第参拾陸話 白黒
「ゆ、夢野さんも同じツアーなのか?よ、よろしく頼む」
小坂にて顔を引き攣らせながら、口角を上げる朱鷺田の姿があった。なんとか、内に秘めた恐怖心を堪え。
先輩への挨拶をしているという事なのだろう。
今日の光莉の服装は望海が言っていた通り、珍しい物のようでリゾート地に合わせグレーの女優帽とオレンジのワンピースを着ているようだ。
その緊迫した空気と共に、お互いを睨み合う咲羅と那須野がいるのだから開幕早々、幸先が不安になるメンバーとなった。
しかし、それを忘れてしまう程に衝撃的な事が起こったのも確かだった。
「なんや、お前ら。そんなケッタイな顔して。パンダの前なんやから少しは嬉しそうな顔せい」
訛り口調のおっさんの声が4人の耳に届く。
それに振り向くと、まるで何処かの組織のボスのように葉巻を吸うパンダ...の着ぐるみが現れた。
それはまるで、動物園のアイドルとはかけ離れた姿だった。
「浜さん!ウチを忘れんといて!皆さん、お待たせしてすみません。ツッコミ担当のウチ、黒潮蜜柑とボケ担当、相方の浜さんです!ウチら、漫才で天下取ったると思って日夜、滝修行に挑んでるんですわ。って、それ漫才関係あるかーい!それ以前にウチら運び屋やないかーい!」
そのあと、周囲にブリザードが現れ光莉は寒そうな仕草をしながら4人を連れて黒潮達から離れる事にした。
「はい、はい!ツアーもコンビも解散!お疲れでしたー。那須野、締めに皆んなでラーメン食べに行こうよ。美味しい醤油ラーメン知ってるでしょう?」
那須野が嬉しそうに頷くと後ろから「ちょっと待ってください!」と黒潮の声が聞こえて来た。
「紀伊にもめっちゃ美味いラーメンありますから、行くんだったら其方にしましょう。ご当地ラーメンの元祖!比良坂町一と謳われた、ウチらのラーメン是非食べて帰ってください」
そう言われると全員立ち止まり、彼女の方を振り向いている。
興味を持ってもらえた事に嬉しかったのか黒潮は目を輝かせた。
「それでなんですけど、今日と明日は王道のリゾート観光をテーマにさせてもらってます。今日は今から、動物園や遊園地が集まった複合施設で楽しんでもらって。その疲れた身体を温泉で癒してもらって...あの?聞いてます?」
ラーメン屋で4人の麺を啜る音が黒潮のツアー説明を妨害しているようだ。
「うん、聞いてる。聞いてる。咲羅、そこにある胡椒取ってくんない?味変して楽しむわ」
「餃子、追加注文するけど食べたい奴いるか?」
マイペースに食事を楽しむ4人に対し、黒潮は落ち込みながらも続きを話すようだ。
「2日目は朝から魚市場に行って、異国風の街並みを堪能してもらいたいと思います。...浜さん、ウチ。ちゃんとツアーガイド出来るかな?心配なんだけど」
「加油」
そんな中、店内で流れていたテレビの内容に光莉が気づき楽しそうに話を続けた。
「あぁ!これ、面白いよね。大学図書館で大事な本が齧られて見つかったらしいよ。ネズミでも入り込んだんじゃない?」
「血隈大学の校舎って比良坂町の中でも一番古いなんて言われてるしな。老朽化で虫とか小動物が入り込んでも可笑しくないし。でも、今ままでこんな事なかったと思うけどな。何かきっかけでもあったのか?」
そんな会話を聞き、事情を知る咲羅は何も言わず黙っている事にしたようだ。
「ほれ、食後の抹茶ソフトや食うてみ?上手いで」
店を出てデザートにと浜さんから手渡されたアイスを見て光莉は首を傾げた。
「抹茶って言ったら洛陽が本場じゃないの?」
「意外かもしれませんけど、抹茶ソフト自体は紀伊発祥の物なんです。見てくださいよ、この可愛らしいアヒルちゃん!これには暴れん坊の将軍もニッコリですよ!」
黒潮の解説を無視して、4人はアイスを食べているようだ。
「どう?咲羅ソムリエのお口に合う味だった?」
「うん、サッパリしてて上手いな。後味が残らない」
《解説》
・黒潮と共にいるパンダの元ネタは和歌山県にありますアドベンチャーランドではそこで生まれたパンダ達は白浜の地名に乗っ取り「浜」名前が入っているので浜さんと呼ばれています。
ただ、おっさんな事やボス然としている事から現在は北京の動物園にいますがビックダディと言われた永明をモデルとしています。
アドベンチャーランドはパンダガチ勢と呼ばれていて。
同じくパンダを飼育している上野動物園の関係者が中国に視察に訪れた際、育成や飼育のコツを聞いた所。
「和歌山に聞け」と言われてしまったそうです。
和歌山県はご当地ラーメンの元祖と呼ばれていて、中華そばが有名ですね。黒潮が言っていた滝修行は熊野古道にあります那智の滝を意識した発言です。
・アイス同行会の活動の一環として今回は和歌山県のグリーンソフトをご紹介させて頂きました。
作者は和歌山城のお土産屋さんで偶然見つけて、なんか聞いた事あるなと思って試しにミカンと抹茶を食べ比べしたんですが前者は濃厚で後者は後味さっぱりという感じで美味しかったですね。




