悪役令嬢、怪しい人
午後。
「はぁ!!」
「しっ!」
キンッ!
金属がぶつかり合う。
エリーは現在、バリアルと共に剣の練習を行っていた。
そしてそれを、アシルドはじっと眺めている。
「どうですかな?剣術を間近で見るのは初めてでしょう」
「っ!」
2人を見て固まっているアシルドに、剣術を教えているヒューズールが声をかける。
完全に見入っていてヒューズールの言葉にすぐには返答できず、アシルドは肩をふるわせて驚いた。
「え、ええ。そうですね。エリーさ、じゃない。お姉ちゃんも剣をするのは驚きです」
アシルドにお言葉に、ヒューズールは目を細めて微笑む。
その言葉がヒューズールが予想したとおりの言葉だったため、ヒューズールは、その言葉に聞いていた答えを告げる。
「そうですね。ですが、予想外だからこそ、エリー様を誰も警戒せず、次期当主であられるバリアル様の護衛にぴったりだとか」
そうして2人が話をしていると戦いの流れも変わっていく。
体力も削られてきたため、
「はっ!」
キンッ!と金属音が響く。
直後、
「っ!剣が!?」
エリーの手から、剣がはじかれていた。
空中に飛ぶ剣を目で追うエリーに、バリアルが剣を向ける。
「参りましたわ」
武器もなく剣を突きつけられた状態であるため、おとなしくエリーは両手を挙げる。
こうして、両者の戦いは終わった。
「よし!今日の訓練は終わりです!」
それと同時に、ヒューズールが訓練の終わりを告げる。
エリーは手がしびれたような演技をしながら、その場に座った。
「痺れがとれるまで休んでおりますので、お兄様は、アシルドに屋敷の案内の続きをお願いしますわ」
エリーがそう言うと、兄弟たちは心配そうな表情をしながら部屋から出て行った。
そして、足音が遠くなったところでエリーは振り返る。
「それでは、今日もお願いしますわ」
「かしこまりました。基本の型から反復練習を行いましょう」
ヒューズールはそう言いながら、小さな木刀を渡す。
それは本当に小さく、ナイフほどの大きさである。
エリーは静かにそれを受け取り、2日前から習ってきた基本の型を1つ1つ正確に行っていく。
実はエリー、バリアルには内緒で短剣術を習い始めたのだ。
理由は勿論、暗殺者ならばナイフの方を使うとエリーは考えたからだ。
ただ、きちんと建前も用意してある。
「ドレスの中に仕込むなら、確かにナイフくらいが丁度良いですな。まだまだ荒いですが、パーティーまでにはそこそこの強さにはなれるはずです」
ヒューズールは真面目に言う。
エリーも真剣な表情でナイフを振り続けた。
当然、セカンドと言った護衛のメンバーにも覚えるようにさせ、クラウンのメンバーにも伝えるように指示してある。
こうして、クラウンの戦い方は洗練された騎士の戦い方へとなっていくのであった。
ーーこの、力を入れないようにしながらも、そこそこの速さは出すって言うのが難しいのよね。
エリーは真剣な表情でこんなことを考えていた。
エリーが真剣なのは、手加減の方だった。
それでも以前よりは若干手加減しやすくなっている。
なぜなら、
《スキル『手加減LV8』が『手加減LV9』になりました》
良いスキルを手に入れたのだから。
そのまま数分、兄弟たちにバレない程度に練習を続けるのであった。
その後また兄弟たちと合流したエリーは、アシルドに1つ提案を。
「あなたが責任者になる領地があるんですけど、明日見に行きます?」
一応名前だけとはいえ責任者なので、見た方が良いと考えたのだ。
予想外だったのか一瞬アシルドは目を見開いたが、
「行きます!」
「わ、分かりましたわ」
かなりの気合いが入った返事だった。
エリーも少し驚く。
驚いたとは言え了承されることは予想していたことなので、エリーはそのまま計画を立てていく。
そして翌日、
「うわぁ!」
アシルドが驚きのこもった声を上げる。
その目の前には、豪華な街が映っていた。
その街こそ、エリーの管理している村である。
アシルドは、そんな姉への尊敬をいっそう深めるのだった。
村へ入ると一旦別行動という形を取り、
「エリー様。ようこそいらっしゃいました」
「ええ。お出迎えありがとうございますわ。ダリージャル」
エリーを、作業員たちのリーダーをしているダリージャルが出迎えた。
最初に会った時のようなぼさぼさの髪はサラサラとしたショートヘアになっており、服装も小ぎれいである。
ダリージャルも、まとめ役と言うこともあり、かなり稼げているのだ。
まあ、作業員たちも稼げているので、ダリージャルが特別というわけではない。
「ダリージャル。数名呼んできて欲しいのですが」
「はい。誰を呼んでくれば良いので?」
エリーは考えておいた数名を言う。
ダリージャルは不思議そうにしながら頷いた。
数十分後。
メンバーはすぐにそろった。
「皆さんにちょっとお仕事をお願いしたいんですの」
「了解です。どこまで行けば良いのでしょうか?」
「実は、私、パーティーに招待されまして………………ということで、皆様には少し遠くの港までお願いしたいんですの」
「了解致しました」
エリーの話を聞き、呼び出されたメンバーは全員了承した。
呼んだメンバーは、船を操る技術に長けたモノたち。
彼らなら海上で襲われたとしても逃げることは不可能はないはずだと、エリーは考える。
エリーは出発日も伝えておくことを忘れない。
「それでは、頼みましたわ」
「「「はっ!」」」
エリーはそこまで言って立ち去る。
これで、村でやっておく仕事は終わったのだ。
「さて、サッド公爵に面会の申し込みをしなければなりませんわねぇ」
エリーは薄い笑みを浮かべて言う。
そんなエリーを眺めて、顔に焦りを浮かべる者がいた。
「あいつら確か、凄腕の船乗りどもだったよな。………まさか、移動用の船の運転をあいつらに代えろとか言うんじゃねぇだろぉな!これじゃあ予定が狂っちまう!公爵様に伝えないと!!」
そのものは冷や汗を流しながら駆けだした。
そんな走り去る存在に特に反応は見せず、面会を終わらせたエリーは外に出る。
すると賑やかな外に、豪華な服を着た存在を見つけられて、
「うわぁ!おいしいです!」
「そうだろ。アシルド。もっと食べていんだぞ」
「うわぁ!本当ですか!?ありがとうございます!お兄様」
アシルドとバリアル。
2人はかなりなかよくなったようで、一緒に店をまわっていた。
エリーはその2人から目を外し、もう1つの目に映ったモノに近づく。
そのモノは、じっとアシルドとバリアルを眺めている。
(ぐふふ!いいわぁ!アシルド様とバリアル様が一緒に遊んでる!もっと!もっと近づいて貰って!それから、)
妄想を膨らませるそのものの背中に、
ぽん。
と、手が載せられる。
「っ!?」
肩をふるわせ、そのものはゆっくりと振り向く。
その目には、にこりと微笑むエリーの顔が。
「こんな所でどうしたの?メアリー」
「え、えぇっと、これは。その」
エリーの専属であるメアリーは、目線を大海原に飛び込ませていた。
要するに、泳いでいると言うことである。
「メアリー。私のそばから離れていて、心配しましたのよ」
エリーはそう言って、メアリーの瞳を見つめる。
メアリーはその瞳を見つめることができずに、顔を背ける。
「えぇと。すみません。少しお花摘みに行っておりましてですね」
トイレ行っていたので仕方なかったんです。
という、言い訳である。
だが、エリーはそれが嘘であることを見ぬいた。
エリーは満面の笑みを浮かべて言う。
「メアリー。夜、少しお話ししましょうか」
「え、でも、」
メアリーは戸惑うような声を出す。
だが、エリーは逃さない。
「いいですわね」
「……はい」




