閑話集
《埋め合わせ》
「やあ。エリー」
「ご機嫌よう。アロークス」
とある王城の一室。
そこでは、子供たちのお茶会が開かれていた。
「うぅん。ガリタッドのお茶がこんなに美味しくなるなんてねぇ」
「ああ。昔は魚粉を入れるくらいだったのにな」
エリーがお土産として持ってきたお茶をすすりながら、アロークスとロメルが過去を思い出す。
ーーこんなマズいモノを飲ませるなんて!って、アロークスがキレてたわねぇ。懐かしいわぁ。
「ガリタッドは本当に発展したよな。教会でもガリダッド製の製品が色々と使われてる」
「ああ。家の領地でもガリタッドの農具とかよく使ってるよ」
ーーえ?農具の開発とか覚えないんだけど。
サッド家の長男デュランスの言葉にエリーは混乱する。
ーーそんなに凄い農具があるの?ちょっと調べてみないと!
エリーは心の中で、領地経営の計画に農具についてを組み込んだ。
「父様は、ガリタッドのマネをして領地の改革をするとか行ってたなぁ」
「俺は何も聞いていないな。港があるから、ムダなことはせずにハアピ家に乗っかる、とか言ってたぞ」
「ああ。それはこっちも同じだな。下手なことをしてハアピ家の反感は買いたくない、っていう方針を聞いたぞ」
クイフ、ターリル、ガリドルが、それぞれの家のことを話す。
他の家の者にそんなことを話すなど普通は許されないのだが、友人ということでどうにかなっている。
「……で、そろそろお二人は震えが収まりまして?」
ここに居るメンバーたちにある程度話が聞けたので、奥に座っているモノたちに話を振る。
そこにいるのは2人の令嬢で、
「ひゃ、ひゃい!こ、こここ、このような場所にお招きいたでゃき、みゃことに光栄でしゅ!!」
「お、おおお、おみゃねき頂きありがとうございまシュ~!!!!」
最後の方は頭がパンクして煙が出たみたいになっている。
さて、この2人が誰かというと、少し時を遡り、
少し前。
パーティーで喧嘩をして、エリーに言い負かされた2人の令嬢がいた。
その令嬢たちの家に貸しを作ることを条件としてパーティーで友達と宣言する予定だったのだが、エリーが襲われたことによってパーティーに出れなくなってしまった。
その埋め合わせが、今回の重要人物大量のお茶会。
下手なパーティーでお友達と言うよりも、リターンはかなり大きい。
まあ、そのリターンを得るには頑張りが必要なのだが。
「大丈夫ですの?休みます?」
「い、いえ!大丈夫でしゅ!」
「お、お気遣いありがとうございましゅ!」
ーー最後は必ず噛むのね。
エリーはその様子に苦笑しながらも、少し心が穏やかになる。
心が穏やかになるのは他のメンバーも同じようで、皆温かい笑みを浮かべている。
………いや、数人が、黒い笑みを浮かべているような気がしなくもないが。
ーーうわっ!あの顔、獲物を見てる顔だわ!流石にここで家を潰されても困るし、ちゃんとフォローしましょう!
《それぞれの入学》
『脳』を殺害し、約1年が経過した。
そんなある日、エリーは王族の友人たちと共に集まっていて、
「……エリー」
「タキアーナ。そんなに悲しい顔をしないで下さいませ。また会えるのですから」
しょんぼりとした顔の第1王女タキアーナに、エリーは苦笑する。
なぜ、タキアーナが悲しそうな顔をしているのかと言えば、
「学校に行くと、エリーに会えなくなる」
学校に行くようになるからだ。
タキアーナは現在11歳。
この世界では、学校に行かなければならない年齢になったのだ。
学校では寮生活、気軽に戻ってくることも出来ない。
「エリー!!!」
「えっ!ちょっ!?ガハッ!!???」
エリーはタキアーナの抱きつきに寄って、腹部にダメージを受けた。
その様子を見ていた他の友人たちから苦笑が見える。
「ちょっ!慌てないで、助け、キャアアァァァァ!!!????」
「え?あ?ちょっ!姉さん!それ以上は」
それからどうなったかは、皆様のご想像にお任せする。
が、ろくな事にならなかったのは、言うまでもないだろう。
……。
それから1年後。
「……エリー」
「ロメル。そんなに悲しい顔をしないで下さいませ。また会えるのですから」
ーー同じようなこと去年も行ったような気がするわね。
と、思いながらも、エリーは必死にロメルをなだめる。
ロメルも11歳となり、学校へ行かなければならなくなったのだ。
エリーは今年も必死になだめることになった。
「絶対、絶対また会いに来い!」
「はいはい。分かっておりますわ。今度見学にでも行かせて頂きます」
必死に会いに来いというロメルに、エリーは苦笑しながら頷く。
それで、すねた様子ではありながらも、ロメルは落ち着いてくれた。
ーーふぅ。今年は、コレで終わりね。
エリーはまたコレが来るのだと言うことは分かっていた。
…………。
また次の年
「それでは、バリアルの無事を願って、乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
家ではパーティーが開かれていた。
バリアルが11歳となり、学校へ行く年となったのだ。
因みに、現在エリーは9歳。
エリーの入学も迫ってきていた。
「エリー。僕がいなくても大丈夫かい?」
「寂しいですけど、大丈夫ですわ。アシルドもいますし」
「そうか。……アシルド。エリーと仲良くするんだよ」
「はい!お姉ちゃんとは仲良くします!!」
公爵家の兄弟3人は、楽しく食事をした。
一瞬4人になったときもあったが、それはまた別の話。
こうして、それぞれが本番の舞台である学校へと旅立っていくのであった。
《四肢》
とある日。
エリーに慈悲の加護について伝えた悪魔は、クラウンの拠点へとやってきていた。
「そうか」
「君も来たんだね」
その悪魔の前に座るのは、『左足』と『左腕』。
2人とも、悪魔と仲良く話している。
その様子は、まるで昔からの知り合い同士のよう。
悪魔は、自分たちを見張っているのであろう数人のクラウンの視線を感じながらも、話を展開した。
「ええ。私も来たわ。別に、『脳』に絶対の忠誠を誓ってたわけでもないし」
「そうなのか。まあ、『右腕』は利益でつながってるようには見えたし、そういうことなのか?」
『右腕』と悪魔は呼ばれた。
そう。この悪魔こそ、火傷蜥蜴の幹部の1人、『右腕』だったのだ。
「これで、四肢の内3人はクラウンに入った訳か」
「そうなるな。まあ、クラウンとしては大して気にしてなさそうだが」
「ああ。僕たちはそこまで脅威ではないみたいだしね。……コレで『右足』もいれば、四肢の完成だったんだけど。まあ、思い入れもないし、いなくてもいいか」
『左足』と『左腕』の左半身組がしゃべる。
それを聞いて、『右腕』は悪魔らしい笑みを浮かべた。
「いやぁ。クラウンに四肢はいるわよ」
「え?どういう意味だ?」
左半身組は首をかしげる。
それを面白そうに眺めながら、『右腕』は拠点にいるクラウンの1人に声をかけた。
「ねぇ。ファースト。今話せるかしら?」
「……はぁ。仕方ないねぇ。私も暇じゃないのだけど」
ファーストはそう言いながらも、『右腕』の隣に座った。
左半身組は更に首をかしげる。
「え?なんでファーストさんが?」
「ん?ファーストは、先々代の『右足』よ」
「「「え!?」」」
この『右腕』の発言に驚いたのは、左半身組だけではない。
クラウンのモノたちもそんなこと聞いたことがなかったので、目を見開いて驚いている。
「……ん?ちょっと待て。先々代の『右足』って、まさか」
「まさか、1人で村を1つ滅ぼしたって言われてる、『虐殺の魔女』!???」
周りから向けられる視線の数々に、ファーストは苦笑した。
やれやれと言いたげに1度肩をすくめ、頷く。
「その通りだよ。流石にあれだけやって目を付けられてねぇ。追っ手からここまで逃げて来たのさ」
「そ、そうだったのか。てっきり暗殺されていたのかと…」
「こんな森に閉じこもっていたんだから、死んでるのと同じさ」
ファーストは事もなげに言う。
だが、拠点は想像以上にファーストの過去の話で盛り上がった。
ーー私の罪が消えたわけじゃない。けど、クラウン様が示してくれた道で、私が殺した以上の命を救ってみせるさ。
《黒装束たちと左腕》
火傷蜥蜴のボス『脳』が連れていた黒装束たち。
会場へ乗り込んできた彼らはクラウンの手によって、拠点まで運ばれていた。
「……よし。全員出来たぞ」
「おお!?体が動く!」
「ありがとう!ありがとう!!」
数日後、どうにか警備の抜け穴を見つけたエリーが彼らの洗脳を解き、自由を与えた。
その自由は本当の自由ではないのだが、黒装束たちからしてみれば大きな進歩。
その日の夜は、皆うれしさで騒いで過ごした。
それから次の日。
「いいか!剣の持ち方はこうだ!右手の指を………」
彼らの前に1人の少年が立ち、声をはりあげていた。
彼こそ、クラウンの教育係、『左腕』である。
彼は黒装束たちに戦い方などを教えながら、自分の過去を思い出していた。
それは、彼が火傷蜥蜴に入り、幹部になるまでの話。
彼は、生まれたときから火傷蜥蜴のメンバーだった。
彼の両親も構成員で、その関係で必然的に入ることに。
『あなたは火傷蜥蜴のために生きるのよ』
そう言われて育てられた。
そんなある日のこと。
『え?死んだ?』
父親と母親が、他国への仕事中に死んでしまったという。
そう聞かされたとき、彼は何もする気が起きなくなった。
部屋に引きこもり、彼は周りとの壁を作り、その結果、本の虫となった。
毎日本を読むことで、彼は常識を手に入れていった。
その結果、彼の考えは、
ーー戦いたくない。死ぬの怖い。
といったモノに変わっていった。
彼は、命を省みずに戦う兵士としての心を失い、一般の人間に考え方が近づいていった。
だが、それに転機が訪れる。
『ねぇ。私と遊ばない?』
白い髪の少女。
暗い部屋の中、彼へ手を向ける彼女は輝いて見えた。
その日から、彼の人生は変わる。
彼は、彼女のために戦うことを決めたのだ。
『おう。最近お前頑張ってるな』
彼は本の虫だったことで、大量の知識を持っていた。
だからこそ、どうすれば強くなれるのか、どうすれば敵に勝てるのかはよく知っている。
『俺が強くなって、お前が出る必要のないようにしてやる』
『……うん』
彼と白髪の少女はうなずき合った。
彼女を守る。
その辛さを知りながらも、彼は戦い続けた。
面倒な貴族を殺し、他の組織をいくつも潰した。
それによって、彼は組織内で着々と地位を上げていった。
彼には、自分が強くなっているという自覚があった。
だが、
『……なんで、なんでだよぉぉぉ!!!!』
白髪の少女は彼の前に戻らなくなってしまった。
彼女は、囮として組織に飼われていたのだ。
敵が攻めてきたときに、時間を稼ぐための肉壁のような役割もあった。
だからこそ彼は、自分たちにたてつく組織をなくし、そんな囮を使わなくすること目指していたが、手遅れだったのだ。
『……戦いなんて、もうしたくない』
白髪の少女が死んだ彼には、もう目的はなくなっていた。
後に残ったのは、喪失感と、少女を殺した戦いそのものヘの恨み。
それでも、組織はそんなことは考慮せず、彼を使い続けた。
組織を追われて死にたくもないし、彼は戦い続けた。
だが、彼の心の奥底では………。
「『左腕』さん!大丈夫ですか?」
「っ!……おう。悪い。少しボォっとしてた。」
彼は、思考の海から意識を現実へと向けた。
彼の目の前には、彼を心配そうに見つめるクラウンのメンバー。
ーーこれが、戦いをなくすことにつながるのか?……分からないが、
分からないが、彼は願いをかけて笑みを作った。
「よし!それじゃあ、次の訓練だ!!」
「「「「はい!!!」」」」
《主人公》
「ん~。ロメル格好いい~」
そう呟く黄色い髪をツーサイドアップにした少女。
彼女の手には、小型の電子機器が収まっていた。
「あぁ。またゲームやってんの?」
「ん。お母さん。そうだよ。このゲームって、現実をそのまま移したみたいなんだよね。全員頭悪いところとか」
少女はさらっと毒を吐いた。
母親はそれを聞いて苦笑い。
だが、注意することはしない。
注意したところで、少女に論破されるのはわかりきっているからだ。
「異世界ホストねぇ。私には良さが分からなかったけど。………あぁ。そういえば、最近そのゲームアップデート入ったんだっけ?トレンドになってたけど」
「ん。そうなんだよ~。特殊な条件で行けるウルトラハードモードができたんだって。私も、それを目指してる最中」
「へぇ~。まあ、目指すのはいいけど、たまには休憩しなさいよ」
「分かってるって~」
少女はそう言いながらも、やめる気配はない。
もう6時間もぶっ続けでやってるのに。
母親は、育て方を間違えたかしらと思いながら少女の前から姿を消した。
少女は母親が消えてから、
「現実もゲームも、私以外バカしかいなくて困るね。ゲームだと私もバカになってるから、それはムカつくけど。これは私の頭が相対的にはいいから、まあ許せる」
少女はそう言いながらゲームを進めた。
だが、
「あぁ~。駄目だ。達成条件が分からない~」
数時間後。
少女はゲーム機と共にベットへ倒れ込んだ。
ボフンと音がして、少女の体が弾む。
少女はしばらく目を閉じて何か考え込んだ後、ベットの横の写真を見て、
「………明日花先生」
尊敬する人物の名をこぼした。
写真には、世界1の金持ちと呼ばれた人物の姿が映っている。
少女の出番は、もう間近だった。




