悪役令嬢、結果を示す
エリーは、表ではいろいろな事業に手をつけたり、剣術をしたり、勉強をしたり、王族たちと友好を深めたり、たまにイルデから相談を受けたりして過ごす。
裏では、盗賊を狩ることがほとんどだった。
そんなことをしている内に、約1年が過ぎた。
そして今日は、あの日である。
「エリー。報告をして貰おう」
父親が冷たく告げる。
その視線を受けたエリーは軽く頷き、資料を取り出した。
「こちらです」
父親は手渡された資料を眺める。
そこには、この1年間の収入が書いてあった。
1年間で1億稼ぐことができれば、エリーは他の人の名前を借りて領地の経営ができる。今回はその結果を報告する日なのだ。
だが、収入の大きな源として考えていた船の建造には時間も予算も掛かった。
半年で船は完成したものの、
「9000万か。残念だったな」
「そうですね。残念です」
斬円ながらそれで目標を達成することはできなかったのだ。あと少し早く完成していれば変わったのかもしれないが、これが現実である。
ただエリーは残念だと言ったもののその顔に暗い感情は表れていなかった。
どちらかといえばニヤリと一瞬笑みを深めて、
「では、こちらが全体の収入です」
エリーはそう言って、全ての収支の資料を渡す。
父親素早くその資料に目を通し、眉をピクリと動かした。
「印刷業が思ったより成果を出しまして、3億ほどの利益を出しましたわ。それと飲食関係が2億。船のリースで1億500万。その他諸々も合わせると、合計で、300億の黒字となりました」
エリーはそう言って微笑む。確かに船の建造だけでは駄目だったが、それ以外で莫大な利益を上げたのだ。実をいえば目標など数か月は前に達成していたのである。
だが、父親の反応はない。
「お父様?どうか致しましたの?」
「っ!?あ、ああ。すまない。少し驚いてな」
エリーが話しかけると、父親の理性が戻ってきた。
父親は、エリーの出した利益に驚いていたのだ。
1億行けば良いと思っていたのに、300億も稼いだのは驚きだ。
だが、驚いた理由は予想を上回ったからではなく、
ーー300億って、我が家の収入を超えていないか!?
公爵家の収入より、エリーの出した利益の方が多いからである。
ーー本当に、エリーは私の娘なのかあやしく思えてきたな。優秀すぎる。
才能がありすぎてエリーが怖い。そんな心境だ。
だがその怖いエリーは止まってなどくれず、
「お父様!私は、きちんと1億以上の利益を出しましたわ。約束通り、どなたかの名前をお貸し頂きたいのですが」
エリーは目を輝かせて言う。
父親は、そう言えばそんな約束だったと、約束を思い出しながら、手でエリーを制す。
「落ち着け。後、数日すれば連れてきてやる」
「数日ですか?分かりましたわ」
エリーは首を縦に振る。
ーー弟、まだ来ないのねぇ。
エリーは心の中で、現在闘病中であろう弟に思いをはせた。
そして、自分が稼いだ金で、治療費が払われるのであろうということにも。
ーー自分で稼いだお金で、自分を殺しかねない命を救うって、変な気分だわ。
エリーは、ゲームでエリーが殺されるシーンを思い出す。
エリーは弟に毒を盛られて死ぬのだ。
まあ、そこに行くまでに紆余曲折あるわけだが、死へ直結する原因はそれ。
ーー今のうちに私に懐かせておかないとダメよねぇ。まあ、毒の耐性はかなり付いてるから良いんだけど、愛に頭を染められた人が何をするのか分からないから困るわ。
エリーの頭の中には、弟から狙われないための方法が幾つか浮かんでいた。
そのまま数日後を待つことになるわけだがその間にもいろいろあって、
コンコンッ。
エリーは扉をノックする。
「どうぞ」
部屋の中から、入室の許可が出た。
エリーは扉に手をかける。
「失礼しますわ」
そんな言葉と共に入室すると、直後に体を包み込まれた。
ある程度勢いはついていたのだが、それでも圧倒的なレベルの高さを誇るエリーは一切ふらつくことすらなかった。
「エリー。待ってた」
「はぁ~。エリーの感触がしますわぁ」
どんな感触だよ!
と、思いながらもエリーは微笑みを浮かべる。
「こんにちは。皆様」
エリーがそう言うと、奥のメンバーも笑みを浮かべる。
この日は、エリーと王族たちが出会ってから丁度1年がたった日だった。
「今日は皆様と出会って1年。記念にケーキを買ってきましたわ」
記念にというわけではないが、いつもよりも豪勢なお土産を用意していた。
魚粉のお茶とは明らかに値段が違う代物である。
「ん~。おいしいですわ」
「うん。おいしい。王都のよりも美味しいかも知れない」
エリーたちはケーキを食べながら雑談をする。
王族たちの様子は、出会った時と比べてあまり変わっていない。と、いうこともない。
「くやしい。私もお菓子のお店を王都に作りたい」
「お姉様!素晴らしいお考えですわ!」
第1王女のタキアーナは相変わらず口下手で、頭が良い。
第2王女のリファータは、お嬢様口調なことは変わらないが。肩ほどまでだった髪が、肩甲骨下端くらいの長さになった。
「そうだねぇ。流石エリー。お菓子を選ぶ目も良いんだね!」
「確かに、美味いな」
「美味しいよ」
特に変わったのは王子たちの方だ。
第2王子のアロークスがエリーに洗脳され、心酔していることは変わらない。
ただ、第1王子のロメルと、第3王子のエイダーも変わってしまった。
「ねぇ。ロメル。エイダー。本当に美味しいと思ってますの?表情が硬いですわよ」
エリーは困ったような目線を2人に向ける。
だが、当の2人は気にした様子もなく。
「美味しいと思うぞ」
「うん」
と、目線をあげずに言った。
実は最近、2人が目線を合わせてくれないのだ。
ーー反抗期なのかしらぁ?
と、エリーは思っている。
「むぅ~。2人とも最近冷たいですわ。私、悲しいです」
エリーはそう言って、ぷくっと頬を膨らませる。
すると、ロメルとエイダーは慌てたよう、
「そ、そんなことはない!」
「僕は冷たくないよ!」
ーーうぅん。この感じからすると、嫌われたわけではなさそうなんだけど。
エリーはロメルたちの様子に首をかしげた。
一応予想はできるのだが、2人とも同時にというのが少し気になるところ。
ということでより深く探るため、
「はぁ~。悲しいですわぁ。悲しいですわぁ」
エリーは、ヨヨヨッと泣き真似をした。
すると、ロメルたちはさらに慌てて、
「悪かった!悪かったから、機嫌を直してくれ!何でもするから!」
「ぼ、僕にできることなら何でも!」
2人がそう言ったところで、エリーの動きが止まる。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「今、何でもといいまして?」
「「うん」」
「へぇ~。何でも、ねぇ」
エリーの顔に笑みが作られていく。
ロメルは不安を感じたが、1度言葉にしてしまった手前すでに撤回することなどできず、ただただ不安を抱えながら笑みを深めるエリーを見ることしかできなかった。
「じゃあ、皆でまたお出かけ致しましょう!」
「「「は?」」」
エリー以外の全員が首をかしげた。
あくどいエリーの事であるから何か利権でも奪われると考えられていたのである。
そして後日、予想外の約束ではあったもののそれは果たされて、
「エリー。来た」
「こんにちは。エリー」
天気の良い日。
王族たちが待ち合わせ場所へとやってきた。
今回のお出かけは、現地集合。
エリーは少し先に現地入りしていた。
「こんにちは皆様。さあさあ。早速いきますわよ」
エリーは王族たちを引き連れて進んでいく。
目的地には、すぐにたどり着いた。
「「「うわぁぁ~」」」
王族たちが感嘆の声を漏らす。
目の前には、エリーたちによって作られた巨大な船。
「お、大きい」
「こんなに大きいのに、船が浮くんだぁ!」
口々に感想を言う。
エリーはその感想を一通り聞くと、王族たちの腕を掴み、
「それじゃあ、船の旅を致しますわよ!」




