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悪役令嬢、船で友達と

「うわぁ!きれい!!」

「凄い!もう港が見えないよ!!」


エリーたちは、巨大な船に乗って遊んでいた。

王族たちは大はしゃぎ。


「ふふっ。喜んで頂けたようで何よりですわ」


エリーはそんな光景を見ながら満足気に笑みを浮かべる。

乗り慣れているエリーは、はしゃぐという選択肢を持ってなかった。


「ねぇ。エリーは楽しめてる?」


そんなテンションが違う、ぼぉっと海を眺めるエリーに、第3王子のエイダーがそう声をかけてきた。

エリーは薄い笑みを浮かべて頷く。


「ええ。お友達が楽しければ、私も楽しいですわ」


「そうなの?なら、いいんだけど……」


そこで、会話が途切れる。

お互い少し見つめ合った後、エリーは少し踏み込んでみることにした。


「最近、何かありましたの?」


エイダーも、第1王子のロメルも、最近少しおかしい。

エリーはマズいことが起こっているのではないかと警戒しているのだ。


ただそうすんなりいく問題でもなく、


「……」


エイダーは何も言わずにうつむいてしまう。

エリーもこれ以上踏み込んでも成果は出せないと感じ取り、あえて外側から攻めることにした。


「ねぇ。エイダー。私、何か嫌われるようなことをしてしまいましたの?私悩んでいるのですけど、さっぱり思いつかなくて。何かしてしまったなら、謝りたいんですわ」


感情に寄り添った言い方。

エイダーのような幼い子供、いや、大人でも、正論だけで探っても話をしてくれないことは多い。


そんなときにどうするかと言ったら、情に訴えかけることくらいだ。

エリーの言葉にエイダーは少し体を動かしたが、顔を上げることはない。


エリーは、安心させるようにエイダーに抱きついた。恥ずかしがったり色々と心配事があったりしてやらない人が多いが、ボディランゲージも重要な手段の1つである。特にそういったことにあまり慣れていない相手であれば、簡単に感情を引き出しやすい。

するとそんな思惑通り、しばらくしてエイダーは絞り出すような声と共に口を開いて、


「エ、エリーが。教会のイルデと最近仲が良いって聞いて。僕たち、教会とあまり関係が良くないから、嫌われちゃうんじゃないかと思って」


 ーーあっ!そこっ!?

エリーは心の中で驚いた。


ただその驚きは表面には出さず、優しい笑みを浮かべた。

そして、エイダーの頭を撫でる。


「大丈夫ですわ。イルデと最近会っているのは、教会との不和を解消するためですわ。イルデに、私たちと敵対しないように誘導するよう頼んでいるんですの」


実際そういう話もしているため、嘘ではない。

が、2人の話している本題は、それではない。


それでも、安心させるために今話すこととしてはこの内容が1番手っ取り早い物であった。


「とは言っても、信用できないですわよね?」


「え?あ、いや、その」


エリーの問いかけに、エイダーはしどろもどろになる。

その様子が、友達は信用したいけど、どうしても本心から信用することはできないということをよく示していた。


そこで、エリーは提案を行う。


「でしたら。今度イルデとお話してみませんか?」


「お話?イルデと?」


「そう。話してみれば、イルデがそこまで悪い人でないことは分かると思いますわ」


エリーが言うと、エイダーは数度頷いて笑顔になった。イルデの人柄など肝心の教会との関係性では何も関係ないのだが、それに気づかないのだからまだまだお子様である。

そんなお子様王子は満面の笑みで、


「じゃあ、今度のお茶会にイルデを招待するように提案してみる!」


「ええ。頑張って下さい」


エリーはそれだけ言ってまた視線を海に戻した。

エイダーも釣られるように目を海に向ける。


「……あっ!見えてきた!」


「おお。あそこが」


声につられて視線を向けたロメルが目を輝かせる。

他の王族たちも同じように目を輝かせていた。


「あれが、エリーの発展させたガリタッド」

「凄い!ここからでも発展してるのがよく分かる!」


若干子供らしくない感想を王族たちは口にする。

エリーは少し寂しく思いながらも、降りる用意を始めた。


船の錨が下ろされ、港に横付けされる。

降りてきた王族たちに、エリーは軽く手を向けて、


「こちらが私の領地、ガリタッドですわ。僭越ながら、ご案内させて頂きます」


そう言って、軽く頭を下げる。

王族たちはそれぞれ期待した表情を浮かべて、


「エリーが案内してくれるなら安心だね」

「美味しいところを期待」

「きれいですわ!それに、面白そうなところがいっぱい!」


「ふふっ。楽しみにしていただけているようで何よりですわ。…………では、まずはこちらですわ」


エリーは王族たちに手招きをする。専用の新しい船に乗るのだ。

全員集まると、新しく乗った船はゆっくりと近くの船にさらに近づいて行った。


「こちら、オーガ船ですわ」


エリーが海上で行っているビジネス。

その1つが、海上動物園だ。


動物園といっても、飼育されている動物は少し特殊。

何と言ったって、魔物なのだから。


今回エリーたちが見ているのはオーガが乗った船。

オーガ船。


「ガアアアァァァァ!!!!!」


ゴンゴンッ!

船の中のオーガは、叫び声をあげながら船に体当たりを繰り返す。迫力満点だ。


「あれ、大丈夫なの?」


第3王子のエイダーは不安そうにしている。

エリーは落ち着かせるように微笑んだ。


「本当に大丈夫?」


壁にぶつかるオーガを見て、他の王族たちも心配そうにしている。ほほ笑むだけではさすがに心配を払しょくできなかったらしい。

エリーは落ち着かせるようなセリフを口にする。


「あれは、頑丈だから大丈夫ですわ.1日に1度は点検を行っておりますし、下は海ですから、もし壊れてしまったとしても、海で溺れるだけですわ」


そう言うと、心配していた者達も少しだけ安心したような顔を見せた。

それから、打って変わって感心したように感想を述べる。


「あんなにぶつかってるのに、船の揺れは少ない」


「あれに耐えられる壁って、いったい何を使ってるんだ?」


「いやぁ。オーガなんて初めて見たよ。こんなことは思いつかなかったなぁ」


感想を聞き、エリーは笑みを深めた。

そして、アピールを始める。


「ふふふっ!あのオーガを入れている船の壁と同じ材質が、それぞれの船に使われているんですわ!もちろんこの船もそうです!頑丈な素材で!巨大な魚にぶつかったとしても壊れることはないですわ!」


「えっ!?この船にも使われてるの!?」


「あんなに硬いモノを量産できるのか。すごいな」


そんな調子でオーガだけでなく他のモンスターも見ながら解説を進めていく。

そうしていると時間はあっという間に過ぎていって、


くぅ~。

きゅるるるるっ。


エリーの耳に、かわいらしい音が聞こえる。

振り返ると、第2王女のリファータと第3王子のエイダーが顔を赤くしながらお腹を押さえていた。


「あら。そろそろ食事にした方がいいかもしれないですわね。では、あちらに行きましょう」


エリーは操縦士に指示を出し、1つの船へ向かう。

船の前まで行くと、威勢のいい声が聞こえた。


「へい!いらっしゃいませ!」


船から応答する男。

その船は、食べ物を買うことができる飲食船だった。


「それじゃあ、マナフィッシュ揚げを8つ!」


「あいよぉ!」


その船で売っているのは、魚の揚げ物。

男は船内へ入り、しばらくすると戻ってくる。


「はい!ご注文通りだよ!」


「ありがとうございますわ」


こうして飲食店も会場に点在しているわけだ。

探してみるといろいろあって、


「あっ!あれもおいしそう!!」


第3王子のエイダーがうれしそうに声を上げる。

その手には、たくさんの食べ物が。


「エイダー。買いすぎ。もう少し抑えるべき」


「えぇ~。お姉ちゃんだって同じくらいとってるのに!」


「うぐっ!」


たしなめた第1王女のタキアーナが、エイダーからの1撃を受けて呻く。

その手には、エイダーと同じくたくさんの食べ物が。


他人に注意しておいて、結局は自分も大量に買い込んでいるのであった。

そんな会話が繰り広げているのをエリーが眺めていると、


「エリー。これも、収入の1部になるのか?」


第1王子のロメルが、自分の手にある食べ物を見ながら尋ねてくる。

エリーはうなずいた。


「このあたりの海上での出店は使用料をとってますわ。さらに、船の貸し出しも行っておりますから、それでもお金がとられています。まあ、売り上げによってこちらへの金を変えたりはしていませんけど。あと、船の販売を行っていますから、そこそこの収入を得た店は借りずに購入をするはずですわ」


「なるほどねぇ。使用料は取られるけど、この辺じゃないと集客はできない、と」


話を聞いていた第2皇子のアロークスが納得した表情で会話に入ってきた。

そのアロークスもロメルも、あこがれの存在を見ている様だった。


そうして昼食などもはさみつつまた船はモンスターのいる他の船の近くを通り出して、


「皆様!珍しいものが見れますわよ!」


エリーがそう声を上げると、王族たちがわらわらと集まってきた。

どれの事かと全員周りを見回している。


「あれですわ!バジリスクですわ!!」


バジリスク。

見た相手を石化させる能力を持つ魔物。


「えっ!?見て大丈夫なの!?」


王族たちは慌てる。

エリーは、そんな王族たちの様子を微笑みながら眺める。


「大丈夫ですわ。こちらからは見えますが、向こうからは見えないような構造になっておりますの」


取調室のガラスみたいな感じである。

マジックミラーというやつだ。


まあ、鏡ではなく、向こうからはただの壁にしか見えないのだが。

ただ、ストレスを与えすぎないようにするため、壁には花畑の絵が描いてある。


「あ、あれが、バジリスク」


「意外と、かわいい?」

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