蔵の妻の事である。
斑鳩家の1人娘で、実業家の父を持ち数多の土地を有しているという。
主な生業は製鉄業で、お抱えの牧場も持ち、家の広大な庭にもオリーブ園があるという。
老舗の由緒正しいお嬢様と言えよう。
斑鳩家は富士宮家とも縁があり、そのお抱えの牧場から生まれた卵や精肉などを納品するというお得意様のような関係性でもあった。
分家筋からも運び屋が生まれていた事もあり、そう言った職業にも理解ある家柄でもある。
合蔵と平美の縁談は富士宮家からの紹介によるものであった。
合蔵は兄、燕治郎と共に富士宮家出身の母親を持っている事からも親戚筋にあたる。
しかし、それ以上に周囲からの疑惑の目や嫁ぎ先である斑鳩家からの合蔵の評価というのは悪い物であった。
そんな当時、板挟みだった時の事を彼は教えてくれる。
「一般の人から見たら、私達兄弟は血生臭いというか血気盛んな兄弟に見えていたようだね。あの兄弟が道を通ると何も残らないとか。妻も結婚前にそんな話ばかり聞かされてそんな夫が輿入れしてくるのだと怯えていたよ」
苦笑いしながら言う彼に対して、燕は反対に目を輝せていた。やはり、名門乙黒家の血がそうさせるのだろう。
「凄いよ!凄くカッコいい!良いな、瑞穂や咲羅も勿論大切な存在だけど兄弟で活躍してるって普通に考えて凄い事だよね。憧れるな」
「だけど、良い事ばかりでもないんだよ。勿論、おじいちゃんは私の事を庇ってくれたけどね。周囲は兄と弟、どちらが優秀か?で派閥争いをしてたんだ。後継者争いだね。両親も私も勿論、兄が継ぐべきと思ってたし。いつまでも、私は兄を支えて行こうと思っていたけど思っている以上に火種が広がってね。自分達の知らない企業とか団体が介入してくるようになってしまったんだ」
「それは凄いね。だから、それを納める為に斑鳩おじちゃんはお婿さんになったって事だね。でも、やっぱりおじちゃんって穏やかで優しそうだし言ってしまえば近寄ったら操り人形に出来ると周囲の大人達は思ったのかもしれないね。何も言わなさそうだし。でも、燕はちゃんと分かってるよ。誰よりも芯が強いって事」
「ありがとう。私はね、家が大好きなんだ。乙黒家も斑鳩家も両方ともね。自分の妻や息子だけじゃなくて兄や燕ちゃん。親戚の皆の事を大切に思ってる。だから、こうして家に通ってるんだよ」
「そうなんだね。燕はね、斑鳩おじちゃんが婿入りしてくれて良かったと思ってる。勿論、兄弟の後継者問題は抜きにしてね。家の事を大事に思ってくれているからこそ。違う家に行ったとしても上手く行くんだよ。結構大変らしいよ、上手く行かない事の方が多いんだって。ドラマでやってた」
その言葉に彼はクスリと笑っているようだ。
「まあね、私は恵まれた方だよ。昔は男性が少なくてね、正直言って子孫を残せなかったらお役御免みたいな。酷い環境だったんだ。女性側も極端な考えを持っている人も多くてね。男性を大事にしてくれない。物扱いする人もいたって言うし。環境的にもかなり荒んでたって言うのは否めないかな」
「...そうだよね。裕福な家庭でも、子宝に恵まれるとは限らないし。それで焦ってしまう気持ちも分からなくもないけど、男性側だって選べないんだしお互い様だよね?」
「燕ちゃんは大人だね。まぁ、どうしても相手に恵まれないと男性側の人生は狂ってしまうからね。見放されたら、亡霊のように彷徨うしかなくなるし。だから、手に職をつける人が此処には多いんだと私は思うよ?」
「相手に依存しないようにって事だね。青い血の人だって、芸能とか美術とか工芸、音楽に精通してるし。赤い血の人達だって運び屋やってるしね。そっか、なんか比良坂町の事がまた分かった気がする!話してくれてありがとう、斑鳩おじちゃん!」
「私も自分の経験だけじゃなくて、この町に住む人達から聞いた話を燕ちゃんに伝えてるだけだからね。お礼を言われる程じゃないよ。長生きしてるだけだ」
「そう言う所がかっこいいんだよ!年の功ってやつ。ねぇねぇ、もっと昔の比良坂町の事教えて欲しいな。お祖父ちゃんとの思い出とかさ、教えて!」
「そうだね、じゃあ。あの時の事を話そうかな?」
そのあと斑鳩は兄燕治郎との思い出話を始めた。




