悪役令嬢、始まりの終わり
夜。
いつもなら、エリーはクラウンの拠点に行ったりする時間。
だが、今日のエリーは違った。
ベットに座り、左手を眺めている。
「……」
エリーは無言で、その左手にある火傷の痕のようなモノに触れた。
とくに、そこが痛むわけではないが、気になることがあったのだ。
《加護》
《・慈悲の加護》
痕に触れると、こんなモノが出てくる。
エリーは、コレが気になっていたのだ。
こんなもの今まで見たことがない。
ゲームにすらこのような要素は出てこなかった。
おそらく、加護とは書いてあるもののエリーが持っている光や闇、毒の加護と言ったものとは全く別のものだろう。
いったいこれは何なのかと頭を悩ませる。
「気になっているようねぇ」
後ろから、突然女性の声が聞こえた。
エリーは右手にナイフを隠し持ちながら振り返る。
「あぁ。そんなに警戒しないで。私は、ただの悪魔だから」
そこにいたのは、全身黒く、角が生え、翼を持った人型の生物。
まるでその姿は、彼女が言うように悪魔のよう。
「あなた、コレについて知っているんですの?」
エリーは、自称悪魔から目を離さないようにして問う。
悪魔はその言葉に微笑みながら頷いた。
「その通り。私はあなたの持つ、その慈悲の加護を監視するために来たのよ」
「監視?」
エリーは眉をひそめる。
ーーその所有者の私を見張るという事かしら?
「じゃあ、それの解説をするね。慈悲の加護は、元々私たち悪魔の力である14の呪いと加護の内の1つなの」
ーー14?加護と呪いと2つあるって言ってることから考えると、それぞれ7つずつかしら?
エリーは悪魔の言葉からそう推測した。
「その14の中の7つが、美徳の加護と言われるモノ。更にその中の1つが、あなたの持つ慈悲の加護よ」
「美徳の加護、ねぇ」
7つの美徳と言えば、7つの大罪の対極にあるモノ。
そう考えれば、呪いの方は大罪の呪いという名前なのだろうとエリーは推測した。
「それで、力って言うからにはちゃんと効果があってね。慈悲の加護はメリットとして、常にHPを最大値の分回復し続けるの」
「……はぁ?」
エリーは珍しく間抜けな声を漏らした。
ーーえ?HPを最大値回復?しかも常に?
「だから、慈悲の加護持ちは即死させないと常に全快しちゃうのよねぇ」
「……それは、壊れた性能ですわね。でもそういえば、『脳』と名乗るあの人もそんな感じでしたわ」
エリーは『脳』との戦闘を思い出した。
加護の攻撃などが無効化されていたと思っていたが、実際はただ回復していただけだったのだ。
「ん?でもさっきあなた、メリットは、と言っていましたかしら?デメリットもあるんですの?」
「おっ!いいところに気付くわね。実はそうなのよぉ。面倒なデメリットもあってね。それが、部下がいないと死ぬ。って言うモノなの」
エリーがその言葉を聞いて凍り付いた。
嘘か本当かなんて分からない。
なぜなら、試して死んだらどうしようもないからだ。
ーー部下がいなくなったら死ぬって、普通の人には使えないじゃない!!
「まあ、そういうことだから。頑張って」
「いや、そういうこととか言われても困りますわ!!」
数ヶ月後。
エリーは、友人たちと集まってお茶会をしていた。
なお、この集まりはパーティーではない。
そもそも、パーティーであればエリーは参加できないのだ。
なぜなら、前回のパーティーでのことがあった関係上、家に帰ると、
「お父様。しばらく、私は顔合わせなどには出ないようにさせて頂きますわ。出るたびにこうなっていては他の貴族の方々にも迷惑でしょうし」
「ふむ。詳しく説明して貰おうか」
「説明ですか。どの部分を説明すればいいのか分かりませんが、私がしばらくパーティーに出ない理由を説明致しますね。まずは、我が身可愛さが1つ。そしてもう1つは、」
エリーは父親に近づき、とある事を耳打ちした。
その瞬間、父親の表情がガラッと変わる。
「ほぅ。確かに、そちらの方を重要視した方がいいかも知れないな。……いいだろう。お前の好きなようにさせてやる」
「ありがとうございます。お父様。つきましては………」
なんてことを父親と話したのだから。
ただ、今回の集まりはパーティーではないと言っているが、正直エリーは微妙なラインだと感じている。
ーー誰かにツッコまれなければいいんだけど。
ただ、そんな願いが珍しく通じたようで、
「エリー。これ。僕たち次期公爵が仲良くなれたから、お礼だよ」
エリーに渡されるのは帽子。
エリーはそれを被り、微笑んでみせる。
「「ッ!」」
数人が顔をそらせたので、エリーは何事かと首をかしげる。
だが、すぐにその気持ちは切り替わることになった。
「あらぁ?こぉんなところで、何をやってますのぉ?」
年上の令嬢が入ってきた。
おそらく、パーティーに出ないと言ったことについて色々と言いに来たのだろう。
「あら?あなたこそ、どうしてこんな所にいるんですの?招かれてないのに来るなんて、不法侵入で訴えてもいいんですわよ」
「っ!」
ーー面倒ね。こういうのがなければ良いのだけど。………でも、私が主人公の影響で殺されないためにも!
これは、まだ始まり。
数年後にやってくるだろう本番に向けて、エリーは少しずつ準備をしていく。
~序章 終~
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