第肆拾肆話 職業病
「としひこおにいさん!」
「零央君!会いたかったよ!」
協会にてまるで運命の出会いでも成し遂げたように零央は両手を広げる山岸の元へ向かい抱きしめられているようだ。
「あれ?と言うか、今回のツアーって俺達3人だけ?」
山岸が周囲を見渡すと、確かに自分と児玉、零央の姿しかないように見えた。
「肆区のツアーも同じく三人らしいな。だが、現地の運び屋は勿論。今回は三人に対して、四人のガイドが付くって言う豪華使用だからな。零央も凄く楽しみにしてるし、張り切ってるぞ」
「れおね、やまとのシカさんにあいたいんだ。ごはんあげるの。あとね、かきごおりたべたい!」
「あぁ!鹿せんべいの事か。大和ってかき氷が有名なの?俺、参区は疎いからな。向こうの事、色々教えてね」
「うん!じゃあパパ!すいぎょうがわまでつれってて!」
「よし、行くか。そこから参区の大和が待ち合わせ場所だな。賢治達がお出迎えをしてくれるらしい。楽しみだな」
大和に向かうと遠目からでも分かりやすい色鮮やかな衣服を身に纏った四人の運び屋が児玉達を出迎える。
それぞれガイドらしく旗を振っているようだ。
そんな中で今回のツアーガイドの一人である島風賢治は太陽のような笑顔でご挨拶をした。
「皆さん、お待ちしておりました!此方です!まぁ、偉い人ばかり。総理大臣に、大統領に、零央様まで。ようお越し下さいました」
参区の運び屋らしく、軽快な挨拶に児玉は苦笑いし山岸は楽しそうに笑っていた。
「すみません、三対三なら合コン出来たんですけどね。ウチ、火神千鳥も今回のツアーに同伴させてもらいます。なんやほら、原始時代から永遠と物騒でしょう?これなら出番ももらえると思って、でしゃばって来たんですわ。センターは任せといてください。この為の真っ赤な衣装ですから」
「おい!賢治に千鳥!大喜利をしにきた訳ではないんだぞ!参区の運び屋はお笑いに命をかけているからな。僕の名前は青塚奏、職業はしがないピアニストだ。ぷぷっ、詩がないピアニスト」
奏の言葉を隣で聞いていた吉乃は寒そうにしながら自身の肩や腕を摩っている。
「まぁ、きょうはえらいひえますね。はづきなのに、はがおちてしましましたわ。みなさん。うちらのきょてんで、あふたぬーんてぃーをよういしております。ぜひ、ごたんのうください」
そのあと、四人の拠点であり今回の宿泊場所に案内された。
ダイニングルームの椅子に座る三人の姿があり、紅茶やケーキスタンドの内容を紹介されている。
嗅覚を刺激する紅茶と食欲をそそる品々に以前ツアー資料で確認した物、いやそれ以上に実物は写真よりも魅力的に皆の目の前には映るようだ。
これはこれから向かう自社仏閣も楽しみな物になるなと楽しみを膨らませており、実際に零央はウキウキした様子で椅子のお利口にしながらもキョロキョロと周囲を見渡しているようだった。
「下段にはカツサンド、中段にはバターサンドとマカロン、上段にはモンブランとチョコケーキ。僕の吉乃が考えた特別メニューだ」
奏の説明に児玉と山岸は目を輝せ、喫茶店の新メニューや新しくレシピの参考になると写真を撮ったり作り方を奏と吉乃に聞いているようだ。
それに気にも止めず、零央は一直線に手を伸ばし美味しそうに豚まんを口にしていた。
「ねぇ、パパ。どうして、にくまんをぶたまんっていうの?いっしょだよね」
「おっ、良い所に気づいたな零央。参区の人達は肉って言ったら牛肉。牛さんのお肉の事を言うんだ。実際、沢山食べるしな。ほら、肉じゃがとか肉うどんも全部牛肉を使うだろう?」
「異国の言葉でビーフを牛肉は勿論、肉全般を言うのと一緒か。豚肉はポーク、鶏肉はチキンだしね。でも、今回のツアーでは大きなエビを食べられるらしいじゃん?伊勢エビのパエリアだっけ?」
山岸が視線を向ける先には賢治がおり、今回のツアー内容について教えてくれる。
「皆さん、俺らよりお得なツアーなんてありませんよ!業者を値切って!値切って!やっと予算に納めたこのツアー、普通なら赤字経営ですわ。見てくださいよ!ひーちゃんを!閑古鳥が火を噴いてますわ、これは消化器持ってこないと」
「ウチは閑古鳥やありません!すみません、参区ジョークは風のようにビュンビュン吹きますからね。皆さんの背を押してしまいますわ。宿泊はここをお使いください。今日の夕食会場も此方になります。この周辺は有名な寺社仏閣が集ってますので観光に便利なんですわ。ルーレットで決めても困りません」
賢治と千鳥の会話を父親に抱き抱えられながら零央はキョトンと聞いているようだ。
「パパ、れお。なんでやねんっていついえばいいの?こまっちゃった」
「ははっ!零央も参区の文化に染まってきたか。ここの人達は面白い事が大好きだからな」
「なんでやねん!」
児玉と零央はお互いに微笑みながら楽しそうに会話をしているようだ。
そんな中で山岸は賢治から行き先が書かれたルーレットを渡され全ての判断を委ねられてしまった。
しかし、それには問題があるようで色々とツッコミ所があるようだ。
流石は参区の運び屋達はお笑いにも小物にも手を抜かないようである。
「これ、行き先2つしか書かれてないじゃん!しかも色の仕切りもない。寺と神社って似て非なる物だって俺でも知ってるよ」
「まぁまぁ、そういわずにおまわしくださいませ。じゅんばんはあんがいじゅうようなものですよ」
《解説》
・作中に登場するカツサンドやスィーツ類は実際に「青の交響曲」や「あをによし」にて販売されてる物です。
・零央はかき氷が好きと言う設定ですが、元々は奈良県の神社で儀式として使用されていたのがルーツだそうです。




