悪役令嬢 会議します
「私、毒の加護を得たわ」
「はぁ?」
エリーの言葉に、老婆は呆然とする。
だが、すぐに目を輝かせる。
「これと、これ。飲んでみてくれるかい?」
そういって渡されたのは、緑色の液体と紫色の液体。
一目見て毒だと分かる色である。
ただ、エリーもある程度老婆、ことファーストを信用している。
だから、2つの液体を同時に飲む。
「うっ!何これ!?」
視界がゆがむ。
それだけでなく、全身にしびれも感じた。
「緑のが感覚麻痺薬。紫のが神経麻痺薬だよ。まさか同時に飲むとは思わなかったけど」
ファーストが毒の説明をした。
感覚麻痺薬によって目まい、神経麻痺薬で全身のしびれが起きていると考えられる。
「うぅ~。頭が痛いわぁぁ」
エリーは頭を抑える。
視界はグニャグニャと歪み、全身の感覚がない。
現在は5種類の毒を飲んでいる。
光の加護の効果により少しずつ回復が行われ、だんだんと毒の効果が薄まっていく。
「少し収まってきたわ。追加を」
エリーがそう言うと、無言でファーストは新たな毒を手渡した。
今度の毒は深紅。
飲むと、
ブシュッ!
鼻から血が噴き出した。
「この薬は血のめぐりを異常なほどに高めるものだよ。あくまで薬だからね」
あくまで薬。
とは言っているモノの、毒の加護の毒の無効化の効果が大きくなるのだから不思議だ。
「はい。それじゃあ、次はこれ、そしてその次は、」
ファーストがどんどんと毒を並べていく。
そして、エリーがヤケになって毒を一気飲みしたときだった、
「ただいまぁ」
「ただいま」
数名が家に入ってきた。
「あっ。セカンド。来たのね」
帰ってきたのは、セカンドやサードたち、戦闘に出られるようになったメンバーだった。
セカンドはその視線をエリーに向け、あきれた顔をした。
「クラウン様。何やってるんだ?」
少年らしくないセカンドの濁った目には、全身血まみれで、うつろな目をしたエリーが映っていた。
獣耳少女のサードは無言でエリーに近づき、全身の血を布で拭う。
「ああ。ありがとうサード。さて、全員そろったみたいだし、会議でもしようかしら」
エリーの言葉に、クラウンの全員が目を見開いた。
なぜかって?
今まで会議なんてやったことがなかったからだ!
というか、会議で何をやれば良いのかエリーとファースト以外は分かっていない!
「それじゃあ、全員輪状に並んで」
エリーの指示に従って、クラウンの面々が緊張したような顔持ちで並ぶ。
エリーの右側にはファースト、左側にはセカンドが並んでいる。
ちなみに。老婆の家はクラウンのメンバーたちによって改築されており、中に百人は入ることが可能である。
今後メンバーが増えれば、さらに改築する予定である。
「さて、まずは、私たちの目的について確認していきましょう」
「目的と言いますと、全ての闇をクラウンが支配する。といったモノでしょうか」
隣に座っていたファーストが発言する。
エリーは大きく頷き、
「そうね。では、現在の1番の障害は何かしら?」
「火傷蜥蜴だな」
セカンドが今度は答える。
エリーはまた頷いた。
火傷蜥蜴。
エリーはこの組織をなんとなく理解している。
ファーストたちの話を聞いたのをまとめると、火傷蜥蜴とはちょっと巨大な盗賊団。
国の中枢にも入り込んでおり、隙を見ては人さらいを行ったりするらしい。(それはちょっと巨大とは言わない
いろいろな大陸に居るため、前の世界で言うところのグローバル企業というモノだ。
クラウンと比べれば、かなり巨大な組織。
つまり、前世の世界で言うところの大企業に、エリーたちベンチャー企業が挑むような構図。
普通に戦っても、勝てないのは明白。
「相手は格上。腕が鳴るわね」
さて、ここでエリーの前世についての話をしておこう。
前世では乙女ゲームばかりやっていて、ごくごく平凡なΟL.。
というわけではない!
エリーは前世で繰り返し転職を行う(引き抜きで)、優秀な人員だった。
最初は起業家をしたり、それから会社を売却して中小企業コンサルタントになったり、エリート街道を歩んでいた。
色々と転職したが、半分以上が経営に関する仕事だった。
そのため、エリーは今でも、経営となると燃えるのである!
「私たちみたいな少数精鋭の組織(ベンチャー企業)が、大きな組織(大企業〉に勝つために必要なこと、それは、」
「「「それは?」」」
「短期決戦で終わらせる事よ!」
そう。
短期決戦で終わらせることである。
ジ○ン軍だって、最初は国力が30倍近くある地○連邦軍に勝っていたのだ。
負けてしまった理由は、勝利を覚えて長期戦に持ち込んでしまったからだ!
長引かせなければ、変化に対応しづらい大企業に勝つことだってできるはず。
逆に、長引かせてしまえば、いくら大企業といえど変化してしまう。
いかに短い期間で勝負をつけられるかが、勝利を左右する大事なポイント。
「で、でも、短期決戦なんて無理ですよ。敵が多すぎます」
おどおどした少年、24が弱々しく異議を唱える。
その言葉に、過半数のメンバーが首を縦に振った。
そこでエリーはニヤリと笑う。
エリーだって、そのくらいのことは分かっているのだ。
「そうね。確かに今のままでは規模が違いすぎるわね。だから、M&A、他組織との統合を図るわ」
M&A。
意味としては、経営統合。
エリーの前世の世界では、後継者がいない企業などがよくやっていたことだ。
敵が巨大で勝てないなら、自分たちがもっと大きくなれば良い。
単純な考えではあるが、M&A、経営統合は大事なことである。
なんと言ったって、この組織は、技術的なモノが不足している。
セカンド達は自分たちで少しずつ技術を開発していくつもりであったが、それでは時間が掛かりすぎる。
経営統合すれば、統合した相手の技術を取り入れることができるのだ。
やらない理由がない。
「さて、異論があるモノは?」
エリーの問いかけに、全員が首を横に振る。
エリーはまた笑みを浮かべ、さらに会議を進めていった。
「……と、言ったところかしら。それでは、今日の会議を終わるわ」
会議が終了した。
メンバーから様々な意見が出て、エリーは組織の成長を感じる。
色々と心に来るモノを感じながら、エリーは言っておくべき1つのことを思い出した。
「あっ!それと、もし何か思いつくことがあったら、いつでも他のメンバーに相談してね。私に言っても良いし、ファーストとかセカンドとかに言っても良いわ。わざわざ自分の上司に提案をしないといけないわけではないから」
これも、かなり重要なこと。
エリーの前世の企業では、何か提案をしたら、課長、部長と上がっていき、社長にたどり着くまでにかなりの時間が掛かる。
そのため、大企業は変化に弱いのだ。
だから、エリーの提案はとても強力な物になる。
自分の上司に言わずとも、トップであるエリーに言ってOKを貰えば、即座に動くことができる。
エリーの世界では近年取り入れる企業が現れた、変化に強いシステムである。
このシステムならば、下の社員に話しかけられる社長は、下の方で起きている、つまり、現場で起っていることを知ることができるという利点もある。
素晴らしいシステムなのだ!
「さて、そろそろ時間ね。じゃあ、私は行くわ」
エリーは服に付いていた血を、組織のメンバーの魔法で落として貰い、家へと直行した。




