第肆話 逃走
「この黒蜥蜴!早く出て来い!すばしっこい餓鬼だぜ全く!」
海鴎は現在、海の近くにあるコンテナ倉庫隠れながら相手の様子を伺っている。
珍しく、険悪な表情をし息が荒いのを見るに何かに巻き込まれてしまったのだろう。
人のようなシルエットをしているにも関わらず、魚のようなギョロリとした目が付いている。
しかし、確かに服装は人間の物なのだ。
美しい夜景に反射し、まるで海から出てきたばかりのようにずぶ濡れになったスーツと光に反射し金のブレスレットや時計が彼の視界に入る。
それを目印にし、海鴎は見つからぬよう身を隠していた。
「私の容姿を見て黒蜥蜴と言いますか。中々に容姿も瞳も独特な方達ですね。早く、ファティと合流しなければ。Dr.黄泉には感謝しなければなりませんね。こう言う時の武器ですから」
【Code:700 承認完了 ジェロニモの奇跡を起動します】
すると、海鴎を追っていた男達が突然動かなくなり。彼はそのまま逃走をするために海へと足を踏み入れた。
するとどうした事だろうか?優雅に海の上を歩いているではないか?
「紫紋!こっちだ!早く、こっちに隠れて!」
父親の声に導かれ、海鴎は其方へと向かう。そのまま、筑紫へと逃走を図った。
「海鴎君!どうしたのその格好!?泥だらけじゃない!」
七星邸に逃げ込んだ彼を見た四人は思わず目を見開く。
無理もない。彼の純白の祭服と赤いストールが泥だらけになっているのだから。
「実は思うわぬハプニングが起きまして。奇妙な集団に追跡されていたんです。まるで人魚を反転させたような状態の」
疲れ果てているのだろう。ソファの側にいた燕は彼を手招きし、亘はその対面のソファに座った。
「人魚の件と言い、肆区はそう言った騒動が多いな。しかも反転というのは、海鴎。男性の人魚という事か?」
しかし、亘の言葉に彼は首を横にふる。そのあと、正確な情報を亘に伝えた。
「今から、二十分程前の話です。依頼人を肥前にお届けして海の近くで歩いていたのですが、珍しい建物を見つけまして。その辺りは坂が多いので建物が建てにくいんですよ。実際に家賃なども高い傾向にありますし」
「そうだな。そんな場所で新しい建物が出来ていれば自ずと目につくはずだ」
その言葉に海鴎はしっかりと頷いた。
「そうでしょう?ただ、私の見た建物は何処かの宗教団体のようで。少なくとも私の信仰している宗教では無いんですよね。そのあと、建物から男達が数人出てくるのを見てしまって。その容姿があまりにも歪で。手や足には鱗のような物がありますし、魚やカエルと言った方がいいのでしょうか?目が大きくギョロっとしていて。口も通常より裂けたように大きいんですよね。一応、人間の格好をしているようなんですが」
そのあと、瑞穂や咲羅は目を見開き。燕は肩を震わせた。
ただ、すごいのはそれに追われていた海鴎が冷静だった事だ。
確かに肩を上下に動かしているが、恐怖の感情というよりも純粋な疲労に見えた。
「でも、それって肥後で起こった出来事よね?少なくとも筑紫でそんな噂は聞いた事ないわ。此処はまだ、安全地帯という事よね?なら丁度いいわ。海鴎君、貴方は狙われてる。違う区に逃げた方がいいかもしれない」
そう言われたら、そのまま瑞穂の忠告を聞くのが一番だと思ったのだろう。旅行の資料を手渡されるがキョトンとした顔をしている。
「はぁ...こんな出来事の後に良く。いいえ、違いますね。もしかしたらこれを上手く使えば、これからの出来事への対策が打てるかもしれない」
そのあと亘はビデオ通話で先程の話を節子や瑞稀に相談を持ちかけた。
案の定、それぞれ違うリアクションをしているのようだ
「まぁ、肥後でそんな事が!?宗教団体、なんだか奇な臭いわね。こんな状況では旅行なんてお気楽な事は言ってられないわ。皆さんには申し訳ないけど、中止して問題を解決してからの方が」
しかし、瑞稀は首を横に振り拒否の反応を見せた。
彼女には何か案があるようだ。
「良いや、旅行は計画通り進行すべきだ。もし、このままその団体の調査をしたとして手がかりを隠蔽されるのは目に見えている。だったら少しでも泳がせておいた方が良い。それにこの一件でその団体は運び屋と敵対しているのが分かった。もしかしたら、旅行中の気を抜いた運び屋達を奇襲する事もあり得る。そこにカウンターを仕掛けるというのは?」
亘は瑞稀の意見を聞き、手に顎を当てながら考え事をしているようだ。そのあと、瑞穂達に話を持ちかける。
「今の比良坂町であれば皆、全区域で武器を使える状態にある。しかも、ガイド達は皆。非戦闘要員だ。彼らの護衛の為にもどうか、このまま計画を続行して欲しい。瑞穂、どうだろう?現在のメンバーはどうなっている?」
四人で手分けして無線機で他グループメンバーの行き先を確認しているようだ。
情報を繋ぎ合わせ、各ツアーの参加メンバーの一覧をメモ書きしている。
「こうなるともう、後退り出来なさそうですね。私も行き先を選ばなくては。そういえば、以前。連れて行って頂いた生田と似たような場所があるだとか?肥後と同じく異国情緒溢れる所だそうですね。都筑でしたっけ?」
「じゃあ、海鴎君は蒼月さんのツアーだね。確か、日程的に1番最初って瑞穂達の所だっけ?大変な事になったね」
「大丈夫よ。逆に不幸中の幸いだったわ。頼もしい3人がいるんだもの。当日もそうだけど、事前に打ち合わせをしておかないと。これはまた、思い出になる旅行になりそうね」
読者の方に長崎県民の方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありません。
完全に深きものとダゴン秘密教団が長崎市内に上陸している事になっていますね。インスマス化しております。
今回は物語のフレーバーとしてクトゥルフ神話を参考にさせて頂いてます。
完全版の壱ノ式、弐ノ式にも段階的に要素を組み込ませて頂いていて、二つの帝国、夢の世界はクトゥルフではドリーム・ランドと呼ばれています。
門を通じて中に入る事ができ、現実と異世界を行き来出来る存在を夢見人と呼称します。
なんか変なモンスターがいるなと思ったら大体クトゥルフのせいです。
朝風や野師屋に化けていたのはかの有名なニャルラトホテプですね。
クトゥルフは神vs一般人の構図なんですが、元ネタを尊重してキャラを殺せない作者が次にとった行動は精神的に苦痛を与える事でした。でも廃人化なんてさせません。
だって、面白くないでしょう?甚振り尽くさないと(鬼畜)
《解説》
・長くなりますが、海鴎についての情報を公開しておきたいと思います。
彼にはシーボルトは勿論なんですが、天草四郎の要素も入っています。
今回登場した【ジェロニモの奇跡】これは天草四郎の洗礼名と同時に彼のエピソードに由来します。
鳥の動きを止めたり、水面を歩くエピソードなど彼には不思議な力があったと言われています。
個人的にはイエス・キリストや聖徳太子と似てると思いましたね。
「かもめ」のイメージが海が似合う爽やかな少年だったので「やっぱり長崎に縁がある少年と言ったら天草四郎だろう」と言う安直な理由で参考にさせて頂きました。
元々、かもめは新しい新幹線なんですが16歳に設定したのは天草四郎の没年齢が大体16、17歳だった為ですね。
ハーフなのも、天草四郎は色白の美男子として良く描かれていて実は混血児なのではないか?という説がある為です。一応、両親は日本人のようなんですがね。カリスマ性を持たせる為の印象付けの可能性も考えられますね。
キリスト教を信仰し、母親の名前がマルタと記述してある箇所がありましたが、天草四郎の母親と同じ洗礼名です。海鴎はシーボルトと天草四郎のミックスなんですが、意外に親和性があって上手くはまりましたね。
長崎盛りだくさんでお送りしています。




