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第弐拾話 運命

珍しく、目を見開き大声で叫ぶ隼を見て只事ではないと児玉は悟った。

しかし、ゆっくりとだが隼に歩調を合わせるように話を進めた。勿論、事情を知る望海もそれに加わる。


「私、隼さんから肆区にいた時の思い出話を聞いた事がありまして。その...雨の日に助けて頂いた女子高生のお姉さんがいたそうなんです。それで、お礼が言いたいけどずっと言えずにいたと隼さんから教えて頂いて」


「そうか。じゃあ、この人はやっぱり隼にとって大事な人なんだな。だがちょっと、此処からややこしい話をする。だけど、気を落とさないでくれ。これは実はお見合い写真なんだ。で、この写真は俺の元に届けられた写真。つまり、親父は富士宮咲耶と俺を見合いさせたかった。でも、不可能だったんだ」


「えぇ!?ま、まぁ。私に似ていますし。咲耶おばさまなのは理解出来ますけど。えぇ!?児玉さんとお見合いって本当ですか?いつの話ですか?」


「俺が大学生の時だ。多分向こうは、中学生とか高校生に上がったばかりだと思うぞ。俺も結構親父に詰められてたけど、年齢を考えたら向こうの方が苦しかっただろうな。名門だし、早く婿を迎えたい。なら、出来るだけ早いうちにっていう家の動きがあったんだろう」


「...じゃあ、もう。俺が会った時には見合い話が持ち上がってた可能性があるって事か。もしかしたら、帰ってきた理由ってお見合いだったりするのかな?」


「隼さん、そんな暗い顔をなさらないで下さい。私も悲しくなります。ただ、そんな事はありませんでしたよね?」


「富士宮も当時は追い詰められててな。縁談に父親の体調も良くなくて、自分が後を継がないと行けない。しかも名門故に孤高で孤独の身。それでも、前を向いてなんとかしようとしてた。昔、聞いた事があったんだ。何か理由があるのかって。そしたら「あの子の為に。あの子が大きく、健やかに生きられるように私は穏やかな夜を守りたい」そう言ってくれたんだ。凄いなと思ったよ。生半可な覚悟で言ってる訳じゃない。今の話しを聞いた感じ。隼、咲耶はずっとお前の事を心の支えにしてたんじゃないか?お前が成長していく姿を、例えば側に居られなくても守ろうとした」


「...実はそれと同じ言葉を母さんから聞いた事があるんです。父さんと俺の穏やかな夜を守って来たって。あぁ、そうか。だから、2人はコンビを組んだのか」


「お2人共、隼さんの事を守ろうとしたしていたと言う事ですね。生前、父親から聞いた事がありまして。やっぱり、初期の比良坂町って男性が少なかったんですよ。多分、戦争の影響だと思うんですが。それに加えて人魚の被害もあって、本当に男性って宝物というか。貴重な存在だったんですね。なので、裕福な家のお嬢さんは男性を取り合う事も珍しくなくて。朱鷺田さんなんか1番の被害者なんですよね。その中で選べる立場にいる富士宮家って本当に凄いんですよ」


「そうだな。俺は見合い写真なんて見てなかったけど、俺が婿入りするって相当の事だぞ。大袈裟でなく。ただ、富士宮は「選ばない」という選択肢を選んだ。本人に結婚する気はさらさらなかったって事だ。運び屋もやってたしな。それだけで精一杯とも取れるが。案外、心はもう決まっていたのかもしれないな」


「咲耶さんが、ずっと俺の事を守ってくれてて。俺が成長するのを待ってた。...そんな事が本当にありえるのか?すみません、この写真お預かりしてもいいですか?俺の方から渡したいんです」


「勿論。良いきっかけになりそうだな」


「そういえば、児玉さんって学生結婚でしたよね?もしかして、花菜さんがいなかったら零央君もいないですし。富士宮家に婿入りしてたら、全てが狂いません!?」


「パパ、れお。いなくなっちゃうの?いやだな」


「大丈夫だ。零央は此処にいる。まぁ、もしもなんて存在しないが。多分、俺の後ろには富士宮家がついていただろうな。と言うより、富士宮も女学院のOBだし。必然的に光莉や望海と関わりそうな気もするけどな。運命っていうのはどんなルートを辿っても絶対にたどり着く物だ。俺はそう思ってる」


その夜、要件を済ませた隼はそのまま濱津へ咲耶を呼び出した。写真を渡すと、少し嫌そうな顔をするので本当に前向きでなかった事が目に取れる。


「懐かしいな、この制服も。実はな、一度だけ親に怒られた事があって。遅刻した上に制服を見合い前に汚して来た物だから叱られたよ。台無しだって」


「...やっぱり。すみません、俺のせいで」


「いいや、そうじゃない。むしろ、嬉しかったんだ。あの時は傑作だった。それでね、分かったんだよ。自分がするべき事に。私は君を命をかけて守る。そして、成長したら...」


「俺をお婿さんにしてくれる。そうですよね?咲耶さん。貴女は最初から分かってた。自分の運命を。自分の使命を」


「まぁ、半信半疑だし。10歳下の子が私の事なんてどうにも思わないだろうと思ってたんだ。実際に君を突き放した事は否めないしな。それでも君は此処まで辿り着いてくれた。私の事を見つけてくれた。それだけでこれ以上に幸せな事はないよ。どう思う?私が運命の人と言われて。落胆した?」


「いいえ、寧ろ。嬉しいですよ。凄く、凄く。でも、少し焦りました。貴女が断った見合い相手から零央が生まれたんです。プレッシャーを感じますよ。自分の正当性を示さないと」


「正当性?そんな物何処にあるんだ?何を正すんだ?」


そのあと、隼は沈黙の後。耳を赤くしながら彼女に耳打ちをした。

その声を周囲が聞く事は出来ないだろう。


「...はぁ!?何言ってるんだ!?そんな事考えなくていい!!隼、早まるな!!良いんだよ、そんな先の事まで考えなくても」


「...望海から聞いたんですけど。富士宮家って多産例が他の家より多いみたいですね。双子とか三つ子が多いって聞きました。だから、その。咲耶さんもそうなのかなって」


「望海!!余計な事を隼に吹き込むな!!確かにそうなんだ。そうなんだけども...今はまだ、そのままの君でいなさい。折角、濱津に来たんだ。何か必要な物があったら、私が買ってあげるよ。何か欲しい物はあるか?今はそれに夢中になっててくれ」


「じゃあ、俺。狙ってるグランドピアノがあるんですけど、いいですか?輸入品だし高くて2000万ぐらいするんですけど」


そう言われると咲耶はキョトンとした顔をする。

高額故に驚いたのだろうと隼は思っていたが、真逆の言葉を口にされた。


「2000万?そんなのでいいのか?君の為なら億は出すぞ?良い調律師もつけるし。ずっと使う物なんだから、良いのを買った方がいいんじゃないか?」


「咲耶さんって女神か何かですか?俺にとってピアノを与えてくれる人は神様です。俺、凄い人に出逢っちゃったかもしれないな。やっぱり咲耶さんで良かった」


余談なんですけど、とあるサッカー漫画に隼と属性が似てる子がいて。凛ちゃんさんと呼ばれてるんですけど。

その彼が、隼と同じく弟属性があるから年上の彼女や嫁の尻に敷かれていそう。普通の恋愛はしなさそうだから大恋愛の末に結ばれそうっていう読者の反応動画を見て。

分かりみが深いなと思いました。


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