悪役令嬢 専属メイド
「ご褒美?いったい何が欲しいんだい?たいていのモノは買ってあげるけど」
父親が首をかしげる。
そこで、エリーはぎりぎり受け入れられるかどうかの発言をした。
「私、ご褒美として領地が欲しいんですの。領地運営をやってみたいですわ」
父親の顔が固まる。
さすがに即答はできないようだ。
だが、エリーはこの提案を受け入れられると踏んでいる、
その理由は、公爵家になると、ほとんど領地経営まで手が回らないからだ。
公爵家などはとても領地が広い。
だが、公爵は城勤めで、それぞれに仕事がある。
そして、その仕事もかなり忙しいもので、領地経営などやる暇がないのだ。
手が回らない領地は、金をばらまいて住民の暮らしを安定させることしかできない。
ある意味、領地とは、公爵の力を抑えるための足かせ。
住民に金をばらまかせて、公爵家の資金が増えすぎないようになっているのだ。
つまり、公爵たちにとって、領地の経営を任せることは大してリスクにはならない。
少しくらい赤字でも、金を配るだけでいいのだから。
「いいだろう。エリー。君に領地の1部の経営を任せよう」
「わぁ!ありがとうお父様」
エリーが領地経営をしたい理由。
それは、
ー-王子とかかわると面倒なことになりかねないし、ひきこもる場所が欲しいわ。
これである。
それだけでなく、
ー-もしかしたら、ゲーム時期に入って追放されるかもしれないし、国外へ逃亡するルートも必要ね。
とも、思っている。
エリーは基本的に王子とかかわることを恐れている。
その中でも特にかかわりたくないのが、第1王子。
だが、その次にかかわりたくないのが、今回婚約の話が浮上したアロークスである。
彼は、ゲームの中ではエリーの婚約者であった。
考え方としては、平民を大切にする、エリーの家の考え方に近い。
そのため、平民をあまり好まないエリーとは仲がよろしくない。
そこに現れるのが、異世界から召喚された少女。
主人公である。
主人公は、魔王からの攻撃を抑える聖女という立場で召喚される。
彼女はとても心優しく、そのやさしさにアロークスは惹かれ、彼女と婚約するために根回しを行う。
そして、とある方法を考えつく。
それが、エリーの公爵家の令嬢という立場を、すべて主人公に渡すという方法だ。
絶対命令権。
というものを、王族は持っている。
それは、どんな命令でも、それを使えば王の命令と同等の力を持つというものである。
ただ、1部の命令、王を殺せなどといった命令には使うことができない。
その強すぎる効果は、もちろん制限がある。
それは、1生に1度しか使えない。ということだ。
その絶対命令権を、アロークスはエリーに使う。
エリーの持つ財産や立場を、すべて主人公に渡すように命令するのだ。
エリーはそれによって立場を完全に失い、怒ったエリーは主人公に復讐を誓う。
そこからいろいろと騒動を起こし、エリーは弟に毒殺されるのであった。
というのが、エリーの知るゲームのシナリオ。
絶対命令権を使われてしまっては、たまったものじゃないので、エリーとしては他の王族ともかかわりたくないのだ。
それでも関わらないといけないのなら、エリーは安全な場所を作っておく必要がある。
クラウンの拠点である、老婆の家も安全といえば安全なのだが、仮にエリーに監視が付いていて、老婆の家を発見されても問題。
それなら、エリーとしては自分で領地を育て、そこのモノたちの好感度を上げておこうと思うのだ。
そうして好感度の高い領民達の中で生活しておけば、命を狙われるということも少ないはず。
というより、安全な土地をエリーの手で作ることができるはずなのだ。
「じゃあ、渡す領土は家で話し合おう」
「はい!お父様!お仕事頑張ってください!!」
エリーは馬車に乗り、仕事の残っている父親と別れる。
馬車の中では、母親にたくさん褒められた。
ただ、ほめられるのは嬉しいが、同じ話を5回も6回も聞き続けるのは少しつらいモノもあった。
エリーは精神的に疲れながらも、家に帰りつく。
そして、母親から逃れようと馬車から出た所で、
「エリー!大丈夫かい!?」
ガバッ!
と、抱き着かれた。
しばらく、兄、バリアルに抱き着かれる。
ー-あら?妹のお出かけを心配したのかしら?
「エリー。聞いたよ!毒を食べて倒れちゃったんだろ?今日は安静にして、」
どうやら、バリアルはエリーが毒で倒れたことを誰かに聞いたらしい。
今日は安静にして、という割には、なかなか離してくれない。
「お、お兄様。私は大丈夫ですから」
30分ほどエリーがなだめ、さらに母親も途中からなだめたことで、やっと兄は離れてくれた。
今日は、精神的に疲れる日だと、エリーは感じた。
夕方になり、父親が帰ってきた。
そして、家族で夕食を食べていると、
「エリー。あとで、私の部屋に来なさい」
父親から指示があった。
エリーは黙ってうなずく。
ー-何かしら?領地の話?それとも、王族とお話をする日程の話?
期待と不安を感じつつ、両親の部屋に向かう。
コンコン。
扉をノック。
「入っていいよ」
父親の許可が下り、エリーは部屋に入った。
そこには、父親と見覚えのある女性が。
「今日から、エリーに、王城からの専属メイドが付くことになった」
「メアリーです。これからよろしくお願いいたします」
ー-メ、メアリー来たぁぁぁ!!!
エリーは驚きによって鼓動が速くなるのを感じつつも、冷静を装って挨拶をする。
「そう。これからよろしくお願いしますわ」
メアリー。
王城から派遣されたエリーの専属メイド。
だが、その本来の仕事は、公爵家の調査と、エリーが毒を飲まないかの監視。
エリーには伝えられていないが、公爵と母親には、エリーに毒を飲ませないようにという指示が出ている。
エリーが強力な毒を作れるようになったら困るからだ。
まあ、ゲームの知識があるエリーはそのことを知っているわけだが。
さて、そのメアリーだが、平民である。
だが、エリーにとっては親友のような存在だった。
そのため、キシィによって植え付けられた反平民思想も、メアリーだけは例外になる。
そして、メアリーがいる間は、エリーもあまり主人公に攻撃をしない。
そう。いる間は。
彼女は、ゲーム中でこの世からいなくなるのだ。
そして、その原因の半分以上が主人公が引き起こしたこと。
そのため、メアリーがいなくなったことが、エリーにとって、主人公を攻撃する切っ掛けだといえる。
ちなみにエリーは、ゲーム内のメアリーが嫌いではなかった。
その理由は、エリーに優しかったことなのだが。
彼女は、ゲーム中のエリーにとって数少ない味方だったのだ。
今のエリーが、そんな相手に優しくしないはずがない。
「それでは、お休みなさいませ」
「ええ。お休み」
メアリーが頭を下げ、エリーはベットに入る。
ー-さて、行ったかしら?
メアリーとて、夜まで部屋に張り付いているわけではない。
一応エリーが寝ている間に毒を飲まされないか確認するために、近くの部屋で睡眠をとるが、一緒の部屋に寝るというわけではないのだ。
つまり、夜は監視が付かないためフリー。
普通に闇の組織で活動できるのだ。
「こんばんわ」
エリーは老婆の家に入る。
中には、まだ訓練中の組合員と、老婆たちのように物資の支援係がいた。
「クラウン様!こんばんは!」
「こんばんはぁ!」
組合員たちが挨拶をしてくる。
エリーは組合員に挨拶を返しつつ、老婆のもとまで行く。
「あら?クラウン様。どうかしたのかい?」




