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悪役令嬢、平民の首席?

春。

エリーは11歳。


「それでは、行って参ります」


「ああ。気をつけて」

「いってらっしゃい。お姉ちゃん。来年は僕も行くからね!!」

「エリー。楽しんできて」


家族たちに手を振り、エリーは馬車へと乗り込む。

目的地は勿論、


「エリー様。学校、楽しみですね」


「ええ。そうですわね」


エリーは学校へ行く年齢となったのだ。

それだけなら、新天地に行って楽しいかも知れないが、


 ーーここからが本番。今年、主人公が召喚されるわ。

エリーは窓から外を眺めながら、これから起こる可能性のある出来事を考える。


「エリー様。そろそろ」


「ん?ああ。そろそろ着きますのね」


エリーが景色の方に意識を向けると、そこには巨大な建物が。

王城よりも大きい、学校である。


「大きい」


エリーは建物を見て呟く。

メアリーもそれに同意するように頷いた。


「それでは、私はここまでとなりますので」


「ええ。帰りも気をつけて」


「はい。お楽しみになって下さい」


エリーとメアリーは会場の前で別れた。

メイドがともに来ることは可能だが、とある事情によりそれはしない。


「うわぁ。あいつ、格好が」

「おい。あいつ見ろよ。筋肉が」

「す、すげぇあいつの目線が怖いんだけど」


他の入学生は、一部の目立つものたちを見てざわめいている。

エリーは自分が何も言われていないことを確認して、ゆっくりと歩き出す。


「学校。何も起きなければいいんだけど」


エリーはフラグを立てた。

とはいえ、フラグなど立てなくても厄介ごとが起きるのだが。


「とりあえず、目立たずに行きましょう」


「新入学生の諸君。入学おめでとう」


広い会場に沢山の生徒。

その前で、1人の教師が挨拶を行っていた。


「ふぁ~」


エリーの隣で気の抜ける声が聞こえる。

エリーは、横目でちらっと隣を見た。


「っ!?」


エリーは隣の生徒を見て、息をのんだ。

隣の生徒は、


「ん?あぁ。こんにちは」


「え、ええ。こんにちは」


隣の生徒が挨拶をしてきたので、エリーも小声で返す。

他の生徒たちも挨拶を聞きながら雑談しているので、怒られることはないはずだ。


「………ねぇ。私とお友達にならない?」


「へ?」


隣の生徒から、突然のお友達になりませんか?という提案。

エリーは、自分の平和な学校生活を過ごしたいという願いがかなわないことを悟った。


「お友達?」


「そう。あなたからは、凄い恋の波動を感じるんだ!」


エリーは少し意識が遠のく。

とても現実から目をそらしたい気分だったのだ。


そうして一瞬現実逃避すると、耳に声が聞こえる。

その声は、


「在校生代表挨拶。ロメル・アンダード・フィーリン殿下」


「はい。新入生の諸君。……」


ロメルが在校生代表で挨拶を始めた。

エリーは友人の声を聞いて少し落ち着く。


「……えっと。お友達だったかしら?私は構わないけど」


「やったぁ!私アンナリム。リムって呼んで。よろしくね」


アンナリム。

その名前を聞いて、


 ーーやっぱりこの顔。あのアンナリムなのね。

エリーは、このアンナリムのことを知っていた。


「私はクレア。よろしくね。リム」


エリーはさらっと偽名を使いながら、リムことアンナリムに微笑んだ。

だが、心の中では、必死にゲームの知識を思い出す。


 ーーアンナリム、主人公の友人。警戒すべきね。

リムは主人公の友人で、いわゆるサポートキャラだった。


主人公に男子たちの好みを教えてくれたり、好感度を教えてくれたり。

色々してくれる、便利なお助けキャラ。


そこで気になるのはやはり、どうやってその情報を手に入れているか。

それについてもゲームで明かされており、


「で?さっき言ってた恋の波動って何かしら?」


「ん?ああ。私、恋の加護を持ってて、他の人の恋について色々感じ取れるんだぁ」


「へぇ」


恋の加護。

エリーはあまり興味がないが、使い方によってはとても効果を発揮しそうな加護である。


「クレアさん。そろそろ」


「あっ。先生。今行きます」


教師が来て、エリーはどこかへ行ってしまった。

残されたアンナリムは、何をしているんだろうかと首をかしげながら、式の方に意識を向けた。


「新入生貴族代表挨拶。アロークスアンダード・フィーリン殿下」


「はい。皆さん初めまして、………」


アンナリムは出てきたアロークスを観察する。

 ーーさっきのロメル殿下もそうだったけど、恋、してるね。


恋の加護は非常に優秀。

少し距離があっても、強い恋は感じ取れるのである。


「あぁ。クレアちゃん。早く戻ってこないかなぁ。暇だぁ」


アンナリムは、心から暇そうに言った。

もう寝てもいいかと思っているほどである。


そんなとき。

聞き覚えのある名前が耳に届いた。


「新入生平民代表、クレアさん」


「はい。皆様そろそろ眠いお時間だとは思いますが……」


出てきたのは、エリーだった。

アンナリムは驚きで固まっている。


 ーーしゅ、主席!!????


「私がこの学校に入って……」


エリーは平民代表として挨拶を行っていた。

正確に言えば名前はエリーではなく、クレアであるが。


時には生徒たちの笑いを誘い、時には真面目に言って生徒たちを感心させる。

ふと横からの視線を感じてちらっと横を見ると、ロメルとアロークスが興味深そうな瞳でこちらを見ている。


 ーー驚いている感じね。なんでかしら……って、ああ。私、髪の色とか変えたんだったわ。

エリーは平民代表として活動するにあたって変装をしていた。


髪を染め、目の色を変え。

切るのはもったいなかったので。長いストレートの髪をツインテールに。


かなり印象を変えている。

これなら、知っている人物以外は分からないはずだ。


「これにより私の……」


挨拶を進めながら、エリーは頭によみがえるものがあった。

それは、平民代表となるまでの記憶。


父親に交渉したり、色々やることは多かった。

 ーー私、頑張ったわね。


エリーが平民代表となるまでの道のり。

その始まりは、学校見学のことだった。



それは、エリーが8歳の時。

エリーは、ロメルたちに会う意味も込めて、学校へやってきていた。


「ここが貴族の学部だ」


ロメルはそう言って、豪華な教室の扉を開いた。

そこでやっていたのは、


「パーティー?」


「そう。パーティーだ。貴族たちに必要な物は繋がりだから、毎日のようにパーティーをやって友人と会話をしたりしているぞ」


ロメルが解説をしてくれる。

エリーはそれを見てやる気がかなりなくなった。


 ーーえぇ~。学校来てまでこんなことやりたくないわ。

表情にその気持ちが出ていたためか、ロメルは苦笑した。


「とはいえ出席が必要なのはテストの時だけだから、必ずしもここに出る必要はないぞ」


「あら。そうなんですの」


「ハハハッ。興味がなさそうだな」


ロメルは苦笑を通り越し困った顔をする。

折角案内しているが、エリーが楽しめないのに困っているのだ。


そんな微妙な空気の中、


「すみません。少しお花摘みに行かせて貰いますわ」


エリーがそう言うと、ロメルは従者の1人に耳打ちした。

するとその従者は黙って頷き、歩き出す。


これはエリーをお手洗いまで案内してくれるという意味だ。

マナーとして、そういうことは口に出さないことになっている。


「あぁ。こんなに近くなら、道は覚えられそうですわ」


エリーが独り言のようにそう言うと、ロメルの従者はまた頷く。

帰りは1人で帰るから待ってなくていいよと言ったのだ。


それから色々済ませて、お手洗いから出てくると、


「……だ!」

「でも……!!」


言い争うような声が届いてきた。

エリーは気になって、その音の方へと近づいていく。


「ん。あれは」


言い争っている声が聞こえたのは、貴族の教室とは違う教室。

貴族の教室ではないのだから…


「平民の、教室ね」


エリーは平民の教室の壁に張り付き、聞き耳を立てた。

中からは、


「魔術は威力だろ!」


「いや!魔術は速度だ!!」


言い争う話題は、魔術において重要なのは、威力か速度か。

エリーは少し興味深そうな顔をする。


「それじゃあ術式を書いてみて、魔力効率を計算して決着を付けようじゃないか!」


「ああ!望むところだ!余分なエネルギーを速度に変換する仕組みはこちらもできている!!」


発言から頭の良さがにじみ出ていて、エリーは少し頭痛がした。

 ーーこういう人たちと会話するの大変なのよね。


ただエリーは頭痛がしながらも、興味が湧く。

貴族たちとパーティーなどせず、研究に時間をかけられたらどれだけ楽しいだろうか、と。


「「くそっ!魔力効率は一緒かよ!!」」


教室から声が響いて、エリーは現実に引き戻される。

どうやら決着がついたようだ。


エリーはその様子をもう少し見てから、ロメルの元へと戻った。

 ーーどうやったら平民の学部に行けるかしら。




そんな体験をして帰ってきて。

早速エリーは父親に相談してみた。


「お父様。私、貴族の学部ではなく平民の学部に入りたいのですが」


「は?」


父親はエリーの発言を訊いて、一瞬呆けた顔をした。

それからコホンと咳払いをして、エリーをジロッと見る。


「お前は、貴族社会での繋がりを捨てるつもりか?」


父親はそう尋ねてくる。

エリーは即座に首を振った。


「違いますわ。ただ、私は王族とも次期公爵とも繋がりがありますし、これ以上は繋がりが必要ないと思うのですが」


「それはそうだが、最新の情報を仕入れることも必要だぞ……お前のことだから、慢心しているようでもなさそうだ。今のつながりを保てるというのであれば。こちらに欲しい最低の条件を言おう。私がエリーに求めるのは、テストに出て、卒業資格を取ることだけだ」


父親はそう言ってエリーを見つめる。

エリーは流石に、コレでは平民として生活は出来ないと考えた。


 ーー確か、平民も貴族もテストの日付は同じ。……うぅん。どうにかならないモノかしら?

エリーはその日から、解決策を探し始めた。

まずは目的をハッキリ認識することからと、エリーは平民の学部の情報収集を。


「うぅん。この研究、興味深いですわぁ」


エリーは資料を見ながら呟く。

その資料には、平民の学部で研究されていることなどについて書かれていた。


「基本的に貴族の学部と平民の学部を移動するのは禁止されてるようですし。うぅ~ん。悩みどころですわ」


エリーはかなり悩んだが、結局いい方法が見つからない。

ということで、数日後。


「………ということなんですが、どうにかなりませんこと?」


「うぅん。そんなことをおっしゃられる方は初めてですな」


エリーは、学長に直談判へ来ていた。

普段から忙しい学長であるが、()()()()()()()()()()エリーからの要請となると、断ることなど出来ないのである。


「そうは言われましても、テストの免除など………あっ、ありました」


学長は思い出したように顔を上げた。

エリーは、その反応に顔を輝かせる。

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