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悪役令嬢、兄弟カプ

「お、おいしい」


アシルドがそう言って、体を震わせていた。

涙もこぼすのではないかという姿に、エリーは心配になる。


「アシルド。大丈夫ですの?食べれます?」


 ーーこんな感動しながらちびちび食べていたら、お腹がいっぱいになりそう。

エリーはそう考えた。


アシルドはまだ回復したばかりなので、まだ胃もそこまで大きくはない。

とても全て入るとは思えないのだ。


数分後。

予想通り、


「うっ。ごめんなさい。お腹が」


満腹になっていた。

他の家族はまだまだ食べるため、アシルドはそれを眺めることしかできなかった。


暇そうだったのでエリーは話を聞いてみることにする。


「アシルド。さっき私が名高いって言ってましたわよね?どんな噂を聞いていましたの?」


「それはもう、凄い噂を沢山聞きましたよ!加護を2つ持つ、神の寵愛を受けた神聖な子供だとか、巨大な船を考案して国の経済を変えた天才だとか、王族方を手玉にとって自分の都合の良いように動かせる洗脳者だとか、最強の暗殺部隊を持った世界を裏側から支配する存在だとか!」


アシルドは目を輝かせながら語る。

エリーはそれを、笑顔で聞いていた。


ただ、その笑みは外側だけ、

心の中は複雑な感情だった。


 ーーなんでそんなに分かってんの!?間違ってはいるけど、的外れというわけでもなくて怖いんだけど!?……というか、私、考えてみれば凄いことしてたのね。

エリーは自分が思っていたより目立つことをしているのだと再認識した。


 ーー今は色々あって有名になっちゃってるけど、闇で動くために、もっと私の名前が表に出ないように気をつけないと。

そう考えて、エリーはアシルドの利用方法に思考を移した。


 ーー私を表に出さないためにも、責任者としてのアシルドはやはり必要よね。でも、下手に口を出してくるようでは面倒だし。

エリーはそう考え、口を出さないように教育することにした。


教育と言っても、調教とは違う。

どちらかと言えば、


 ーー洗脳のスキルを使うときが来るとはね。

洗脳の方が近い。


そうして心に決めながら会話を続けていたところ、


「エリーと仲が深まったようだな。良かった」


父親がエリーとアシルドを見つめながら言う。

2人は互いに見つめ合い、微笑んだ。


「さて、それでアシルドのことなのだが、世間にもまだ発表していなくてな、どこかで発表したいと思っていたんだ」


エリーは嫌な予感がした。

それは、危険なモノから逃れることができなくなるような気分で。


「そんなときに、私たちへパーティーの誘いが来た。しかも、公爵家から。この機を逃すことはないだろう。サッド家のパーティーでアシルドのお披露目を行うぞ!」


「「おぉ!」」


家族からは驚きのような、喜びのような声が聞こえる。

その声は、本心からのものであったが、ただ1人、本心から喜べない者がいた。


もちろん、エリーである。

 ーーサッド家のパーティー、絶対行きたくなかったんだけど!?


サッド家はエリーを暗殺したい可能性がある。

そんな敵地とも言える場所にエリーとしては行きたくなかったのだが。


 ーーーアシルドまで参加するってなると、この流れは断れないヤツだぁぁ!!!


ここまで条件がそろってしまうとどうしようもならない気がした。

ということで、夜。エリーはアジトに直行。


部下に手に入れている情報を聴き、


「こちら、毒龍たちにつけていた盗聴器から手に入れた暗殺計画に関する資料です」


資料を受け取る。

そして、さっそく最初に目に入ってきた文字に頭を抱えたくなった。


「暗殺対象は、エリー・ガノル・ハアピ、か」


エリーが暗殺対象だった。

暗殺の方法はかなりシッカリと練られている。


「海上での暗殺か。助けが来るのも難しいし、非常に暗殺には適しているな」


どうやら、買収された船の旅行の最中に暗殺が行われるようだ。

中止してしまえば良いのかも知れないが、サッド家から誘われていて、父親たちも一緒なのでそういうわけにもいかない。


「面倒だな。対策も立てなければならないし」


エリーはそう呟いてから、耳に手を当てる。

すると丁度、盗聴器からの声が聞こえてきた。


その声は、貴族や教会関係者、火傷蜥蜴から離れて新しくできた毒龍の人間たちのモノ。


「作戦通りエリーを殺す。コレは確定事項だ」


「ああ。だが、問題は」


殺されるのは確定らしい。

エリーは頭を抱えたくなった。


「問題は、エリーの護衛をどうするかだ」


「ああ。あの、この国最強と言われるハアピ家の暗殺者を倒したんだろ」


エリーはその言葉に驚く。

 ーー私の家、王国最強の暗殺者を持ってたの!?


「まあ、嘘の可能性もあるが、最悪の想定をしておくべきだろう。海での暗殺が失敗した場合はどうする?その帰りにまた暗殺するか?」


「いや、帰りは警戒しているだろう。それなら、」


失敗した場合のことまで話が進んでいた。

エリーは頭を抱えたくなる。


 ーーなんで、こんな少女1人の暗殺のためにここまで計画を考えるのよぉぉ!!!対策しづらいじゃない!!


言いたいことはたくさんあるが、エリーはそれをぐっとこらえて帰宅。

そのまま寝て、次の日の朝に。



エリーが朝食を終わらせ廊下を歩いていると、視界の端にある人物を見つける。

昨日新しく家族に加わったアシルドだ。


周りをキョロキョロと見回している。

 ーー屋敷の探検かしら?


「おはよう。アシルド」


「あっ。おはようございます。お、お姉ちゃん」


まだお姉ちゃんと言い慣れていないようである。

エリーは初々しい感じに笑みを深めつつ、提案した。


「私が、お屋敷の案内をして差し上げましょうか?」


「え!?いいんですか!?」


アシルドは目を輝かせる。

エリーはそんなアシルドの手を握り、歩き出す。


「ありがとうございます。エ、じゃなくて、お姉ちゃん。実は僕の部屋が分からなくて迷子になってて」


歩いていると、アシルドがお礼を言ってきた。

 ーーあっ。探検していたんじゃなくて、迷子になってたのね。


自身の予想が外れていたことを悟りながら案内を続けて、


「こちらが資料室ですわ」


「うわぁ!広い!!」


アシルドは見たことないほどの広さを持つ各部屋に大はしゃぎ。

そうしてうるさくしていたからか、


「エリー。屋敷を案内しているのかな?」


アシルドを微笑んで眺めているエリーの背中に、声をかけるモノが。

兄のバリアルである。


「あっ。お兄様!……それに、キシィお母様も?」


エリーが振り向くと、バリアルとキシィが立っていた。

2人が一緒にいることにエリーは首をかしげる。


「僕たちもアシルドと仲良くなろうと思ってね。そしたら、エリーが屋敷の案内をしているってメイドたちから聞いたから」


「なるほど」


エリーは納得して1度頷く。

それからアシルドの方を向き、2人の紹介をした。


「アシルド。こちらが長男のバリアルお兄様ですわ。そして、そちらがキシィお母様」


「よ、よろしくお願いします」


一通り挨拶を終わらせると、エリーは何かを思いついたような顔に。

そして口から出てくるのが、


「じゃあ、案内しながらお勉強の復習でもしますか?」


こんな提案。

キシィとバリアルはその提案を了承した。


「まずは、歩き方からかな?」


「そうね。アシルドも私が教えてあげるわ」


エリーは背筋を正して優雅に歩く。

バリアルも負けずにきれいな姿勢をとった。


キシィはアシルドに近づいて、


「まずは、手の位置はここで」


「こ、こうですか?」


アシルドへの教育が始まる。

ただし、以前とは違って体罰はない。


しかも、少し優しめになった。

エリーは自分の出した条件が良い効果を出していると考えたところで、体罰をやめること以外の条件を思い出した、


「そう言えばキシィお母様。私の妹はできそうですの?」


「あ、え、えぇと」


キシィは目をさまよわせる。

エリーはその様子に、目を細めた。


「まだ、お父様にお相手していただけていないのですね」


エリーが確認すると、キシィは小さく頷いた。

はぁ。と、エリーは小さいため息をつく。


「では、私も協力しますわ。一緒に作戦を考えましょう」


「そ、そうね」


こうして、エリーはキシィの父親攻略に協力することになった。

その様子を、アシルドとバリアルは苦笑いしながら見る。


「お姉ちゃんって、思っていたような人とは違いました」


「ん?そうなのかい」


アシルドの呟きに、バリアルは意外そうに返す。

アシルドは、自分の中のエリー像を語り出した。


「噂から考えて、もっと怖い人なんだと思っていました。僕のことも、使えないと分かればすぐに見捨てるような人だと。僕、勉強とかも全くできないし、体も弱いし。お姉ちゃんにはすぐに見捨てられると思っていたんです」


アシルドは暗い表情で言う。

そんなアシルドに、バリアルはどう接してあげれば良いのか分からず、


ぽんぽん。

と、頭を叩いてあげるしかできない。


それでも、アシルドの顔は柔らかいモノへと変わっていく。

ここに、兄弟の温かい絆が芽生えた。


 ーーはぁ。はぁ。アシルド様をバリアル様が優しくリードしてあげる?……いい!それいい!アシバリもあり!

………その絆を、ちょっと勘違いしているモノもいるが。


曲解しているモノは、あまり表情にその感情を出さない。

ただ、エリーにはその感情が読み取れていた。


なぜなら、ゲームでの知識があるから。

直接的な表現ではなかったが、ゲーム内でもそういう風にとれる表現がチラホラ。


 ーー私にも優しいし、少しくらいはお手伝いしてあげましょう。

エリーはキシィと話しながら、そう考えた。


「………それでは、続きはまた今度お話しましょう」


「え、ええ。そうね。助かったわ。エリー」

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