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第肆拾仇話 楽器

阿闍梨との合流を果たした後、住職の願いもあり隣接している神社へと足を運んだ。

朱塗りの美しい社殿は勿論の事、藤棚の名所としても有名である。

そんな中でさぞ当然のように法衣姿で闊歩する彼の姿に児玉と山岸は苦笑いを浮かべていた。


「でも、意外だよな。普通、神道と仏教って全然違うといううか。敵対関係にありそうなのに、こうやって手を取り合う事ってあるんだな」


「土地柄もあるでしょうがね。ほら、神宮寺っていう苗字があるでしょう?神宮と寺が一緒になってる時点で可笑しいというか。融合させてしまう発想が昔の方々にはあったようですね」


神主に社務所に案内された一室には中身のわからない古めかしい木箱の数々があった。

中を開け見せられたのは舞、神楽等で使われていそうな鈴や笛、琴は勿論のこと。

次に古めかしい和楽器用の楽譜も広げられ皆に見せるように置かれている。

そのあと、状況説明を受けた。


「神楽自体は我々の神社でも行われておりまして、狂言と共に沢山の方々に楽しみにして頂いてる年間行事でもあります。先日、同じく神楽で扱う扇の破損が見つかりまして関連の物を点検しようと言う話になった際にこれらの物が見つかりまして」


依頼を受けた阿闍梨は勿論、他のメンバーも白い手袋を装着し出来るだけ触らないよう、目視で慎重に確認しているようだ。


「しかし、用途不明と言う事はこれらの楽器や楽譜は通常では扱っていないと言う事ですね。普段使いの物に紛れて、これが見つかったと」


確認するようにそう問いかけると、神主は躊躇いながらも頷いた。なぜ、自分達の神社でこのような品々が出てきたのかが不明ということなのだろう。

児玉や山岸も様々な違和感を持ちながら楽器類を眺めていた。


「正直、古めかしいを通り越して楽器と言っていいのかも分からないな。琴は弦もそうだが、木材にカビが生えて完全に劣化してるし。以前、望海から聞いた事があるんだ。琴を習っていて、板になる(きり)は軽くて丈夫だから4、50年は保つって聞いて驚いたが恐らくそれ以上の年月は経過してると思うんだよな」


「隼も弦楽器の寿命は他の物に比べて長いって言ってたし、弦さえ張り替えればずっと使っていられるっていうのが大きな特徴だよな。その分、高額でもあるけど」


二人には望海や隼と言った芸能や音楽に携わる関係者が近くにいる事も合わさってある程度の知識を持ち合わせているようだ。

楽器の状態を見て、かなり昔に製造されそのまま放置されてしまった物達であると踏んでいるようだ。


「なら、もしかしたらこのがっき。ひゃくねん、いいや。にひゃくねんまえにつくられたものとちゃいますの?これだけれっかしていたら、そうかんがえてもおかしくないとおもいますけど」


吉乃の言う二百年という年数を基準とするならば、比良坂町黎明期、良いやそれ以前に制作された物という事になる。

朝風や野師屋が亡命するより以前からこの楽器たちは存在し、比良坂町を見守ってきた。


この物達の役割はなんなのか?単純にこの神社のように神楽を行う為の物なのか?

様々な可能性は勿論、疑問符が思い浮かぶ中で零央はある事に気づいたようだ。

彼は、黄金に輝く神楽鈴に指差した。


「パパ!このリンリン?シャンシャンはきれいだよ?どうして?」


「この鈴は恐らく純金で出来ているんだろうな。金メッキならそれが剥がれて錆びるからな。ほら、旭がいつも首にかけてるキラキラしたネックレスがあるだろう?それが純金。反対に希輝が好きな金箔のソフトクリームは偽物だ」


金箔と言うのは金は勿論だが銀や銅を混ぜた合金の為、純金ではない。

その言葉に零央は驚いたのと同時にある想像を膨らませる。

彼女のあのキラキラした髪は全て金箔であり剥がれ落ちてしまうのではないか?と。


「たいへんだ!ききちゃんのキラキラがはがれちゃう!れおがまもらなきゃ!」


「子供の想像力と言うのは大変奥深い物ですね。しかし、その金箔が剥がれた姿というのも興味を(そそ)られますね」


児玉は以前、会話の中で光莉が彼女に憧れ同じ髪型にしようと美容院に行った事を思い出す。

もし、希輝が彼女と同じように髪を染めてるとしたら勿論地毛というのは存在するはずだ。

しかし、それと同じく彼女には変身願望があるようにも児玉は感じとりそれ以上は深入りしないように思考を止める事にしたようだ。


今の彼女と昔の彼女に何か差異でもあるのだろうか?

そんな事を考えていると山岸がある事を教えてくれた。


「そういえば、以前。旭がこんな事言ってたんだよな。和菓子屋のお孫さんと協会にいる女子高生がソックリだって。同じ着物姿で、黒髪に青い瞳をしてたから俺の働く姿を見て入会したのかと勘違いしたって言ってたんだよな。でも話を聞いたら声も違うし、眼鏡をお孫さんはかけてたから違うよなって。…あれ?俺、なんか変な事言った?」


室内がシン…と静まり返るので山岸は自分で言って困惑してしまったようだ。

阿闍梨は少し考えこむと自分の交友関係から旭の言いたいことを自分なりに解釈したようだ。


「望海さんのドッペルゲンガーがこの街に潜伏してる…という事を旭さんは言いたいのではなくてですね。恐らくなんですが希輝さんの以前の姿がそのような容姿だったと言う事なんでしょうね」


「ききちゃんって、のぞみおねえちゃんにソックリなの?じゃあいれかわったらどっちがどっちかわからなくなっちゃうね」


「いいや、そうとも限らないぞ。花紋鏡で見れば…ってそれは変化をしている相手の真の姿を見せる物か。確かに、それが真の姿だって言うなら本当にわからなくなるな」


「案外、希輝も同じく富士宮家の子孫だったりして!でも、可笑しいなそれならどうして富士宮さん本人は何の反応も示さないんだ?小町の時と一緒だ。隼が聞いてみたけど、違うって直接彼女に言われたみたいだし。何だ?なんで、運び屋の中に似て非なる存在がいるんだ?共通の祖先でもいるのか?それとも?」


しかし、その会話を遮るように「ボーン」「ボーン」と時刻を知らせる時報の音が聞こえてきた。

時刻は17時となり、神主は何度も頭を下げながら閉門の時刻を過ぎていると皆に忠告しているようだ。


「お呼び立てしたのにも関わらず申し訳ありません。今日はこれにてお開きという事で。成田さんの所は後日、何か分かりましたらご報告をさせて頂きたいと思います。とはいえ、私共も粗方資料は探ってはみたのですが何も手掛かりが得られず。皆様に助言を承っている状態ですからこれ以上の事は難しいと思いますが」


「いいえ、元々用途不明の楽器類なのです。気長に参りましょう。…とはいえ、今なお此方の神社にあるという事は何か先人達は後世に語り継ぎたい物、或いは用途があると検討がついているという事なのでしょうか?殿でも知らぬ何かがこの比良坂町にはあるという事ですね」


ブツブツと独り言を呟く阿闍梨に此方の存在を気づかせる為に児玉は軽く彼の肩をトントンと二度叩いた。


「そういえば、阿闍梨はこれからどうするんだ?もしこの後、時間があるなら俺達と夕食にしないか?賢治達も大歓迎だって言ってるし」


「宜しいのですか!?実は私、伊勢海老を堪能したいと以前朱鷺田さんとそのような話をしておりまして。是非!是非、同行させて下さい!サーフィンは出来ますか!?勿論、出来ますよね!?夢のツアーと聞き及んでいますよ」


「おぉ!これはまた、元気な和尚さんがやってきましたなぁ。せやけど、伊勢海老はまた明日!今夜は丁度、4対4ですし合コンを洒落込みますか!」


「なんでやねん!やった!パパ、れおちゃんとできたよね?」


「いい仕事をしたな、零央。これで立派なツッコミ担当だ。だとしても、今夜と明日は笑いの絶えない楽しい時間になりそうだな」

《解説》

前回、訪れた寺は興福寺。今回登場した神社は春日大社をモデルとしています。

ここら辺一帯は奈良の世界遺産として登録されています。

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