第弐話 計画書
「皆さん、お待たせ致しました。瑞穂さんを連れて来ましたよ」
三人のビデオ会話から一週間後、望海達は会長室に呼び出されていた。
もう既に、隼、朱鷺田、希輝は到着しており一緒のソファに座っている。
「久しぶり。皆、体調は大丈夫?痩せ我慢は良くないわよって自分が言う事でもないわよね。やっぱり皆んな、仕事が増えて大変なのは一緒か」
その瑞穂の言葉に朱鷺田や希輝は苦笑いを浮かべ、隼は考え事をしているようだった。
「けど、前より仕事効率が上がったのはアタシ達にとっては凄い助かってるっていうか。書類とかも全部タブレットに入れられて持ち運び出来るんで、逐一本拠地に取りに行く必要がないんですよね」
その言葉に朱鷺田も頷いていた。
「慣れるまでが大変だけどな、谷川は器用に使いこなしてるぞ。今まで依頼人から予約の電話を受けたり、内容をメモしていたけど全部携帯とかで手続き出来るようになったからな。こんなに一気に変わる物なのか?と驚いたよ」
「それで、肝心の節子嬢は?俺達を待たせるって事はそれほど重要な事だと思うけど」
そう隼が言い終わる頃には勢いよく会長室のドアを開け、興奮したように何か悶えながら大事そうに資料を持つ節子の姿があった。
その様子を微笑ましそうに五人は見ていた。
彼女は自分の世界に入っているのか?優雅に一回転した後、目をキラキラさせていた。
「出来た!出来たわ!ふふっ、私達の考えた最高の旅行プラン!ガイドの方々に手伝ってもらった甲斐があったわ。絶対に皆さんビックリするはず!」
「節子さん、心の声が丸聞こえですよ。私達は驚いた振りをしたら良いんですか?」
望海の声に節子は目を見開き、少し動揺した後「こほん」と小さく咳払いした。その様子に隼は足を組みながら溜息を吐いていた。
「皆さん、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。それぞれのグループを代表する運び屋の方々だもの。お忙しいに決まってるわよね。でもね、私達は皆さんに有意義な休息をと思ってある企画を制作したの。資料をお配りしますね」
そのあと、望海の元にも資料が届きある単語が目に止まった。
「個々で選択出来る旅行プラン?比良坂町内のツアーガイド付き?えっ、しかもこれ六種類あるじゃないですか!?この中から選んで良いと言う事ですか?」
そう言うと節子は真剣な表情で頷き、他メンバーも目を見開きながら資料を読んでいる。
「今回、協会だけじゃなくて他所属の運び屋団体の方々ともご協力させて頂いたの。皆さん、それぞれ個性的なプランを考えてくださってワクワクするような物ばかりでしょう?王道の温泉は勿論、歴史ある寺社仏閣、動物園などのレジャー施設への観光。勿論、食べ歩きも出来るわ。個人的にオススメなのは銀河さんが制作してくれたナイトツアーかしら?天体観測とか、キャンプファイヤーをして各々が素敵な夜を過ごすの。夜間勤務は彼だけだから、早い者勝ちね。一応、各ツアー事に定員は三〜四名。少人数制で丁寧におもてなしさせて頂くわ。仕事に支障がないよう、ツアーの日付はずらしてあるし、各グループに同じメンバーが固まらない事が条件になるけどね」
その言葉に望海は嬉しそうに節子と目を合わせながら、話を聞いていた。
あの帝国での出来事をきっかけに望海は夜をゆったりと過ごす時間が欲しいなと思っていた。
そんな中で得られた貴重な機会。お言葉に甘えるのが良いだろう。
「分かりました。私も最近休みが取れてなくて、リフレッシュの機会を探してたんですよね。このナイトツアー、私も参加してみたいです。星空を見ながらゆっくりコーヒーを飲んだり、読書をするのもいいですね」
「そうなのよ!流石、望海さん!お目が高いわ!この五人は得に多忙だから出来るだけ希望通りのツアーに入れてあげたくて。勿論、皆さん大切な存在である事に変わり無いけどね。どうかしら?他に希望がある方いる?」
一番多忙な望海が立候補したことによって、室内は良い空気に包まれている。各々、悩みながらもツアーを選択しているようだ。
そんな中で瑞穂は彼女と同じツアーを選択し、隼にも誘いの言葉を掛けている。
「じゃあ、私もナイトツアーがいいな。やっぱり帝国で夜勤の運び屋をしてて、ほら夜って基本的に私達家で過ごしてる時間でしょ?そんな中で外で過ごすなんて素敵じゃない?隼君はどう?静かな場所とか好きでしょ?望海ちゃんと同じく本を読んで過ごすのは?」
「あぁ...まぁ、良いかな。いつも、家の椅子とか颯先輩の家で本読んでるし。偶には野外でって言うのもアリか。このメンバーなら静かに過ごせそうだし」
隼にとっては違うメンバーで過ごす事への躊躇いの方が大きかったようだ。しかし、比較的話し易い望海や瑞穂がいてくれるお陰で安心したのだろう。ほっとしたような笑みを浮かべていた。
「この、参区の黒潮さんが考えたツアーもいいな。パンダが目玉の動物園なんて珍しいしな。動物に触れ合うのも良いな。癒されるし。こう言う所が忍岡以外にもあるんだな。何より、温泉があるのが良い。...旭と一緒に。いやっ、別に下心があるわけじゃなくてだな!一緒に風呂に入るのが好きで!」
これ以上は朱鷺田が墓穴を掘りそうなので、皆聞かない振りをしているが希輝はソファの肘掛けに顔を埋めながら堪えるように笑っていた。
「プクク...ぶはっ!朱鷺田さんは自分の欲望に忠実だからな。アタシは折角なら普段行かない弐区か肆区に行きたいな。送迎も愛さんやDr.黄泉が全部してくれるんだ。これは至れり尽せりだね。ねぇ、望海。蒼月舞子さんって協会に偶にいるよね?どんな人?」
「そうですね、上品で優雅なお嬢様という感じでしょうか?角筈も担当されているので朱鷺田さん達とも面識があるかもしれませんね。白い女優帽の似合う方で。皆の憧れ的存在ですね。爽やかで優雅な美人さんだと私は思います」
「良いね!そんな人がツアーガイドしてくれたら旅も楽しそう。温泉入りたいな。旭さんがいてくれたら尚良し。アタシはこれに決定!」
舞子が制作したツアー資料には趣きのある旅館の写真や金目鯛料理の写真が記載されていた。
「旭なら、大丈夫だと思うぞ。俺の好きな作家さんがここら辺を舞台にした小説を書いてるんだ。旭も知ってるし。何より舞子と顔馴染みだしな。俺からも勧めておくよ。他の区に出る事なんて滅多に無いしな。客人としてもてなしてもらおう」
そのあと、皆自分達のグループにツアー内容を説明した。
普段仕事ばかりで旅行等に興味がない人達でも、自分で計画を立てる必要のなく、既にプロフェッショナルがツアーを考えてくれていると言う事もあって好評だった。
「ほえぇ、凄いな。色々バリエーションあるし、皆んなも選ぶの楽しいだろうね。望海はナイトツアーだっけ?らしいよね。私は黒潮のが良いな。というか理想的。小坂は仕事で何度も行くけど、紀伊とか絶対に行かないじゃん!良い機会だし行っておくべきだよね」
望海は喫茶店に戻り、皆にツアー内容を説明しているようだ。
光莉にとっても、気に入るツアーがあったようだ。
黒潮が案内する場所は、動物園は勿論水族館や遊園地が合わさった複合施設である。
活発な彼女にピッタリのツアーだろう。
零央も漢字は読めないので写真で判断しているようだがある物が目に止まったようだ。
「パパ!これ、おてらだよね?れおもいっしょにいきたい!」
零央が指差す写真には寺は勿論、五重塔が聳え立つ物であった。
おもてなし用のデザートやドリンクの一覧や写真も記載されている。
これだけでも十分、旅行気分を味わえる程に詳細かつ緻密に作られたツアーと言う事が分かるだろう。
「分かった、分かった。これは千鳥や賢治達が考えてくれた物なのか。良く出来てるな。向こうも観光客の案内とかで大変だろうに」
「でも、それだけ私達がこの町に貢献出来てるって事だと私は思ってます。これからの為にも今の比良坂町を知って羽休めをしないといけません。他の方々は何のツアーにするんですかね?楽しみです」
この前、万代のカレーが恋しくなって新潟に行ったんですけど。
まず、靴がボロボロになってきてたので後継者を買ってきました。
それと、新潟駅もそうですし越後湯沢駅にもぽんしゅという新潟土産のお店があるんですね。そこで作者はいつも村上茶とコシヒカリを買うんですけど従来品とは別のコシヒカリBLなるものが売ってあって。
作者は性根が腐っているので直ぐにボーイズラブの方を連想してしまったんですけど、上記の2人のせいでね。
ちゃんと調べたら、病気に強い改良種的な位置付けだそうですね。
レトルトの万代カレーも買ったので家で新潟気分を味わいたいと思います。
↑すみません、この後書きかなり前というか半年以上前の事なので今はもう靴の後継者が変わって相変わらず金沢で買った物を履いてます。




