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第弐拾壱話 通院

次の日の午後、隼は喫茶店から持ち帰った品を自身の拠点へと持って来たのだがそれと同時に室内から翼の大声が聞こえた。


「何が「翼は生意気なんですよ」だ!!あんなの、勝負でもないっすよ。結局、将棋じゃ勝てないから山崩しで決着つけようってなったんだから」


「でも、隼本当にありがとう。やっと!やーっと!小町の傘が戻ってきたの!...もう新しいのに買い替えちゃったけど。それと、手に持ってるのなあに?」


昨日、何故か交換して欲しいと言われ。料理本や置物の代わりに2つ程持ち帰って来た物があり、隼はそれぞれ説明をする事にした。


「多分、ハロウィンとクリスマスの飾りだと思う。カボチャのランタンとスノードームとかそれぐらいしか使わないし」


そんなやりとりを聞いていた山岸は溜息を吐いた。

無理もない。自分の私物が未だに帰って来ないのだから。


「カボチャはカボチャでも中身のあるやつだったら食材として使えるんだけどな。完全にくり抜かれてるし。まぁ、10月なんて直ぐそこだしそのまま飾っておいたら?」


「そうですね。とりあえず、那須野先輩の置物なんですけど。元々は歯科医院に置く予定だったんでしたっけ?」


「そうそう。那須野もついてないよな。買ってそのまま会議に持って行ったら目をつけられてさ。そのまま持ってかれちゃった訳ですよ。あのガキ大将集団に。まぁ、物珍しいんだろうね。俺達の持ってる物が」


そして、会話を切り上げようとしたのだが隼が小さく山岸のシャツを掴み何か訴えかけているように見つめていた。


「どうした、隼?もしかして、歯痛い?ダメだぞ、歯は大切にしないと。いつも、ハンバーガーとかアイスばかり食べてるから」


「なんで分かったんですか。そうですよ、右の奥歯が痛いんです。この前、颯先輩と一緒にアイスを食べた時に気づいて。でも、俺。歯医者苦手で、付き添って下さい」


そう言われると山岸は腹を抱えて笑い出した。


「分かった。気持ちは分かるよ。綺麗過ぎるというか、消毒液の匂いとか。歯医者独特の雰囲気?」


「ドリルの音とか、麻酔が苦くて嫌なんですよ。今、思い出しただけでも寒気がする。置物も渡したいので、安積(あずみ)まで移動、お願いします」


那須野歯科医院と書かれた扉の近くには時間的に休憩中なのだろう、那須野の姿があった。


「おっ来たか。保険証持って来たか?初診なら必要だぞ」


「勿論です。すみません、予約時間より早く来ちゃいましたね。でも、良い報告があって。那須野先輩の置物、取り返して来ました」


そう言って、牛の置物を見せるものの。

案の定困惑の表情を浮かべている。


「そんなの俺持ってたっけか?あぁ、そうだ。受付の側に飾ろうと思ってたんだ。良く覚えてたな」


「俺も共通の被害者だからね。あの借りパク集団の!とりあえず、中で待機させてもらっても良いよね?隼が歯医者怖いって言うからさ、俺が付き添いに来たんだよ」


そう言うと那須野は腹を抱えて笑い出した。


「なんだよ!お前達もか!翼と小町を置き去りにして全員来てどうするんだよ!」


その言葉に隼はもしかして...と思い。中に入ると颯と青葉の姿があった。


「げっ!?お前たちも来たかよ!青葉、此処なら多分見つからないって言ったじゃねぇか!」


「多分ね。絶対に見つからないなんて言ってないじゃない。寿彦さんはいつも定期検診してるし、末っ子君ね。お兄さんと一緒で歯が痛いの?ダメでしょう?ハンバーガーとアイスばかり食べてるからそうなるのよ」


「それ、山岸先輩に同じ事を言われました。颯先輩、しばらくは寿司生活ですね。歯に優しい物食べないと」


隼は颯の隣に座り。彼の方を見ている。

このメンバーを見て、山岸は溜息を吐いた後。頭を抱えた。


「ずんだ餅軍団全滅じゃないか。皆んな、良いね。ピンクと白が良くにあってるよ。真の伊達男はピンクも着こなせる存在じゃないとね」


「颯と末っ子君は紫も追加ね。早く戻らないと小さい2人が困っちゃうわ。とりあえず、寿彦さん。貴方だけでも戻ってあげて」


その言葉に山岸は素直に頷くものの、呆れた表情をしていた。


「これじゃあ、蜻蛉返りと言う名の山彦だ。じゃあ、お母さん。子供達をよろしく」


「はいはい。じゃあ、あなた行ってらっしゃい。今日もお仕事頑張ってね」


青葉はノリ良く、満面の笑みで山岸を送り返すようだ。

その光景を周囲は面白がっていた。

それに追従するように、隼は彼女の服を軽く掴む。


「母さん、歯医者終わったら。笹かまぼこを焼きに行きたい。俺、焼くの一番上手いから」


「あら、良いわね。ちゃんと歯医者頑張ったらね。...あれって上手い下手とかあったかしら?末っ子君なりのこだわりがあると言う事よね。そう言う事にしておきましょう」


「お前らがボケるから収集つかねぇじゃねぇか!?俺、担当医親父さんだから呼ばれてるし行ってくる。隼も直ぐ、受付に呼ばれんだろ。そこで、身体を震わせながら待ってろ」


勝ち気な発言をする颯だが、表情は固く。声も震えている。

その証拠に中々施術室に行こうとしない。

遂には那須野の父親に連行され、子供のように叫び声を上げていた。


ある意味、客観視でき冷静になれたのだろう。

隼は大人しくその場で待っているようだった。

青葉は素知らぬ顔で近くのマガジンラックからファッション雑誌を手に取り読んでいるようだ。


「颯先輩っていつもこうなんですか?」


「割とね。そもそも、歯医者とか病院とか?そう言う場所が嫌なんですって。と言うより、人生の大半をそう言う場所で過ごしてるから気が滅入っているのよ。逆に寿彦さんはそう言う場所大好きなんだけどね。あの人の実家、整骨院だから」


「一番健康な人が医療機関好きって、皮肉ですね。そういえば、青葉先輩の実家って千体だと有名なんでしょう?お嬢様なんですね。彼処に行くと一番大きな家って皆言うから」


「あら、もっと言って頂戴。そうね、寿彦さんが実家に挨拶に来た時。立派な家で驚いてたのを今でも覚えてるわ。知ってる、末っ子君?お金持ちの令嬢じゃないと、男は手に入らないの。だから私は寿彦さんを買ったのよ」


「...青葉先輩。貴女、凄い良い買い物しましたね。良い趣味してる。目利きが良いんですね」


そう言われると、青葉は笑いを堪えながら雑誌のページをペラペラと捲り読み終えた振りをした。


「あまり良い服がないわね。やっぱり、自分で作った物が一番。私達の視点から言えばね、富士宮家は絶対なのよ。女の中で一番ヒエラルキーの頂上にいるのはあの家。両親から結婚する時、厳重に注意されたの。あまり、寿彦さんに惚れ込むな、入り込むなって」


そう言われると隼は首を傾げてしまう。

大切な人だから、結婚するのだから彼女の両親の言葉は矛盾していると感じたようだ。

しかし、青葉から話の続きを聞き合点が言った。


「私、最初なんの事か分からなかったんだけど。説明を受けたら驚いて。あの富士宮家には常識が通じないのよ。特に女性当主の代は最悪ね。配偶者の有無に関わらず、目に付けた男を自分の物にしてしまうんですって。特に赤い血はね。本家にそう言う町の中の赤い血の系譜纏めたをリストがあって、別に本人が乗り気じゃなくとも周囲がそうさせるらしいの。一種の宗教だと思ってしまったわ」


「それって、絶対咲耶さんも知ってますよね?...だからあの人、凄い嫌がってたんだ。前向きに、或いは狂気的に考えれば自分の欲しい男を手に入れられるチャンスだけど。まともな人ならそんな環境、絶対に耐えられない。咲耶さんも、そう言った事で他の女性に嫌な思いをして欲しくないと思っていただろうし」


「そうね。だからね、もし寿彦さんが目を付けられたら私じゃ守ってあげられないの。家の格も違うから。口喧嘩や拳で殴り合ったら違うでしょうけどね。あの家って本家が肆区にあるでしょう?こっちまで話が来るって相当よね。だからね、以前の比良坂町は本当に狂っていたというか可笑しくて。自分の男性を守る為に、暴力を振るったり。或いは自分を守る為に自分で傷を作るっていう矛盾した行動をする人がちらほらいたのよ。そう思うとやっぱり比良坂町って終わってる。というか限界だったのね」


青葉の発言に隼は唖然とするしかなかった。

自分の身近でそんな悲惨な事が起きていた事など彼は知るよしもない。

ただ、それ以上に自分と富士宮家との距離を考えた時に力強い味方が身近にいる事に隼は気づいたのだった。


「すみません。一つ聞きたい事があるんすけど。もし、青葉さんが夫や俺みたいな息子がいたとして。それを隠し通すというか。例えば、目の届かない場所に移住させるって事。しますか?と言うか、出来ますか?それも富士宮家の目を掻い潜って」


「それって、貴方のお母さんの事よね?...確かに末っ子君みたいな子がいたら絶対に狙われるって分かるわよね。周りにも伝えないでしょう。自分の大切な人を守りたいと願うなら例え自分が理不尽な立場にいようとも守り通す物よ。末っ子、貴方良いお母さんに巡り会えたのね」


「...そうですね。今なら自慢の母親だって言える。そうか、母さんは本当に俺達の事を守ってくれたんだ。あっ、すみません。俺呼ばれてるんで行ってきます」


隼が受付に呼ばれて施術室に向かうと入れ替わるように颯が戻って来た。


「おかえりなさい。随分と痛そうね。後で鎮痛剤もらったら」


「あぁ...本当に嫌だ。まぁ、今日で終わりだし。なんとか、一息つけそうだな。と言うか、2人で何話してたんだよ。なんかモゴモゴ喋ってるの聞こえてたぞ」


「まぁ、女同士のバトルというか駆け引きを末っ子君に教えてたのよ。彼には刺激が強かったかしら」


「歯医者より怖い話すんじゃねぇよ。まぁ、実際凄いからな。俺も本当、じいちゃんとばあちゃんに大切にされて来たし。運び屋になってから、この町の本当の恐ろしさを思い知ったよ。本当に怖いのは人魚じゃない。協会に行くと、何かの視線を感じて。偵察をしたら富士宮家だけじゃない。他の名家からの監視役がいて。本当にびびった経験しかない」


「あーあ、うちは伊達男の集まりだから。颯もそうよね。良い、お婿さんになりそうよね。子供好きなんだっけ?」


青葉は白々しい視線で颯の方を見ながら声をかけると案の定、彼は嫌そうな顔をした。


「本当にやめてくれ!ただ、病弱なのと手首の傷が分かったらそそくさと散ってったよ。二重の意味で病んでる俺には興味がないんだろうな。自衛になったから良いけど。小町も側にいたし、タスクおばさんもそう言う奴らを見かけたら「咲耶に言いつけるわよ!いいの!?」って制してくれて。俺の事気にかけてくれたし。その縁でおじさんの担当させてもらったり。隼にも会えたしな。正直言って助かったよ」


「そう、それなら本当に良かった。母親程、心強い物はないわね。...それはそうと、颯。貴方、随分と調子が良いじゃない?こう言う時だけ私を頼るなんて。そんなに私が頼もしかったかしら?」


「母は強しって言うだろ?皆、青葉の事を頼りにしてるって事だろ。誇りに思え」


「なに、その上から目線の言い方。誰に似たのかしら?あぁ、多分。私ね。あら、末っ子君。お帰りなさい」


「ただいま。すごい痛かったんですけど、青葉先輩の話より怖くありませんでした。また、話しを聞かせてください。痛みも中和されると思うんで」


そう言われると青葉はクスクスと笑っていた。


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