悪役令嬢、迷い劣等感を感じさせる
エリーは、自宅へ帰宅する馬車の中、メイドのメアリーに話しかけていた。
「今日の私の対応はどうだったかしら?」
エリーの今日の対応の感想を尋ねる。
メアリーは、できるだけ当たり障りのない回答を考え、
「とても素晴らしかったと思います。殿下達とご友人になれたのですから、きっと、公爵様もお褒めになられるでしょう」
と、答えた。
持ち上げすぎにはならない程度で、シッカリと褒める。
「良いですわね。私、そういう無難な回答、嫌いじゃないんですの」
エリーの言葉に、メアリーは苦笑いで返した。
エリーにそういうことは分かっていないと思っていたのだ。
メアリーの中の、エリーの評価は低くない。
下手な貴族よりも頭が良く、立ち回りが上手く、その知恵で他者を陥れようともしない。
そんな人物がすぐに失脚するとは思えない。
だから、そういう人物の元なら安定して働けると思うのだ。
安定した職業は、この世界でも好まれるのである。
「帰ったらキシィお母様とのお勉強ですわね。それまでにお茶の用意をお願い致しますわ」
「承りました」
ある日の夜。
エリーはとある館を観察していた。
館の近くにいるのは、エリーだけではない。
クラウンの戦闘関係のメンバーがほとんど出ている。
理由は簡単。
この屋敷に、火傷蜥蜴という、クラウンの最大の敵のアジトの1つがある、ということだったのだ
「クラウン様。どうやら地下があるようです」
部下が報告をしてくる。
エリーはうなずき、近くの部下に幾つか指示を出す。
「それじゃあ、動こうかしら!」
エリーはそこで、軽く飛び出す。
パキッ!
足が空を切った。
「えっ?」
エリーは下へと真っ逆さま。
すでに周りの部下たちは出て行っており、エリーの姿を見た者はいなかった。
さて、その頃セカンドたちは、屋敷に突入しており、
「脱出口を塞げ。他のメンバーで地下へ降りるぞ」
「「「はっ!」」」
足音を立てずに、セカンドたちは歩く。
セカンドは隠し扉に手を当て、
「やれ!」
ドォォォォンッ!
大規模な爆発が起こった。
爆発と同時に、セカンドは地下へと突入した。
煙の中、素速く敵を察知して斬り殺していく。
「うわぁぁぁ!!???」
「ぐあぁぁ!!???」
セカンドたちが敵を斬り殺しながら進んでいくと、白衣を着た男性が奥にいた。
白衣の男性に部下たちが襲いかかるが、どうにか白衣の男性は回避した。
「くっ!何者だ!」
「我らはクラウン。全ての闇を飲み込むモノだ」
セカンドは表情を変えずに答える。
答えながらも、シッカリと白衣の男性の挙動を観測した。
「ぐぬぬうっ!本来はこんな失敗作を使うつもりはなかったのだがな!」
憎々しげに呟いて、白衣の男性は小瓶に入った液体を飲んだ。
すると、
「グアアアァァァ!!!!!!!」
「っ!?魔力狂い!?」
部下たちは一斉に飛び退く。
直後、部下たちがいた場所を太い腕が空振りした。
白衣の男性はとても筋肉が付いており、人とは思えない姿をしていた。
「くそぉぉぉ!!!私ではやはり、闇の加護は得られないぃぃぃ!!!!」
叫びながら、白衣の男性だったモノは暴れる。
隙を見て部下たちが攻撃しているが、傷1つ付いていない。
「死ね!」
セカンドは化け物の後ろに回り、剣撃を放つ。
その剣撃は部下と違い、簡単に敵を切り裂くことに成功した。
「ぬぉぉぉぉお!!!おのれぇぇぇぇ!!!こんな、こんなところで死ぬわけにわぁぁぁ!!!!」
斬られた背中を押さえながら、怪物はかけだした。
それと同時に、小さなボールを足下に投げた。
ボンッ!
と音がして、辺りを霧が覆う。
霧が晴れた頃には、
「ちっ!逃げられたか」
セカンドは悔しそうに顔をゆがめた。
だが、サードは辺りを見回し、
「……そういえば、クラウン様がいない」
「ほぅ。つまり、クラウン様はこの事を予想してたという事か」
セカンドたちが敵を逃がした頃。
「あぁ。完全に迷ったわね。」
エリーは館を見失っていた。
しばらく歩き回っても見つからなかったので、木にでも登ろうかと思ったところで、
「ぐぬああああ!!!!」
変な声を上げながら走って来る化け物の姿が。
エリーは首をかしげながらも、
「そんなに急いだら、危ないぞ」
そういって、剣を振る。
まだ走ってくる男が敵か味方かわからなかったので、あまり殺傷力が高くならないように振った。
切り裂かないように刃の部分を斜めに当てる。
男は反応もできずに吹き飛んだ。
「あっ!力加減間違えた」
切り裂きはしなかったものの、力を入れすぎてしまった。
男の吹き飛び方が尋常ではない。
が、それは運が良いことで、
ボォォォンッ!という音と共に
吹き飛ばされた男は爆発。
辺りは消し炭になった。
その後、
「クラウン様。こちらの資料を」
エリーは、爆発に気づいたクラウンの仲間に案内され、館へやってきた。
数人のメンバーから、館から見つかった資料を手渡してきた。
「うぅ~ん」
パラパラと資料をめくっていたが、とある資料でめくる手が止まった。
そこに書いてあるのは、魔法関係の事。
ある程度の魔法の知識をキシィから習っているが、まだ基礎しか分かっていないので内容がよくわからない。
だが、何かを勘違いしたクラウンのメンバーが、
「さすがクラウン様!闇の加護の付与の資料に興味を持たれたのですね!」
ー-え?これが闇の加護を付与する方法の資料なの!?
エリーは驚くが、仮面をつけているためにその表情は部下には見られない。
部下の誤解が正されることなく、話は進んでいく。
「この実験をクラウンでも取り入れられれば、火傷蜥蜴を上回る力が手に入れられるはずです」
部下が目を輝かせながら話を続ける。
とりあえず、誤解は置いておいて、分からないところを詳しく聞いてみることにした。
「ここって、どういうことかしら?」
「ん?ここですか?ここは………っ!?魔力関係式が間違ってる!?さすがクラウン様!間違いを瞬時に見つけられたのですね!」
分からないことを聞いたはずなのに、なぜか褒められるだけだった。
ー-私は答えが欲しいのだけど。
エリーの願いもむなしく、誰もエリーの疑問に答えるものはいなかった。
「今日もよろしくお願いいたしますわ。キシィお母様」
館を襲撃した次の日、いつものようにエリーは勉強を習っていた。
キシィも虐待を行うことはなくなり、最近は穏やかに勉強を教えてもらっている。
そこでわかったのは、あまりキシィの頭がよくない、ということだ。
どうやら、キシィも、エリーに教えていることをあまり理解できていないらしい。
だから、疑問を口にしても自分で考えろ、としか言わなかったようだ。
さて、そんな中、
「失礼いたします」
部屋に入ってくる少年が。
エリーの兄、バリアルである。
「あら?お兄様。どうかされましたの?」
「……キシィお母様。僕も勉強に参加してもよろしいでしょうか?」
バリアルはそう言って、頭を下げる。
ー-キシィが最近暴力を振るわないから、優しく教えてもらえるって思ったのかしら?
「か、構わないけど。エリー。悪いけど、バリアルに合わせて教えるわね。復習だと思って聞いておきなさい」
「はい。お母様」
それからしばらくして、
「ここがよく分からないんだけど」
「ああ。そこはこういう事ですわ。お兄様」
エリーとバリアルは、ともにキシィから勉強を教わる。
そんなバリアルの心は、
ー-どうなってるんだ?キシィお母様がこんなに優しいなんて。
という、困惑の感情が渦巻いていた。
兄、バリアルはエリーの力になりたい、と思っていた。
理由は、エリーがバリアルの事をキシィから救ってくれたから。
なのだが、救ってあげられる機会が少ない。
心が落ち込む中、もうエリーがつらい状況になるであろうことは、1つしか思いつかなかった。
それが、キシィからの教育だ。
キシィから、今も虐待を受けているから、自分が加わって、少しでも負担を減らそうと思っていたのだが、
なぜかキシィが暴力を振るわない。
肩透かしを食らったような感じである。
さらに、驚くべきことに、エリーがとても勉強が得意なのだ。
バリアルもそこそこ勉強は習っているのだが、エリーの勉強はかなり進んでいる。
それによって、
ー-本当に、エリーはすごいな。
さらに劣等感を膨らませるバリアルだった。




