第参話 選択
「へぇ、敷島のお嬢さん達がね。俺も隼君と同じツアーにしよっかな!」
本拠地で資料を渡した隼は皆にどのツアーにするか募っていると山岸は勝手に選び始めた。
「ダメですよ。グループで固まるなって言われたんですから。でも、うちは七人でしょ?絶対に誰かとかぶるんですよ。一応、確認したんですけどいつもバディを組んでる組み合わせじゃなかったら良いって。だから、俺と小町や山岸先輩と翼はダメってこと」
「じゃあ、小町は折角だから肆区に行ってみたいの!隼の幼い頃に過ごした場所なんでしょ?バディとしてキチンと相方を理解する為にも行きたいの!それに湯船に入ってお肌ピチピチにしてこないと!」
「あっ、先越された。俺も肆区行ってみたいんすよね。ほら、ラーメンが美味いって言うじゃないっすか。どんなもんなんだろうって。温泉も良いっすよね。うちのタワマンの側も銭湯ありますけど、折角なら入り比べしたいじゃないっすか。やばい、普通に楽しんでる。行き先、選んでるだけでも面白いっすよね」
翼の言葉に那須野も笑みを浮かべ頷いた。
「良いんじゃねぇの。俺も参区に行ってみたいわ。こっちにも動物と触れ合える施設もあるしな。こっちは冬は厳しいし、紀伊の温暖な気候とかにも惹かれるけどな」
もう半分は決まり、残るは山岸、颯、青葉だ。
年長者である二人は皆が決まるまで待ってあげるスタンスなのだろう。ずっと颯の意見を聞いているようだ。
「俺は体調崩しやすいからそんな遠くまで行けねぇよ。じゃあ、弐区の方がいいか。Dr.黄泉も近くにいるしな。まぁ、偶には違うメンバーと過ごすのも悪く無いかな」
「あの、寿彦さん。私に食べ歩きは無理よ。だって、ここのメンチカツ美味しいって評判だもの。絶対に食べ過ぎちゃう。それにガイドの方って新入りさんよね?真霞宇宙さんって聞いた事ある?」
「確か、違う団体の運び屋さんだよ。でも、良いじゃないか青葉。カロリーなら後で幾らでも俺が調整してあげるし。こう言うのは楽しんだ物勝ちだよ。最後に良いのが残ってて良かった。寺にある黄金の御堂は俺もみた事あるけど、参区のお寺なんか中々行かないからさ。侘び寂びだと思って良い機会だし見て回ろっと!」
それと同時刻、朱鷺田達の方でも楽しそうに行き先を選んでいるようだった。
しかし、旭はもう決まったも当然なので後は谷川だけだろう。
「弐区は確かに行った事ないな。希輝が一緒なら退屈しなさそうだしな。一緒に卓球でもするか。鞠理はどうする?もう決めたのか?」
「うん、大体は。旅行ってさ、行く時は楽しいけど帰りが大変なんだよね。だから、壱区でゆっくり過ごすのが良いかなって近所で食べ歩きしてギリギリまで温泉に浸かってさ。休日って体を休めるものだし。谷川さんは遠出はいいかな。後は二人の土産話を聞かせてよ」
「まぁ、あくまでも休日だしな。近場で楽しむっていうのも考えとしては正解だろう。後は当日のメンバーか。怖い人が一緒じゃなかったらいいな」
そのあと、朱鷺田は阿闍梨に連絡を入れ今回のツアーに参加するのか?を聞いているようだった。
しかし彼からは否定の言葉が帰ってきたようだ。
「すみません。八月は法事が多くてどうしても人手が必要なんです。正月は寺が忙しい時にコンサートに行って父に強く叱られたので今回ばかりは抜け出せる隙も与えてくれなくて」
「そうだよな。お盆とかで墓参りする人も沢山いるだろうし。俺達も本来なら、多忙な中で時間作ってるしな。くれぐれも身体には気をつけて。寺の仕事も頑張ってくれ」
「ありがとうございます。私もサーフィンがしたかったんですけどね。後、伊勢海老も食べたかったんですが仕方ありません。もしかしたら、お仕事の都合で外に出ている事があるのでばったり出会うかもしれません。その時は歓迎してください」
相変わらず煩悩に溢れているなと思いつつ、朱鷺田は阿闍梨との電話を終えた。
希輝の方でも、拠点であるアパートで皆にツアー内容を教えているようだ。
「ナイトツアーはもう、三人決まってるのか。残り一人、なら俺は此処に行きたい。メンバーも顔見知りで比較的静かな人達だからな。充実した休日が過ごせそうだ」
「おっ、剣城もノリノリなのは珍しいね。でも、天体観測とか好奇心を刺激されるか。何より、夜っていうのもいいよね。となると、ナイトツアーのメンバーは望海、瑞穂さん、隼、剣城か。中々、面白いメンツじゃない。白鷹や浅間先輩はどうする?」
浅間は考え事をしながら、あるプランを指差している。
宇宙の考えたプランだった。
「食べ歩きに、観光に、温泉ってまさに旅行の王道って感じよね。私の実家の近くも別荘地みたいになってきて、皆レジャーとか楽しんでるし、こう言う活発な旅行っていうのも新鮮で面白いわね。私は此処が良いな」
「...そうなると皆んなバラバラになるな。希輝が弐区に行くなら、僕は肆区に行こうかな。肆区の中心街とか絶対にいけないだろうし。帝国にもあったんだよね。温泉地、担当場所にもなってたし興味あるな。終わった後もそれぞれの土産話とか出来たら凄く良いじゃない?」
白鷹の言葉に希輝は頷いた後、嬉しそうに指を鳴らした。
「白鷹、ナイスアイデア!浅間先輩は壱区、アタシは弐区、剣城は参区、白鷹が肆区か。それぞれ、良い感じにバラけたね。やっぱりこの四人が最高だよ」
「どうだろうか?僕達の考えたプランは?皆の目に止まるプランはあるかな?」
瑞穂達は七星邸でプランの選択をしているようだ。
しかし、この場に海鴎の姿がない。
任務中という事で後で合流する予定なのだが、瑞穂は何処か胸騒ぎを覚えていた。
「えっ、凄い!燕、壱区が良いな!お買い物したり、観光名所も一杯あるし!着物着て写真撮りたい!確か、十二階建ての塔があるんだよね。燕行ってみたいな」
「まさに観光名所って感じよね。私も選ぶの凄い迷ったもの。咲ちゃんも何か良いの見つかった?それにしても海鴎君遅いわね、この時間帯なら帰って来てもおかしくないのに」
「俺達は時間に常に正確に動いているが、絶対ではないからな。肥後では俺達も足を伸ばせない。最悪、父親が側にいるんだ。何かあっても大丈夫だろう。俺は参区の黒潮の物を推す、ツンも白い砂浜の上で歩かせてやりたいしな」
「そう?でも、本当に何かに巻き込まれてないと良いけど」
しかし、その瑞穂の予感は的中する。
海鴎の担当する肥後で煌びやかな夜景に囲まれながら、何故か逃走を図る彼の姿があった。
旅行プランを考える時って、本当に人の性格が出ますよね。
作者は基本的に1人旅が主流なので、自分の気になる所にぷらっと行ってぷらっと帰ってくる事が多いです。
好き嫌いせずにまずは色んな所に行ってみようというマッピング精神もありますね。
だからキャラクター達もそういう思考になっていると思います。
一人旅の時は一応、家族に行き先を伝えておくんですよ。
向こうでトラブルに巻き込まれる可能性があるので。
ただ、行き先がランダム過ぎて「藤井聡太棋士の追っかけでもやってるのか?」と言われた事があります。
いやいや、そんな訳ないだろうと思っていたら和歌山に行った時に駅の改札にタイトル戦の看板があって説得力が生まれました。
今回、観光列車として各地方の著名な物を選ばせていただきました。
・スペーシアX(東武鉄道)
・サフィール踊り子
・くろしお
・ひのとり、しまかぜ、青の交響曲、あをによし(近畿鉄道)
・WEST EXPRESS 銀河
・ゆふいんの森 以上です。